引き続き、精神疾患編の第2回目となります
今回は神経症性障害について見ていきましょう
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
うつ病に対する対応例について
・自殺念慮の有無について確認
→ここで、自殺したい気持ちを聞き取ることで信頼と安心感を与えることができるだろう。しかし、緊迫している場合は入院が必要なことがある
・うつ病患者では、治療しても回復しないと思い込んでいる場合が多く、回復を保証してあげるということが大事である
・薬物療法、休養の勧め
不安障害の分類について
不安障害は、非器質性、心因性の不安を主症状とし、以下の通りに分類されている
不安障害
┃
┣ 恐怖症性不安障害
┃ ┃
┃ ┣ 広場恐怖症
┃ ┣ 社会恐怖症
┃ ┗ 特定の恐怖症
┃
┗ その他の不安障害
┃
┣ パニック障害
┣ 全般性不安障害
┗ 混合性不安抑うつ障害
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パニック障害について(パニック症)
パニック障害とは、突然にパニック発作(動悸、発汗、胸痛、息切れ、窒息感、死の恐怖などの強い不安発作)を生じるもの
また、そのパニック発作が起きるという予期不安(発狂の恐怖、死の恐怖)が起こったり、助けを求められない状況や場所を避けるといった広場恐怖(空間恐怖)を呈する病態(閉所恐怖とは違う点は注意)
パニック発作の定義とは「強い恐怖または不快感が数分以内にその頂点に達し、その期間に以下のうち4つ以上が突然に出現するもの」とされている
(※ パニック発作中に起きる症状と、発作のない時にみられるパニック障害の症状(予期不安、広場恐怖)は違うことに注意)
<パニック発作の定義>
①動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
②発汗
③身震いまたは震え
④息切れ感または息苦しさ
⑤窒息感
⑥胸痛または胸部不快感
⑦嘔気または腹部不快感
⑧めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じまたは気が遠くなる感じがする
⑨寒気または熱感
⑩異常感覚
⑪現実感消失または離人症状
⑫コントロールを失うこと、または気が狂うことに対する恐怖
⑬死ぬことに対する恐怖
・発作に器質的要因がない方で考えていく
→診断には、心血管障害、内分泌疾患などの身体疾患について鑑別する必要がある
・パニック発作は、予期のある、なしいずれでも起こりえて、恐怖症や社交不安障害(不安障害の一つ)で恐怖や不安の対象に曝露された時に起こる
( ↔︎ 対して、危険な状況でみられるものには急性ストレス障害や外傷後ストレス障害がある)
→息苦しさを回避しようと過呼吸が起こり、結果として四肢末端の痺れ感や気が遠くなるなどの過呼吸症候群症状を伴うことが多い
→割と救急外来でみられ、突然激しい症状が生じて救急車を呼ぶが、診察時には症状が落ち着いてしまう。
この場合は、検査で異常がないことを確認でき、病歴を聞いてパニック障害が疑われるようであれば精神科への受診勧奨となる
・パニック障害では予期されないパニック発作が繰り返されることが特徴的であり、発作がなくても心配・不安にとらわれて、発作を恐れて外出できないなどの行動変化が持続している場合に診断される
・パニック障害には、広場恐怖を伴うものと伴わないものがある
・精神科領域では最も予後が良いとされる疾患の一つである
・発作の持続時間は20、30分程度であり長引くことはない
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<治療>
薬物療法:SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
精神療法:いわゆる認知行動療法が主となる(森田療法など)
→発作が起きても生命に関わることはないことを説明
外出するなどの外出訓練も有効
・一時しのぎ:深呼吸、注意を他に向けることで回避
軽い神経症性障害や心身症などに対しては自律訓練法(自己暗示法の一種)をとることもあり
※ DSM-Ⅳでは、広場恐怖症はパニック症 / パニック障害の随伴症状とされてきたが、DSM-Ⅴからは独立した疾患単位となっている
社交不安障害について
社交不安障害は、特定の社交状況で生じる不安・恐怖があり、その状況を回避してしまうという症状が見られる
・比較的少人数の状況であっても、注視されることで恐怖感、人前での食事や発言で自律神経症状(咽頭違和感、手指振戦)などの身体症状が生じて、この状況を回避する、という特徴がある
・飲食が喉を通らないなどが上記の症状の一つである
→ヒステリー球と呼ばれる、社交不安障害の症状の一つ
・低い自己評価と批判されることに対する恐れに関連していると考えられている
<治療>
パニック障害に準ずる
薬物療法:SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
精神療法:いわゆる認知行動療法が主となる(森田療法など)
→発作が起きても生命に関わることはないことを説明
外出するなどの外出訓練も有効
・一時しのぎ:深呼吸、注意を他に向けることで回避
軽い神経症性障害や心身症などに対しては自律訓練法(自己暗示法の一種)をとることもあり
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全般性不安障害について
全般性不安障害は、長期(持続的)で特殊な状況に限定されない様々な事柄に対する根拠のない過剰な不安や緊張、心配を呈する
また、自律神経症状を呈する
全般性不安障害の具体的内容には
・サイレンを聞くと家族内で事故が起きたのではないか?と思ってしまう
・旅行の予定を、旅先で体調崩すのではないかと不安でとりやめてしまう
・めまいや動悸を感じる
・忘れることが不安でメモをとるが、とり忘れたのではないかと不安になる
・いつも緊張して休まる時がないという訴えがある
強迫性障害について
強迫性障害とは、自己意志に反する不合理な観念(強迫観念)にとらわれて、打ち消そうとすると強い不安を生じ、その不安解消のために不合理な行動(強迫行為)をとる(それが不合理であることわかってはいる)
しかし、その観念はなかなか打ち消せない状態である
・病因には、セロトニン代謝異常が示唆
・エピソード例1 「〜〜をしてしまうのではないか?」という攻撃に関する強迫観念がみられたりする
・エピソード例2 「机の上の置き方はこうしないといけない」という対称性に関する強迫観念
<治療>
薬物療法:SSRI(フルボキサミン、パロキセチン)
精神療法:認知行動療法が重要
森田療法など
解離性障害について(転換性障害)
解離性障害とは、欲求不満や葛藤が身体的症状(転換型)または、精神的症状(解離型)となり現れるもの
わざとらしさ、演技的傾向、心的外傷体験の存在などが特徴であり、身体疾患が無いことが重要
ICD-10における解離性障害は解離と転換は区別してまとめられている
・解離:強い心因から記憶、同一性などの精神機能に障害が現れる
→解離性障害
(健忘、同一性障害、多重人格障害、離人症、痙攣、遁走(とんそう:逃げること、フーグ)、昏迷※、トランス(憑依障害)、Ganser症候群(ガンサー:偽認知症)、多重人格障害(解離性同一性障害)などがある)
これは、発症にストレスの多い出来事や対人関係問題が関連していて、症状は意識的で選択的なコントロールが可能である
↔︎ 身体的障害とは異なる部分
・転換:強い心因から身体機能に障害が現れる
→転換性障害
(失声、失立、運動障害、けいれん(偽発作)、知覚麻痺および知覚脱失などがある)
※ 昏迷:意識は清明だが外からの刺激に反応がなくなる状態をいう
・好発:女性に多い、また心的外傷体験があることが特徴的
→強いストレスへの自己防衛として、自己同一性を失った状態(解離)
→ストレスとなった出来事に対して追想障害※が起こる
・失立失歩、失声、けいれん、チック、嘔吐などの症状
・健忘、昏迷、朦朧状態、多重人格などを呈する
・身体的に他覚的な異常なし
※ 追想障害:追想とは、記憶の要素の一つであり、記銘・保持されたものを再び意識に戻す(思い出す)ことをいい、それが障害されること
項目 | 内容 |
---|---|
離人症 | 自分自身の情動・体験・行動がよそよそしい、自分のものと感じられない状態 |
解離性健忘 | 外傷的あるいはストレスの多い性質の最近の出来事に関する記憶を完全に健忘することが多い 記憶喪失は通常、部分的で選択的である(選択健忘) また、加えて家庭や職場などの現実から逃避していなくなることを解離性遁走(かいりせいとんそう:フーグ)という |
器質性健忘 | 選択健忘とは異なり、記憶喪失が部分的で選択的ではないもの |
記憶喪失 | 全生活史に及んだ解離性健忘をいう |
多重人格 | 1人の人間に複数の明らかに異なった人格が存在する状態をいい、同一性障害である 現在は、解離性同一性障害といわれている |
トランス状態 | 自己同一性の感覚と状況認識の両者が同時に障害されている状態 憑依症状という、霊や神が乗り移ったかのようなふるまいをするのが典型的 |
<治療>
精神療法となる
治療の目標はストレスに対するより良い適応を身につけることにある
→そのため、解離性健忘では記憶を取り戻すということが主になるわけではない(この場合は、失った記憶は時間とともに自然に取り戻す)
→記憶が戻ってから、ストレスコーピングなどの精神療法を行う
身体表現性障害について(心気障害)
身体表現性障害は、身体症状にとらわれて、執拗に医療を求める
漠然とした不安では不安障害などが考えられるが、身体表現性障害では、確信して重い疾患があるのではないか?と不安があり、ドクターショッピングをしてしまう
妄想などのより強いものであれば、統合失調症による心気妄想ということも考える必要がある
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心的外傷後ストレス障害について(PTSD)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、自分または他人の身体の保全に迫るような極度の危険を体験や目撃したことをいう
・過去に見た光景が鮮明に浮かんでくるフラッシュバック、悪夢がある
→これは、繰り返し現れる(再体験、侵入的想起)
・その場所を回避する回避反応や情動麻痺(感情が麻痺したように鈍くなる、出来事の起きた場所、想起させる刺激を避ける)がある
・自律神経過覚醒状態:不眠、不安、抑うつ、易刺激性、過度の驚愕反応、集中困難など
・惨事ストレス:自衛隊、消防隊員など、悲惨な災害現場での救助活動に携わることが多い人が強い精神的ストレスを受けること
その他、兆候について
類似のもの、近縁のものは様々あるが、用語解説として以下のものを挙げた
兆候・疾患・症状 | 内容 |
---|---|
心気妄想 | 自分が重い病気にかかっていると確信している妄想 うつ病で見られる微小妄想の一つ |
注察妄想 | 誰かに見張られていると思い込む妄想のこと 統合失調症で見られる妄想の一つ |
罪業妄想 | 何か悪いことや罪を犯したという妄想がある うつ病でみられる |
自生思考 | 今している行動や思考とは無関係な考えが勝手に浮かぶ状態 自我障害の症状、統合失調症などで見られる |
妄想気分 | 周りがいつもと違い、何か不気味で大変なことが起こりそうだという不安に襲われる状態 一次妄想の一つであり、統合失調症で見られる |
妄想着想 | 突然頭に浮かんだことが意味を持って確信されること 統合失調症にみられる |
予期不安 | パニック発作が起きるのでは無いかという不安・心配する状態 |
緊張病性昏迷 | 意識は清明だが、自発的行動が停止した状態をいう 統合失調症にみられる |
作為体験 | 自分の知覚、思考、意志、行為などが他人に支配されていると感じる体験 統合失調症にみられる |
被影響体験 | 思考吹入(他者に考えを吹き込まれる)などの自我障害である 統合失調症にみられる |
滅裂思考 | 思考過程の論理的関連が失われてまとまりを欠く状態である 統合失調症にみられる |
妄想性障害 | 一つ、あるいは関連する妄想が持続する障害をいう 統合失調症とは違い、明らかな幻聴やさせられ体験、感情鈍麻はなく、感情や行動などに奇異なところはほとんどないという特徴がある |
社会恐怖 (対人恐怖) | 比較的少人数の中で他人に注目されることへの恐怖をいう |
不潔恐怖 (洗浄強迫) | 手が汚れているなどの強迫観念が払拭できない恐怖であり、気の済むまで手を洗ってしまうなどが起こる |
分離不安障害 | 身近な家族などと離れることで生じる発作のこと |
Pick病 | 性格変化や自発性の低下を伴う疾患 |
疾病利得 | 解離性障害では、精神分析学的には根底にこの疾病利得があるとされている これは、無意識に解離症状を呈して、悩まないで済むようにするという一次利得と、さらに症状に対して周囲から同情を得ることができるという二次利得がある |
既視感 | 今まで見たことがないものを見たことあるように体験すること てんかんの側頭葉発作などでみられる |
適応障害について
適応障害は、日常で起こる様々なストレス因子によって3ヶ月以内に情動面や行動面で症状が出現するものをいう(非特異的で多彩な症状がある)
環境の変化などのストレス(転校、異動、結婚、癌告知など)が契機となって発症し、そのストレスがなくなれば症状は治るとされる
通常、症状の持続は6ヶ月を超えない
適応障害
┣ 短期抑うつ反応
┣ 遷延性抑うつ反応
┗ 混合性抑うつ反応
症状は気分障害と似ているが、異なる点に注意
気分障害
┣ 大うつ病性障害
┗ 双極性障害
子供では不登校気味になる
朝は腹痛や頭痛など調子が悪いが、昼過ぎには症状が無くなり元気になることもしばしば(特に疾患要因が見られない)
この背景には統合失調症がないかを鑑別する必要がある
急性ストレス反応やPTSDに特徴的な症状がないようであれば、適応障害と診断される
・急性ストレス反応:外傷後急性かつ一過性(48時間以内に鎮静化)で発症するもの
→急性ストレス障害は通常、外傷的出来事の直後(3日以内)に発症し、1ヶ月以内に消失する場合をいう
・外傷後ストレス障害(PTSD)とは自分または他人の身体の保全に迫るような極度の危険を体験や目撃したことをいう
→前述参照
・症状には、抑うつ、不安、行動障害(思春期)、退行現象(小児)などがある
・典型的には、短期抑うつ反応があり、これは1ヶ月以内に改善する軽症抑うつ状態である
・予後としては、ストレス要因がなくなれば、6ヶ月持続することはなく、気分障害の抑うつに比べて予後は良好である
<治療>
小児(言語化能力が不十分な年齢)
・箱庭療法:患者に箱庭を作らせながら作品に対して治療者と語り合う過程で診断と治療を行う
・遊戯療法:患者同士を遊ばせながら、治療者がその様子を観察して治療を行うもの
・家族療法:家族に対する精神学的アプローチ
成人
・(行動)認知療法:自分の認知の歪みを認識させて、正しい認知ができるようにするもの
心因性の頭痛について
頭痛で外来受診された方では、まずは脳内器質病変初見の有無がないかを確認すること
異常がなければ、中耳炎、副鼻腔炎のほか、機能性病変を考える(てんかん、偏頭痛など)
最終的に心因性を考えていく
疾患類推のために聞くべき問診内容について
疾患名 | 問診内容例 |
---|---|
PTSD | 嫌な情景が急に浮かぶことはないですか? |
精神生理性不眠症 (神経症性不眠) | 今晩も眠れないのではないかと不安はありますか? |
うつ病 | 以前楽しかったことを今は楽しめなくなったように感じますか? ひどく気持ちが落ち込んで、それが何日も続いてますか? |
全般性不安障害 | いつも緊張があり、気が休まる時がないということはないですか? |
性同一性障害について
性同一性障害(性別違和)は、身体的性別と表出する性別(脳の性)が一致せず、その違和感に苦しめられる
小児期から身体的性別に違和感あり、特に第二次性徴の身体変化に強い嫌悪感、抵抗を感じて、自分の体と反対の性になりたい欲求を持つことが多くなる
・性同一性障害は、主観的なものであり診断には慎重に長期の診察が必要となる
・治療目標は、自己性別の違和感からくる苦痛を除くことにある
・性同一性障害はいわゆるTransgender(トランスジェンダー)に含まれている(LGBTQのTに該当)
<治療>
精神療法、身体的治療がある
身体的な治療には、性別適合手術がある
→一定の条件のもとで戸籍の性別を変えられる(平成16年以降)
LGBTQとは
LGBTQとは、性的マイノリティ(性的少数者、sexual minority)の総称である
・L(lesbian)とG(Gay)は恋愛対象が同性であり、B(Bisexual)は両性であることをいう
・T(Transgender)は身体的性別と性自認が一致していないことをいう
・Q(Queer,Questioning(クイア、クエスチョニング))は自らの性のあり方について、特定の枠に属さない人、わからない人等をいう
・日本においては3〜10%いると言われている
・恋愛対象の性別である性指向と性自認は異なるもののため注意
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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