(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
今回から耳鼻咽喉科の中でも鼻腔や副鼻腔の疾患についてみていきます。
鼻腔・副鼻腔の解剖
・副鼻腔には、大まかに4つある(前頭洞、篩骨洞(前部・後部あり)、上顎洞、蝶形骨洞)
・篩骨洞は数個の骨蜂巣の集合体となっている。
・その他の、前頭洞、上顎洞、蝶形骨洞は単一腔である。
副鼻腔炎は前部篩骨洞、上顎洞に多く見られる。(中鼻道に開口している部分)
部位名称 | 特記事項 |
---|---|
前頭洞 | 中鼻道に開口している |
前篩骨洞 | 〃 |
上顎洞 | 〃 |
後篩骨洞 | 上鼻道に開口している |
蝶形骨洞 | 蝶篩陥凹(上鼻道の後ろ側)に開口している(最深部である) |
・副鼻腔に炎症と膿の貯留が生じると、その副鼻腔が開口する部位(要は排泄路)に膿汁が流出することとなる。
前鼻鏡検査について
前鼻鏡検査は第一頭位と第二頭位の2つの方法がある
前鼻鏡検査※1とは、鼻の穴から鼻腔内を観察することである
・第一頭位:患者側は頭位をまっすぐのままで、観察する側が鼻の穴を下からのぞき込む形で観察する方法
→これは、鼻の手前側である鼻入口部(下鼻道)、下鼻道、下鼻甲介、鼻中隔下部を観察することができる
・第二頭位:患者側は頭位を後ろに傾け(斜め上を見る)、観察する側が視線はまっすぐで観察する方法
→これは、鼻の奥側である中鼻道や中鼻甲介、嗅裂(きゅうれつ)を観察することができる
※1 上鼻甲介、耳管咽頭口は観察できない
後鼻鏡検査では、アデノイド、耳管咽頭口などを観察できる
鼻咽腔ファイバースコープでは耳管咽頭口などの観察に用いられる
<参考>
・後鼻鏡検査、鼻咽腔ファイバースコープについて
https://www.hotweb.or.jp/shirato/kodougu.html(閲覧:2021.12.1)
Bellocq(べロック)タンポンの原理について
Bellocq(べロック)タンポンとは、ガーゼと糸で作ったもので、鼻出血に対する処置法のことをいう
→これは、後鼻孔(鼻の一番奥側)および外鼻孔(鼻の入り口)を完全に閉鎖をする方法である。
<位置関係>
外鼻孔(鼻穴) Bellocqタンポン
↓ ┃
前鼻孔 ガーゼパッキング
↓ ┃
後鼻孔 ┃
↓ ┃
上咽頭(鼻咽頭) Bellocqタンポン
↓ ┃
一周周って口側 糸
(糸はそのまま伸ばして口から出す)
・Bellocqタンポンはカテーテルで口腔から鼻腔に引っ張るが、抜去時のために、糸は口腔から出しておいた状態である。
・ガーゼパッキングは出血側の鼻腔に行うが、後鼻タンポン法では、出血側が困難時、非出血側から行うこともある。
・出血点の確認が困難であり、前鼻孔からのガーゼタンポンで止血困難な場合に行う。
・この方法では、特に中耳炎においては感染リスクがあるため抗菌薬の投与をし、タンポンは2、3日程度で外すようにすること。
<参考文献、画像あり>
「耳鼻咽喉科領域の出血」
信州大学医学部耳鼻咽喉科学教室
教授 鈴木 篤郎
148770916.pdf (core.ac.uk)(閲覧:2021.12.1)
鼻出血の好発部位について(Kiesselbach部位について)
鼻出血のほとんどは、健常若年者のほとんどや中高年者の多くは鼻中隔前下部(Kiesselbach部位:キーゼルバッハ部位)からの出血である
・鼻出血では交感神経が活動性高まり、血圧が上昇していることがある。
・意識レベル低下がみられれば、血圧の低下や徐脈があると考えられることから、血管迷走神経反射を疑う。
→この対処法を考えていくこと
<その他出血部位を考える>
・鼻中隔上部(嗅裂)からの出血は、中高年者の動脈性出血時にみられることがある
→高血圧や動脈硬化症、肝機能障害による凝固能低下や血小板減少などが要因
(また、抗凝固薬の服用が無いか確認。そのため、脳梗塞既往歴の確認がよいだろう)
・下鼻甲介前端部からの出血は、乾燥による小出血時にみられるが、頻度は少なめ
・下鼻甲介後端部からの出血は、中高年者の動脈性出血時にみられる、これは重症化しやすい。
・小児のキーゼルバッハ部位からの出血はほとんど静脈性である
→ 高齢者においては、静脈性だけでなく動脈性ということもある
<血管の流れ>
①内頚動脈
┗ 眼動脈
┣ 前篩骨動脈
┃ ┗ 鼻中隔前下部
┃ (Kiesselbach部位)
┗ 後篩骨動脈
②外頸動脈
┃
顎動脈
┃
蝶口蓋動脈
┣ 3つに分かれる
┃そのうち2つが鼻中隔前下部へ
┃
┗ 大口蓋動脈
③上口唇動脈
┃
鼻中隔前下部へ
<治療>
初期対応は出血の程度による
・軽度:圧迫止血を試みる
→圧迫止血困難例、大量出血の場合では、アドレナリン付きガーゼの使用で止血を図ること
この時点で、出血点が把握できれば電気凝固で止血する
(もし、冷やして血流を低下させるためであれば、鼻部を冷やすこと)
<鼻腔後方からの出血で止まらない場合>
第一選択は内視鏡下の出血点の電気凝固である
(従来ではBellocqタンポン、バルーンカテーテル挿入での止血となる)
それでも不十分例では、支配動脈(顎動脈、篩骨動脈)の結紮や塞栓術をする場合もある
鼻出血で重要なことは、血液は飲みこまないで吐き出すこと。
また、重症の鼻出血であってもキーゼルバッハ部位からの出血のことが多く、座ってうつむいた状態で鼻翼をつまむ(15分程度)ことで止血に効果がある
体勢は仰向けはしないこと。血管迷走神経反射などで血圧低下が起こって横になる必要があるのならば、側臥位とすること。
血管迷走神経反射であれば、安静で自然に快復する。側臥位なのは、誤嚥や窒息予防となる。
※ティッシュを鼻に詰める場合では、詰め方によっては圧迫効果が弱いためあまり適切とはいえない
急性副鼻腔炎について
急性副鼻腔炎では、片鼻の鼻漏症状(膿性鼻汁)がみられる。(両鼻であれば、アレルギー性鼻炎と考えられる)
急性上気道炎(ウイルス感染)に続発する細菌感染症であり、二峰性の症状※を呈する。(いわゆる二次感染)
→これは抗生剤による治療が必要である
発症から1カ月(4週間)以内の副鼻腔炎をいう。
※二峰性:最初はウイルス感染で発熱、咳、痰、鼻症状がみられ、一旦症状が治まってきたと思ったら、また症状が強くなってくること。
この場合は2回目では免疫力低下などもあり、細菌感染を引き起こしたと考えられる。
そのため、二峰性の症状を聞き取れれば抗生剤での治療をしたほうがよいだろう。
主な起因菌:急性中耳炎とほぼ同様である。肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)。
・頭痛、顔面痛(上顎洞(左頬部)の痛み、前頭洞(前額部)の痛み)がみられることがある。
・上記の痛みと膿性鼻汁が特徴的所見となる
・膿性鼻汁は喉元に落ちることで後鼻漏を生じる。
→患者の訴えでは、痰と言われるが飲みこみにくい引っ付いているような状態のものは、痰ではなく鼻水・膿性鼻汁であることが多い。
・一側性の上顎洞病変には、腫瘍(上顎癌、乳頭腫)、歯性上顎洞炎、真菌症が主に挙げられる
・基本は予後良好で抗生剤治療でよいが、稀に感染が眼窩内、頭蓋内に波及することで
鼻性眼窩内合併症、鼻性頭蓋内合併症をきたすことがある。治療については以下を参照
<所見>
・鼻粘膜発赤、腫脹、膿性鼻漏
必要に応じてMRIやCTを行うが、X線検査などはとくに診断には不要である。
<治療>
・軽症であれば、経過観察となる
・中等症・重症例では抗菌薬投与となる
<重症度に応じて>
ペニシリン系(アモキシシリンが第一選択薬) → セフェム系 → ニューキノロン系
の順に使用することが推奨されている
適宜、副鼻腔洗浄、ネブライザー療法(局所療法)も行うこと。
<重症の副鼻腔炎に対し>
頬部の痛みが強い場合、上顎洞を穿刺して排膿をすることがある
< 鼻性眼窩内合併症、鼻性頭蓋内合併症 の場合>
高用量の抗生剤を経静脈的に投与をし、緊急手術(外切開、鼻内内視鏡下排膿術)を考慮する
リンク先
慢性副鼻腔炎について
慢性副鼻腔炎とは、鼻の症状が3か月以上続いているものをいう。
慢性副鼻腔炎は広義には、歯性上顎洞炎や後述する副鼻腔真菌症も含まれている。
似たものでは、次の項目で解説する好酸球性副鼻腔炎がある。
典型例では、上顎洞に好発で、両側性である
・症状は、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、嗅覚障害など
→細菌感染による好中球の炎症が慢性化した状態
・鼻閉は粘膜の浮腫や鼻茸(ポリープ)などで生じる
・嗅覚障害は嗅裂の粘膜肥厚や鼻茸、鼻漏などによって匂いが妨げられることで生じる。
・急性副鼻腔炎と同様、頭痛や頭重感、顔面痛(頬部痛、前頭部痛)などがみられることあり。
→また、咳などの呼吸器症状も呈する
<所見>
・鼻粘膜の腫脹、膿性鼻漏
腫瘍性であれば、血性の鼻漏がみられることがある
・単発性で鼻茸(はなたけ)を形成することがある
・X線検査、CT検査などで上顎洞を中心に副鼻腔炎の症状が両側でみられることが多い。
上顎嚢胞との鑑別:通常骨破壊は見られない。画像上、液面形成がある。両側性であること。
<治療>
薬物療法
・保存療法:マクロライド系少量長期投与(クラリスロマイシンなど)
→抗生剤だが、この投与方法では抗菌作用のほか、抗炎症作用も期待できる
・鼻茸を伴う重症例:デュピルマブ(デュピクセント®)※
・局所療法:副鼻腔洗浄、ネブライザー
※デュピルマブ:ヒト型抗ヒトIL4/13受容体モノクローナル抗体で、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療薬である。(いずれも他剤で効果が無いか重症例)
手術療法
・内視鏡下鼻・副鼻腔手術(ESS)
<参考>
安全なESS のための基本手技 (jst.go.jp)(閲覧:2021.12.1)
好酸球性副鼻腔炎について
好酸球性副鼻腔炎は難治性の慢性副鼻腔炎である。
はっきりした原因は確定されてない
慢性副鼻腔炎の1割を占めている。(増加傾向にある)
副鼻腔には、非常に粘度の高い貯留液が認められる。
合併症には難治性の中耳炎(好酸球性中耳炎)、嗅覚障害、中鼻甲介周囲(中鼻道、嗅裂)の両側性多発性鼻茸
アスピリン喘息患者では、ほとんどで難治性の慢性副鼻腔炎を合併する
<所見>
X線検査、CT検査などでは、篩骨洞を中心に副鼻腔の病変が両側でみられる。
→上顎洞の軟部陰影内の高吸収域あり
鼻茸や鼻・副鼻腔粘膜の病理組織所見では、著明な好酸球浸潤をみる
採血:末梢血好酸球の増多
<治療>
薬物療法
保存療法:経口ステロイド、ステロイド点鼻薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬(プランルカスト、モンテルカスト)など
→いずれも抗炎症作用がある(少量のマクロライド系抗生剤の投与はしない)
ステロイド中止後や術後であっても再発率が高く難治性である
以下の治療法は、慢性副鼻腔炎と同様
局所療法:鼻処置、副鼻腔洗浄、ネブライザー療法
鼻茸を伴う重症例:デュピルマブ※
局所療法:鼻処置、副鼻腔洗浄、ネブライザー療法
手術療法:内視鏡下鼻・副鼻腔手術(ESS)
※デュピルマブ:ヒト型抗ヒトIL4/13受容体モノクローナル抗体で、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療薬である。(いずれも他剤で効果が無いか重症例)
真菌性副鼻腔炎について
真菌性副鼻腔炎とは、副鼻腔真菌症ともいうが、これは免疫不全症(HIV感染者等)の患者で引き起こしやすい真菌感染症である
これは副鼻腔炎、深在性真菌症である。
病態によって4つの分類がある
原因菌である真菌には、アスペルギルス、ムーコル、カンジダなどがある
<参考>
ムーコル症について (niid.go.jp)(閲覧:2021.12.1)
・片側性の鼻閉、鼻漏(悪臭、血性はたまにあり)
・後鼻漏などの鼻症状が続き、頭痛、頬部疼痛、歯痛なども呈する
<検査>
CTなどで上顎洞に充満する軟部組織陰影を認め、内部に高吸収域がみられる。(これは、明らかな骨壁の破壊が無いことを確認する)
・生検組織からGrocott染色(ゴロコット)標本※で確認すると、Y字型の分枝模様が特徴的である。これが真菌(アスペルギルス)と考えられる。
・これに対し、PAS染色というものもあるが、それぞれメリット・デメリットがある
Grocott染色(ゴロコット):病理組織所見で真菌の観察をするためのもの。
元のグリコーゲンやムチンを染色するGMS染色に変法を加えたものである。
非特異的染色が少なく、PAS染色では染めれない死菌、放線菌、ノカルジアも染色することができる。ただし、PAS染色に比べて染色時間が1時間ほどかかる。
(PAS染色では40分ほど)
<参考>
施行者間差の少ないグロコット染色法の工夫―クロム酸アンモニア銀法における菌体ごとの至適時間の検討― (jst.go.jp)(閲覧:2021.12.1)
<治療>
手術療法が基本である
副鼻腔真菌症の4分類について
副鼻腔真菌症には浸潤性と非浸潤性がある。ほとんどは非浸潤性(寄生型)となっている。
浸潤性:免疫能の低下した患者(移植後、血液疾患、糖尿病など)や高齢者に発症しやすいもの。
これは、粘膜に浸潤した真菌病変が眼窩内や頭蓋内に進展するため致死的なことが多い。
非浸潤性:洞内に真菌塊を形成し、粘膜への真菌浸潤はないもの。基礎疾患が無くても発症することがある。
→起因菌はほとんどがアスペルギルスであり、副鼻腔真菌症では、一般的にこの非浸潤型(寄生型)である。
CT所見では、軟部組織陰影内の高吸収域と、MRIによるT1、T2強調像共にやや低信号を示すのが特徴。
・CT所見の高吸収域というのは、Ca塩による通常の石灰化である。
・MRIのT2強調像の低信号領域は真菌の代謝産物であるFeやMnによるものである。
<治療>
この場合では手術するため抗真菌薬は不要である
内視鏡下手術で
副鼻腔の開放 + 真菌塊の摘出
を行う
分類 |
---|
急性浸潤性副鼻腔真菌症 |
慢性浸潤性副鼻腔真菌症 |
慢性非浸潤性(寄生性)副鼻腔真菌症 |
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(AFRS) |
リンク先
類縁疾患 - 術後性上顎嚢胞
術後性上顎嚢胞も副鼻腔真菌症と同じく片側性の上顎陰影がみられるが、内部には液体貯留があるため、CT所見では高吸収域はみられないことから鑑別可能である。
<所見>
CT所見
・骨破壊を伴う腫瘍、副鼻腔の変形、上顎洞外側壁の骨菲薄化(外側突出)
・頬部の腫脹、上顎の歯肉部を穿刺することで粘稠な液体が吸引される(腫瘍組織や血液成分が含まれる)
・石灰化を伴わない粘膜と同程度の均一な中吸収域を認める
MRI T1強調像で、→上顎洞に均一な高信号域が、液体の貯留液である。(高蛋白)
<治療>
内視鏡手術が普及していない頃(1990年以前)では
慢性副鼻腔炎に対して歯肉部切開をし、上顎洞の病的粘膜を全て摘出するという上顎洞根本術(Caldwell-Luc法:コールドウェル-リュック法)を実施していた。
→これにより、術後20年以上経過によって上顎洞自然孔や対孔(下鼻道に形成する交通路)が閉鎖し、嚢胞を生じることがある。
これを術後性上顎洞嚢胞という。
鼻癤(びせつ)について
鼻癤(びせつ)とは、鼻前庭(鼻の入り口)に細菌感染がおこり、膿が溜まっている状態をいう。
傷口や鼻毛の抜毛によって毛嚢や皮脂腺に細菌感染を起こす。
鼻前庭には、汗腺、皮脂腺、鼻毛がある。
<治療>
化膿しているため、抗生剤による治療となる
抗生剤軟膏の使用など
膿が溜まっていれば切開を行う。
痛みがあれば鎮痛剤の投与も行う
CTで一側性の副鼻腔陰影を呈する疾患について
歯性上顎洞炎、副鼻腔腫瘍などの上顎洞癌、副鼻腔真菌症の可能性を考えること
治療薬で免疫を下げるもの(ステロイドや免疫抑制剤)では、副鼻腔真菌症を発症することがある
リンク先
歯性上顎洞炎について
歯性上顎洞炎とは、う歯、根尖病変によって引き起こされる上顎洞炎である
上顎嚢胞との鑑別:上顎洞壁の骨菲薄化は見られない
リンク先
アレルギー性鼻炎について
アレルギー性鼻炎とは、鼻粘膜のIgE依存性のⅠ型アレルギー(即時型)で発症するものである
<アレルギー発症の機序>
①アレルゲン(抗原)の侵入 → ②感作 → ③誘発 → ④急性症状出現
①アレルゲンの侵入
アレルゲン → Th2サイトカイン → IL-4など → 形質細胞(B細胞) → IgE抗体(Y字型)を作る
↓
②感作
肥満細胞(マスト細胞)のFc受容体にIgEが結合
→ 一度くっつくことで免疫応答しやすい状態となる(感作反応)
→ 再びアレルゲンの侵入でIgE抗体は肥満細胞のFcRに2つ以上で結合する(架橋)
↓
③誘発
好酸球などの炎症細胞が
→肥満細胞からケミカルメディエーターが遊離される(ヒスタミン、セロトニン、TXA2、LT類、PG類、PAFなど)
↓
④即時型反応を示す(これをⅠ型アレルギー反応という)
各ケミカルメディエーターの作用によって、気管支平滑筋収縮、粘液腺分泌亢進、血管透過性亢進などがおこる。
→ 即時型であり、抗原暴露後、数分から10分程度で発現する。
・症状には、副交感神経機能亢進によって発作性のくしゃみ、水様性鼻汁(鼻水)、鼻閉(はなづまり)がみられる。(主な三徴)
この他、鼻咽頭や目の痒み、全身倦怠感、蕁麻疹、下痢、嘔吐、腹痛などがみられる。
(くしゃみ発作というのは、三叉神経終末からの反射で起こる)
・原因には
吸入性アレルゲン:ダニ、ハウスダスト、花粉(スギ、ヒノキ等)が主にある
接触性アレルゲン:点鼻薬、化粧品等
→アレルゲンの暴露によって、ヒスタミンやロイコトリエン(ケミカルメディエーター)などが遊離されることでアレルギー症状を呈する。
<検査>
・鼻汁中に含まれる好酸球の確認により、診断が可能
・鼻腔粘膜の鼻鏡検査では、くしゃみ発作時に下鼻甲介が蒼白で腫脹する。
・血清中の総IgE抗体増加
IgE RASTスコアというものがある
<参考:RAST|P~T|ぜん息の用語集|ぜん息基礎知識|ぜん息などの情報館|大気環境・ぜん息などの情報館|独立行政法人環境再生保全機構 (erca.go.jp)>
<原因特定のための検査>
皮膚テスト(皮内、スクラッチなど)、鼻誘発試験、血清中抗原特異的IgE抗体検査
<治療>
アレルギー性鼻炎診療ガイドラインが非常に重要である。必ず確認しておくこと
・抗ロイコトリエン薬:鼻閉に効果(オノン®、シングレア®、キプレス®)
・抗ヒスタミン薬:鼻汁、くしゃみに効果(アレロック®、ザイザル®など多くあり)
・ステロイド(点鼻、経口:セレスタミン®)
・抗IgE抗体(オマリズマブ)
・Th2サイトカイン阻害薬(アイピーディー®)
・抗PGD2・TXA2薬(バイナス®)
・ケミカルメディエーター遊離抑制薬(リザベン®、インタール®、アレギサール®、ぺミラストン®)など
根治療法:アレルゲン免疫療法(旧名:減感作療法)がある
→通年性アレルギー性鼻炎であるハウスダストやダニ、季節性アレルギー性鼻炎の花粉では
それぞれのアレルゲンを微量で長期(3年から5年)に摂取して免疫を付ける方法である。※1
投与方法は舌下投与、皮下注がある
手術療法:鼻閉重症例で、鼻閉改善のため手術療法を選択する
・レーザー治療などがある
→下鼻甲介粘膜焼灼術、粘膜下下鼻甲介骨切除術、後鼻神経切断術など
※1 アレルゲン免疫療法:抗原エキスに対するIgE抗体の産生抑制(抑制性T細胞誘導、特異抗原によるアナジー誘導※2など)、局所浸潤リンパ球亜分画の変化や遮断抗体の産生更新などの免疫学的機序が考えられる。
また、考えられていることとして、肥満細胞上のIgEと抗原の結合を阻止するIgG型の遮断抗体の産生が関係しているものの一つと考えられている。
※2 アナジー誘導(不応答性):T細胞が活性化してサイトカインを産生するためには、補助シグナル分子(CD80やCD86など)やT細胞上のCD28が必要だが、この補助シグナルが欠如していれば「T細胞抗原特異的に不応答が誘導される」。この不応答をアナジーという。
→要は、免疫機能的に不活性化するという意味で考えてよいだろう。
<参考>
第1回 免疫寛容とは?|JBスクエア 日本血液製剤機構 医療関係者向け情報 (jbpo.or.jp)(閲覧:2021.12.1)
アレルギー性鼻炎の種類について
通年性 | 季節性 | |
---|---|---|
アレルゲン | ハウスダスト、ダニ | 花粉※ |
発症年齢 | 小児に多い(3歳から10歳代) | 青年期に多い(10歳から20歳代) |
アレルギー性結膜炎 | あり | 多くみられる |
気管支喘息 | 多く見られる(いわゆる小児喘息など) | あり |
※花粉のメジャーな種類:2月~5月:スギ・ヒノキ、7月、8月:イネ科、10月:ブタクサ(地域によって多少ずれはある)
アスピリン喘息
アスピリン喘息患者では、喘息症状の他、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を効率で合併する疾患である
アラキドン酸代謝からLT、PG類の生成という二つの流れがあるが、NSAIDsによりCOX阻害でPG類が減少するが、その分もう一つの代謝経路であるLTの生成が増加してしまうことで喘息発作が起きていると考えられている。
嗅覚障害の種類について
種類 | 内容 | 疾患例 |
---|---|---|
気導性嗅覚障害 | 嗅裂部の気流が障害され、におい分子が嗅裂部に到達できていない状態。 従来の呼吸性嗅覚障害である。 | ・慢性副鼻腔炎 ・アレルギー性鼻炎 |
嗅神経性嗅覚障害 | 嗅細胞が障害を受けることで、嗅覚の低下をきたすもの。 従来の嗅粘膜嗅覚障害と、末梢神経性(軸索性)嗅覚障害をあわせたものをいう。 | ・ウイルス感染、有毒ガスなどによる嗅細胞の直接障害を受ける場合 ・外傷により嗅細胞軸索(嗅糸)が障害を受け、最終的に嗅細胞が脱落する場合 |
中枢性嗅覚障害 | 嗅球から大脳に至る頭蓋内嗅覚伝導路の障害によって生じるもの。 | ・脳挫傷 ・脳腫瘍 ・神経変性疾患 など |
リンク先
上顎癌について
上顎癌の症状は進展方向によって症状が変わるため、多岐にわたる。進展する部位ごとにまとめてきます
(眼科、脳神経外科、歯科受診から見つかることがある)
上顎癌とは、上顎洞に発生する上皮性悪性腫瘍である。上顎洞癌ともいう。
扁平上皮癌が多く、早期症状は乏しいが、癌の進展方向により様々な症状を呈する。
頚部リンパ節転移では末期まで症状は見られにくい
・好発:中高年男性(男女比は2:1)
・片側性の悪臭を伴う鼻漏、鼻出血、鼻閉、頬部の腫脹(顔面変形)
・所見には、骨破壊などで顔貌の変化がみられたりする(進展方向による)
・均一な腫瘤影
鑑別診断:MRIが有用である
生検で確定診断(扁平上皮癌であることが多い)
・歯性上顎洞炎にも歯痛はあるが、CT所見では骨破壊はみられない。
・上咽頭癌では、耳や鼻、頚部の症状が主であり、CT所見では副鼻腔の骨破壊はみられない。
頬からの進展方向 | 症状 |
---|---|
内側 | ・悪臭のある鼻漏 ・鼻出血(血性鼻漏) ・鼻閉 ・流涙(鼻涙管閉塞によるもの) |
前方 | ・頬部腫脹(顔面の変形) ・頬部の疼痛、知覚障害 |
上方 (眼窩) | 上内方に進展した場合は末期であることが多い。 これは、頭蓋内(前頭蓋底)に進展し、髄膜炎、激しい頭痛を生じる ・眼球偏位 ・眼球突出 ・複視 |
下方 | ・口蓋腫脹 ・歯痛 |
外側 | 頬部外側の腫脹(顔面変形) |
後方 | ・三叉神経痛(顔面痛、歯痛) (三叉神経:第Ⅴ脳神経(主に上顎神経 V2)) ・開口障害 ・伝音難聴 |
<治療>
手術療法:上顎部分切除術、上顎拡大全摘出術、上顎全摘術
頭蓋底手術から進展方向に応じて選択する
手術、放射線、化学療法を組み合わせた治療を行う
→術前・術後に放射線療法や化学療法を行うのが一般的である
<参考>
頭頸部がんの切除手術|日本頭頸部癌学会 頭頸部がん情報 (umin.ne.jp)(閲覧:2021.12.1)
片側性の上顎洞病変の考えられる疾患について
類推疾患 | 特徴 |
---|---|
上顎癌 乳頭腫 などの腫瘍性 | 上顎癌:鼻出血、血性鼻漏、疼痛、頬部の腫脹(急激) |
歯性上顎洞炎 | 歯科治療歴 画像所見:上顎洞底への歯根突出、洞底の破壊、人工物など |
副鼻腔真菌症 | 石灰化病変の所見 |
術後性上顎洞嚢胞 | 手術歴 疼痛みられることあり |
上顎骨骨髄炎
上顎骨骨髄炎では、体調不良の訴えや顔の腫れがみられたりする
鼻腔異物の症例
<よくある所見>
片側の鼻閉、悪臭のある黄褐色の鼻漏、全身状態は問題なし、小児であることが多い
鼻閉は片側性か両側性かでもある程度鑑別可能である。
鼻閉でみる鑑別方法について
年齢 | 片側性鼻閉 | 両側性鼻閉 |
---|---|---|
小児 | 鼻腔異物 | アデノイド アレルギー性鼻炎 鼻咽腔血管線維腫(思春期男性に好発のもの) |
成人 | 鼻中隔湾曲症(両側性もあり) 急性副鼻腔炎(歯性上顎洞炎) 上顎癌 上顎洞性後鼻孔ポリープ | 肥厚性鼻炎 アレルギー性鼻炎 慢性副鼻腔炎 上咽頭癌 |
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
できる限り正確な情報発信に努めておりますが、当サイトに記載した情報を元に生じたあらゆる損害に対しては当サイトは一切責任を負いませんので、あくまでも参考としてご利用ください。)
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.5 耳鼻咽喉科
病気が見える Vol.13 耳鼻咽喉科
ビジュアルブック 耳鼻咽喉科疾患
エラー: コンタクトフォームが見つかりません。