ここではポリープ、腫瘍、癌についてまとめていきたいと思います。
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
癌、腫瘍、腺腫などの種類について
・腺癌:易出血性であり、上皮性の形態が認められる。組織像も見た目が明らかに異なることがわかる。
・腺腫:ポリープ型を呈しているが、上皮性の形態が認められる。
・肉腫:粘膜下腫瘤様の形態を示すこともあるが、大きいものであることが多い。
・脂肪腫:黄色調で粘膜下腫瘤様の形態が認められる。弾性軟である。
・カルチノイド:粘膜下腫瘤様の形態を呈する。内視鏡的には正常上皮に覆われた粘膜下腫瘤様だが、黄色調に透見されることが特徴としてある。
これは粘膜深部にある神経内分泌細胞が腫瘍性に増殖したものである。
そのため、粘膜下腫瘍に類似している(粘膜下層由来の腫瘍というわけではない)
→ 神経内分泌腫瘍のG1に分類される
・中心陥凹を伴うことがある。
・発生部位は直腸、胃が全体の3分の2を占めている(日本において)
欧米では虫垂、小腸でおよそ3分の1を占める。
癌治療の種類について
・動脈塞栓術:腫瘍に栄養を送っている血液の流れを止めて腫瘍の発育を阻止し、壊死させる方法
・エタノール注入:アルコールであるエタノールを注入することで腫瘍を壊死させる方法
・ラジオ波焼灼:細い針を腫瘍に穿刺し、その先端から放射されるラジオ波で腫瘍を焼く方法
・硬化療法:血管内に接着剤の役割のある硬化薬を注射して血管をふさぐ方法
大腸ポリープについて
・原因として、食の欧米化が考えられている。
・大腸腺腫は年齢を重ねるごとに増えるものであり、直腸が5割、S状結腸が2割で好発する。
大腸ポリープの8割は腺腫性だが、癌化しやすい。
隆起型腫瘍:大きなポリープは腺腫内癌が発生し、その後粘膜下層へ浸潤する経過をとる。
陥凹型腫瘍:隆起型に比べて小さなものであっても癌化率が高く、粘膜下層えの浸潤傾向は強い。
・形態にかかわらず、腫瘍径が増すほど癌化率も増加する。
・無茎性ポリープがほとんどである。また無症状のことが多い。
・便潜血陽性、内視鏡検査で下行結腸の病変がみられることがある
・過去に大腸ポリープの内視鏡的切除術(ポリペクトミー)をしたことがある
→ 大腸ポリープの再発、遺残の可能性を考慮
良性であれば、治療は同じく、内視鏡的切除術となる。
・これは腺腫が主体(大腸腺腫等)ではあるが、癌が混在している可能性もある
5mm以下のもの、過形成ポリープでは経過観察でよい。
→ むやみに取ることは穿孔や後出血のリスクもあるため
ポリープの型について
<参考>JSCCR | 大腸癌研究会(閲覧:2021.9.8)
この肉眼的分類は胃癌でも用いられている。(今回のⅠ型(隆起型)以外は消化器編⑥を参照)
Ⅰp型:有茎型であり、茎部が平滑、筋層への癌浸潤を示す所見は無い。(進行癌ではない)
Ⅰsp型:亜有茎型である。
Ⅰs型:無茎型である。
大腸ポリープの組織分類について(Morson分類)
腫瘍性 | 腺腫 ①腺管腺腫:80%程 ②腺管絨毛腺腫:20%程 ③絨毛腺腫 |
非腫瘍性の過誤腫性 | 若年性ポリープ Peutz-Jeghers型ポリープ |
非腫瘍性の炎症性 | 炎症性ポリープ 良性リンパ濾胞性ポリープ |
非腫瘍性、その他 | 過形成性ポリープ |
リンク先
過形成ポリープについて
・過形成ポリープは癌化することは無いと考えられている。腺腫性であれば癌化しやすい。
・直腸からS状結腸が好発部位であり、高齢者に多い。
リンク先
家族性腺腫性ポリポーシスについて
・FAPと略される
・腸管内にポリープが多発
・10代前半までは無症状の事が多いが、その後腹痛や下血などを起こし
40歳でおよそ50%、60歳までにはほぼ100%大腸がんが発生するため、治療は大腸全摘となる。
これは、予防的に大腸切除術を施行するということが大事である。
手術:大腸がんの発生母地である全結腸の切除、直腸粘膜の抜去、再建には回腸、肛門吻合術というのが一般的
・一つの型として、Gardner症候群などがある(以下にまとめあり)
癌に移行しやすい消化管ポリープについて
①腺腫性の多発ポリープ:FAP、Turcot症候群などの消化管ポリポーシス
②径2cm以上のポリープ:大腸腺腫
③大腸の絨毛腺腫
リンク先
消化管ポリポーシスの分類・特徴について
疾患 | 遺伝性 | 部位 | 組織 | 随伴病変 | 悪性化 |
---|---|---|---|---|---|
家族性腺腫性ポリポーシス(FAP) | 常染色体優性 | 大腸 | 腺腫 | 胃・小腸腺腫 | あり |
Gardner症候群 | 常染色体優性 | 大腸 | 腺腫 | 骨・軟部腫瘍 | あり |
Turcot症候群 | 常染色体劣性 | 大腸 | 腺腫 | 中枢神経腫瘍 | あり |
Peutz-Jeghers症候群 | 常染色体優性 | 全消化管 | 過誤腫 | 色素沈着 | まれ |
若年性ポリポーシス | 常染色体優性 | 大腸 | 過誤腫 | 無し | まれ |
Cronkhite-Canada症候群 | 無し | 全消化管 | 過形成 | 色素沈着、脱毛、爪萎縮、蛋白漏出 | 無し |
上行結腸癌について
・右下腹部の不快感(これだけだと、盲腸癌、憩室炎、虫垂炎も疑うこと)
・症状が間欠的であれば腸重積症も考える
・腹部の視診と聴診(イレウスによる金属音)で腹部大動脈瘤(拍動なしを確認)、腹壁瘢痕ヘルニア※1、腸閉塞を否定する
※1 腹壁瘢痕ヘルニアは腹部手術創をヘルニア門とするヘルニア。大部分は創部感染による二次的治癒瘢痕から発生する。
・腫瘤触知があると、上行結腸癌、盲腸癌、腸重積症の可能性
・腹壁デスモイド腫瘍(腹壁類腱腫)※2の否定。
※2 これは、原因不明の腹壁の筋腱膜(きんけんまく)から発生する線維腫であり、稀な疾患の一つ。
若い女性や経産婦に多い(8割を占めるほど)
・圧痛、熱感が認められる
・FAP関連のデスモイドは男性で比較的若い世代に多いとされる。
遠隔転移は無いが、周囲浸潤はゆっくりある。(このため、良性と悪性の中間とされている)
局所再発が多い。
治療:今までは、軟部悪性腫瘍と同じく、十分な切除縁をもって広範切除が推奨だったが、近年、無症状であれば無治療の自然経過観察のこともある。(自然縮小がみられることあり)。
上行結腸癌の治療では、上行結腸を剥離することで右尿管損傷を起こすことがある。
しかし、排尿障害を起こすことは通常考えにくいとされる。
<参考>
デスモイド腫瘍・子宮内膜増殖症状 - 徳島県医師会Webサイト (med.or.jp)(閲覧:2021.9.8)
腹腔外発生デスモイド型線維腫症 診療ガイドライン 2019年版:desmoid.pdf (joa.or.jp) (閲覧:2021.9.8)
デスモイド腫瘍 | 希少がんセンター (ncc.go.jp) (閲覧:2021.9.8)
リンク先
大腸癌について
・大腸に茎を有した突出性病変。茎の先はカリフラワー状に膨隆。
表面は不揃いな点状ないし斑点状の発赤がみられる。
中心部の潰瘍も存在。
・50歳~70歳代に多く、60歳代がピークである
・潰瘍性大腸炎が大腸がんの発生母地
・症状は、進行するにしたがって血便、便秘・下痢の繰り返し、便中狭小化などみられてくる。
・病期の決定には壁深達度、リンパ節転移の有無・転移の個数・転移範囲、肝転移の有無、腹膜転移の有無などがある
・イレウスや腸重積症を合併することがある
大腸がん検査について
・便潜血陽性であれば一先ず、下部内視鏡検査をすること
その後の流れとしては、診断、精査、転移の有無確認、治療方針決定、切除可能例は切除。
・大腸癌からの肝転移の示唆について(肝臓は治癒後の再発が最も多い部位である。次に肺転移が多いとされる)
肝転移では末梢の胆道系が閉塞障害されることで、ALP高値(基準の260単位を大いに超える)、LAP、γ-GTPなども上昇する。
・腫瘍マーカーであるCEAも上昇する。また、CA19-9も上昇(膵癌でも上昇するもの)
転移の可能性からあらゆる検査をする
・肺転移や肝転移:胸部X線検査、腹部超音波検査、腹部造影X線CT、腹部血管造影
・まずは、直腸診での腫瘤触知確認
・内視鏡検査で、周堤を有する潰瘍性病変を認める。進行癌の2型が多い。
・下部消化管造影で不整な陰影欠損や全周性の壁不整を伴く狭窄(apple core sign)を認める
・腹部造影CT検査では肝臓に多発性の低吸収域を認める。肝転移が多い。この場合は進行大腸癌を考慮
確定診断:内視鏡所見、生検組織診を参考とする
大腸がん治療について
・内視鏡検査、下部消化管造影検査、超音波内視鏡検査(EUS)、CT検査などを行い
病変の深達度や転移の有無を調べ、全身状態を考慮したうえで治療方針を決定していく。
<治療について>
・内視鏡的治療:ポリペクトミーまたは内視鏡的粘膜切除術(EMR)がある。
粘膜内癌(M癌)、粘膜下層(SM)への軽度浸潤癌はリンパ節転移の可能性は低いため、これが適応される。
→ 切除標本を病理的に評価し、次の手術治療追加を考慮していく。
・手術療法:腸管切除+リンパ節郭清(+人工肛門造設)
考え方:早期癌や進行癌の遠隔転移なしであるstage0~Ⅲであれば原発巣の切除+リンパ節郭清は基本である
方法として、腹腔鏡手術が増えてきている。術前には化学療法や放射線療法を行っておく。
また、術後にリンパ節転移がみられるようであれば、補助化学療法や全身化学療法を行うこともある。
腸管切除術後の傾向摂取開始の目安について
・腸切除術後は麻痺性イレウスの状態であり、48時間後くらいから蠕動運動が回復する。
・腸管切除術後の経口摂取開始目安は排ガスが認められた時からである。(必ずというわけではない)
胃や小腸というのは血流が豊富であり、排ガスが認められることで、第4病日ころから食事摂取を開始となる。
・食道手術後や、胃全摘術後、結腸切除術などでは、排ガスが認められたとしても
食事の再開は遅らせて、第7病日(回復期に入る)ころから始める。
この際、食道、胃全摘術後ではガストログラフィンで透視をし
leakのないことを確認(エンドリーク:血液が瘤内に漏れる状態)してから再開すること。
大腸がんの転移について
・直腸上部より口側:血行転移は門脈経由で肝へ、リンパ節転移では腸間膜リンパ節へ転移する
・直腸中部より肛側:血行転移は総腸骨から下大静脈経由で肺へ、リンパ節転移では鼠径、腸骨リンパ節へ転移する
<肝転移について>
原発巣が根治的であれば肝切除がよい。
多発性であれば肝切除不能となる。この場合は、多剤併用の全身化学療法を選択
肝動脈にカテーテルを挿入することで
肝臓のみに抗がん剤を注入する肝動注療法や
転移巣に針を刺して熱を発生させて癌を凝固させ死滅させる熱凝固療法がある。
<遠隔転移があるstageⅣの場合>
・原発巣や転移巣が切除可能であれば手術治療をする
(原発巣切除+リンパ節郭清+肝臓や肺転移巣の切除)
・切除不能例では、化学療法としてFOLFOX療法※1やFOLFIRI療法※2などを行う。
分子標的薬という新分野の治療薬もある。
・緩和療法では、原発巣のみの切除やバイパス手術、人工肛門造設などを行う。
※1 FOLFOX療法について
1日目は病院でオキサリプラチン(L-OHP)+レボホリナートカルシウム(l-LV)の点滴注射を2時間行い
続けて5-FUを5分程度で注射する。
その後、5-FUの持続点滴注射は帰宅後も続けて46時間行う。
2週間に1度通院し、このサイクルを繰り返し受けることとなる。これを1クールという。
帰宅するというのは
抗がん剤が入った携帯用ポンプを用いることで自宅で点滴を続けることができる器具があります。
そのためには、カテーテルを胸部か腕に埋め込む必要がある。
副作用については、食欲低下は軽度であり、脱毛は少ない。
ただし、8~9割で感覚神経の末梢神経障害がみられる。
これは、治療開始すぐであれば2〜3日程度で消失するが
長期治療を続けることで回復が遅れていき、4、5ヵ月となると1割で感覚麻痺などの機能障害がみられる。
その際は、血液検査所見も加えて、リスク&ベネフィットにより、投与量の調節を行っていく。
※2 FOLFIRI療法について
これは、FOLFOXの投与薬剤が異なるだけで、治療方法としては同じである。
治療薬は5-FU+ロイコボリンとなります。
1日目はイリノテカン(CPT-11)の点滴注射+レボホリナートカルシウムの点滴注射を2時間行い
帰宅し、5-FUはそのまま継続して46時間投与します。
<参考>
詳しくは大腸癌研究会をご覧ください。かなり詳細です。
ICtool_rev.pdf (jsccr.jp)(閲覧:2021.9.10)
腫瘍などによる大腸イレウスの治療について
大腸癌でイレウスの状態を閉塞性大腸癌という。
腫瘍などによる大腸イレウスの治療については
外科切除を要することが多いが、通常は閉塞部から口側にかけ閉塞による大腸炎をきたす。
このため、吻合(ふんごう)部の状態が不良となり、縫合不全の原因とある。
そのため、近年では
術前にX線透視下で経肛門的にチューブ挿入する方式や大腸内視鏡下にステントを挿入する方式で
絶食、輸液、狭窄部口側の減圧を行う
その後に、待機的一期的手術※を行うか、二期的に手術療法をする人工肛門造設+腫瘍切除を行う。
ステント留置での減圧で術前狭窄解除はイレウス管を用いる必要はないため、患者の精神的・肉体的負担は少ない
※待機的手術:緊急手術の対義語である。これは、計画的に治療的処置を行なうことをさす。緊急性は無いため、しっかり計画的に行い患者の理解、同意や医療者の術前計画の確認、処置の把握ができる。
<参考>
待機的手術 | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)(閲覧:2021.9.8)
大腸癌ステージ分類は以下通りとなります。尚、肉眼型分類は胃癌に準拠してありますので、リンク先で参照してください。
肉眼型分類:0型は粘膜内癌、早期癌、1型~5型は進行癌。2型が8割を占める。
ステージ | 状態 | 治療 |
---|---|---|
ステージ0 | 癌が大腸粘膜(SM)の中に留まっている状態 | 内視鏡切除術 |
ステージⅠ | 癌が大腸の固有筋層(MP)に留まっている状態(直径2cm以内を基準とする) リンパ節転移は無し | 内視鏡切除術 転移の可能性があればリンパ節郭清(切除)も行う |
ステージⅡ | 癌が大腸の固有筋層の外に浸潤している状態(直径2cmを超える) リンパ節転移は無し | 病変部位の大腸切除とリンパ節郭清 開腹手術※1 |
ステージⅢ | リンパ節転移がある | 開腹手術 腹腔鏡手術※2 |
ステージⅣ | 血行性転移(肝臓や肺などへ転移)や腹膜播種がある | 開腹手術など 転移の処置は状態に応じて様々 |
※1 開腹手術:腹部を15㎝ほど切って行う手術
※2 腹腔鏡手術:腹腔鏡という特殊な内視鏡や手術器具を入れてがんを切除する手術
<参考>
日経BP社:ステージ分類とそれに応じた治療法:がんナビ (nikkeibp.co.jp)(閲覧:2021.9.8)
大腸の外科手術の種類について
部位に応じて術式が決まっており、それぞれの切除範囲というものが決まっている。
癌部位 | 術式 |
---|---|
虫垂 | 虫垂切除術 |
盲腸 | 回盲部切除術 |
上行結腸 | 右結腸切除術 右半結腸切除術 |
横行結腸 | 横行結腸切除術 |
下行結腸 | 左半結腸切除術 左結腸切除術 |
S状結腸 | S状結腸切除術 |
直腸 | 高位前方切除術 低位前方切除術 直腸切断術 |
その他大腸がんについて
遺伝性非ポリポーシス大腸癌について(HNPCC、リンチ症候群)
・遺伝性非ポリポーシス大腸癌とは、遺伝的にポリポーシスを伴わない大腸癌が発生する疾患で常染色体優性遺伝を示す。
・FAPとは別の疾患であるため注意
・大腸がんの多発、複数臓器への癌発生がみられるが、他の散発性大腸癌と比べて予後は良いとされる。
・これは、ミスマッチ修飾遺伝子の異常が原因であり、右側結腸に好発する。
発症は50歳以下と若年発症となっており、大腸以外にも胃癌、膵癌、子宮内膜癌、卵巣癌、尿管・腎盂癌など様々ある。
・全大腸癌のHNPCC割合は5%以内と推測されている。(日本国内:では低めの0.2~4%ほどといわれる)
リンク先
直腸癌について
直腸癌
(1)上部直腸癌は上直腸動脈に沿って下腸管膜動脈周囲に転移しやすい
(2)中・下部直腸癌は中・下直腸動脈に沿って内腸骨動脈周囲に転移しやすい
(3)肛門癌は鼠径リンパ節に転移しやすい
・組織学的には腺癌である。腸管粘膜から発生する癌であり、扁平上皮癌の肛門癌とは別となります。
・腹腔内(結腸から上部直腸):門脈を介して肝へ転移しやすい
・それ以下は、内腸骨静脈、下大静脈を介して肺に転移しやすい
ここは血管構造などから考えないといけないため、画像で確認しないと難しい所です。画像用意できないため、ご了承ください、、、
・直腸癌は便通異常を示すことが多い。(右側大腸癌よりも多い)
→ これは、右側大腸というのは吸収機能を持っており、管腔は広くて狭窄を起こしにくいからである。
・肛門に近づくほど出血頻度は増える
・右側結腸癌では腸管内容の液状があり、通過障害は起きにくいことからがんの発見が遅くなりがちである。体重減少、病巣からの出血による貧血などの全身症状、腹部腫瘤の触知でみつかる。
・一方で、左側結腸癌は腸管内容が固形であり、肛門に近いことから、比較的早期に症状発現がみられることから発見も早い。
直腸癌症状:血便、便の細小化、癌の膨隆でイレウスを併発することあり
検査について
(1)注腸造影の所見、確定診断には生検による組織診断が必須。
(2)腹部造影CT:遠隔転移(特に肝転移)の有無、周囲臓器への浸潤の有無、リンパ節腫脹の有無
(3)大腸内視鏡検査:腫瘍の観察、生検による組織診断
治療:切除不能な遠隔転移が無ければ手術が第一選択、直腸切断術からの腹壁に人工肛門造設
腫瘍が大きい、隣接臓器への浸潤がある、肝転移があるなどは
化学療法、放射線療法で腫瘍や転移巣を縮小させてから手術する治療となる
直腸癌手術でリンパ節郭清することで、排尿障害や性機能障害(勃起障害、射精障害)は起こることがある。
腫瘍マーカーCEAについて
・陽性率は40~70%であり、早期大腸癌では陽性率低く、末期程上昇していく
・術後には一旦値は下がるが、再上昇時は再発や転移の徴候といえる
・特に急速な上昇では肝転移を表す。
・早期癌では発見は困難であり、有用とはいえないが、CEAを用いる意図としては、再発や転移の指標として用いることは有用といえる。
直腸癌の分類について
・直腸癌の部位により名称がつけられている(以下参照)
・直腸壁にある3つの直腸横ひだはヒューストン弁(Houston)といい、中ヒューストン弁(中直腸ひだ)(middle Houston)が腹膜反転部と同じ高さと言われる。
・ヒューストン弁は肛門側から数えて第1、第2、第3となる
部位 | 仙骨とその位置 | 術式 |
---|---|---|
RS(直腸S状結腸部) | 岬角~S2下縁 | 高位前方切除術 |
Ra(上部直腸) | S2~S4下縁 (このS4は中直腸ひだの高さに相当し、腹膜反転部まで) | 低位前方切除術 |
Rb(下部直腸) | S4下縁以下 (腹膜反転部以下であり、恥骨直腸筋付着部上縁まで) | ・低位前方切除術または ・腹会陰式直腸切断術(Miles手術) |
・RaとRbの境目がちょうど腹膜反転部(直腸のカーブの角部分)にほとんど一致する
・Sは仙骨を表す。S2とは、第2仙骨ということになる
・Hartmann手術:あえて吻合をせず口側の結腸を人工肛門にする術式。これは、高齢例、合併症が多く全身状態が不良、縫合不全のリスクが高い場合に行う手術である。
<参考>
直腸癌の分類、画像診断、術式(Ra,Rb,Rs,肛門管癌) (xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp)(閲覧:2021.9.8)
腹会陰式直腸切断術について
・腹会陰式直腸切断術は、下部直腸癌や肛門管癌に対して行う術式である。
・肛門は温存されない術式である
・お腹である腹壁とお尻側の会陰両方からアプローチすることで
直腸、肛門の切除を行い、S状結腸を用いて人工肛門を左下腹部に増設する。
人工肛門増設について
人工肛門は腸管を腹壁まで持ち上げて増設するものである。
そのため、腹腔内で固定されていない腸管(小腸、横行結腸、S状結腸)を用いられる
・回腸瘻(イレオストミー):右下腹部に増設する
・右上腹部、左上腹部:横行結腸を用いて人工肛門を増設する場合の部位。
左上腹部への人工肛門増設は、通常の左下腹部に増設できない場合に行うことがある。
(高度肥満で腹部の脂肪により左下腹部の位置が見えにくい場合、たるみ等で装具が貼れない場合など)
ストーマについて
ストーマとは、手術によって腹部に新しくつくられた便や尿の排泄口のことをいう。これは不随意の排泄となる。(縫合する部分には括約筋がないため)
・消化器系において、小腸ストーマ(イレオストミー)、結腸ストーマ(コロストミー)がある。
・また、一時的人工肛門と永久人工肛門がある。
・ストーマの形によって、単孔式と双孔式がある。
・ストーマサイトマーキングとは
術前に装具がつけられる平らな位置や自分で処置ができる位置などを考慮して、増設する位置を確認すること。
ストーマにおける合併症について
ストーマにおける合併症は、消化液や装具の接触によっておこる皮膚障害が最も多い。
このほか、脱出や陥没、狭窄、出血、傍ストーマヘルニアなどが挙げられる。
※変形や陥没したストーマは身体障害者認定を受けられます。
S状結腸癌について
S上結腸癌では
・大腸内視鏡において不整な易出血性腫瘍性病変による全周性狭窄所見と、CTコロノグラフィー※におけるS状結腸の高度狭窄所見がみられる。
※ CTコロノグラフィー:バーチャルコロノグラフィーともいう。3D再構成画像である。
これは、肛門から大腸、直腸内へ空気を注入したうえでCT撮影を行い、画像処理を行うことで、実際に内視鏡でみているような画像を再構成する方法。
・右側結腸癌では、一般的に自覚症状は乏しく、下痢症状をきたすことが多い。
・左側結腸癌では、イレウス症状が多く、便秘や通過障害をきたす。
・S状結腸、直腸癌では、血便、粘血便、便の狭小化が多い。
治療:S状結腸切除術
・イレウスの発症から癌が発見することもある。
(症状:嘔吐、排ガス・排便停止、腹部膨隆、脱水があれば皮膚緊張の低下、金属性腸雑音など)
先にイレウスの治療
(腸内容の吸引、脱水による輸液、抗菌薬、イレウス管挿入、イレウス箇所の改善など)をしてから
イレウスの原因の精査を行い、癌が見つかるという例もある。
3D再構成画像について
種類は様々であり、増えてきている。
頭部の三次元CT血管撮影像、肝動脈の造影3D-CT、胸腹部造影3D-CT、胸郭3D-CT、顔面骨3D-CT、肝臓ボリュームメトリーなど
リンク先
肛門癌について
・大腸肛門腫瘍では、高分化~中分化腺癌が95%を占めており、未分化腺癌というのは少ない
・鼠径部リンパ節に転移しやすい
・組織学的に扁平上皮癌である
・肛門部歯状線から下の皮膚部分から発生したものであり、直腸癌とは異なる。
Dukes分類について(デュークス)
・Dukes分類とは、癌の深達度とリンパ節転移による進行度分類であり、予後と相関している。古典的な分類といえる。
・他にはTNM分類を用いる(胃癌のページ参照)
・切除された結腸・直腸癌等の検体についての浸潤度分類
A:腫瘍が粘膜部(腸管壁内)に限局しているもの
B1:腫瘍が粘膜筋板までのもの
B2:腫瘍が粘膜筋板(腸管壁)を越えているが、リンパ節転移のないもの
C1:腸壁内に留まるものだが、リンパ節転移はある。
C2:腸壁を貫いており、リンパ節転移もある。
<参考>
詳しくはこちらが良いかと思います。
大腸がんガイドライン解説 | 再発転移がん治療情報 (akiramenai-gan.com)(閲覧:2021.9.9)
リンク先
カルチノイド症候群について
・一例として、大腸癌からの肝転移から、肝機能低下により、カルチノイド症候群を呈するといったこともある。
また、肺の腫瘤形成によるカルチノイド症候群もありうる。
・カルチノイドのほとんどは良性腫瘍である。→ 手術で摘出
・カルチノイド腫瘍はセロトニン、ヒスタミン、ブラジキニンの他、プロスタグランジンなどの生理活性物質が分泌され、この分泌物によって様々な症状がみられる。
主な症状は、皮膚潮紅発作、気管支喘息様発作、腸管蠕動運動亢進、右心不全症状がある。
・皮膚潮紅発作:皮膚の小血管拡張によるもので、最も多い症状である。(血管運動性症状)
・気管支喘息様発作:セロトニンなどの物質で気管の収縮がおこり、喘息様症状をおこす。
・腸管蠕動運動亢進:セロトニンの増加により小腸運動の亢進が起こり、糖、蛋白、脂肪の吸収障害が起こり、水様性下痢がみられる。
※この症状だけでは、ダンピング症候群も鑑別として考慮が必要です。
・右心不全症状:肺動脈弁狭窄、三尖弁閉鎖不全などみられるが、血圧変動は特にない。
肺動脈弁や三尖弁はセロトニンによって線維化が起こっていると考えられている。
セロトニンは肺で不活化されることから、右心系に生じやすいとされる。
検査所見:採血、尿検査ともに異常値は無く、小腸の径2cmの腫瘍がみられる。
→ 小腸カルチノイドを考える。これによりカルチノイド症候群を引き起こしていることを考慮。
セロトニンは尿中の代謝産物の上昇を検出し、診断可能。
直腸カルチノイドについて
大腸腫瘍病変からのカルチノイドについて
・表面平滑な隆起と正常細胞粘膜下にある索状、ロゼット様配列※からカルチノイドを診断する。
・均一で多角形の細胞が索状~リボン状に配列しており、場所によりロゼット様である。
カルチノイドの特徴として、核は小型、円形で中心に存在する。分裂像は少ない。
※ロゼット様配列:細胞が放射状に配列したものである。
<参考>
以下に、詳細あります。
ロゼット様:バイオキーワード集|実験医学online:羊土社 (yodosha.co.jp)(閲覧:2021.9.10)
消化管神経内分泌腫瘍について
・原腸系組織に存在する神経内分泌細胞( Kulchitsky細胞(クルチツキー)など)由来の粘膜下腫瘍である。
・日本においては、直腸や胃・十二指腸に多い。
・神経内分泌腫瘍のうち、セロトニンなどの生理活性物質を分泌して、症状を起こすものをカルチノイド症候群という。
・増殖は緩徐であり、予後は比較的良好ではあるが、リンパ節や肝臓への転移を起こす可能性あり。
治療
・切除可能であれば外科的切除、内視鏡的切除(EMR)を行う
・切除不能例では多剤併用化学療法となる
・カルチノイド症候群に対しての治療は、ソマトスタチンアナログ製剤を用いる(オクトレオチド)
神経内分泌腫瘍の分類について
・神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)とは
全身にある神経内分泌細胞からできる腫瘍で
膵臓、消化管(胃、十二指腸、小腸、虫垂、大腸)、肺などの様々な臓器にできるもの
・内視鏡検査、消化管造影検査では
表面平滑な隆起性病変、bridging fold、delle(頂部の陥凹)などを認める
また、内視鏡検査において、粘膜下に黄色に透見されることあり
消化管神経内分泌腫瘍の検査について
これら検査項目により診断確定をさせる
・尿検査:5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)の上昇
・血液検査:血中セロトニン濃度上昇
・生検組織診:H-E染色では、小型で均一な細胞の索状、リボン状、ロゼット様配列がみられる
・免疫染色:クロモグラニンA陽性※
・グリメリウス染色等:銀染色陽性※
※クロモグラニンA:腫瘍マーカーの一つであり神経内分泌タンパク質のこと。
これはグラニンファミリーの一員であり
神経細胞および内分泌細胞の分泌小胞に局在している。
※銀染色:ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)によって泳動された
タンパク質や核酸を高感度で検出するもの
<参考>
詳しくは、販売元のコスモ・バイオ様を参考にしてみてください
Chromogranin A 抗体 | 免疫組織化学染色(IHC)適用!神経内分泌腫瘍の重要なマーカークロモグラニンAを検出 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)(閲覧:2021.9.10)
銀染色試薬 | 初心者でも簡単に高感度検出! | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp) (閲覧:2021.9.10)
・消化器系に発生するNET
┃ (GEP-NET)
┃
┣ 消化管NET
┃
┗ 膵NET:インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、ソマトスタチノーマ、VIPoma※
・肺に発生するNET:小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、カルチノイド腫瘍
リンク先
※VIPoma(ヴィポーマ):Verner-Morrison症候群(ヴェルナーモリソン)ともいう。
これは、血管作動性腸管ペプチド(VIP)を分泌する非β膵島細胞腫瘍である。
・症状は水様性下痢、低カリウム血症、胃無酸症を呈する症候群(WDHA症候群:膵神経内分泌腫瘍)を来す。
・血清VIP濃度を調べることで診断となる。
・腫瘍の局在診断にはCT検査、超音波内視鏡検査を行う
・治療は外科的切除
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.1 消化器
ビジュアルブック 消化器疾患
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
できる限り正確な情報発信に努めておりますが、当サイトに記載した情報を元に生じたあらゆる損害に対しては当サイトは一切責任を負いませんので、あくまでも参考としてご利用ください。)