小児科編もすでに7回目となりました
今回は、循環器系についてみていきます
ここでは、量が多いため3回に分けてまとめていきたいと思います
後半の心疾患に関する各論的内容は、循環器疾患編で細かくまとめていこうと思います
心臓の解剖・名称について
部位名 | 英名・略名 |
---|---|
上大静脈 | superior vena cava(SVC) |
上行大動脈 | ascending aorta(AA) |
右心房 | right atrium(RA) |
右心室 | right ventricle(RV) |
大動脈 | aotra(Ao) |
腹腔動脈 | celiac trunk(CT) |
左心耳 | left auricle(LA) |
左心室 | left ventricle(LV) |
左心房 | left atrium(LA) |
心尖 | apex of the heart |
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
小児の循環異常は主に先天性疾患である
これは、心臓の発生過程での心血管系の構造異常が原因となっている
また、右心系と左心系の交通(シャント)によるものが多く、右から左のシャントを呈する場合はチアノーゼが出現する(左から右シャントではチアノーゼはない)
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シャント:短絡、脇によける、という意味がある言葉
総論:先天性心疾患の分類について
これには大きく分類すると、右→左シャントのチアノーゼ性心疾患と左→右シャントの非チアノーゼ性心疾患がある
右→左シャント:右心系の静脈血左心系の動脈血と混合する
左→右シャント:左心系の動脈血が右心系の静脈血と混合する
・肺血流量の増加する疾患は、肺高血圧症のリスクがある
・TAPVRは肺動脈血流量の増減ではなく、静脈うっ血がある
肺血流量 | チアノーゼ性疾患 (右→左シャント) |
---|---|
増加 | ・完全大血管転位症(Ⅰ型※1・Ⅱ型※2) ・総肺静脈還流異常症(TAPVR) ・総動脈幹症※2 ・両大血管右室起始症 |
減少 | ・Fallot四徴症(TOF)※3 ・完全大血管転位症(Ⅲ型) ・肺動脈閉鎖(右心低形成) ・肺動脈閉鎖+VSD ・Eisenmenger症候群(アイゼンメンジャー) ・三尖弁閉鎖症 |
・Fallot四徴症などのチアノーゼ性疾患や、肺癌、肺化膿症、肺気腫などの慢性肺疾患に伴ってばち指などを生じる
※1 Ⅰ型は肺血流量は正常である
※2 完全大血管転位症や総動脈幹症では、肺血流量が多いためチアノーゼは軽い
※3 ファロー四徴症では、チアノーゼがみられないこともある
肺血流量 | 非チアノーゼ性疾患 (左→右シャント) | その他 |
---|---|---|
増加 | ・心室中隔欠損症(VSD) ・心房中隔欠損症(ASD) ・房室中隔欠損症(AVSD)/心内膜床欠損症(ECD) ・動脈管開存症(PDA) ・大動脈肺動脈窓 ・大動脈縮窄複合 | ー |
変化なし | ー | ・肺動脈狭窄症(PS) ・大動脈縮窄症(CoA) ・大動脈弁狭窄症(AS) ・冠動脈異常起始症 |
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心房中隔欠損症について(ASD)
心室中隔欠損症(ASD)とは、胎生期の心房中隔の発達障害によって、先天的に心房中隔に欠損孔があり、この欠損孔を通して左右シャントを生じ、右房・右室への容量負荷をきたす疾患である
ASDは年齢増加に伴い、肺高血圧症のリスクが増加する(20歳以降でみられ、50歳以上では半分以上の例でみられる)
ASDは部分肺静脈還流異常(PAPVR)、僧帽弁逸脱症候群(MVP)を合併しやすい
・小児期から心雑音が指摘されており、発育や身体機能に異常がなく経過する
・思春期~中年期以降になって労作時呼吸困難や易疲労性がみられてくる
→ASD中等症では、小児期はほぼ無症状だが、40歳以後の症例または重症例では肺高血圧症が起こりうる
・大部分は乳児期は無症状で経過する
・自然閉鎖する確率が低い
左→右短絡率50%以上、肺体血流量比1.5以上では、臨床所見を呈する例が多く手術適応となる
→放置すると中高年で心不全症状が出現する。このほか、うっ血性心不全、心房細動(AF)などの合併が多い
(VDSであれば自然閉鎖する可能性がある)
・先天性心疾患の中で、発症頻度はVSD(心室中隔欠損症)に次いでASDが多いとされる
・心房中隔欠損では右心系が拡大するが、左房は拡大なし
・右室容量負荷のため右室は拡大する
・僧帽弁逆流は心房中隔欠損に合併することがある(左室から左房への血流が認められる)
・ASDでの左→右シャントは、左房-右房間の圧較差よりも右室の方が左室よりひろがりやすいというコンプライアンスの差の影響が大きいと考えられる
このため、ジェット血流による乱流や心内膜の傷害は生じにくく、感染性心内膜炎になりにくい
<心房中隔欠損の心雑音>
いずれも右室容量負荷を反映する
欠損孔を通る雑音ではないことに留意しておくこと
①相対的三尖弁狭窄(拡張期ランブル※)
②相対的肺動脈弁狭窄(最強点は胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音)
③Ⅱ音の固定制分裂
※ 拡張期ランブル:肺血流の増加のことで、心室中隔欠損症では
肺血流量の増加 → 左房拡大 → 左房圧も上昇 → 相対的僧帽弁狭窄の雑音(Carey-Coombs雑音:カーリー・クームス)を生じる
不完全型の心内膜床欠損(ECD)(房室中隔欠損:AVSD)では僧帽弁にクレフト※があり、高頻度に僧帽弁逆流を認められるが、心房中隔欠損症とは別である
(心エコー図で両者の鑑別は可能)
・不完全型心内膜床欠損(ECD)では、左室の上にくぼみができて、心室中隔が短い
また、心室中隔の頂に心房中隔がないという点で、通常の2次孔型ASDと区別されている
クレフト(cleft):裂隙という意味であり、僧帽弁の前尖の割れ目(形態異常)を伴っており、僧帽弁逆流をきたすことがある状態をいう
<検査>
胸部X線:心胸郭比で左第2弓突出、心拡大、肺動脈拡張
聴診ではⅡ音の固定性分裂
・胸骨左縁下方でⅠ音の亢進、三尖弁性拡張中期雑音:右房の容量負荷による相対的TS
→Ⅰ音の亢進:房室弁の狭窄や心拍出量増大の時に認められる
Ⅰ音に続いて、急速に肺動脈弁が開くときに生じる過剰心音が肺動脈駆出音である。肺動脈弁狭窄症で認められる
・肺動脈領域の駆出性収縮期雑音の聴取:相対的PS
心電図で、右軸偏位、右室肥大、不完全右脚ブロック(IRBBB)、心房細動(AF)がみられる(中年期以降)
→ここではASDの考慮をする段階
レントゲン:左第2弓(左肺動脈幹)や左第4弓の膨隆した突出(右室肥大などによる)、右第2弓(右房)も突出しているのが認められる
<確定診断>
①カラードプラ心エコー検査:左房→右房シャントの確認をする
→右房、右室がやや拡大傾向を示し、右心系の容量負荷が生じたものと考えられる
②心カテーテル検査:右房O2ステップアップ(O2濃度の7%以上の増加)を確認する
→肺高血圧症の重症度判定のために利用
<治療>
心室中隔欠損症(VSD)とは異なり、自然閉鎖はまれである
①軽症例では、無治療(シャント率30%以下)
②先ほどの検査で全ての徴候が揃っているようであれば、就学期前後、あるいは発見後可及的早期に
欠損部の直接抱合やパッチ閉鎖術、またはカテーテル治療を行う(待機的治療:今は無症状でもいずれ行わなければいけない)
→これは、Eisenmenger(アイゼンメンジャー)化※すると手術適応が無くなり、予後不良となるためである
欠損孔閉鎖術:心内修復術(開心術)
※左右短絡疾患がアイゼンメンジャー症候群となると予後不良で手術は禁忌となる
(短絡:閉鎖不全のこと)
※ アイゼンメンジャー化(アイゼンメンゲル)とは、大量の心内左右是正がされないことで発生する疾患(症候群)である
肺血管抵抗が経時的に増大し、短絡が両方向性となり最終的に左右短絡となる
脱酸素化された血液が、体循環に流入することで低酸素血症の症状がおこる
心房中隔欠損症(二次孔型ASD)
ASDの見るポイントは以下の通りです
・労作時呼吸困難(NYHA分類:Ⅱ度~Ⅳ度)
・Ⅱ音の固定性分裂
→ASDの示唆
(Ⅱ音の奇異性分裂では、左室の収縮終了が右室よりも遅れている場合であり、左脚ブロックなどを示唆する)
・胸骨左縁第2肋間に収縮期雑音聴取
→ASDに伴う肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄(PS)の示唆(肺動脈弁領域の駆出性収縮期雑音)
・不完全右脚ブロック、右軸偏位
右心系の負荷で右室の拡大、肥大を生じる
・ASDでは左房から右房へ酸素飽和度の高い血液が入ってくるため、右房レベルでO2ステップアップが著明となる(≧7%)
・二次孔欠損のASDは、心電図上、軸は正常ないし右軸偏位となり、一次孔欠損であるAVSD(房室中隔欠損症)では、左軸偏位となることが多い
・ASDでは、不完全右脚ブロックが認められ、PQ(PR)時間延長を伴うことが多い
<心房中隔欠損症の血行動態について>
全身(大動脈) → 右房
→ 右室 → 肺動脈 → 肺
→ 左房 →心房中隔(欠損しているため通過)
→ 右房(通常:左室 → 全身)
・欠損孔が房室弁とは離れていることから二次孔型と考えられる
→一次孔欠損による心内膜床欠損(ECD)は考えにくい
心電図所見:正常または右軸偏位がみられる
(一次孔型のECDでは左軸偏位およびPQ時間の延長(Ⅰ度房室ブロック)がみられる)
心臓の各部位の酸素飽和度を見る時の表記方法について(略記法)
R:right、右 L:left、左 P:pulmonary、肺の~
SVC:上大静脈
RA:右心房
RV:右心室
PA:肺動脈
LV:左心室
酸素飽和度から疾患を考える方法について
考えられる疾患 | SVC | RA | RV | PA | LV |
---|---|---|---|---|---|
正常 | 70 | 68 | 68 | 70 | 98 |
①ASD | 70 | 85 | 84 | 85 | 98 |
②VSD | 70 | 68 | 83 | 85 | 98 |
③PDA | 70 | 68 | 68 | 85 | 98 |
④VSDによるEisenmenger症候群 | 70 | 68 | 68 | 70 | 88 |
<疾患略名>
①ASD:心房中隔欠損症
→右心房レベルでO2ステップアップ(≧7%)がみられる
②VSD:心室中隔欠損症
→右心室レベルでO2ステップアップ(≧5%)がみられる
③PDA:動脈管開存症
→肺動脈レベルでO2ステップアップ(≧7%)がみられる
動脈管開存などの心外シャントでは連続性雑音がみられる
④VSDによるEisenmenger症候群:左心系のみ(主に左室内)の酸素飽和度低下がみられる
→右→左シャントを生じている可能性、COPD、肺塞栓などの肺疾患疑いとなる
<心内圧と酸素飽和度について>
┏ ┫SVC┣ ┳┫ PV ┣━━┓
┃ RA75% ┃LA96~100%┃
┏━┛(1~5: ┃(2~12: ┃
┃┏┓ 平均3)┃ 平均8)┃
┃┃┣ ━\ /━ ╋━━\ /━━┫
┃┃┃ RV75% ┃LV96~100%┃
┃┃┃(15~30 ┃(100~140 ┃
┃┃┃ /1~7)┃ / 0 ) ┃
┃┃┗━\ /━ ╋━━\ /━━┫
┃┃ PA75% Ao96~100%
┃┃(15~30 (100~140
┃┃ /4~12) /60~90)
┃┃
IVC ()内の数値単位:mmHg
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Eisenmenger症候群について
Eisenmenger症候群は、左→右シャントをきたす先天性心疾患の終末像である
・初めは左→右シャントが優位で肺血流量の増加を生じるが、徐々に肺高血圧となって肺血管抵抗の上昇に伴って肺血流量が減少し、右→左シャントが優位となる
・この疾患は手術適応はない
・そのため、肺高血圧が不可逆的になる前に、原疾患の手術を考慮すること
・慢性的な心不全症状がみられる
→このため、慢性的に低酸素血症となり、ばち状指※を呈する
※ ばち状指(手足):指先に血流のうっ滞がある時、局所の栄養状態が良くなり、組織が増殖、肥厚してばち状となった指のこと
これにはチアノーゼが起きているとみられるが、チアノーゼは栄養分が豊富な還元ヘモグロビンの多い血液のことでもあるのでこのようなことが起こる
また、これは肺がんの場合でも認められる症状である
胸部X線で肺うっ血や心拡大を認めないが、慢性的に心不全症状を生じていることから左心系の異常ではないことを考えられるようにしておくことが肝要である
<Eisenmenger型の心室中隔欠損症の病態について>
VSD
↓
左→右シャント
↓
肺血流量の増加
↓
┏ 左室容量負荷→左室拡大
┃
┗ 肺高血圧症→Eisenmenger化(右→左シャント)
・右→左シャント(慢性のhypoxemia):チアノーゼ、ばち指
・肺高血圧症(Eisenmenger症候群):単一Ⅱ音(ⅡPのみ)
→単一Ⅱ音が聴かれるものには他にはFallot四徴候が挙げられる(これはⅡAのみ)
<参考>
バチ状指 | 心臓病用語集 | 心臓病の知識 | 公益財団法人 日本心臓財団 (jhf.or.jp)(閲覧:2022.2.7)
無害性の心雑音について
収縮期雑音は吸気時と呼気時でⅡ音が分裂している所見あり
Ⅱ音からは様々な疾患の血行動態を理解できる
健常人でもわずか(20ミリ秒程度)にⅡ音が分裂することがある
Ⅱ音の固定性分裂は先ほどの心房中隔欠損症(ASD)が考えられる
・肺動脈性Ⅱ音とは、右室が収縮し終わり、肺動脈弁が閉じるときに聞こえる音である
・心臓は右室よりも左室の方が先に収縮し終えるため、大動脈性Ⅱ音より肺動脈性Ⅱ音が遅れて聞こえる
・心室収縮(心室中隔左室面)が最初に収縮し、右室流出路が最後に収縮する
・小児の無害性雑音は駆出性雑音であることが多い
・収縮期雑音も小児では機能性雑音のことが多い
・肺動脈性Ⅱ音は、胸骨左縁第2肋間に限局して聴取することができる
→(大動脈性Ⅱ音では、心尖部から心基部にかけて広範に聴取される)
→このため、Ⅱ音の分裂の評価には最も適しているといえる
・無害性雑音(肺動脈駆出性雑音)や肺動脈弁狭窄(心房中隔欠損も相対的肺動脈弁狭窄による雑音である)なども胸骨左縁第2肋間で聴取できる
・(心室中隔欠損(収縮期逆流性雑音)では胸骨左縁第5肋間で聴取することができる)
・(収縮期雑音として僧帽弁逆流や無害性雑音(楽音性機能性収縮期雑音)は鎖骨骨中線上第5肋間で聴取することができる)
・胸骨右縁第2肋間、左鎖骨上窩では、大動脈駆出性雑音の放散は聴取することができる
<収縮期雑音>
病的収縮期雑音
┃ ┏ 大動脈弁狭窄
┣ 駆出性雑音 ╋ 肺動脈弁狭窄
┃ ┣ 心房中隔欠損
┃ ┣ 無害性雑音
┃ …など (小児)
┃
┗ 逆流性雑音 ┳ 僧帽弁逆流
┗ 心室中隔欠損
①Ⅱ音の固定性分裂:心房中隔欠損であり、呼気時も吸気時も幅広く分裂する
②Ⅱ音の奇異性分裂:完全左脚ブロック、大動脈弁狭窄(左室駆出時間の延長)である
→大動脈性Ⅱ音の遅延または肺動脈性Ⅱ音の早期出現があり、吸気時でのⅡ音の分裂が消失、呼気時にⅡ音が広く分裂する
③Ⅱ音の病的分裂:右脚ブロック(肺動脈性Ⅱ音の更なる遅れ)、僧帽弁逆流(左室駆出時間短縮のため大動脈性Ⅱ音が早期出現)
→呼気時でもⅡ音の分裂が50msec以上となり、吸気時にはさらにそれ以上となる
④単一Ⅱ音:高度肺高血圧(肺動脈性Ⅱ音の早期出現)、Fallot四徴症(肺血流減少で弁の動きが小さく、肺動脈Ⅱ音が聞こえない)
→肺高血圧を伴うVSDはⅡ音が亢進する
超音波診断装置:心筋局所の収縮の時相は組織ドプラ法で比較することができる
<聴診の流れ>
順次聴診部位をずらしていく
心尖部から始め
↓
胸骨左縁に沿って上行
↓
胸骨右縁上部に達する
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心室中隔欠損症について(VSD:小~中欠損)
心室中隔欠損症とは、心室中隔に欠損孔があり、その孔を通って左室から右室、肺動脈への動脈血の一部が流入する病態をいう
欠損孔の大きさによって病態や症状が大きく異なってくる
・定期検査は年に1回程度でよい
・心不全症状が無いようであれば、水分摂取制限は特にする必要はない
・運動制限も特別必要ではない
・菌血症の原因となるような抜歯処置などでは、感染性心内膜炎の予防のために抗菌薬の予防的投与が推奨となっている
→先天性心疾患に感染性心内膜炎が合併することで、疣贅(ゆうぜい:イボのこと)が血行性に末梢に流れることで、あらゆる臓器、特に腎臓、脾臓、中枢神経系の塞栓を招くことがある
(海外報告では、小さい心室中隔欠損では抜歯時の抗菌薬は不要との見解があるが、日本国内は抗菌薬使用している)
・予防接種については受けても差支えはない
・先天性心疾患の中でも最も頻度が多い、症状は無症状
・一般的に、自然閉鎖は期待できるが、部位によってはその頻度に差がある
・膜様部VSDであれば自然閉鎖が多いが、漏斗部VSDではまれなことである
・欠損孔が大きくないようであれば小児期はほとんど無症状であることが多い
・欠損孔が大きければ、生後1年頃(乳児期)から肺うっ血をきたす
→肺高血圧症を合併した例では、早期にうっ血性心不全を呈することがある
・大欠損孔では、肺高血圧症をきたし、Eisenmenger化することがある
・ASDはまれだが、VSDでは感染性心内膜炎を合併しやすい
聴診:第3~4肋間胸骨左縁に最強点を有する全収縮期逆流性雑音の聴取、振戦(thrill:スリル)の触知
心電図:正常~軽度左室肥大
胸部X線:正常~軽度心拡大
確定診断には
①心エコー:心室中隔欠損孔、左→右シャントの確認
②心カテーテル検査:右房-右室におけるSaO2のステップアップ(酸素飽和度が5%以上増加)
③左室造影:心室中隔欠損孔、左→右シャントの確認
<治療>
小~中欠損の場合:経過観察となる
小欠損では2歳までに閉鎖することが多い
※小児への侵襲的手術は厳しい基準あり
心室中隔欠損症について(VSD:大欠損)
先天性心疾患の中で最も頻度の高いのがVSDである
・乳児期早期から、多呼吸、哺乳困難、体重増加不良、発汗などの心不全症状がみられる
・陥没呼吸の所見もあり、これは努力呼吸で生じる
・乳児:小さい泣き声または嗄声のことが多い
・一般的には発汗過多で皮膚の湿潤がみられる
→心不全で高度の体重増加不良では皮膚乾燥のこともある
VSDなどの心疾患を合併することがあるもの:猫鳴き症候群※がある。これは甲高い泣き声が特徴的である
※ 猫鳴き症候群:5pモノソミーであり、特徴は泣き声のほか特異的顔貌、精神発達遅延を伴う
聴診:第3~4肋間胸骨左縁に最強点を有する全収縮期逆流性雑音、ⅡPの亢進、拡張中期ランブルを聴取(相対的なMS)
心電図:両室肥大、左房負荷が認められる
胸部X線:著明に左室・左房・右室の拡大像、主肺動脈の突出、肺血管陰影増強を認める(左→右シャント)
→著明な肺うっ血、呼吸数増加から陥没呼吸あると考えることができる
左下肺野の肺気腫、左第2、第4弓の突出なども認められる
確定診断には、小~中欠損時と同様
①心エコー:心室中隔欠損孔、左→右シャントの確認
②心カテーテル検査:右房-右室におけるSaO2のステップアップ(酸素飽和度が5%以上増加)
③左室造影:心室中隔欠損孔、左→右シャントの確認
<治療>
大欠損の場合:手術療法となる
→パッチによる欠損孔閉鎖
※小児への侵襲的手術は厳しい基準あり
<VSDに合併するうっ血性心不全と肺高血圧症の乳児の治療方について>
・利尿剤投与:心室中隔欠損症では肺血流量が増加するため、心不全や肺うっ血を改善するために用いると良い
・1歳未満での開胸修復手術:心不全と肺高血圧がある症例では、心不全・呼吸不全の増悪やアイゼンメンジャー症候群となる危険性があるため、1歳未満であっても欠損孔閉鎖術を考慮するのが良い
特発性肺高血圧症の治療方法(薬物療法※)を、そのままVSDに合併した肺高血圧症の治療はしないこと!
同様に、VSDからの心不全でも同様に同じ治療はしないこと!
※ 特発性肺高血圧症の治療薬は肺血管拡張薬や酸素投与を行うが
VSDからの肺高血圧症では肺血管抵抗の低下は左右シャントを増加させて肺うっ血と心不全の増悪をきたす危険性があるためである
また、VSDからの心不全に関しても同じで、β遮断薬などの心不全治療薬は使用しないこと
<VSDの手術適応について>
・肺体血流量比 QP/Qs > 1.5 かつ減少傾向示さず、左室拡大を認める
・漏斗部欠損で大動脈弁逸脱・逆流が著明で進行性である
・肺動脈収縮期圧の圧較差50mmHg以上の右室流出路狭窄を認める
・再発性心内膜炎を認める
・肺体血流量比 QP/Qs > 1.5 ではシャント量が多いといえる
・小児の正常な心胸郭比は55%ほどである
・シャント量が増えるほど肺高血圧症を合併しやすいことから、肺動脈収縮期圧の上昇では手術適応となる
→肺血流量の増加で心不全を伴うこととなる
※ただし、Eisenmenger化した場合は手術適応はなし
手術の合併症として刺激伝導系の損傷による房室ブロックが起こりうることに留意
欠損孔が残存する場合、生涯にわたって感染性心内膜炎のリスクがある
低体重児や染色体異常、他臓器の疾患などの合併症がある場合は、心不全や肺うっ血、肺高血圧がある症例でも欠損孔閉鎖術(修復術)は危険性が高いため、肺動脈絞扼術※1を選択する場合もある
※1 肺動脈絞扼術(PA banding):肺動脈を狭窄させて、肺血流量を減少させる術式で、適応はAVSD/ECD、TGA(完全大血管転位症) Ⅰ型・Ⅱ型※2、VSD、総動脈幹症
TGAⅠ型では、一度圧が低下した左室(心房筋が大きいところ)を鍛えなおす目的で行う場合あり
TGAⅡ型では、過度の肺血流を阻止する目的で行う
※2 TGA(完全大血管転位症):Ⅰ型~Ⅲ型があり、新生児期にチアノーゼを起こしやすい先天性心疾患の中では最も多い疾患であり、心臓の出口の血管同士が互いに入れ替わっている
通常、左心室から大動脈が出ているところが、右心室から出ており、通常、右心室から肺動脈のところが左心室から肺動脈に出ている
無治療では、生後1年以内の致死率は9割を超す
逆に治療をすれば、今では9割以上救命できる
通常は全身→心臓→肺→心臓→全身と血流が巡るが、TGAでは全身→心臓→全身・肺→心臓→肺と二つの血液回路が巡ってしまっている状態である
<治療>
動脈管の開存を維持するPG(プロスタグランディン)の点滴投与をして肺への血流を維持する
・Jatene手術(ジャテーン):入れ替わっている大血管を元に戻し、冠動脈の移植も必要となる手術法
(肺動脈狭窄がない場合)
・Blalock-Taussig短絡術(ブレロック・トーシック)(BTシャント術)など:肺動脈狭窄がある場合に行い、肺への血流を増やす
→その後、肺動脈の再建をするRastelli手術(ラステリ)を行う
・チアノーゼ改善には、心臓カテーテルでBAS(balloon atrioseptostomy:経皮的心房中隔裂開術)を行う(風船カテーテルで心房中隔の穴を大きくする)
分類 | 病態 |
---|---|
Ⅰ型 | 心室中隔欠損なし |
Ⅱ型 | 心室中隔欠損あり |
Ⅲ型 | 心室中隔欠損あり、かつ肺動脈狭窄あり |
心室中隔欠損症でシャント量が多い場合について
心室中隔欠損症でシャント量が多いと肺血流量増加を伴う心不全となるが、この場合の所見は以下のようなものがある
・乳児期早期から多呼吸、陥没呼吸、哺乳量の低下、発汗、持続する心不全などがあり、これらの結果から体重増加不良となる
聴診:第3~4肋間胸骨左縁を最強点とする全収縮期雑音、肺高血圧症の合併に伴うⅡpの亢進、相対的僧帽弁狭窄による拡張期ランブル聴取
心電図:両室肥大、左房負荷認める
胸部X線像:著明に左室・左房・右室の拡大や肺血流量増加による主肺動脈の突出、肺血管陰影の増強(左心系の容量負荷上昇)を認める
心エコー:四腔断面像では、左心系が右心系よりも大きく見える
→一方で、VSDも肺血流量増加するが、これは欠損孔を通って右室に還流する血液増加で、右心系に容量負荷がかかる
このため、四腔断面像では、右心系が左心系よりも大きく見える
心室中隔欠損症の重症度での分類について
心室中隔欠損症を合併する疾患には、Down症や18トリソミーなどが挙げられる
項目 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
---|---|---|---|
血行動態 | 正常 (左→右シャント) | ・LV容量負荷の上昇 ・肺高血圧 ・左→右シャント | ・肺高血圧からのEisenmenger化 (2歳以前にEisenmenger化するのは稀) ・右→左シャント |
ECG | 正常 | LVH:両室肥大 (左室高電位ないし両室高電位) | RV1高電位を示す (右室肥大像) |
聴診 | ・全収縮期雑音(胸骨左縁第3・4肋間)+thrill →重症化すると弱くなる ・Ⅱ音の病的分裂(幅広い分裂) ・Ⅲ音(心尖部) ・拡張中期ランブル(機能的MS) ・中等度以上ではⅡPの亢進、心尖部で拡張中期雑音の聴取 (Carey-Coombs雑音) | 左に同じ | ・肺高血圧進行とともにⅡPはⅡAに近づく ・Ⅱ音上昇(ⅡP成分のみ) ・Graham Stell雑音(PR) ・収縮期雑音の減弱または消失 |
胸部X線 | 正常 | ・肺血管陰影増強 ・左室拡大からの両室肥大 | 末梢肺野が明るくなる 右室肥大 |
右心カテーテル | RA-RVにおけるO2のstep up (7.5%以上の増加) | 左に同じ | アイゼンメンジャー化すると右室でのO2step upは消失 |
漏斗部心室中隔欠損について
VSDの中でも、漏斗部心室中隔欠損では、雑音聴取部位が高位であること、造影所見が必要である
・心不全徴候なければ運動制限はない
<診断>
①VSDについては、カテーテルで心室の酸素飽和濃度上昇を調べれば診断可能である
また、漏斗部の欠損では、右室流入路ではなく、流出路での酸素飽和度を認める
②雑音の最強点が胸骨左縁第2肋間であること、VSDが高位であることを示している(膜様部は胸骨左縁第4肋間)
肺動脈弁狭窄も同一部位の雑音だが、収縮期駆出性雑音(ダイヤモンド型)となる
<治療>
造影所見で逸脱が大きいと判断すれば心内修復が必要である
造影所見で逸脱が小さく、大動脈弁逆流も見られないならば経過観察ということもある
欠損部位の位置による分類について(Kirklinの分類)
心臓の欠損部位の位置によって分類がある。これをKirklin(カークリン)の分類という
・欠損孔が小さい場合、左室と右室の圧較差が大きく、むしろ乱流の程度が著しくなる
このため、第3~4肋間胸骨左縁で強大な荒々しい雑音(Roger雑音:ロジャー)が聴取される
・膜様部VSD(Ⅱ型)では、中隔瘤を形成しつつ自然閉鎖する
分類 | 欠損部位 | 特徴 |
---|---|---|
Ⅰ型 | 漏斗部 (高位欠損) (肺動脈弁の下あたり) | ・日本で多い ・自然閉鎖は稀 ・大動脈弁閉鎖不全症(AR)の合併がある |
Ⅱ型 | 膜様部 (傍膜様部) (室上陸の下あたり、心臓中心付近) | ・最多 ・自然閉鎖が多い |
Ⅲ型 | 流入部 (後方欠損) (右房室口付近) | ・心内膜床欠損型ともいう ・ダウン症候群に多い |
Ⅳ型 | 筋性部 (低位欠損) (左下あたり) | ・日本では少ない ・新生児の小欠損は高率で自然閉鎖する |
Ⅰ型合併症のRV(RVの本当の欠損孔の大きさと見かけの欠損孔の大きさの違いあり)
①漏斗部心室中隔欠損+大動脈弁尖逸脱 では、欠損孔の上縁を右冠尖が覆うため、見かけの孔は小さくなり、短絡量は少ない
(短絡:閉鎖不全のこと)
②VSDを完全に覆うほどまで逸脱した例では、肺体血流量比は1.1程度のことが多い
一般的に、VSDの手術適応は
「肺体血流量比が1.5以上かつ左心負荷がある場合に手術で、1.5以下では手術不要」となっている
しかし、右冠尖逸脱を伴う漏斗部VSDでは、肺体血流量比のみで手術適応を決定するのは良くない
漏斗部VSDの診断があれば、定期的な心エコー検査が不可欠である
12誘導心電図(簡潔版)
ここでは簡潔にまとめた内容となります。具体的にはやはり画像を見ながら確認する必要がありますので、別の機会にまとめていきます
・PR間隔は不整であり、P波は確認できない状態:心房細動の可能性
・V1、V2でrsR'を呈し、V5、V6のS波が深い:不完全右脚ブロックの可能性
ペースメーカーの適応について
<ペースメーカー植え込みの適応について>
恒久的ペースメーカーは
①完全房室ブロック
②MobitzⅡ型の2度房室ブロック
③洞不全症候群(SSS)
のいずれかの疾患があり、めまいや失神、心不全を伴う場合に適応
心房細動について(AF)
心房細動は抗凝固療法の適応となるが、血栓溶解療法は行わない
→血栓溶解療法は、急性心筋梗塞、肺血栓塞栓症、脳梗塞などが適応となっている
<心房細動の治療>
第一選択:電気的除細動、薬物療法
<発作性心房細動の治療>
カテーテルアブレーションの適応範囲が広くある
カテーテル治療の適応は欠損孔の位置や大きさによっても左右する(欠損孔が心房中隔中心部にないならば施行することはできない)
→持続性心房細動では適応が低くなる
場合によっては、電気的除細動、薬物療法の後にカテーテル検査+カテーテル治療による欠損孔閉鎖+カテーテルアブレーションという方法も考慮
カテーテル治療ができず、心内修復術+maze手術という選択となることもある
治療としては心内修復術をすることが多いが、様々な条件を検討して治療方針は決定することになるため、一概には言えない
ここからは、心疾患についての各論をみていきますが、ここでは大まかな内容となっております
詳細は、循環器疾患編でしっかりまとめていきたいと思いますので、今回はサラッと確認していただければと思います
右心不全について
・上大静脈や頸静脈のうっ血を呈し、頸静脈の怒張がしばしばみられる
・Ⅱ音の肺動脈成分の亢進は肺高血圧症でみられるもの(左右シャントによるもので、原発性肺高血圧症ということも考えられる)
(左→右シャント(心房) → 右室容量負荷 → 肺血流量アップ)
・右心不全の背景に心房中隔欠損症あれば、肺高血圧が進行し、右から左へのシャントを呈すれば、チアノーゼをきたすこととなる
胸部X線
正面像:左第2弓の突出、肺門部血管陰影の増強、末梢肺血管陰影は減少する
側面像:右室拡大による心陰影の前方突出(左室拡大なければ心陰影の後方突出(第4弓の突出)はない)
左心不全について
・湿性ラ音がみられる
・喘鳴は、左心不全による肺うっ血に伴う気管支攣縮で生じるもの
→これを心臓喘息という
QT延長症候群について
QT延長症候群では、遺伝子異常や内服薬の副作用などによってQTが延長し、Torsades de Pointes(TdP:トルサード・ド・ポアンツ)を生じやすく、TdPから心室細動(Vd)に移行して突然死の原因となる疾患である
WPW症候群について
WPW症候群では心房細動の発症率がやや高く、副伝導路の不応期が短いと心房細動から心室細動(Vd)をきたして突然死する可能性がわずかにあるが、心不全症状や血行動態異常は伴わない疾患である
拡張型心筋症について
拡張型心筋症とは、左室壁の運動低下で肺静脈圧の上昇や肺動脈圧の上昇が順に進行して両心不全をきたす疾患である
これは、突然死をきたすことがある疾患だが、胸部X線では肺うっ血や心拡大を呈する
完全房室ブロックについて
完全房室ブロックとは、徐脈の持続で心不全症状をきたしうるが、その場合に肺うっ血や心拡大を伴う
今回はここまでとなります
次も引き続き、小児科編の循環器疾患についてみていきます
<参考紹介>
メディックメディア:クエスチョン・バンク vol.4 小児科
病気がみえる:vol.10 産科
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
できる限り正確な情報発信に努めておりますが、当サイトに記載した情報を元に生じたあらゆる損害に対しては当サイトは一切責任を負いませんので、あくまでも参考としてご利用ください。)