消化器編

消化器編④ 胃・十二指腸の疾患について

医学を学ぶ


注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、
これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)

医学知識+αシリーズ:消化器編④ です。

今回からは胃・十二指腸の領域に入ります。



胃の特徴について


・胃液は1日1.5〜3Lの分泌量がある


H.pylori(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌治療の適応疾患について


胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌※、慢性胃炎、胃過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)



※胃癌は早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃」に限っての適応であり、進行胃癌に対しては除菌適応ではない。


H.pyloriによる胃癌までの経過について


胃粘膜の慢性炎症 → 萎縮性胃炎 → 腸上皮化生 などを経る → 発癌に至るというパターンがある


H.pyloriの診断と治療法について


H.pylori:胃内に生息しているグラム陰性菌。感染要因として、萎縮性胃炎胃MALTリンパ腫がある。



・感染診断:尿素呼気試験便中H.pylori抗原測定が感度と特異度が高い



・陽性だったが、半年以内に検査をしていないとなると、まずは上部消化管内視鏡検査を行ってから治療の必要性の有無について判断する。



→ 除菌治療


一次除菌


PPI + アモキシシリン + クラリスロマイシン


の3剤併用療法となっている


(耐性菌の関係で除菌率は下がってきている(7、8割ほど))



二次除菌


PPI + アモキシシリン + メトロニダゾール


の3剤併用療法 


胃MALTリンパ腫について


  • リンパ濾胞が発達し、リンパ腫(リンパ球のびまん性増生)が発生していると推定されている。形質細胞の分化を伴う。

  • H.pyloriの除菌で治癒することが期待できるため、除菌が第一選択である


  • 内視鏡所見:多発びらん敷石状粘膜雛壁肥厚粘膜下腫瘤様隆起など多彩な形態。


胃GISTについて


  • GIST:gastrointestinal stromal tumor


  • 無症状または、胃部不快感、腹痛、腫瘤触知、下血、黒色便、貧血などがみられる


  • 間葉系腫瘍(※癌ではない)のうちKIT陽性c-kit遺伝子産物)となる(95%)ものや、CD34陽性腫瘍を消化管GISTという


  • 粘膜下腫瘍であり、なだらかな正常粘膜の隆起(一見ポリープに見える)が特徴であり、良性腫瘍


  • 胃のGISTは全体の6割を占める。2,3割は小腸GIST、残りは食道や大腸がある


  • 表面は平滑で光沢がある


  • H-E染色標本では紡錘形細胞の密な増生(ここから、間葉系腫瘍とみる)がみられる


  • bridging foldを形成する


  • 胃に限局しているGISTはリンパ節転移はほとんどない → リンパ節郭清を要さない


  • 放射線は効きにくい → 外科的切除が第一選択 → 切除不能、再発例ではイマチニブ投与


  • 消化管のCajal(カハール)介在細胞※(以下、ICC)由来である。


  • H.pyloriは関係していない


  • 鑑別として、平滑筋腫、脂肪腫、神経線維腫など


Cajal介在細胞腸管の運動機能(いわゆるペースメーカー)に関わる細胞消化管筋層の特定の部位にのみ規則的に分布する細胞。


まだ機能についての全容は明らかとなっていない。

(参考文献:『Cajal 細胞の形態と機能』鳥橋 茂子 pp.1-13)




治療:胃局所切除術(腹腔鏡下手術、内視鏡下手術)、分子標的薬:イマチニブ


ダンピング症候群について


胃切除後の、食後腹痛や嘔吐低血糖症状をきたす症候群。ある程度経過していくことで次第に改善はする。


・インスリンの過剰分泌で低血糖症状(交感神経緊張症状:冷や汗、動悸、手の震え、全身倦怠感など)がみられる。


※胃切除後の障害については 消化器編⑦を参照


ダンピング症候群は早期、後期で機序が異なっている


早期ダンピング症候群について


食後30分以内にみられるもの

食べてから



細胞外液が腸管内腔へ移動して循環血液量が低下することと



消化管ホルモン(セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミン)が上昇して、末梢循環血流の増加小腸の運動亢進※が関係している。



小腸の運動上部空腸の拡張伸展に対する小腸反射も影響している


薬物治療: 抗ヒスタミン、抗セロトニン、抗不安薬など対症療法となる


後期ダンピング症候群について


食後2~3時間にみられるもの


食事で一過性の高血糖を生じ、インスリンの過剰分泌が起こる。これにより反応性低血糖をおこす。


薬物治療:α-GIにより食後過血糖を予防


→ いずれも、治療としては食事療法を行う。


方法は、少量頻回の摂取であり、1日5、6回の食事で、1回の食事量を減らすこと。


水分摂取を減らし、高脂質、高たんぱく食、糖質制限とすること。


低血糖症状に対しては糖質摂取をすること。


萎縮性胃炎について


大まかにA型とB型の二つの分類がある(Strickland-Mackayの分類)



A型胃炎抗壁細胞抗体によるもので主に胃体部に萎縮がみられる。胃酸の分泌低下がみられる。


一部で胃癌、悪性貧血(抗内因子抗体による)、鉄欠乏性貧血、血中ガストリン高値、Ⅰ型糖尿病など様々な疾患の原因ともなっている。




(参考:A型胃炎と悪性貧血,ピロリ菌感染との関係は? 【B型胃炎との違いをふまえて】|Web医事新報|日本医事新報社 (jmedj.co.jp) 2021.8.10参照




B型胃炎H.pylori感染によるもの。胃前庭部から胃体部へかけての萎縮がみられる。進行により胃酸減少



・胃粘膜萎縮の指標:血中ペプシノゲン



・関連は無いが、胃潰瘍・十二指腸潰瘍があれば、高頻度で萎縮性胃炎がみられる。特に胃潰瘍に多く見られる傾向


胃潰瘍・十二指腸潰瘍の違いについて


胃潰瘍


・好発年齢:40歳~60歳


・好発部位:慢性的なのは幽門線と胃底腺との境界近傍(胃角部)

      急性は胃体部であり、NSAIDs潰瘍においては浅い潰瘍が多発する


・症状:食直後の心窩部痛、胸やけ、悪心、嘔吐、膨満感であり、粘膜萎縮は十二指腸潰瘍よりはみられる程度


・胃酸分泌:胃の高位部(噴門に近いほど)では低酸で、幽門部では高酸である


・合併症:大量出血急性膵炎がある


リンク先

十二指腸潰瘍


・好発年齢:20歳~40歳


・好発部位:球部前壁


・症状:空腹時夜間の心窩部痛(食事で症状軽減)、胸やけ、悪心、嘔吐


・粘膜萎縮は軽度


・胃酸分泌:過酸


・合併症:下血、穿孔(球部前壁潰瘍)、瘢痕性の幽門狭窄による通過障害


胃・十二指腸潰瘍に起因するであろう疾患・原因について


NSAIDs服用、ストレス、アルコール、喫煙、ステロイド、副甲状腺機能亢進症、Zollinger-Ellison症候群、門脈圧亢進症など


胃癌と良性潰瘍の違いについて


良性潰瘍


・雛壁:全周均一で、中心が一点に集中している。漸減の消失、病変部位と先端との境界が不鮮明である



・辺縁:平滑で円形、再生上皮は均一、柵状、放射状、規則的で周囲の立ち上がりは緩やかで平滑



・陥凹底:厚い白苔


胃癌


・雛壁:全周不均一多中心性、途絶や断絶で先細っている。棍棒上肥大、癒合



・辺縁:整っていない虫食い像(蚕食像)、不規則で凹凸、小結節、発赤、褐色、白苔ののび出し



・陥凹底:白苔は不均一、薄くて底が透けている島状の再生上皮島


胃潰瘍の時相分類について


活動期


A1:発症して数日、潰瘍辺縁に浮腫、潰瘍底は白苔や黒苔に覆われる

A2:辺縁の浮腫が改善し、潰瘍底は白苔に覆われる



治癒期


H1:潰瘍辺縁に再生上皮を認める。白苔のある潰瘍底は縮小していく

H2:白苔はほとんど縮小して再生上皮に覆われている



瘢痕期


S1:再生上皮で被覆が完成白苔は無し。そのため赤色瘢痕となる。

S2:瘢痕化は進み白色瘢痕となる。



※A:Active H:Healing S:Scarring


臨床の考え方について

 参考:消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)


・吐血(コーヒー残渣様)があれば、循環動態の把握(出血の状態、ショックなど)をする。


次に、静脈路の確保※1、血圧などのバイタルチェック、尿量測定※2、血液検査(貧血かどうか)をみる



→ 急性出血性潰瘍があれば、内視鏡的止血術が第一選択となる。ついでに内視鏡診断もできる。



そうではなく、辺縁平滑な陥凹性病変があれば胃・十二指腸潰瘍と診断



(出血が動脈性、活動性であれば、クリップ止血法薬剤局注法高周波(アルゴンプラズマ)凝固法などを行う)


上部消化管造影では、ニッシェ※3、ひだ集中像を認める)



→ 止血できない場合、IVR(血管内治療)や外科的手術、トロンビン製剤の散布を行う。



→ 活動性の潰瘍内視鏡治療後の再出血予防にはPPI投与が第一選択


※1 静脈路確保により、循環動態の安定化を図る。


このため、初期に乳酸リンゲル液生理食塩水の輸液を行う。



※2 尿量減少では出血性ショックなどの循環血液量が減っていると考えられる



※3 X線検査において、胃壁の一部が欠損した部分(開放性潰瘍)バリウム造影剤が溜まって描出されるものをいう。(正面ニッシェと側面ニッシェがある)


その他周辺知識について



腸結核回盲部を中心に不整な輪状潰瘍がみられる。高齢者に多い。



タンパク漏出性胃腸症:消化管粘膜からの血漿タンパク(主にアルブミン)の胃腸管腔への異常漏出によって起こる低蛋白血症を主徴とするもの。原因は様々な疾患からおこる。


→ タンパク漏出試験で診断。

他に、α1-アンチトリプシン消化管クリアランス試験やヒトアルブミンのシンチグラフィ試験などがある。



瀑状胃:胃底部が嚢状に拡張して背側側にあり、胃体部は腹側に転位している形態異状。これは、正常であってもみられることはある。



砂時計胃:胃癌でみられる形状



bridging fold粘膜下腫瘍でみられるもの



残胃潰瘍:胃亜全摘術後の残胃に生じる潰瘍のこと。治療はPPIが著効する。



<参考文献>

メディックメディア Question Bank vol.1 消化器

ビジュアルブック 消化器疾患


今回はここまでです。


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    • この記事を書いた人

    Nitroso.Ph

    自分が学んで知った事が、人の役に立つならいいかなと思いサイトを開設 ・食べる事が好きで、そのために運動をはじめました ・趣味はジム通い、ドライブ、ドラム、プログラミングなど様々あります

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