(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
消化管出血のまとめ
上部消化管出血:トレイツ靭帯より口側の出血をいう。
所見:黒色便、貧血
消化管出血全体の7、8割を占め、上部消化管出血の中でも、6割が胃・十二指腸潰瘍を占める。
下部消化管出血:肛門側寄りの出血をいう。消化管出血全体の2、3割を占める。
出血性腸炎、MRSA腸炎等については消化器編⑦へ
前回のMallory-Weiss症候群(消化器編②参照)との鑑別が必要なBoerhaave(ブールハーフェ)症候群(特発性食道破裂)がある。
(Boerhaave症候群は緊急手術で閉鎖縫合が必要)
Boerhaave症候群には、Mallory-Weiss症候群+胸背部痛、呼吸困難、ショック症状、皮下気腫、発熱などがみられる。
(縦隔内限局型、胸腔内穿破型があり、気胸は胸腔内穿破型になる)
この場合は、胸部X線、CTで縦隔気腫(V-sign)、皮下気腫や胸水(混濁性)の有無を確認する。
その他、胃・十二指腸潰瘍穿孔、膵炎なども鑑別として必要。
早期診断で抗生剤、栄養管理ができれば死亡率は10%前後に改善された疾患である。
(高齢者の栄養管理についてはこちらを参照してください)
言葉の定義
・Mallory-Weiss症候群の粘膜下層までの裂創(EGJ:食道胃接合部 付近)
(胃の構成:粘膜→粘膜筋板→粘膜下層→固有筋層→外膜・漿膜)
・特発性食道破裂は食道壁全層に及ぶ。
つまり、上記の構成でいう外膜・漿膜も突き破っていることを「破裂」という。
リンク先
Budd-Chiari症候群について(バッド・キアリ)(指定難病:91)
・肝外性門脈圧亢進症の一つ。
合併症として、食道と胃に静脈瘤が起こることがあるが、破裂の危険性は無い。
しかし、red color signでは破裂しやすいため、予防として硬化療法などを行う。
・青色静脈瘤(Cb)は破裂する頻度は高い。
対して、白色静脈瘤(Cw)は頻度は低い。
・出血例やその既往がある静脈瘤
→ 内視鏡的治療は絶対的適応
(静脈瘤の形態がF2以上、またはF因子に関係なく発赤の所見(RC)がある静脈瘤)
薬物治療:門脈圧を下げるにはβ遮断、亜硝酸薬を用いることもある。(破裂リスクが低い場合)
まとめ
・肝障害、肝炎(輸血などでもおこる)→ 肝硬変 → 門脈圧亢進(⑦に詳細)
→ 食道・胃静脈瘤(左胃の静脈を供血路としている)・脾腫 → 出血
→ 治療:内視鏡的結紮術
・食道静脈瘤 → 出血 → 出血性ショック → 救命処置として急速輸液・輸血などを行う。
→ 循環器・呼吸器系が安定したらバソプレシン静脈内投与で門脈圧の減圧
(腸管細動脈の収縮による)
※心筋虚血や腸管虚血予防のため、ニトログリセリンを併用する
・緊急内視鏡ができない場合
S-B tube(バルーン)の経鼻的挿入による圧迫止血(圧は30mmHg以下)
・胃底部静脈瘤出血では、ストマックバルーンチューブを用いる
圧迫止血し、12~24時間後、バルーンの減圧で、再出血がなければ除去する
リンク先
・胃噴門周囲の静脈瘤(Lg-c)
→ 内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)または内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)
EIS:効果の持続性がある → 一般的な方法であり、EVLとの併用が多い
EVL:手技の簡便さがある → 緊急時には第一選択
・EIS抵抗例 → BRTO(バルーン下逆行性経静脈塞栓術)も行われる。
胃-腎シャントを有するものには第一選択とすることも多い。
左腎静脈に合流する腎-胃シャントの流出路をバルーンで閉塞し、硬化剤を注入して静脈瘤を血栓化させる。
また、BRTOは高度肝硬変例では、食道静脈瘤の新生や難治性腹水が出現することもあるため、検討が必要。
噴門部に限局していない静脈瘤
(Lg-f:穹窿部に孤立しているもの、Lg-cf:噴門部から穹窿部に連続しているもの)
では腎静脈系短絡路を流出路とすることが多いことから、BRTOが適応となる。
リンク先
門脈圧亢進による影響について
肝硬変などによって門脈圧が亢進し
門脈系と大静脈系の間に側副血行路が形成されて
食道・胃粘膜下層の静脈が怒張する
(1)肝性脳症
肝血流低下 → 解毒作用↓ → NH3↑ → 羽ばたき振戦など
(2)腹壁皮下静脈怒張
胎生期血管の臍傍静脈が再開通 → 腹壁皮下静脈
→ 下大静脈 → 門脈圧亢進で大量の血液が流れ、腹壁皮下静脈の怒張(肝硬変でも見られる)
(3)肝硬変
臍部から放射状に広がる(メデューサの頭)
肝後性のBudd-Chiari症候群では腹壁を上行性に蛇行する。
・肝前性ではみられない。
※静脈性雑音(venous hum:ビーナスハム)が聴こえるというCruveilhier-Baumgarten(クルベイユ-バウムガルテン)症候群がおこる。
(4)食道・胃静脈瘤
左胃静脈への血液の逆流や、短胃静脈からの流入増加で生じる。
(5)貧血、出血、易感染性傾向
脾臓に血液が溜まり脾腫を生じ、脾機能は亢進して汎血球減少がみられる。
(6)腹水
類洞圧の上昇でリンパ液漏出や、低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下などで生じる。
(7)直腸静脈瘤
上直腸静脈が逆流し、静脈叢に大量の血液が流れることで生じる。
(8)検査値所見
ICG15分停滞率※は肝機能が悪化するほど上昇する。
※ ICG15分停滞率とは、ICG(インドシアニングリーン)を注射してから15分後に血中に残っているICGの割合を調べるもの。
肝機能低下により、取り込みが低下することから、血中濃度は上がることで判断できる。
(正常時は90%は肝に取り込まれる)
腹水について
・癌性の腹水は滲出性腹水であり、利尿剤は効きにくい。また、癌細胞や血液細胞がみられることから、血性で濁っている。
・癌性であれば、腹水腫瘍マーカーの測定もよい
・タンパクの多い滲出液とは、蛋白4g/dL以上、比重1.018以上、Rivalta反応陽性ということが多い。
以下は、漏出性腹水と滲出性腹水の違いについてまとめました
この基準は胸水であっても共通事項となります。
リンク先
項目 | 漏出性 | 滲出性 |
---|---|---|
外観 | 透明、黄褐色 | 混濁、血性で膿性、乳び性 |
比重 | < 1.015 | > 1.018 |
タンパク濃度 | < 2.5g/dL | > 4.0g/dL |
血清・腹水アルブミン濃度差(SAAG) | > 1.1g/dL | < 1.1g/dL |
Rivalta反応※1 | 陰性 | 陽性 |
腹水LD/血清LD比※2 | < 0.6 | > 0.6 |
フィブリン析出・細胞成分 | 少・少 | 多・多(多核白血球、リンパ球) |
原因 | 門脈圧亢進、血漿膠質浸透圧低下(低アルブミン血症)、腎糸球体ろ過量の低下、下大動脈圧の上昇 | 炎症や腫瘍による血管透過性亢進 |
※1 Rivalta反応(リバルタ):滲出液と漏出液を鑑別するための穿刺液試験である。滲出液であれば陽性である。
詳細については
(参考:Rivalta反応の標準化 (検査と技術 18巻6号) | 医書.jp (isho.jp) (閲覧:2021.8.31) )
※2 腹水LD/血清LD比 :LDとは乳酸デヒドロゲナーゼのことであり、あらゆる組織に広く分布し、細胞の可溶性画分に存在しています。
このLD(LDH)活性が血清中に増加するというのは、いずれかの臓器で組織の損傷があり、これが血清に逸脱していることを意味しています。
滲出液では ≧ 200U/L 、漏出液では < 200U/L となっている。
考えられる疾患について 腹水/血清比が ≧ 1.0 であれば、感染性、癌性腹水、癌性腹水アイソザイムLD4、LD5高値。
詳細については
(参考:体腔液検査の基礎 (jpn.org)(閲覧:2021.8.31)LD (LDH) IFCC | SRL総合検査案内 (閲覧:2021.8.31) )
食道疾患や、食道癌、食道憩室の分類について内容をまとめたものです
リンク先
食道アカラシアの手術について
食道アカラシアの手術治療は腹腔鏡手術のHeller-Dor法(ヘラードール)がある。
(疾患についてはこちら)
これは、下部食道噴門部の手術である。
経口内視鏡治療(POEM)を行うこともある。
※Heller-Dor法(ヘラードール)
肥厚した腹部食道と胃噴門部の筋層を
切開して下部食道括約部の圧を低下させる方法をHeller法といい
術後の逆流性食道炎を予防するために胃を食道に巻きつける噴門形成をDor法という。
この一連の手術法をヘラードール法という。
食道癌:ルゴール塗布後の内視鏡
→ 染色されている所は正常部であり、不染部位(白色部位)は癌や異形成と考えられる。
(癌領域ではグリコーゲンが減っているため、ヨード反応が起こり難い)
生検は白色部分のみ行うこと。(他は正常細胞であり、禁忌です)
・好発部位、疫学:胸部中部食道に好発、飲酒、喫煙歴のある60歳~70歳以上の男性に多い。
初期症状はほとんど無症状だが、わずかに嚥下時にしみる感じがある。
検査:ヨードを用いた色素内視鏡検査やNBI(狭帯域光観察)併用拡大内視鏡、必要時生検
症状聴取からの考え方
(1)嗄声がみられる → 反回神経麻痺症状 → 気管や反回神経への転移浸潤を考慮
→ CT検査
(2)咳嗽や呼吸困難がみられる → 気道の圧迫の可能性 → 食道がんによる浸潤か?
→ 狭窄が高度であれば気管支鏡下でステント留置術で気道確保する
→ 食道狭窄があれば経口摂取困難であり、栄養管理が重要である
→ 流動食、高カロリー輸液(IVH)や胃瘻など
(高齢者の栄養管理についてはこちらを参照してください)
(3)食道亜全摘術後の再建臓器として適しているもの
→ 頚部までの食道再建が必要であり、第一選択は胃となる。
(※空腸での再建が多くなる下部食道切除では適応が異なる手術である)
(4)再建術としては一般的に、胸骨後や後縦隔経路となる。
胸壁前経路は、再建臓器の壊死や縫合不全があった場合の処置が容易なため、ハイリスク患者では適応となる。
(5)食道には漿膜が無く、胃がんに比べて転移しやすいといえる。
多いのは、下行大動脈、気管、肺、心臓(左房側が多い)の順となっている。
(左心房の近くである肺静脈にも見られることがある。)
進行食道癌の切除対処について
原発巣を含めた切除というのは
遠隔リンパ節の転移が無く、他臓器への転移を認めないものが手術適応となる。
このため、所属リンパ節までの転移であれば局所に留まっていることが多く、この場合は切除適応となる。
他の臓器の転移がみられたり、切除困難な重要な臓器に転移例では切除は一般的に行わない。
・食道粘膜は粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板の3層からなっており
粘膜筋板に浸潤していない場合は、リンパ節転移はほぼないと考えられています。
→ このため、内視鏡治療(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)の絶対適応となる。
→ 切除可能な早期癌ではESDの適応が多くなってきている。
・粘膜筋板に達している場合は10%ほどのリンパ節転移が認められ、切除後の追加治療を検討する必要がある。
・上部から中部食道の食道癌手術では、術後に嗄声の合併症を生じることがある。
下部食道に生じるアカラシアなどの治療では嗄声は起こらない。
切除不能例
薬物治療:化学療法として
5-FU + シスプラチンなど を投与。
また、放射線療法がある
一般的な悪性度の順について
(悪性度 大) ← 食道癌、胃癌、大腸癌 → (悪性度 小)
(上記の理由より、大腸癌で転移がある血行性転移例でも合併切除することはある。)
食道憩室の分類について
・圧出性憩室(仮性憩室)
┣Zenker(ツェンカー)憩室
┃┗ 食道内圧の亢進が原因
┃ ┗ 咽頭食道移行部食道筋層の
┃ 抵抗減弱部に発生(Laimer三角)
┗横隔膜上憩室
┗ 食道内圧の亢進 が原因
┗ 横隔膜上の抵抗減弱部に発生
特徴:高齢男性に多い、手術適応あり
・牽引性憩室(真性憩室)
┗ Rokitansky(ロキタンスキー)憩室
┗ 外部との癒着が原因
┗ 気管分岐部に発生
特徴:食道憩室の中で最も多い、結核性リンパ節炎などの瘢痕治癒によることが多い、手術適応は無し
内ヘルニア・外ヘルニアについて
・内ヘルニアとは、腹腔内の間隙(孔)に陥入するものをいう。外見では診断不可である。
全体のおよそ5%と稀な疾患群である。
・外ヘルニアとは、腹腔内臓器がヘルニア嚢に包まれたまま、腹腔外である皮下に脱出するものをいう。
ヘルニアのほとんど(95%)がこれに該当する。
内ヘルニアについて
・中年以降の高齢男性に多いとされる。
直接型鼠径ヘルニアともいわれ、Hesselbach三角(ヘッセルバッハ:下腹壁動静脈の内側)をヘルニア門とする。
・内外鼠径ヘルニアの合併型もある。
他について
・食道裂孔ヘルニア
・網嚢孔ヘルニア
・横隔膜ヘルニア:先天性のもので、胸骨後裂孔のものはMorgagni孔ヘルニア(モルガーニ)という。
重篤性は低く、嵌頓リスクも低い。
・傍十二指腸ヘルニア
・横行結腸間膜ヘルニア
・盲腸窩ヘルニア
・S状結腸間膜ヘルニア
などがある
<参考>
内ヘルニア|電子コンテンツ|日本医事新報社 (jmedj.co.jp)(閲覧:2021.9.16)
外ヘルニアについて
まずは、それぞれの割合についてです。
・鼠径ヘルニア:外ヘルニアのおよそ80~90%を占める。幼児、成人に多く若年発症のほとんどを占める。
これは、間接型鼠径ヘルニアともいわれ、鼠径管後壁をヘルニア門として鼠径靱帯より腹側にヘルニア嚢がある。
残りは
・大腿ヘルニア:中年以降の女性に多い。
・臍ヘルニア:新生児や小児に多い。ほとんどは1歳ころまでに自然治癒する。高度肥満患者でもみられることあり。成人例では、嵌頓しやすいため原則手術となる。
・閉鎖孔ヘルニア: 高齢女性、やせ型に多い 。大腿ヘルニアとの鑑別が重要。嵌頓を起こしやすい。
などが続いている。
このうち
・大腿ヘルニアの20%、臍ヘルニアの20%、鼠径ヘルニアの4%で嵌頓がみられる。
・閉鎖孔ヘルニア(骨盤ヘルニアの一つ)は体表から触れることは難しいとされるが、大腿内側から触れることもあり、外ヘルニアに分類されている。
他には
・正中腹壁(白線)ヘルニア
・腹壁瘢痕ヘルニア:腹壁の手術創(瘢痕部)が癒合しないで皮下に腸管が脱出するもの。嵌頓は少ない。CT所見で確定診断。
などがある
<参考>
鼠径ヘルニアとは|国立国際医療研究センター病院 (ncgm.go.jp) (閲覧:2021.9.16)
★このほか、腸間膜の解剖についてはしっかり画像で確認するようにしてください。
矢状面、冠状面、横断面の臓器の位置関係の理解が大事です。
(ここでは現在、画像公開はできませんので、各自確認しておいてください。)
ヘルニアとヘルニア門について
ヘルニアは原則、ヘルニア門、ヘルニア嚢、ヘルニア内容、ヘルニア被膜を有する。
ヘルニア嚢は脱出する壁側腹膜であり、肥厚や癒着などの二次的変化をきたしうる。
ヘルニアの種類 | ヘルニア門 |
---|---|
臍ヘルニア | 臍輪部 |
大腿ヘルニア | 大腿輪 |
内鼠径ヘルニア | 内側鼠径窩(鼠径三角)※ |
外鼠径ヘルニア | 外側鼠径窩(内鼠径輪)※ |
閉鎖孔ヘルニア | 閉鎖孔 |
※ 内側鼠径窩 と外側鼠径窩は、下腹壁動静脈で区分される。
※外鼠径ヘルニアの方が内鼠径ヘルニアより頻度は高い。
(小児例のほとんど、成人例は70%占めている)
また、ヘルニア嵌頓を起こすのは外鼠径ヘルニアである。
リンク先
鼠径ヘルニアについて
・典型的な所見として、歩行によって右鼠径部が半球状に膨隆し、臥位により症状が軽快する。
(右鼠径ヘルニア)
・鼠径ヘルニアは大腿ヘルニアと誤診をしやすいので注意が必要(以下の項目で後述あり→)
(違いとしては、鼠径ヘルニアは、鼠径靱帯の上に発生するものであり、大腿ヘルニアは、鼠径靱帯の下に発生する。)
・症状は、腹痛、右下腹部に違和感があり、この段階では虫垂炎や憩室炎、胃腸炎なども考える。
歩行により足の付け根の腫れがみられ(リンパ節腫脹も考慮)、横になると疼痛軽減見られる。
・診察では立位で行う。
・治療方針の決定は身体診察のみで可能である。(腹臥位での腹部CTを行う例も多い。)
・壮年期以降の肥満男性に多い。
・高齢者の突然発症では腸閉塞の併発も考えられる。これには腫瘍の可能性もあり、鼠径部ヘルニアの他にも鑑別するべきことがあることに注意する。
もっといえば、腸閉塞の原因である開腹手術後の腸管癒着も考えるが、年月が経っているようであれば可能性は低いと判断していく。
鼠径ヘルニア嵌頓について
嵌頓(かんとん)とは
ヘルニア内容がヘルニア門から脱出したまま戻らない状態をいう。
この状態では、虚血壊死や穿孔を起こしやすい状態であり、緊急手術で治療しなければいけない。
一般的に、ヘルニア門が小さければ嵌頓しやすく、多くは大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアが嵌頓しやすい。
・恥骨結節の右外側は鼠径部で、この部位の腫瘍や疼痛をきたすものにはヘルニア、リンパ節炎、精巣上体炎の波及、大腿静脈血栓症による腫脹などの可能性がある。
・大腿輪は恥骨結節の5cm以内にあり、この外側に腫脹があれば外鼠径ヘルニアを示すといえる。
鑑別について
(1)大腿の外見を確認し、大腿静脈血栓症でないことを確認
(2)陰嚢の圧痛が無いことを確認し、精巣上体炎を否定
(3)体温、WBC、CRP正常を確認し、感染性炎症の化膿性リンパ節炎を否定
(4)疼痛が突然の発症、症状の持続から、嵌頓状態を考える
→ しかし、この場合は腸閉塞の併存有無についても考えること。
このため、腹部理学所見やX線診断所見が必要となる。
(niveau、Kerckring襞、whirl signなどの所見)
治療
・徒手的還納ができない場合は緊急手術となる。
注意として
嵌頓してから長時間経過していて尚且つ腸管の絞扼が疑われている場合は
腸管壊死部の穿孔のおそれがあるため徒手的還納は禁忌となる。
・鼠径ヘルニア嵌頓から絞扼性イレウスを生じている例では、まずは原因となっている鼠径ヘルニア嵌頓の治療優先となるため、イレウス管留置、内視鏡的整復術(S状結腸捻転症の治療法)等の選択はしないよう注意。
リンク先
鼠径ヘルニアの手術について
・嵌頓した鼠径ヘルニア手術として開始したが、実は大腿ヘルニアが鼠径靱帯方向へ進んで鼠径ヘルニアのように見えているという実例がある。
→ このため、鼠径ヘルニア手術時は内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの術式についてはしっかり把握しておく必要がある。
また、女児における鼠径ヘルニアでは卵巣のスライディングヘルニアということがあるため、この術式についても知っておくことが必要である。
治療法について
・小児では、Potts法(ヘルニア嚢の高位結紮)となる。
・成人では、メッシュ法という鼠径管後壁の補強術を行う。
・ヘルニア嵌頓例では緊急手術となる。
リンク先
大腿ヘルニアについて
・大腿ヘルニアとは、大腿輪をヘルニア門とし大腿管を通り、大腿血管鞘の内側壁を貫いて大腿卵円窩に突出したもの。
言い換えれば、大腿動脈の内側に触れ、鼠径靱帯から足側に脱出するもの。
(鼠径靱帯より頭側は鼠径ヘルニア、また内鼠径ヘルニアでは下腹壁動静脈の外側に楕円形の鼠径部の膨隆や腫脹を認める)
・鼠径靱帯の下から発生するもの。
(鼠径靱帯の上に発生するのは鼠径ヘルニアである。)
・大腿ヘルニアは頻度は少なく、全鼠径部ヘルニアの5%ほどを占めるが、嵌頓して緊急手術となることが多いため注意すること。
・右側の発生が60~70%と多い。
(左側はS状結腸があり、脱出しづらいというのがあるかもしれない)
・中年以降(70歳代)の女性に多く発症する。
(80%以上を占め、多産でやせ型に多い。また、嵌頓例の半数以上は80歳以上となっている)
→ これには、鼠径靱帯の下の隙間(大腿輪)が男性より広く、分娩によって抵抗が弱くなるためである。
・Richterヘルニア(リクターヘルニア)にもなりやすい。
(Richterヘルニアとは腸壁の一部がヘルニアとして嵌頓したものをいう。)
・これは嵌頓を起こしやすく、緊急手術の適応となりやすい
大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアの違いについて
以下には、先ほどまでのものをまとめたものになります。
項目 | 大腿ヘルニア | 閉鎖孔ヘルニア |
---|---|---|
好発年齢 | 中年以降の女性 | 高齢女性 |
好発部位 | 右側(80%は片側性) | 特になし |
頻度 | 鼠径ヘルニアの次に多いとされる | まれである |
疾患の起きやすい背景 | ・女性は男性に比べて大腿輪が大きい ・分娩による大腿輪の脆弱化 | ・女性は骨盤が大きいため、閉鎖孔が大きい ・老化・多産による骨盤支持組織の脆弱化 ・やせ型(脂肪組織減少による閉鎖孔の拡大) |
主症状 | ・ヘルニア嵌頓での発症が多い ・絞扼性イレウスによる症状 | ・イレウスによる症状 ・Howship-Romberg徴候 |
嵌頓(かんとん) | 起こしやすい | 起こしやすい |
診断 | 鼠径ヘルニアに類似のため注意 | 体表から触れにくいことからCT、USが有用である |
治療 | 原則手術適応 メッシュによる大腿輪の閉鎖(大腿輪を縫縮) | 原則手術適応 |
リンク先
閉鎖孔ヘルニアについて
・閉鎖孔ヘルニアでは、CT画像所見は恥骨筋と外閉鎖筋の間に、腸管が嵌頓している状態がみられる。
・閉鎖孔ヘルニアは、体表から触れにくいとされているが外ヘルニアである。
これには、用手整復ができないわけではない。
→ 例えば、直腸視診、膣内診を併用した整復、閉鎖孔のある大腿内側の圧迫、患側肢の屈伸運動などの体位変換で整復される例もある。
・高齢女性に多い(特にやせ型)
・閉鎖孔ヘルニアはほとんどがイレウス症状で発症する。(腹痛、悪心、嘔吐)
→ 大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアは必ず鑑別を考え、鼠径部の診察が大事である。
( Howship-Romberg徴候※ )
大腿ヘルニア:鼠径靱帯の下、大腿動静脈の内側に出現し腫瘤を触れることができる。
・症状では、右下腹部痛、右大腿内側から膝にかけての疼痛、痺れ(Howship-Romberg徴候※)がみられる。
これは約30~60%でみられる。
(この時、急性虫垂炎、結腸憩室炎、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア嵌頓と鑑別すること)
リンク先
※ Howship-Romberg徴候(ハウシップロンベルグ):大腿伸展位や外転位で閉鎖神経圧迫症状(大腿内側から膝部下腿部に至る疼痛)があることをいう。これは、屈曲することで症状が改善する。
治療では、自然還納する例もあるが、基本的には緊急手術が必要である。
(閉鎖孔ヘルニアであれば徒手的還納術も試す価値はあるかもしれないが、基本は手術)
閉鎖孔ヘルニアは絞扼性イレウスを招き、壊死するリスクもあるため、緊急性は高い。
リンク先
腹壁瘢痕ヘルニアについて
腹壁瘢痕ヘルニアの根治療法は、ヘルニア門となっている瘢痕を切除し腹壁縫合を行うこと
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正中腹壁ヘルニアについて
正中腹壁ヘルニアとは、腹部正中の腹壁に円形の腫瘤がみられるものである。
上腹部中央の腹直筋間から発生するヘルニアは白線ヘルニアという。
・腹部造影CTでは、腫瘤内の色調が腫瘤両脇の皮下脂肪より薄く、腸管内容の色調に近いことから、消化液が含まれていると考えられる。
腫瘤内にガス像はなし。
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.1 消化器
ビジュアルブック 消化器疾患
今回はここまでとなります。
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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