引き続き、精神疾患編の第4回目となります
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
統合失調症について
統合失調症とは、生得的な脆弱性に、ストレスなどの後天的な要素が加わることで発症すると考えられている疾患である
感情や思考、自我、知覚などさまざまな精神機能に障害をきたし、現実世界との共通性が失われていく
・急性増悪を繰り返す場合が多い
・青年期に発症することが多い(発症頻度は1%と高め)
・病前性格として、内気、小心、敏感があり、その反面冷淡で鈍感な面もある(分裂気質)
・脳機能異常があると考えられている(遺伝、胎生期の神経発達障害などの可能性)
・統合失調症では、幻覚の中でも幻聴が最も多いといわれる
その内容は、悪口や非難、脅迫、命令などが多く、他人同士の対話や自分の考えが声として聴こえるといった思考化声のことがある
症状については次の項目にまとめがあります →こちらから
・前駆症状として抑うつ、不安、思考力・記銘力の低下、引きこもり、睡眠障害、倦怠感などがみられる
・急性期には、思考障害(妄想気分、妄想知覚、妄想着想)、幻覚(幻聴(対話形式)、孝想化声、体感幻覚)、自我障害(孝想伝搬、作為体験、作為思考(作為吹入、思考奪取))、感情障害と自閉症状(不調和な感情反応、両価性、疎通性障害)、意欲・行動障害(緊張病性の興奮・昏迷、独語、空笑)などがみられる
・慢性期には、連合弛緩、滅裂思考、思考途絶、感情鈍麻、自発性の低下、奇妙な表情・態度などがみられる
<疫学>
統合失調症の発症率はおよそ1%ほどといわれており、遺伝的な要因のこともある(実際には受診に至っていない患者も多い)
遺伝要因では、親や兄弟姉妹に統合失調症患者がいるようであれば、その罹患率は10%ほどとなっている
また、一卵性双生児で1人が統合失調症であった場合、もう1人の方では発症率は50%ほどにもなるといわれている
統合失調症には3つの型があった(ICD-10での分類されていたが、DSM-5で廃止となっている)が参考として載せてある
型 | 内容 |
---|---|
解体型 (破瓜型:はかがた) | 若年者(思春期)に発症し、陰性症状が中心 緩慢に進行、陰性症状が主、思考障害が著しい 自閉・閉居・独語・空笑など 難治性で予後不良 |
緊張型 | 若年者(20歳前後)に急性発症する 急性に発症、緊張性興奮と緊張性昏迷の繰り返し 間歇期(かんけつき)あり 拒絶・無言・無動 治療に反応あり、予後は比較的良い |
妄想型 | 発症年齢は高め(30歳前後)であり、妄想が主で、幻聴を伴うことが多い 陽性症状である幻覚や妄想が主 人格崩壊は少ない(たまに人格荒廃する場合あり)、宗教家、自称預言者を語る、好訴的 最も多い病型 |
<検査>
・簡易精神症状評価尺度(BPRS):統合失調症を主とした精神病症状を評価する
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<治療>
(1)薬物療法:抗精神病薬が主
各薬剤の薬理作用については精神科疾患③の「抗精神病薬の薬理作用について」を参照
①定型抗精神病薬:陽性症状※1に有効、副作用には錐体外路障害(抗ドパミン作用※2)がある
・フェノチアジン誘導体:クロルプロマジン、レボメプロマジン
・ブチロフェノン誘導体:ハロペリドール
②非定型抗精神病薬:陽性症状のほか、陰性症状※3にも有効、錐体外路障害は少ない、耐糖能異常、脂質代謝異常が起こりうる(糖尿病禁忌)
・リスペリドン、ペロスピロン、パリペリドン
→副作用には、高プロラクチン血症(月経異常、乳汁分泌、骨粗鬆症など)などがある
・オランザピン、クエチアピン
→副作用には、耐糖能異常や脂質代謝異常、体重増加などあり(糖尿病は禁忌)
・クロザピン
→副作用には、耐糖能異常、脂質代謝異常、体重増加、無顆粒球症、心筋炎など(糖尿病は禁忌)
・アリピプラゾール
→副作用には、不眠やアカシジアなど
※この他、統合失調症治療薬には、5-HT(セロトニン)受容体やヒスタミンH1受容体の阻害作用があるため、副作用として食欲増進、体重増加による肥満が多い
更に長期投与による副作用として、高血糖からの口渇による多飲が習慣化することで、強迫的飲水による多飲ということが起こりうる
→このリスクとしては水中毒(血漿浸透圧の低下による低Na血症、意識障害、肺や脳の浮腫で呼吸困難、意識レベル低下、けいれんなどの症状あり)が考えられる
→全身管理と浸透圧改善のためグリセロール点滴を行うこと
(2)修正型電気けいれん療法(mECT:modified electroconvulsive therapy)
(3)精神療法
・心理教育的アプローチ(患者本人や家族)
→病識の欠如、理解の有無とは別に必ず導入するべきこと
・認知行動療法
(4)精神科リハビリテーション
・作業療法
・生活技能訓練
・レクリエーション療法
・リバーマンらによる服薬自己管理もリハビリの課題として重要
・コミュニケーション技能を習得するためには、生活技能訓練(SST:Social Skills Training)が必要
※1 陽性症状:幻覚や妄想などをいい、本人にしか聞こえていないと感じる幻聴なども含んでいる活動的な精神疾患症状
※2 抗ドパミン作用:視床下部のドパミン作動性プロラクチン分泌抑制がはずれることでプロラクチン分泌が亢進し、無月経や乳汁分泌の副作用を生じることがある
また、黒質線条体系のドパミン作動性ニューロンが阻害されて手指振戦などのパーキンソン病様症状(錐体外路障害)を生じることがある
※3 陰性症状:意欲の低下や感情鈍麻など非活動的な精神症状
<参考>
厚生労働省「統合失調症 こころの病気を知る」:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_into.html(閲覧:2022.4.10)
統合失調症の治療には、時期では急性期と安定期、治療内容では薬物療法と心理社会療法に大別されている
これらを組み合わせ、患者の社会復帰やノーマライゼーションを達成するのが最終的な目標となっている
統合失調症の病態生理について
統合失調症の原因は様々な説で考えられており、未だはっきりとしたことはわかっていない部分もある
現段階で考えられているところは知っておければと思うので、こちらに簡潔にまとめてみました
・モノアミン仮説:モノアミン(ドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなど)は認知や感情などの高次脳機能に深く関わっているもので、この障害によると考える説
→実際に抗精神病薬ではドパミンやセロトニンの受容体拮抗薬では症状軽減見られている
・ドパミン過剰仮説:ドパミン過剰では主に幻覚・妄想などの陽性症状を呈するが、陰性症状に関しては辻褄が合いにくい
・この他にも、様々な観点で考えているものとして、グルタミン酸仮説、セロトニン仮説、GABA仮説などもある
・統合失調症では、脳の器質的変化が起きていると言われている
→これは、発症初期や前駆期で著しく、早期診断や早期介入がいかに重要であるかがわかる
→精神病未治療期間(DUP:duration of Untreated Psychosis)が1年以上もあり、早期発見のため中学生対象でスクリーニングを試験的に行なったりしている
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統合失調症の症状まとめ
ここで改めて統合失調症における症状について簡単にまとめてます(用語に関しては精神科疾患①も参照)
・非定型精神病:意識混濁や意識変容などの意識障害があり、錯乱状態を示すことが多い
・うつ病は仮性認知症と言われる認知症状態を呈する。これは見かけ上、思考制止があり、うつ病が回復することで認知症症状も消失する(初老期のうつ病で見られることが多い)
統合失調症の予後に関わる影響因子のまとめ
項目 | 予後良好 | 予後不良 |
---|---|---|
背景 | 気分障害の既往、家族歴 病前の社会適応能力が高いこと 知能指数が高いこと 循環気質である | 統合失調症の家族歴 病前の社会適応能力が低いこと 分裂気質である |
発症 | 高年齢、急性発症、誘因があること | 低年齢、緩徐な発症、誘因なく発症 |
病型・症状 | 緊張型、陽性症状が主である | 破瓜型、陰性症状が主である |
統合失調症感情障害について
統合失調症感情障害とは、統合失調症の特徴と気分障害の特徴を併せ持ったものをいう
統合失調症の実臨床
症状から考えられる状態についてそれぞれ定義づけるものをまとめてある
当然、他の疾患の可能性についても常に考えた上での判断が必要
症状 | 統合失調症以外で考えられる疾患・統合失調症の状態 |
---|---|
不登校※1、家族とも口を聞かなくなる | ・うつ病 ・睡眠リズム障害 ・自閉症状 →うつなども考慮が必要 →他の症状がないか確認し鑑別していく |
「自分の考えが人に伝わる」と思っている | 考想伝搬 |
「身内が不幸になる」と感じる 「誰かに操られている」 | ・被害妄想 ・妄想性障害 →中高年から見られ、特定の妄想はあるが社会生活は保たれていることが多い |
独り言(独語) 表情が変わる(急な怯えや笑う表情など) 黙り込んで何かに聞き入っているようにし、たまにうなずく | 幻聴、誰かと対話するように話す 空笑、言語性幻聴 |
思考と思考の繋がりがなく、内容が全体としてまとまりがない状態 | 連合弛緩 →特徴的な症状である、ブロイラーの4Aのひとつ |
表情が硬い、緊張が強い、自発的に話さない | 感覚鈍麻、自閉、疎通性障害など |
一点を見つめたまま反応がなくなる | 思考途絶の可能性 |
何か大変なことが起こりそうな感じがする | 妄想気分 |
言動がまとまっていない | 滅裂言動 |
表情が乏しい 視線を合わせない 小声で短く答えたりする | プレコックス感 |
※1 不登校(登校拒否)の定義
長期にわたって登校できない状態で、以下の場合をいう
(1)病気や経済的な事情がない
(2)非行、怠学などの行動障害がない
・頭部MRI所見、脳波所見に異常は認められない
→症候性や器質性疾患の否定
・血液生化学所見にも異常はなし
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ブロイラー(Bleuler)の4Aについて
ブロイラーの4Aとは、統合失調症に特徴的な4つの症状をいう
・Associations:連合弛緩
・Ambivalence:両価性
・Affect:感情表出異常
・Autism:自閉
シュナイダー(Schneider)の一級症状について
シュナイダーの一級症状については、現在は統合失調症に特異性の高い症状として再評価されている
①考想化声
②話しかけと応答のかたちの幻聴
③自己の行為に口出しする幻聴
④身体への影響体験(させられ体験)
⑤思考奪取(思考領域でのさせられ体験)
⑥考想伝搬
⑦妄想知覚
⑧感情、衝動、意思の領域の影響体験(させられ体験)
病院側の対応方法について
病院側は入院を勧めたりする必要はあるが、当然拒否されることが多い
そのため、さまざまな対処法があるため、その対応の種類についても把握しておくことが必要です
項目 | 内容 |
---|---|
応急入院 | 条件として、指定病院であること 保護者の同意が得られず、かつ精神保健指定医が必要と認める場合に72時間を限度として入院させるというもの |
任意入院 | 患者本人に病識があり、拒否していない場合本人同意のもとで入院すること |
医療保護入院 | 未成年者では、家庭裁判所の選任を受ける必要なく、親権者である保護者の同意を得て入院の手続きを進めるもの |
措置入院 | 裁判官の判断に基づいて入院させること 要件として、自傷他害が行われていること |
保健所相談 (移送制度) | 精神保健福祉法に基づいたもので、入院治療が必要で病識の欠如した患者に対しては保健所相談が一般的であり、移送制度が適用する場合がある |
デイケア | 入院するほどではないが一定時間、家庭から離れて治療を受ける必要がある場合、退院後の家庭生活への移行期や社会適応を図る場合に利用する |
職業リハビリテーション | 社会復帰するために、同じような境遇の方が集まり、職業訓練施設(小規模作業所、福祉工場、授産施設など)で働く場所 |
福祉ホーム | 入院の長期化などで家族が高齢化となり、世代が変わり、病状が改善しても退院先がない場合に適応される |
妄想性障害について
妄想性障害とは、幻覚を伴わない妄想状態を生じる疾患であり、高齢者などで見られたりする(老年期妄想性障害)
これは、単一あるいは複数の関連する妄想が次第に広がっていく疾患である
・中年期以降に好発
・長時間持続する
・主訴には、被害関係妄想などがみられたりする
(「監視されている」、「みんなが自分の悪口を言っている」など)
→初老期の妄想性障害(パラフレニア)といえる
これには、高齢発症の統合失調症の可能性も考えるが、先に述べている通り、統合失調症は基本的には思春期に好発するものであり、この場合は認知症や器質性疾患も考える必要がある
・基本的には病識は欠如しており、薬物療法の必要性については本人だけでなく家族への周知も重要である
→妄想は本人にとっては事実のことであり、訂正不能である
→家族内でも否定して症状悪化するのを防止するため、本人との接し方についても説明すること
・再燃は起こりうるため、本人や家族への心理社会的な介入が重要である
鑑別には、(遅発性)統合失調症などの否定が必要
この、妄想性障害は人格の解体、人格水準の低下はそんなに見られることはなく、社会適応も問題ないことが多い
<治療>
統合失調症の治療に準じているが、薬物療法の効果は比較的乏しいといえる
統合失調症と妄想性障害の鑑別について
統合失調症と妄想性障害では、一見すると似た様な症状を呈している様だが、しっかりと違いがわかる部分もある
見逃さないためには、特徴的な症状(言動、行動など)はしっかり見極められるようにしておきたい
項目 | 統合失調症 | 妄想性障害 |
---|---|---|
好発年齢 | 青年期(思春期) ・ほとんどは40歳以前に発病する ・破瓜型(解体型)と緊張型では20代が多い ・妄想型は30代以降が少なくはないという程度 | 中年期以降 |
幻覚作用 | 幻聴が主となる | 無いことが多い |
人格水準の低下 | 顕著である | 目立ってはいない |
陰性症状 | 顕著である (遅発性統合失調症においてはそれほどではない) | 目立ってはいない |
尚、治療法については共通しており、抗精神病薬や精神療法などになる
現在、国際的な診断基準にはDSM-Ⅳ-TRを経ており、年齢による制限は撤廃され、高齢者であっても統合失調症の発症はあるとしている
というのも、初老期の妄想性障害(パラフレニア)と遅発性統合失調症の鑑別は難しいところである
→とはいえ、治療方針としては同一のため、治療自体には支障は起きないと考えられるので、診断については随時柔軟にしていきたいところ
抗NMDA受容体脳炎について
抗NMDA受容体脳炎は、主に中枢神経系に分布しているNMDA受容体に対する自己抗体が生じることで発症する脳炎である
・若年女性に好発であり、卵巣奇形腫が高率で合併する
・統合失調症様の精神症状を呈する
この際、統合失調症との鑑別のためにも
まずは精神作用物質である覚醒剤などの精神障害、卵巣腫瘍に合併する傍腫瘍症候群の抗NMDA受容体脳炎などを除外する必要があるため、全身検索を行うこと
・これは、統合失調症様症状の他にも、痙攣発作、緊張病性昏迷状態、中枢性低換気、不随意運動も特徴的である
境界性パーソナリティ障害について
境界性パーソナリティ障害とは、柔軟性がなく、社会的に不適応を生じ、機能障害、自覚的苦痛が発生する人格特性をいう
これにも様々な分類はあるが、境界性パーソナリティ障害の頻度が高いとされ、一般的に治療は困難とされる
・成人の若年女性に好発する
・感情が不安定であり、衝動性や爆発性がみられる(イライラ、かんしゃく)
・「見捨てられ不安」という、他人に見捨てられることを異常に避けようとする傾向がある
・対人関係が非常に不安定なものとなる
・自傷行為や自殺行為を繰り返す
・気分障害や神経性大食症、薬物依存を合併することがある
<分類について>
分類には、境界性のほか、統合失調質や統合失調型、妄想性、反社会性、演技性、自己愛性、回避性、依存
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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