ここでは肝臓の総論として、解剖学など基本的な事項をまとめていきたいと思います。
画像については今は無いですが、将来的に追加していきます。
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
肝臓の機能について
主に体内の代謝に関わる腹腔内臓器である。
その代謝は、三大栄養素である炭水化物、タンパク質や脂質の他にビリルビンやビタミン、毒物などの代謝に関わる臓器である。
主な肝機能について
・糖代謝:腸管から運ばれるブドウ糖はグリコーゲンとして貯蔵され、必要に応じてブドウ糖に分解して利用する。
・タンパク質代謝:アミノ酸を合成、分解をしアルブミンや凝固因子など必要な生体物質を合成する。
また、合成過程で生じたアンモニアは尿素に変えて無毒化を行い、尿中排泄させる。
・脂質代謝:脂肪酸+グリセリンを合成し、コレステロールや胆汁を作る。
また、間接ビリルビンから直接ビリルビンへの変換、VDの一部代謝活性化(これは腎臓でも代謝が必要)、薬物、毒物代謝(抱合、CYPなどの様々な代謝酵素を合成)を行う。
肝臓は栄養の分解、合成、貯蔵、消化酵素の分泌、解毒などを行い、肝臓は腹腔の右上に位置しており、横隔膜に接していて肋骨弓の裏側に存在する。
肝臓の重さは、成人では1000~1500g程度。
肝臓に流入している血管は肝動脈と門脈の二つある。
また、全血流量の70%程度が門脈血、30%程度が肝動脈から流入している。
肝臓の構造について
・肝臓は前面からみると肝右葉と肝左葉の二つに分かれており、その境目が肝鎌状靱帯、肝円索が伸びている
・裏から見ると肝右葉、肝左葉の他、方形葉があり、方形葉の下に尾状葉(肝門の背側)がある。
この肝右葉と方形葉の間に胆嚢がある。
・肝臓は臓側腹膜で覆われているが、肝臓のごく一部ではこの腹膜(漿膜:S)を欠いている箇所がある。
具体的には、肝上面の背側部、肝下面の肝門部になる。
また、胆嚢部分も漿膜を欠いている。(肝床、胆嚢床の部分)
肝静脈について
肝静脈は左右、中間と3つある。右の肝静脈は後区域と前区域の境目を走行している
肝静脈
(1)後区域:右肝静脈より右後ろ側の区域をいう
(2)前区域:右肝静脈と中肝静脈の間をいう
(3)内側区域:中肝静脈と左肝静脈の間をいう。
(4)左外側区域:左肝静脈より左側をいう
肝臓の解剖については肝区域分類のCouinaud分類(クイノー)がある。
これは、肝臓は門脈の分枝を元に機能的にS1-S8の区域に分類したもの
リンク先
肝区域分類について( Couinaud分類(クイノー) )
<肝臓の機能的分類について>
肝臓
┣ 左葉:S1--S4
┃ ┣ 外側区域
┃ ┃(S2 + S3:ここの静脈血は
┃ ┃ 左肝静脈へ流入)
┃ ┃
━╋━╋ 左肝静脈が通る ━━━━
┃ ┃
┃ ┗ 内側区域
┃(S1 + S4 S4とS2+S3の境に
┃ 肝鎌状間膜がある)
┃
━╋ Cantlie線※1(カントリー)━
┃ 中肝静脈が通る
┃
┗ 右葉※2:S5-S8
┣ 前区域:S5 + S8
┃
━━╋ 右肝静脈が通る ━━
┃
┗ 後区域:S6 + S7
・S1(尾状葉)は表から、S8は下側(裏)からは見えない位置にある。
※1 Cantlie線(カントリー) :ちょうど胆嚢を半分にする境界線
※2 右葉:機能的区域としては表のようになるが、解剖学的分類では、右葉は内側区域も含まれる。
外科手術においては、左葉は機能的区域としてあらわす。こちらの方が臨床的に重要である。
<参考>
肝臓の病気 - 日本消化器外科学会 (jsgs.or.jp)(閲覧:2021.9.22)
肝葉切除術の切除範囲について(系統的肝切除)
①左葉切除:S1~S4
②右葉切除:S5~S8
③中央2区域:S5+S8(右前区域) + S4(左内側区域)
肝臓の構造について
・門脈は肝動脈と胆管に併走している
・下大静脈の位置は肝臓の背側にある
・肝円索は肝臓側に門脈がある
・門脈の大きさは、肝動脈に比べれば数十倍にもなるほど大きい
・短肝静脈は下大静脈に流入している。
この短肝静脈とは、左、中、右の肝静脈以外で直接下大静脈に流入する肝静脈であり、肝切除時は注意が必要な部位である。
主なものとして、下右肝静脈があり、およそ60%の症例で認められる。
・小葉間は、動脈、門脈、胆管が併走している。
・小葉内では動脈+静脈が類洞という毛細血管となり、中心静脈に流入している。
肝小葉内のトランスアミナーゼの分布は、門脈域近辺の肝細胞ではALTが多く、中心静脈周辺ではASTが多い。
(門脈域周辺では酸素濃度が多く(門脈は栄養を運ぶ通路のため)、遊離脂肪酸はβ酸化を受ける。この時、ラジカルなどの酸化ストレスで肝細胞傷害がおこり、ALT優位トランスアミナーゼ増加となる。)
・臨床的(外科的)左葉はCantlie線(カントリー)※より左側である
リンク先
※ Cantlie線(カントリー) :胆嚢底と肝背面の下大静脈を結ぶ線のことであり、左葉(S2+S3)と右葉(S4~S8)を分ける境目となっている
肝臓の構成細胞について
①肝細胞:胆汁酸を産生する
②星(状)細胞:Disse腔内(ディッセ)にありVAを貯蔵するところ。伊東細胞ともいう。
③Kupffer細胞(クッパー):類洞にある。貪食能をもっている。
④胆管上皮細胞:胆管の内腔を構成している細胞
⑤Pit細胞:類洞にある。NK細胞活性をもっている。
Glisson鞘(グリソンしょう)について
・Glisson鞘内には肝動脈、門脈、胆管の他、リンパ管も存在する。
ただし、肝静脈はなく、これは肝小葉中心に位置している。(中心静脈)
・ Glisson鞘は小葉間結合組織のこと。ここには小葉間動脈、小葉間静脈、小葉間胆管がある。
また、Glisson鞘は門脈の構造に類似したリンパ管がみられる。
リンパ管は静脈系に比べて内腔の広さに比して壁の相対的厚さは薄く、平滑筋の発達に乏しい。
・門脈域には、肝動脈、門脈、胆管が一組となって存在している。
・肝細胞付近には、Kupffer細胞(クッパー)、伊東細胞、というのも存在している。
リンク先
※1 Kupffer細胞(クッパー):類洞に存在するマクロファージの一種である。
周囲に突起を伸ばして肝臓の類洞腔の内皮細胞に接着している。
機能は様々あり、肝動脈や門脈からの異物や毒素、老廃物などを取り込み、分解や再利用を行う。
また、サイトカインを産生することで免疫機構も制御する。
※2 伊東細胞:別名、肝星細胞ともいう。
これは肝細胞と類洞の隙間にあるDisse腔(ディッセ)に分布している。
伊東細胞は細胞質内の脂質滴内にVAを多く貯蔵している。
この細胞は、種々の慢性肝疾患に関与しており、過剰なコラーゲン繊維の産生で肝線維症や肝硬変にも関与している。
肝細胞における血液、胆汁の流れについて
血液の流れについて
・固有肝動脈から上に向かう
・門脈から総肝管へ向かう
・中心静脈では、下大静脈に向かって下に流れる
胆汁の流れについて
肝細胞で作られた胆汁は
肝細胞 → 毛細胆管 → 小葉間胆管 → 総肝管 の経路で流れる
・肝動脈 → 小葉間動脈
・門脈 → 小葉間静脈
・中心静脈 → 肝静脈
胆道系について
ここからは、胆道系の総論になります。まずは解剖学をみていきます
リンク先
胆嚢壁の構造について
胆嚢壁の構造は腸管壁とは異なっている。
胆嚢壁は粘膜筋板、粘膜下層は欠如している。
これは胆嚢癌の壁深達度の考え方にも重要であり、癌が漿膜側に進展しやすく
直接浸潤や転移がしやすいということである。
以下は、消化器系でもまとめてましたが、改めて胆嚢壁としてまとめていきます
胆嚢は内側から、粘膜層、固有筋層、漿膜下層、漿膜からなっている
胆嚢壁
┣ 粘膜層(M)
┃ ┣ 粘膜上皮
┃ ┗ 粘膜固有層
┃
━╋ Rokitansky-Aschoff洞※ ━
┃(RAS:ロキタンスキーアショフ)
┃
┣ 固有筋層(MP):胆嚢収縮機能
┃
┣ 漿膜下層(SS)
┃
┗ 漿膜(S):肝床(胆嚢床)では欠如
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※ Rokitansky-Aschoff洞:粘膜層が固有筋層側にくぼみができている状態で、固有筋層が薄い。
ここの上皮内癌は、胆嚢壁のどの層にあっても局所進展度はTisとする
胆嚢癌の局所進展度について(T因子)
T因子 | 進展度 |
---|---|
Tis | ・粘膜層(M)の粘膜上皮まで進展 ・RASの粘膜上皮まで進展 |
T1a | 粘膜層(M)の粘膜固有層まで進展 |
T1b | 固有筋層(MP)まで進展 |
T2 | 漿膜下層(SS)まで進展 |
T3a | 漿膜(S)を越えている |
胆嚢の構造、機能について
胆嚢の機能は、胆汁酸を一時的に貯蔵するところである。(※分泌ではないことに注意)
胆汁酸は肝細胞が産生する。
胆汁酸とは、コレステロールの最終代謝産物であり、肝で合成されて毛細胆管中に分泌される。
・胆嚢は、副交感神経刺激とコレシストキニン(CCK)によって胆嚢壁の筋層が収縮されることで、胆汁排泄される
・胆嚢動脈は右肝動脈から分枝している。ただ、まれに固有肝動脈から分枝している場合もある。
・Calot三角(カロー):肝臓下面、総肝管、胆嚢管で構成される三角形であり、右肝動脈から分枝した胆嚢動脈を同定する際の目印となる。
・胆嚢収縮では胆嚢内圧が上昇して胆汁排出をする。
・Oddi括約筋の収縮(十二指腸乳頭周りにある)では、総胆管内圧が上昇し胆嚢への胆汁流入がおこる。
モルヒネはこのOddi括約筋を収縮させる作用があるため
胆道内圧の上昇で、胆道系が急に拡大し、痛みの増悪がみられることがある。
→ つまり、胆嚢、胆管結石の発作疼痛に対しては使用しないこと
迷走神経刺激では、Oddi括約筋は弛緩する
また、十二指腸に食物が到達すると弛緩し、逆に胆嚢は収縮となる
副交感刺激によって胆嚢収縮した場合、胆嚢内結石が流出し、胆嚢管、総胆管等に嵌頓して疼痛発作をきたしうる。
また、結石が嵌頓している部位より上流の、胆道内圧が増加し胆道系が急に拡大して疼痛をきたす。
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胆汁酸、ビリルビンの代謝の流れについて
まずは、ビリルビンの代謝の流れをみていきます
(1)老化赤血球は網内系で ヘモグロビン → ビリベルジン → 間接ビリルビンとなる
(つまり、ビリベルジンというのはビリルビンの材料といえる。ビリルビン高値では尿中にビリベルジンは増加する)
↓
(2)この間接ビリルビンが血中でアルブミンと結合して移動し、肝細胞内に入るときにアルブミンは離脱する
↓
(3)間接ビリルビンが肝細胞内でグルクロン酸抱合を受け、直接ビリルビンとなる
↓
(4)この直接ビリルビンが腸管でグルクロン酸が除去され、ウロビリノーゲンとなる
これは小腸の末端である回腸から再吸収され、門脈を通って肝臓に戻る。
(間接ビリルビンと同様にグルクロン酸抱合を受けて、再度直接ビリルビンとなって循環する。これを腸肝循環という。)
↓
(5)腸肝循環されないものは、ステルコビリンに代謝され、糞便中に排泄される
また、腸肝循環したウロビリノーゲンは腎臓へ至り、尿中にウロビリンとして排泄される流れと
そのまま肝細胞内でグルクロン酸抱合を受けて直接ビリルビンとなるものがある。
次に胆汁酸の生成過程、排泄過程についてみていきます。
これはコレステロールの代謝が関わっているが、以下の流れとなっています
(1)肝細胞内でコレステロールから一次胆汁酸が生合成される
(一次胆汁酸:主にコール酸、ケノデオキシコール酸の2つ)
(→治療薬のウルソデオキシコール酸はこの構造に近く、胆汁の流れをよくする働きを持つ薬である。)
↓
(2)この一次胆汁酸は同じく肝細胞内で抱合を受け(タウリンやグリシンが結合)、胆汁酸塩となるこれが胆汁成分(胆汁酸)である
↓
(3)この胆汁酸(bile acid)は胆管を通り、小腸に分泌されて腸内細菌によって代謝を受け、タウリンやグリシンが離脱し一次胆汁酸へ戻る。
更に代謝が進むことで、二次胆汁酸を生成する。(デオキシコール酸、リトコール酸)
一次胆汁酸や二次胆汁酸は小腸の末端である回腸でほとんど(98~99%)が門脈を通って肝臓に再吸収される。(腸肝循環)
↓
(4)残り1,2%ほどの再吸収されない一次胆汁酸、二次胆汁酸は糞便中に排泄されることとなる
胆汁の組成と作用について
胆汁組成 | 作用 |
---|---|
胆汁酸 | 強い界面活性作用を持ち、脂質の乳化、ミセルの形成で、TG、脂溶性ビタミン、コレステロールの消化吸収が促進される |
胆汁色素(直接ビリルビン) コレステロール リン脂質 など | ビリルビンやコレステロール、薬物等の排出 |
胆汁うっ滞について
胆汁うっ滞とはつまり閉塞性黄疸であり、これによって脂質の吸収障害がおこる
吸収が阻害される栄養としては、脂質、脂溶性ビタミン類(VA、VE、VK等)などがある
この閉塞性黄疸では、十二指腸にビリルビンが排泄されず、血中ウロビリノーゲンが減り、尿中排泄も低下する。
このため、便の色は灰白色を呈する特徴がある。
胆汁酸下痢について
急性虫垂炎などで終末回腸を含む回盲部切除術をした患者では、胆汁酸下痢を生じることがある(異常は水様便のみ)
これは、下部消化管内視鏡検査でも異常は認められない
・終末回腸を含む回盲部切除から、VB12や胆汁酸の吸収障害は想起できるようにしておくこと。
このため、悪性貧血についても起こりうる。
・胆汁酸は腸肝循環によって再吸収されるが、この再吸収が不完全であれば一部は大腸に流れ込み、脱水素胆汁酸(二次胆汁酸)となって水分吸収を抑制し下痢症状を引き起こす。
→ これを利用した便秘薬(胆汁酸再吸収阻害薬)もあります(グーフィス®)
黄疸症状について
・黄疸症状の一つは眼球の黄染である。これは早期から認められることから、しっかり視診すること
・検査値では、総ビリルビンが2.0mg/dL以上であれば視診確認可能となると考えらえる
・血清ビリルビンが2.0~3.0mg/dL以上となることで、ビリルビンに親和性の高い弾性線維に結合し、肉眼的に眼球結膜や皮膚黄染がみられるようになる。これを顕性黄疸という。
(血清ビリルビンの適正値は1.0mg/dL以下)
・閉塞性黄疸では、胆汁中に排泄されるべき胆汁酸塩や胆汁酸などが血中で上昇する。
これが、末梢神経を刺激するため皮膚掻痒感を生じる原因の一つとなっている。
→ 肝障害等によっておこる皮膚掻痒感に対する治療薬ではナルフラフィンがある。
機序:中枢や末梢にあり、痒みに深くかかわるといわれるオピオイドκ(カッパー)受容体に作用して鎮痒作用をっしめす。
これは、抗ヒスが効きにくい例で用いられる。
(モルヒネにはオピオイドμ(ミュー)、δ(デルタ)、k(カッパー)の刺激があるが、このオピオイドk受容体への作用が副作用の掻痒感に繋がっている)
詳しい薬理については機会があればまとめます。
黄疸の鑑別について
黄疸には、直接ビリルビンが高値を示すもの、間接ビリルビンが高値を示すものがある。
以下には、その鑑別方法についてまとめてあります。
ちなみに、直接ビリルビンが高いものは掻痒感がみられます
黄疸がみられれば閉塞性黄疸なのか肝実質性黄疸なのかを判断すること。
黄疸
┃
直接ビリルビン高値では
腹部エコーを行う
┃
┣ 胆管拡張あり
┃ ┗ ① 閉塞性黄疸
┃
胆管拡張なし
┣ AST,ALT高値
┃ ┗ ② 肝細胞性黄疸
┃
┣ 胆道系の酵素高値
┃ ┗ ③ 肝内胆汁うっ滞
┃
┗ AST,ALT,胆道系酵素は正常
┗ ④ 体質性黄疸
<考えられる疾患>
①閉塞性黄疸:膵頭部癌、胆管癌、胆石症などで胆管の閉塞
②肝細胞性黄疸:ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、薬剤性肝障害
③肝内胆汁うっ滞:原発性胆汁性胆管炎(PBC)※、薬剤性肝障害
④Dubin-Johnson症候群(デュビンジョンソン)、Rotor症候群(ローター)
※ 原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)(PBC) :原因は不明であり、肝内のかなり細い胆管が壊れる疾患である。
PBCではIgM高値、自己抗体である抗ミトコンドリア抗体(AMA)が高値となる。
症状としては肝障害に準ずる。
治療:ウルソデオキシコール酸では胆汁の流れをよくするために投与。痒みにはナルフラフィンなど
<参考>
原発性胆汁性胆管炎(指定難病93) – 難病情報センター (nanbyou.or.jp)(閲覧:2021.9.29)
黄疸
┃
間接ビリルビン高値
┃
┣ 溶血なし ⑤ 体質性黄疸
┃
┗ 溶血あり ⑥ 溶血性黄疸
<考えられる疾患>
⑤体質性黄疸:Gilbert症候群等
⑥溶血性黄疸:自己免疫性溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症
血清ビリルビンが上昇する要因について
・胆汁への分泌障害(閉塞性を含む)が最も多い要因
・赤血球中のヘモグロビン分解の増加によるもの:溶血、無効造血
・肝臓への取り込み阻害、抱合障害、排泄障害
リンク先
Gilbert症候群について(ジルベール)
・Gilbert症候群は、肝細胞でのUDPGT活性低下が主な原因である。(遺伝性疾患)
・肝機能、肝組織像、形態学的には正常である。(体質性黄疸)
これにより、間接ビリルビンが軽度に増えるが、肝機能検査では異常を示すほどではなく、ICG検査も正常となる。
このため、核黄疸※リスクは無いと言える
リンク先
※核黄疸(ビリルビン脳症):大脳基底核および脳幹核への非抱合型ビリルビンの沈着による脳の損傷のことである
Gilbert症候群は症状は特にないが、肝疾患と誤診されることもある。これは治療不要の経過観察でよい。
・低カロリー食試験で血清ビリルビン値が上昇するものはGilbert症候群の診断が可能といえる。
間接ビリルビン優位の黄疸で、溶血所見は無く、肝機能正常であれば体質性黄疸を考慮し
低カロリー試験で血清ビリルビンが上昇すればGilbert症候群の診断が可能となる。
リンク先
・ICG検査:異常値を示す疾患ではRotor症候群(ローター)がある。
ローター症候群:比較的良性であり、常染色体劣性遺伝の抱合型ビリルビン高値を示す疾患である。
これは、肝細胞に色素沈着は無い。
似た疾患として、Dubin-Johnson症候群(デュビンジョンソン)があるが、これも抱合型ビリルビン高値を示す。
ローター症候群との違いは、デュビン・ジョンソン症候群では肝細胞に色素沈着がみられるという点が挙げられる。
リンク先
ICG15分値 | 考えられる状態 |
---|---|
10%以下 | 正常 |
10~20% | 慢性肝炎 |
25%以上 | 肝硬変(ICGが25%以下でもおこりうる) |
50%以上 | 肝硬変非代償期(危険な状態である) Rotor症候群 体質性ICG排泄異常症(これは予後良好である) |
80%以上 | 重篤な肝不全状態 (黄疸や腹水をきたしている) |
・Crigler-Najjar症候群(クリグラーナジャー)では出生直後から黄疸をきたす体質性黄疸である。タイプは二つある。
症状は筋緊張低下、傾眠傾向、後弓反張、落陽現象、緩慢なMoro反射(モロー)※1、甲高い泣き声、けいれんなどである。
慢性化では筋緊張亢進、アテトーゼ※2、感音性難聴なども見られてくる。
・頻度はかなりまれであり、1000万人に1人ほど、Ⅱ型でも100万人に1人ほどである。
※1 Moro反射:生後すぐから4か月後くらいまでに見られて、自然に備わっている原始反射の一つ。
音や光などの刺激に対して驚いたときに、手足がビクッと痙攣し両腕を挙げる反射動作の事である。
個人差はありますが、これがあまり見られないようであれば、核黄疸の兆候の可能性があります。
※2 アテトーゼ:一般的に手と足にみられるゆっくり流れるようにうねる連続的な不随意運動をいう。
似たものとして、舞踏運動、ヘミバリスムがあります。舞踏運動と併発することもある。
・舞踏運動:不規則に繰り返される短くやや速い不随意運動をいう。
舞踏運動では、顔面、口、体幹、四肢に異常がみられるのが典型的である。
不随意運動の部位は次々と移動する。
・ヘミバリスム:舞踏運動の一種であり、動きは舞踏運動よりも激しいものである。
片腕または片脚を投げ出すような激しい不随意運動をいう。
体質性黄疸の分類について
今までの体質性黄疸について表にまとめたものとなります
間接ビリルビンが上昇する疾患について
項目 | Crigler-Najjar症候群 Ⅰ型 | Crigler-Najjar症候群 Ⅱ型 | Gilbert症候群 |
---|---|---|---|
発症頻度 | 千万人に一人 | 百万人に一人 | 2~7% |
発症時期 | 出生直後 | 新生児~乳幼児 | 思春期以降 |
治療 | ・肝移植 ・光線療法 ・血漿交換 | ・光線療法 ・血漿交換 | 治療不要 |
予後 | 無治療では核黄疸を起こすため、2,3歳で死亡 | 良好 | 良好 |
特記事項 | UGT(グルクロン酸抱合酵素)活性が完全に欠損している | UGT活性はおよそ10%残存 | ・48時間低カロリー試験でビリルビン値が2倍ほど上昇 ・UGT活性はおよそ30%は残存 |
直接ビリルビンが上昇する疾患について
項目 | Dubin-Johnson症候群 | Rotor症候群 |
---|---|---|
発症頻度 | 稀である | 稀である |
発症時期 | 全年齢(小児が多い) | 全年齢(小児が多い) |
治療 | 経過観察(不要) | 経過観察(不要) |
予後 | 良好 | 良好 |
特記事項 | ・黒色肝(肉眼的に) ・粗大褐色顆粒 (組織学的に肝細胞内に) ・BSP試験※1で再上昇現象あり | ・ICG試験※2で異常高値 ・尿中コプロポルフィリン上昇 |
以下は色素排泄試験である
※1 BSP試験:検査薬のブロムサルファレン(BSP)を静注する。
これが、健常人ではBSPが速やかに肝臓から胆汁に排泄されるため、その血液中からの排泄速度によって肝機能の一部が測定できるという試験である。
具体的な検査値は
投与量は、BSPを5mg/kgとし30分後の血清中に5%以上含まれているものを肝障害と判定
副作用として、局所発赤やアレルギー、ショックのリスクも割とあり、今ではICG試験が増えてきている。
※2 ICG試験:検査薬のインドシアニングリーン(ICG)を静注し、 健常人ではICGが速やかに肝臓から胆汁に排泄されるため、その血液中からの排泄速度によって肝機能の一部が測定できるという試験である。
静注15分後に採血し血中ICGがどのくらい排出されたかを確認することで、肝臓の解毒能力を測る。
検査12時間前には飲食禁止(水、お茶はOK)
注意)少量のヨウ素を含むため、ヨード過敏症は禁忌となる。ICGであってもBSP同様に副作用リスクはある。
リンク先
閉塞性黄疸について
閉塞性黄疸では、膵癌、胆管癌、胆石症などで胆管閉塞が起こり十二指腸に胆汁(ビリルビン)が流出しないことで黄疸を生じる疾患である
・下部胆管の狭窄があれば、まずは減黄処置が必要なため、内視鏡的経鼻胆管ドレナージを行う。
(ドレーン場所のまとめについてはこちら参照ください)
その次に、内視鏡的胆管拡張術をとってよい。
画像所見(CT例)
(1)門脈に併走して帯状の低吸収域を認める。 → 胆管拡張の所見
(2)拡張した総胆管、下部胆管内腔に突出する不整な軟部影を認める。
→ 胆管癌による閉塞性
黄疸を疑う所見といえる
・ERCP( 内視鏡的逆行性胆道膵管造影)で調べ、胆管狭窄の他、不整狭窄があれば胆管癌も疑う。
また、膵管が造影不良もみられれば膵管癌、自己免疫性膵炎によって胆管狭窄となっていることも考えられる。
・閉塞性黄疸において、検査値のCEA高値に比べてCA19-9が異常に高値となることがある。
<参考>
ERCP | 東京大学医学部附属病院消化器内科 胆膵グループ (todai-tansui.com)(閲覧:2021.9.29)
<考え得る症候について>
・皮膚掻痒感:胆汁酸の皮膚への蓄積によるもの
・眼球結膜黄染:総ビリルビンが2~3mg/dL以上で認められてくる
・濃褐色尿:尿中ビリルビンの上昇によるもの
・灰白色便:腸管に胆汁が流出しないことによる
肝細胞でコレステロールから胆汁となり胆汁酸を生成され、胆管を経て腸管内に排出される。
・そのため、胆汁うっ滞では血中胆汁酸は上昇する。
(長期に及ぶ肝障害では血中のアルブミンは低下する)
・胆管が閉塞していれば、ビリルビンが腸に分泌されないためウロビリノゲンは生成されない、そのため尿中ウロビリノゲンは陰性を示す
・血中トランスサイレチン(TTR)はほとんど肝で合成されるため、肝障害があれば低下する
便の種類について
種類 | 原因 |
---|---|
灰白色便 | 慢性膵炎、閉塞性黄疸、ガストリノーマ※など |
赤色便 | Treitz靱帯から肛門側の出血などによる |
黒色便 | Treitz靱帯から口側の出血、鉄剤内服などによる |
緑色便 | ビリルビン過剰(葉緑素を含む植物の過剰摂取等) ビリルビン還元障害(高度下痢等) |
※ガストリノーマ:ガストリン産生腫瘍のことで、膵臓や十二指腸壁に発生する。
胃酸の過剰分泌とそれに続発して難治性の消化性潰瘍(Zollinger-Ellison症候群)を生じる。
溶血性黄疸について
・溶血性黄疸では、尿中ウロビリノゲンが強陽性を示す。
これには、溶血によって間接ビリルビンが血中に増えてきて、これが肝での抱合により直接ビリルビンとなる。
そして、腸管で代謝されることでウロビリノゲンとなって、便や尿で排泄される流れである。
そのためビリルビンの排泄障害がない溶血性黄疸では、尿中ウロビリノゲンが上昇に至る。
自己免疫性溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血とは、自己の赤血球に対する抗体(自己抗体)が産生され溶血する疾患のこと
・また、血液型不適合妊娠による新生児溶血性疾患では、母親が産生する抗赤血球抗体(血液型抗体)が胎盤を通過し、胎児の赤血球を破壊するために引き起こされる疾患である。
・自己免疫性溶血性貧血の診断にはCoombs試験(クームス)というのがある。
・このクームス試験は薬剤誘発性免疫性溶血性貧血などの診断にも利用される試験法である
クームス試験には直接と間接がある
・直接Coombs試験:生体内ですでに赤血球と結合している不完全抗体を検出する方法である。
[抗体-赤血球]の状態では、不完全抗体となります。
陽性では、血液型不適合妊娠(新生児溶血性疾患)、自己免疫性溶血性貧血、薬物誘発性免疫性溶血性貧血、輸血による副作用などが診断されます。
・間接Coombs試験:間接抗グロブリン試験ともいう。血漿中の赤血球に対するIgG抗体を検出するために用いるものです。
クームス血清(ヒト抗IgG抗体:ヒトIgGに対する抗体のこと)を添加し、凝集が生じれば赤血球に対するIgG抗体(自己抗体または同種抗体)が存在するということになる。
<参考>
coombs試験 病名 | シスメックスプライマリケア (sysmex.co.jp)(閲覧:2021.9.30)
Figure: 間接抗グロブリン試験(間接クームス試験) - MSDマニュアル プロフェッショナル版 (msdmanuals.com) (閲覧:2021.9.30)
膵臓 総論
膵液分泌ホルモンは主にセクレチンとCCKである。酵素まとめについてはこちらを参照(消化器編⑧)してください。
膵周辺のホルモン | 機能 |
---|---|
セクレチン | ・胃酸分泌抑制 ・膵液中の水および重炭酸イオン(HCO3-)の分泌をする |
コレシストキニン(CCK) | 膵酵素分泌作用 |
グルカゴン | ・膵液分泌を抑制 ・インスリン分泌促進 ・血糖値上昇作用 ・インスリンとともに血糖値コントロール作用あり |
ソマトスタチン | ・胃酸分泌 ・ガストリン、セクレチンの分泌抑制作用 ・インスリン、グルカゴンの分泌抑制 |
コレシストキニン | 胆嚢収縮作用 |
インスリン | ・血糖値を下げるペプチドホルモン。 ・グルコースに反応してインスリンは分泌され、筋肉や脂肪細胞ではグルコース輸送担体(GLUT4)を介しグルコース取り込みを行う。 (その後、グルコースは肝臓や筋肉でグリコーゲンとして貯蔵される) |
膵ペプチド(PP:pancreatic polypeptide) | 膵臓のF細胞から分泌されるものだが、働きは未だ不明である |
膵臓ランゲルハンス島について(Langerhans島、ラ氏島)
膵島はほとんどが外分泌腺組織(腺房、腺管等)からなっており、内分泌細胞が集簇して島状に見えるものである。
1型糖尿病は多くが自己免疫性(95%)で、膵島へのリンパ球浸潤を認め、ランゲルハンス島のβ細胞が破壊される疾患である。
これは、一般的に進行性であり経口薬ではなくインスリン注射での治療が必須である。
一方、2型糖尿病では自己免疫はほとんど関係していない。
治療は主に経口薬である(DM薬)。インスリン注射は重度の2型糖尿病患者では用いることがある。
1型糖尿病にも種類はある、次の項目を参照してみてください。
<参考文献>
・科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013:編集 日本糖尿病学会
・日本糖尿病学会編・著、糖尿病治療ガイド2016-2017、 文光堂(2016)
尚、細胞の種類と機能については以下の通りです。
膵臓ランゲルハンス島の細胞構成について
細胞の種類 | 機能 |
---|---|
α細胞 | グルカゴン産生が15% |
β細胞 | インスリン産生が60% |
δ細胞 | ソマトスタチン産生が10% |
PP細胞(pancreatic polypeptide) | 膵ペプチド(PP)の産生が15% |
その他
膵島細胞の腫瘍である、インスリノーマ※の頻度は高い。
※ インスリノーマ:膵β細胞由来で稀な腫瘍である。主症状は空腹時低血糖。
発症は中央値が50歳ほど
治療は膵β細胞の特定ができれば根治手術も可能
内服薬ではインスリン分泌を抑制する薬剤を用いる
(ジアゾキシド、オクトレオチド、カルシウム拮抗薬、β遮断薬、フェニトイン等)
インスリノーマの10%では例外の多発性内分泌腫瘍症(MEN-1型)であることがある。
これは20歳前後の若年発症。
<参考>
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN 1) - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 (msdmanuals.com)(閲覧:2021.10.1)
1型糖尿病の分類について
これは1型糖尿病の進行速度によって分類されています
1型糖尿病の種類 | |
---|---|
劇症1型糖尿病 | ・もっとも急激であり、1週間ほどでインスリンが分泌されなくなる状態です。 ・糖尿病性ケトアシドーシス※のリスクがある。 ・採血による自己抗体は検出されないことが多い ・急激なためHbA1c(1~3カ月の血糖値を反映するもの)は低いことが多い。 |
急性発症1型糖尿病 | ・1型糖尿病では最も頻度が多いものです。 ・糖尿病症状が出てから数カ月ほどでインスリン依存状態となります。 ・発症しても体内に残っていたインスリンが一時的に作用して改善することがある(ハネムーン期という)が、結局は治療が必要です。 ・採血で自己抗体は検出されることが多い。 |
緩徐進行1型糖尿病 | ・半年から数年かけて徐々に進行していくタイプです。 ・最初は経口薬での治療をしているが、途中で採血により自己抗体が検出されるため治療方針を切り替える必要があります。 ・このタイプでは最初は経口投与するが、経口薬は膵臓に負担がかかる事から、気づいた時点で早期にインスリン注射に切り替えること。 |
リンク先
PFD試験について(BT-PABA試験)
PFD試験について
①検査薬のBT-PABA(N-ベンゾイル-L-チロシル-p-アミノ安息香酸)を経口投与
②膵臓のキモトリプシンによって加水分解されてPABA( p-アミノ安息香酸 )が遊離
③小腸で吸収、肝臓でグリシン抱合を受けて尿中排泄される
④この尿中PABA排泄率を測定(基準値:70%以上)することで、膵キモトリプシン活性を間接的に測定できる。
そのため、膵外分泌機能異常を調べられる。
分解されなかったBT-PABAは便中排泄される。
・肝硬変等の肝機能障害(抱合に障害)、吸収不良症候群、脂肪性下痢、慢性膵炎では、膵外分泌機能が低下するため、BT-PABA試験で確認できる。
・このほか、慢性腎不全では排尿が減っているため、異常値を示す。
・Crohn病では、腸管吸収が不十分となり、これも異常値を示す可能性はある
リンク先
自己免疫性膵炎について
・原因はIgG4関連疾患の一つである。
膵臓の症状は膵腫大、膵管狭細像が挙げられる。
症状は多彩であり膵臓以外にも症状を呈する。以下にまとめておきます。
硬化性胆管炎 |
リンパ節腫大 |
唾液腺腫大 |
後腹膜線維症 |
など
ここで肝疾患編①が終わりになります
引き続き、肝疾患編が続きます →次に進む
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.1 肝・胆・膵
ビジュアルブック 消化器疾患
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
できる限り正確な情報発信に努めておりますが、当サイトに記載した情報を元に生じたあらゆる損害に対しては当サイトは一切責任を負いませんので、あくまでも参考としてご利用ください。)