今回で精神科疾患編は第6回となります
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
アルコール離脱症候群について
アルコール離脱症候群とは、長期飲酒している人が断酒した時に生じる一連の症状をいう
症状には、手指の振戦、発汗、不眠、いらだちから、重症では振戦せん妄、アルコールてんかんをきたすことがある
通常は数日での消退となる
・長期飲酒歴の断酒が誘因と考えられる
・軽度の離脱症状には、手指振戦、発汗、不眠、いらだち、不安などがみられる
→通常は飲酒後から1〜3日をピークに離脱症状が見られる(1週間経ってからみられることもある)
・重症では、振戦せん妄がみられてくるが、これには、意識障害や失見当識がある
→幻視を主体とした幻覚がある(小動物幻視)
→これには、閉眼させて眼球を圧迫しながらの暗示で幻視として見えるLiepmann現象(リープマン)がある(人工的な幻覚)
・重症例にはアルコールてんかんという、けいれん発作が見られることもある
<治療>
・脱水や栄養状態の改善のほか、Korsakoff症候群(コルサコフ)やWernicke脳症(ウェルニッケ)の移行を防ぐため、補液やビタミンB1の補給をする
・離脱症状(振戦せん妄、発汗、手指振戦など)を軽減するため、ジアゼパムの経口投与(場合によっては筋注)
また、痙攣発作がおこればジアゼパム静注とする
(ジアゼパム:マイナートランキライザー、ベンゾジアゼピン系(BZP))
※ アルコール離脱症状の振戦せん妄ではBZP系が第一選択薬であるが、この際、肝機能障害の程度によっては肝代謝でCYPに関与していないロラゼパムを用いることがある
BZP系が離脱症状を軽減するのは、アルコールと同じく脳内のGABA受容体に結合することにある
アルコールが離脱症状を呈する前に、BZP系を投与しておくことで、BZP系の薬剤がアルコールの代わりにGABA受容体に結合しているため、GABA受容体の機能の急激な変化を避けることができる
・振戦せん妄で興奮が激しい場合では、ハロペリドールを筋注または静注
この時、ジアゼパムなどのBZP系はむしろ症状を悪化させる
(ハロペリドールなどの抗精神病薬:メジャートランキライザー)
・アルコールてんかんのけいれん発作に対しては、ジアゼパムの筋注または静注
※ 夜間の不穏に備えるため、隔離室を用意するのが望ましく、臨床的には一般病室では拘束が必要とされる
アルコールの離脱症状の経過について
ここでは一般的なアルコール離脱症状の経過についてまとめてある、個人差で多少のずれがあったりはするが、教科書的な知識としてはしっかり身につけておきたいものである
・早期離脱症状:断酒してから数時間で出現する症状をいう(飲酒後〜48時間以内)
→振戦、発汗、不眠、血圧上昇、焦燥感、集中力低下など(小離脱症状)がみられ、他には幻聴、てんかん様痙攣発作もある
・後期離脱症状:断酒してから1、2日後から出現する症状である(飲酒後、48時間〜96時間以内)
→早期離脱症状の症状に加え、情動不穏、軽度の精神運動興奮、幻聴・幻視などの精神症状が加わったせん妄といった状態が出現(振戦せん妄)
これらの離脱症状は数日で消失することが多いが、遷延することもある
①アルコール離脱から6時間〜36時間以内
→小離脱症状
②アルコール離脱から6時間〜48時間以内
→振戦せん妄
→強直間代発作を呈することあり、高率で後期離脱症状へ移行
③アルコール離脱から48時間〜96時間以内
→振戦せん妄
→意識障害、幻覚妄想、振戦、自律神経障害が特徴であり、早期離脱症状からの移行で、その程度が著しくなったもの
<治療方針>
原則、外来治療だが
振戦せん妄、離脱けいれん発作、Wernicke脳症をきたしているならば入院治療が必要となる
Wernicke脳症とKorsakoff症候群について
ウェルニッケ脳症の三徴候に、意識障害、眼症状(動眼神経麻痺、瞳孔障害)、失調性歩行がある
ここで、VB1を補給することで、Korsakoff症候群への移行を予防すること
コルサコフ症候群はアルコール性認知症であり、失見当識、健忘、記銘力低下、作話といった慢性期の症状としてみられる
アルコールによる精神症状について
アルコールによる精神症状は、大まかにアルコール摂取による急性の症状、大量飲酒の習慣による依存性のもの、大量飲酒中断時に見られる症状、大量飲酒の長期継続で発症するものなどがある
これらについて詳細に見ていくこととする
<酩酊について>
正常時:単純酩酊
→通常の酔い方をいう
→血中アルコール濃度の上昇に伴って段階的に進行する酩酊
これは
発揚期 → 酩酊期 → 泥酔期 → 昏睡期
の順となっている
時期 | アルコール血中濃度 | 症状 |
---|---|---|
発揚期 | 0.05%以下 | 多幸感、注意散漫、易刺激 |
酩酊期 | 0.06%〜0.1%以下 | 運動失調(歩行障害)、言語障害 |
泥酔期 | 0.2%以上 | 千鳥足、傾眠 |
昏睡期 | 0.4%以上 | 感覚刺激に反応なし、反射減弱、呼吸停止 |
異常時:異常酩酊(病的酩酊の一つ)
・暴れたりする酔い方で、複雑酩酊(強い興奮症状)がある
→単純酩酊とは量的に異なっている
→見当識は保たれており、記憶喪失も部分的なもの
・病的酩酊では強い興奮と強い意識障害※がある
→「次の日になったら記憶がない」など
→単純酩酊とは質的に異なっており、飲酒量に関わらずみられる(器質的脳疾患を有している場合に現れやすい)
※ 意識障害:これは、意識を消失しているのでは無く、見当識障害、周囲の状況把握の誤認、健忘などのことをさしている
→意識消失は大量飲酒による血中アルコール濃度上昇で起こる単純酩酊の昏睡期である(血中濃度:400mg/dL以上)
アルコール依存症について
アルコール依存症では、飲酒で様々な問題が生じているということに本人も自覚しているが、飲酒制限することができない状態である
アルコール依存症患者では、飲酒によって社会的、職業的問題が生じているが、飲酒量が減らせず、罪悪感を持っている
これには、強迫的飲酒や抑制喪失飲酒とも言われており、精神依存の現れである
また、身体依存のため、不快な離脱症状を回避するために飲酒をする
このためのスクリーニング方法というのがあるため、次の項目で見ていくこととする
DSM-5から診断基準では、アルコール依存症とアルコール乱用の区別はなくなり、アルコール使用障害と統一されている
<薬物療法>
嫌酒薬(抗酒薬):ジスルフィラム、シアナマイド
→これは、断酒を目的とする薬であり、アルコールデヒドロゲナーゼの代謝酵素を阻害することで、悪心の原因となるアセトアルデヒドを増やすことで酒を飲みたがらなくさせるというもののため、しっかり自覚を持って治療に望める状態であることが必要である(せん妄状態であれば意味はない)
アカンプロサート:飲酒欲求そのものを抑制する
アルコール依存症の自助グループについて
アルコール依存症は1人では治療が難しいとされており、自助グループに属して治療を進めていこうとすることができる
これには、主に2つのグループがある
・断酒会
・アルコホーリクス・アノニマス(A.A.)
→こちらは原則、匿名参加となる
CAGEスクリーニングテストについて
この評価方法には、4項目のうち2つまたは3つの質問にが得られた場合には、アルコール依存症を強く疑い、4つ全て肯定的な回答であれば、アルコール依存症に特有な症候といえる
項目 | 内容 |
---|---|
Cut down | あなたは、今までに飲酒量を控えた方が良いと感じたことがありますか? |
Annoyed | あなたは、人から飲酒について非難され、いらいらさせられたことがありますか? |
Guilty | あなたは、飲酒に対して不快感や罪悪感を感じたことがありますか? |
Eye-opener | あなたは、今までに神経を落ち着かせるためや二日酔いを免れるために、朝真っ先に飲酒したことがありますか? |
アルコール多飲によって引き起こされる障害について
・アルコール性肝障害
・急性・慢性膵炎
・アルコール性神経障害:ウェルニッケ脳症、中心性橋髄鞘融解症、アルコール性末梢神経障害、ミオパチー
などが挙げられる
覚醒剤による精神障害について
覚醒剤と一言で言っても様々な薬物がある
その精神症状にはドパミンを放出させて妄想や幻聴、幻覚、フラッシュバックなどの症状を伴う
・覚醒剤には身体依存はない
身体依存:体内の薬物が減った時、離脱症状を呈する状態
→この離脱症状は主に自律神経症状であり、身体順応状態ともいわれている
・覚醒剤の使用により、疲労感が減り、気分高揚感、頭の回転が速くなるなどの快感を体験することで、精神依存を起こしやすい
・フラッシュバックとは、覚醒剤を使用中に体験した幻覚や妄想状態と同じ内容の異常体験を感情的ストレスなどの非特異的刺激によって再発することをいう
・覚醒剤の使用を中断した時、傾眠や脱力、無気力が一過性で現れる反跳現象がみられる
→これは、覚醒剤使用により睡眠抑制などの作用が無くなったことで生じる
・覚醒剤は、耐性だけでなく逆耐性現象もみられる
逆耐性現象:覚醒剤の使用が慢性化することで、徐々に効きにくくなるという耐性現象の逆の作用がみられてくる
・覚醒剤を一度使用をして、中止してから時間が経ったとしても再使用により容易に精神病状態が再燃する
また、覚醒剤の使用がなかったとしても飲酒やストレスなどでも精神症状は再燃することがあるが、これを自然再燃といい、これが逆耐性現象である
覚醒剤は、交感神経刺激症状、高揚感には耐性を生じるが、幻覚や妄想などの精神症状には逆耐性現象を生じるため厄介である(使用量が増えていく要因)
治療には、抗ドパミン作用のある抗精神病薬が有効である
各依存性薬物の依存や耐性の程度について
はじめに各薬剤のおおまかな分類についてみていくこととする
<依存性薬物>
抑制系 ┳ モルヒネ型
┣ バルビツール酸型
┣ 有機溶剤
┗ 大麻型
興奮系 ┳ アンフェタミン型
┣ コカイン型
┗ 幻覚剤型
混合 ━ ニコチン
依存型 | 代表的薬物 | 離脱症状 |
---|---|---|
モルヒネ型 | モルヒネ、コデイン、アヘンなど | 鼻汁、くしゃみ、流涙、嘔吐、下痢、散瞳 |
バルビツール酸型 | ベンゾジアゼピン系薬、アルコールなど | 発汗、血圧上昇、動悸、不安、焦燥、振戦、せん妄、けいれん |
有機溶剤 | シンナー類(トルエン、キシレン)、接着剤、プロパンガスなど | ほとんどなし(まれに痙攣、せん妄) |
大麻型 | マリファナ、ハシシなど | なし |
依存型 | 代表的薬物 | 離脱症状 |
---|---|---|
アンフェタミン型 | アンフェタミン、、メタンフェタミン、メチルフェニデート、MDMAなど | 傾眠、頭痛、疲労感、意欲低下、抑うつ |
コカイン型 | コカイン | 傾眠、頭痛、疲労感、意欲低下、抑うつ |
幻覚剤型 | LSD、メスカリンなど | なし |
項目 | 離脱症状 |
---|---|
ニコチン | 抑うつ、不眠、易刺激性、不安、集中力低下、心拍数の減少、食欲増加、体重増加 |
・モルヒネ、コデイン、アヘン、コカインは麻薬に分類される(コデインは濃度による)
→あへんアルカロイドである「けし」からあへんを採取し、その中に含まれるモルヒネを抽出していることから、これらの成分は同じものから得られている
(合成経路:モルヒネ→コデイン→ジヒドロコデイン)
(合成経路:コデイン→14-ヒドロキシコデイン→オキシコドン)
→コカインはコカノキの葉の成分である
・アンフェタミン型は覚醒剤に分類されており、特にメチルフェニデートは第一種向精神薬に規制されている
→規制について(自サイト参考ページ)
薬物 | 耐性 | 身体依存 | 精神依存 |
---|---|---|---|
モルヒネ型 | + | + | + |
バルビツール酸型 | + | + | + |
有機溶剤 | + | ー | + |
大麻型 | ー | ー | + |
アンフェタミン型 | + | ー | + |
コカイン型 | ー | ー | + |
幻覚剤型 | + | ー | + |
ニコチン | + | + | + |
BZP系などの向精神薬には依存性はあるが、抗精神病薬には依存性はない
上記の表の通り、モルヒネ類やバルビツール酸系、ニコチンは耐性、身体依存、精神依存と全てきたす薬物である
身体依存と精神依存について
・身体依存:薬物の摂取をすることで生理的平衡状態を保っている状態をいう
→このため、断薬によって身体的な離脱症状が出現する
・精神依存:全ての依存性薬物で生じるもので、薬物摂取の強迫的欲求がある
→薬物を得るために生活行動を乱される
ベンゾジアゼピン系の依存性と離脱症状について
・BZP系の離脱症状には、不眠(反跳性不眠)、不安、振戦、けいれん、せん妄、幻覚妄想などがある
神経性痩せ症(神経性無食欲症)
神経性痩せ症とは、心理的要因により過度の食事制限をしたことで著しく痩せをきたす疾患である(心身症、神経性食思不振症)
食事が摂れないことによる栄養障害で、体重減少だけでなく無月経などの内分泌異常や代謝異常を起こす
アスリートなどでBMIが低い人でも神経性食思不振症と同じようにLH・FSH低値などを示すことがある
(ちなみに、LH/FSH比が高値では多嚢胞性卵巣症候群と考えられる)
<女性アスリートの三主徴>
・利用可能エネルギーの不足
・無月経(稀発月経)
・骨粗鬆症
これらはいずれも運動量に比べて、摂取エネルギーが少ないことで起きるものである
・好発は10代半ば〜20代前半の女性に多い
・「著しい痩せ」とは、身長に対する標準体重の-15%以上をいう
・食行動の異常とは、拒食症、大食い、隠れ食いなどがある
・無理なダイエットなどで、腹筋の筋力が低下し腸が直接体表近くに触れる様になることで、下腹部が膨隆していることがある
→ただし、女性においては常に妊娠の可能性も考慮しておかないといけない
・ボディイメージ障害があり、体重増加や肥満に対する極端な恐怖心がある
→そのため、空腹感から大食いをするが、直後に太るという恐怖から自己誘発性嘔吐をしてしまう
また、病識は欠如しており、活動性は亢進している
・うつ病の合併、社会不適応を起こしやすくなる
・国内で初診から10年以内に死亡率が7〜10%となっている
体調変化、代謝異常について
・低血圧、低体温、徐脈傾向、電解質異常、浮腫(低アルブミン血症など)
・rT3の上昇やT3の低下、FT3の低下となる
(rT3は、生理活性のない状態のもの、FT3は遊離トリヨードチロニンのことであり、活性化しているもの)
→FT3はエネルギー代謝に関わるため、低栄養状態では、この活性は自己保存機構のため抑制されることで、低値を示す
→参照:別項目で解説(低T3症候群)
・末梢組織ではコレステロールの利用障害が起きるため、コレステロール値は上昇する
・飢餓状態がみられ、血液検査によりインスリンの低下、インスリン拮抗ホルモンは上昇、脂質代謝異常がみられる
・低栄養では皮膚の浮腫がみられたりする
生殖において、低栄養ではホルモン系は低下傾向であるが、下垂体や副腎系では飢餓ストレスに反応するため亢進し、副腎アンドロゲンの産生は維持されて、男性ホルモン優位となる
→このため、男性化徴候がみられる(産毛の増生など)
女性においては、エストロゲンとプロゲステロンの低下が起こり
・多くが第二度無月経
・産毛の増加
などがみられる
血液検査などによる検査も重要だが、痩せの原因となっている器質的疾患についても除外する必要がある
血液検査での異常値は以下のものがある
項目 | 増減 | 内容 |
---|---|---|
血算 | 減少 | 赤血球、白血球、血小板 |
血液生化学 | 増加 | コレステロール、AST、ALT、LD、ALP、γ-GTP、アミラーゼ(AMY) |
〃 | 減少 | Na、K |
内分泌 | 増加 | GH(IGF-Ⅰの低下で反応性に上昇する)※、プロラクチン(PRL)(不変のことあり)、コルチゾール※ |
〃 | 減少 | IGF-Ⅰ、LH、FSH、エストラジオール(E2)、T3、T4(不変のことあり) |
※ 低栄養状態では、血糖値を維持するために、糖新生を促すGH、コルチゾールが高値を示す
<治療>
栄養面だけではなく、精神療法を取り入れる必要がある
・精神面の治療:支持療法、認知行動療法
・栄養面の治療:経口摂取不可能な場合、点滴・中心静脈栄養を行う
→この際、リフィーディング症候群に注意が必要である(次の項目参照)
経静脈栄養の適応:体重は標準の60%以下あるいは30kg以下の高度の低栄養状態、循環動態が不安定である、消化管の消化吸収機能が低下しているなどの場合に適応となる
・無月経の治療:Kaufmann療法(カウフマン)など※1
・骨粗鬆症や低身長などの後遺症があれば、体重の増加や各種薬物治療が必要である
※1 カウフマン療法:女性の体内のホルモンで「自然なホルモン変化」を薬物治療で擬似的に造るための治療法である
この疾患では、精神的要因である人間関係や家庭環境などが原因であることが多く、根本的な治療には精神療法が必要である
重度の低栄養状態では、全身の臓器障害や予後不良の転帰をとることがあるため
低蛋白血症、肝機能障害などがみられるようであれば入院した上で内科的治療を進めていくことが必要となる
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リフィーディング症候群について(再栄養症候群)
リフィーディング症候群とは、長期間低栄養状態が続いた後に、急速に栄養補給を行うことで代謝性合併症を起こすことをいう
これは、急激な低リン血症によって心不全や呼吸不全、不整脈などの多臓器不全を起こし死に至ることがある
このため、経静脈の再栄養では注意が必要である
<機序>
低栄養でPが不足 → 治療で高栄養供給を行う → 細胞のエネルギー代謝活性化でATP産生↑ → Pの消費増大 → P欠乏に伴い、赤血球の機能異常(酸素運搬能力低下) → 多臓器障害
この他、種々の栄養素のバランス異常が起こり、様々な症状をきたす(意識障害、呼吸困難、全身浮腫など)
<治療過程>
高栄養で治療を行うのは必要だが、それに伴って代謝が進むため、代謝過程で消費する栄養素も補うことが重要である
上記の通り、リンの低下も伴い危険な状態となることがあるため、リンの補充は必要である
・VB1の欠乏や電解質異常では心不全や不整脈を合併しうるため、心電図モニターも必要となる
→急激な糖代謝ではVB1が大量消費され、ウェルニッケ脳症のリスクが起こりうる
→そのため、VB1の補充が必要となる
・微量元素の測定(モニタリング)も行うこと
→Mg、Zn等の補充
・血糖値モニタリングも行う
実例として、突然の意識障害で救急搬送されることがあり、血液検査では脱水や低血糖症状が認められたとしても、上記ような症候群を起こしうるため安易な急速な輸液は危険なことがあることは念頭におく必要がある
リンク先
低T3症候群について
低T3症候群とは、別名euthyroid sick syndrome(ユーサイロイドシックシンドローム)とも呼ばれており、低栄養や重症疾患に対する生体の適応現象で起こると考えられている
・甲状腺機能は正常であるが、検査では甲状腺の数値が異常を示す
・重い疾患、低栄養状態、手術後などにおいて、FT4(テトラヨードチロニン)が活性型であるFT3に変換する量が少なくなる
・T3値は低下するが、不活性であるrT3値は上昇する
・この時、ネガティブフィードバックでTSH上昇は見られず、逆に正常または低下傾向となる
治療として、甲状腺ホルモンを補おうとすると、狭心症や心筋梗塞などを誘発する事例があり、禁忌となっている
神経性食思不振症(神経性無食欲症)の特徴について
神経性食思不振症は神経性無食欲症と言われるようになってきているが、これには特徴的な性質がある(性格)
・病的な痩せ願望がある
・ボディイメージに歪みがある(やせていても太っていると感じる)
・極端な食事制限と下剤などを乱用
→低K血症リスク
・月経停止、産毛の増加※
・乳房萎縮は見られない※
・性格的に頑固で競争心が強い
・母親との心理的葛藤をみることもある
※ 無月経や恥毛、腋毛の脱落、乳房萎縮があれば、下垂体-性線機能低下症によるものと考えられる(鑑別点)
通常、神経性食思不振症であれば、プロラクチン値は正常値である
これに対して、神経性過食症というのもある(過食症では、20代女性に好発、栄養は摂れており電解質異常や無月経は起きにくい(月経異常は起こりうる))
神経性食思不振症では食事量を減らす制限型と、過食後に自己誘発嘔吐や下剤の乱用をする排出型がある
摂食障害の診断基準について(DSM-5より)
DSM-5による摂食障害の診断基準について要約したものが以下の通りとなります
疾患 | 内容 |
---|---|
神経性無食欲症 (神経性やせ症) | ・正常の下限を下回る体重 ・肥満恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動 ・ボディイメージの障害、体重と体型に関する自己認識の障害、低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如 |
神経性大食症 | ・肥満恐怖、体重と体型によって過度に影響を受ける自己評価 ・むちゃ食いエピソードを週1回以上繰り返す ・体重増加を防ぐための不適切な代償行為(自己誘発性嘔吐、緩下剤、利尿薬、絶食、過度な運動など) |
過食性障害 | ・むちゃ食いエピソードを週1回以上繰り返す ・過食を抑えられないという感覚や苦痛を伴う ・神経性大食症と異なり、不適切な代償行動を呈さない |
参考:Jpn J Psychosom Med 56:361-368, 2016
摂食障害の診断について ―DSM‒IV診断基準と DSM‒5 診断基準の比較―
中井義勝/任 和子
神経性大食症について(過食症)
神経性大食症は、過食と自己嘔吐を繰り返す
そこから、自責の念でしばしば抑うつ症状を呈する
また、体重変動は著しく、栄養状態も変動しやすいため、月経不順や電解質異常を呈することが多い
神経性大食症(過食症)は、神経性食思不振症から移行することが多い
そのため、神経性食思不振症よりも発生頻度が高くなってきている
<神経性大食症の主な特徴について>
・過食・嘔吐を繰り返すため、必ずしも太ってはいない
・食べることが頭から離れない、隠れ食いなどの食行動異常が見られる
・肥満への恐れがあり、嘔吐や下剤などを乱用する
嘔吐や利尿薬の使用などで、低カリウム血症を呈したり、代謝性アルカローシスをしばしば伴ったりする
一般的なヒトのサーカディアンリズムについて
ヒトのサーカディアンリズム(概日リズム)は高照度光で調節される
このサーカディアンリズムの周期はおよそ24〜25時間ほどとなっている
・サーカディアンリズムは睡眠、深部体温、内分泌など多くの身体的機能が調節されている
・睡眠覚醒サイクルはメラトニンが関与しており、起床時の日光が目から入ることで分泌が止まり、その後10数時間後には分泌が再開されて夜間の入眠をスムーズに導入してくれる
→このため、入眠困難タイプの不眠症(成人)では、一定の時刻には起きて日光を浴びるということが不眠症を改善する方法の一つである
・必要な睡眠時間は個人差があり、一概に睡眠時間は7〜8時間寝るべきであるとは言えない
・サーカディアンリズムは外界の刺激(光など)によって修正することができる
→ヒトにおいて、脳の視交叉上核は光の情報を目から受け取り、松果体に送られ松果体ホルモンであるメラトニンが分泌される
→このメラトニンは日中は少なく、夜間に多い
→このサイクルがうまく機能していないと睡眠不足・不眠症に陥り、高血圧症、糖尿病、うつ病などの疾患を引き起こすと考えられている
・深部体温の周期は活動量の多い日中から上昇し、午後から夜間にかけて高くなる。また、就寝直前には深部体温は下がっていく。
・加齢の影響では、日内リズムは取りにくくなることから夜間覚醒が増えやすく、早朝覚醒になりやすい
→しかし、睡眠の時間帯が遅くなってしまう睡眠相後退症候群は思春期から青年期に好発する
→これは、長期の休みや夜間の仕事などが原因となり、夜型生活になってしまうことから発症する
アルコールは睡眠導入には有効か?
→飲酒により入眠を促す効果はあるが、休息に必要な「深い眠り」につく時間は短くなり結果として睡眠の質は悪くなってしまうため、アルコールによる睡眠導入はお勧めできない
時差の対処法について
時差の関係で睡眠時間がずれてしまっている状態では、早く寝て調整をするよりも、寝る時間を遅れさせてからその土地での寝るべき時間帯に睡眠をとることで比較的容易に睡眠時間のズレを調整することができる
概日リズム睡眠障害について
概日リズム睡眠障害は、適切な睡眠時間からずれていることで、生活に支障をきたしているものをいう
この概日リズム睡眠障害には4つが挙げられる
・睡眠相後退型:睡眠の開始時刻と終了時刻が遅い状態で固定している
・時差型:二つ以上の標準時間帯を旅行する際に生じるもの
・交代勤務型:夜勤などで頻繁に勤務時間帯が変更となることで生じるもの
・特手不能型
<治療>
入眠時刻を調節するとよいため、睡眠導入剤や高照度光療法がよい
むずむず脚症候群について(レストレスレッグス症候群:RLS)
むずむず脚症候群(restless legs syndrome)は女性・高齢者によく見られ、この異常感覚はむずむずする感じやほてる、虫の這うような感覚などの主訴がある
これは、下肢の表面上の感覚ではなく深部で生じている
・原因には、明らかな誘因のない本態性RLSや腎不全、鉄欠乏性貧血、妊娠に合併する続発性RLSがある
・女性に多く、国内人口の3%前後の罹患率である
・入眠後に脚関節などの不随意運動がみられる
→これは、周期性四肢運動障害の症状であり併発することが多いとされる
→この症状は入眠時、脚関節と膝の屈曲、趾の背屈などの不随意運動が30秒前後の間隔で繰り返し現れるもの
・加齢により患者数は増えている
・脚の異常感覚は運動によって改善が見られる
レストレスレッグス症候群の症状には以下のような四徴が挙げられる
・下肢の異常感覚を伴い足を動かしたいという強烈な欲求を生じる
・異常感覚は安静時に生じる
・異常感覚は運動により改善する
・異常感覚は日中より夕方や夜間に増悪する。このため、下肢の落ち着きのなさから入眠障害が起きる
・神経学的異常や歩行障害がみられないか確認をすること
→末梢神経障害や脊髄障害、パーキンソン病、(急性)アカシジアなどの神経疾患がないことを除外できる
ex)
・バビンスキー反射の陰性:足底の外側部分を強くこすることで足の母趾が背屈する現象であり、脳や脊髄の運動神経下降路に傷害(上位運動ニューロンの病変による脊髄の脱抑制)があれば反応が見られる
・腱反射が正常
・四肢の筋トーヌス(緊張状態)が正常:筋を受動的に伸長した時の抵抗のこと
(この他にも病的反射には、チャドック反射、オッペンハイム反射、口とがらし反射、探索反射、把握反射、トレムナー反射、ホフマン反射など様々ある)
<治療>
ドパミン受容体作動薬が有効
(アカシジアであれば、治療にはβ遮断薬、BZP系向精神薬(クロナゼパムなど)、抗パーキンソン病治療薬などがある)
リンク先
ナルコレプシーについて
ナルコレプシーとは、主に睡眠発作、脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚の4つの徴候が挙げられる
・睡眠発作では、耐え難い眠気が急に襲い、そのまま寝てしまうことをいう
・脱力発作は、強い感情とともに突然情動脱力発作(カタプレキシー)を起こし、全身の力が抜けてしまうことをいう(驚いた時や大笑いした時などにみられる)
・睡眠麻痺とは体は寝ているが、目が覚めているような状態(金縛り)である
・原因には、覚醒作用のあるオレキシン(神経ペプチド)の低下が考えられている
<カタプレキシーとカタレプシーの違いについて>
カタレプシーとは、他動的に取らせた姿勢をそのまま保ち続けるというもので、別名蝋屈症(ろうくつしょう)と言われる緊張病症候群の一つであり、カタプレキシーとは別物であるため注意
<検査>
問診だけでの診断も可能だが、補助的な検査もいくつかある
・睡眠ポリグラフ検査(PSG、ポリソムノグラフィ):睡眠中の脳波、筋電図、眼電図のほか、心電図、呼吸換気曲線、腹部の呼吸運動、下肢の運動などをモニターするもの
・睡眠潜時反復テスト(MSLT):睡眠ポリグラフをおこなった翌日の日中に同様の検査を数時間おきに20分の検査をし、日中の眠気の程度を評価する
・HLA型検査(ヒト白血球特異抗原):いわゆる白血球の血液型といったもので、ナルコレプシーの患者ではHLA型でDR2やDQ1がほぼ全例に陽性となる。しかし、両方陽性者は全人口の1割以上はおり、そのままこの検査のみでナルコレプシーの診断にはならない
・脳脊髄液中オレキシンA濃度:情動性脱力発作を伴うナルコレプシーの9割以上が脳脊髄液中のオレキシンAがほとんど測定不能に近いくらい減少している
リンク先
<治療>
・睡眠発作:中枢神経作動薬のモダフィニル、メチルフェニデートがある
→これは、第一種向精神薬に分類されている
→そのため、処方医は研修を受ける必要があり、その処方を受ける側(薬局)は処方医の資格確認、決められた卸からの入荷など様々な制限が設けられている(申請、登録が必要:2022年現在)
(薬局での実際の確認方法はこちらから)
・情動脱力発作(カタプレキシー)などのレム睡眠行動障害:三環系抗うつ薬(イミプラミン、デシプラミンなど)
様々な睡眠時の障害について
睡眠時に随伴する症状は様々ある
児童・小児期に見られるものが多いが、高齢になってから見られるものもある
夜驚症について
夜驚症とは、睡眠中(ノンレム期)に突然起きて叫んだりするもので、恐怖様症状を呈し、発汗や心悸亢進などの自律神経症状を伴う
・入眠後1〜3時間のノンレム睡眠(比較的深い眠り)で見られ、覚醒した後にこのエピソードについての記憶はない(徐波睡眠中のため)
→ノンレム睡眠のステージⅢ、Ⅳの時(深睡眠期)に起こる
・男子児童に多く見られる(小学校高学年となるとまれである)
夢中遊行症について
夢中(睡眠時)遊行症とは、ノンレム睡眠の比較的深い段階(一夜の睡眠の前半)で見られるもので、歩いたり何か行動をして再び眠る
・恐怖感なく、刺激による覚醒が困難であり、翌朝の記憶はない
・男児に多い
・行動中に制止させようとすると危害を加えられる危険性がある
悪夢障害について
悪夢障害とは、児童に多くみられるもので、悪夢によって目覚めてしまい、再度寝るときには「また、悪夢を見てしまうのではないか?」という恐怖心によって睡眠障害に陥る状態をいう
・眠りが浅く夢を見るというレム睡眠時(一夜の睡眠の後半に多い)に多いとされる
レム睡眠行動障害について
レム睡眠行動障害とは、高齢男性に多いもので、レム睡眠期に暴力的な動作が見られる
・刺激によって覚醒させることは可能である
→覚醒すると、本人は夢を見ていたと答えることが多い
→その夢の内容については覚えている
・この症状はレビー小体型認知症に移行しやすい
→この認知症の場合、先行する症状には、嗅覚障害、便秘などの自律神経障害、うつ状態などがある
・その他に考えられる疾患には器質性能疾患があり、くも膜下出血や脳梗塞、多系統萎縮症、多発硬化症、脳腫瘍なども挙げられる
・本来は、レム睡眠では抗重力筋の緊張低下が起きるが、それがない状態であるため異常行動となって現れる
睡眠覚醒スケジュール障害について
睡眠覚醒スケジュール障害とは、睡眠時間帯が健常人とずれていることで、不眠や日中の眠気など覚醒時の活動に支障が生じているものをいう
レム睡眠とノンレム睡眠について
・レム睡眠とはREM(rapid eye movement)のことであり、比較的浅い睡眠中にみられる急速眼球運動が起きている状態である
・深いノンレム睡眠は一晩の睡眠時間の前半に集中している
→その後、後半では浅いノンレム睡眠とレム睡眠が交互におきる
・夢を見ている時はレム睡眠期であることが多いとされる
・新生児期ではレム睡眠が多く、睡眠時間の半分を占める
→これは、加齢に伴い減少する(成人では2割ほど)
→そのため中途覚醒や早朝覚醒が起きてくる
・レム睡眠期は基本的にθ波(シータ)、β波が中心の脳波がみられ、一部でα波が混じっている睡眠相である
周波数について
・ヒトの基礎律動はα波であり、これはリラックスしている状態でみられる
・脳が活発化するとβ波となり、睡眠のため活動がなくなればθ波からδ波(デルタ)となる
<周波数と脳の活動について>
周波数が小さくなる順はBATDとなっており、この順に脳の活動が低下する
β波:14〜25Hz(速波)
α波:8〜13Hz(基礎波)
θ波:4〜7Hz
δ波:1〜3Hz
睡眠相について
ヒトの睡眠はノンレム睡眠から始まるが、これにはステージⅠ〜ステージⅣがあり、この順で深い睡眠となる(ナルコレプシーでは入眠直後はレム睡眠が出現する)
次に、レム睡眠となり、それぞれ90分周期で繰り返すこととなる
ここで、ノンレム睡眠期では脳波がθ波〜δ波で、脳は眠っているが体はまだ十分に眠ってはない状態である(抗重力筋の緊張がまだある状態)
→レム睡眠期では、体は眠っており、急速眼球運動がみられ、自律神経活動はノンレム睡眠に比べれば活発であり、脳波は覚醒期であるα波に近い不規則なものとなっている
Rechtschaffen&Kales分類による睡眠段階の内容については以下の通りとなる
<睡眠段階について>
・覚醒期:α波+β波(低振幅)となる
・ノンレム睡眠期
<Stage Ⅰ>
α波消失、θ波出現(低振幅)、頭蓋頂鋭波(Vertex sharp wave)、低速眼球運動(SEM)の出現
<StageⅡ>
睡眠紡錘波(spindles)、K複合波の出現
<StageⅢ>
記録時間の2割〜5割がδ波(高振幅徐波)である
<StageⅣ>
記録時間の半分以上がδ波である
レム睡眠期:θ波、β波、急速眼球運動の出現、筋トーヌス低下、夢を見る、血圧上昇、呼吸・脈拍が不規則
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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