今回でようやく薬について見ていくことになりますが、まずは総論的な内容となります
薬の吸収・分布・代謝・排泄という流れについて、主な副作用について、剤形の種類について学んでいきましょう
薬の吸収・分布・代謝・排泄について(ADME)
薬を飲んでから排泄に至るまでは4つの流れがあります
これは吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)になりますが、それぞれ英語の頭文字をとってADME(アドメ)といいます
ただ、登録販売者の試験においては計算などは特に必要はなく、分布についてもそれほど触れられていないようですので、それに合わせたボリュームとしていきます
吸収について
薬の吸収部位は、実は胃腸だけではなく全身に吸収部位があります
あとは投与方法にもよりますが、眼、鼻粘膜、舌下(ぜっか)、皮膚、直腸などを利用して薬の吸収をさせることがあります
また、ステロイドの使用では皮膚の薄いところである首元、顔、陰部などは吸収量が多い部位となっており
このような部位に対しては強いステロイドは使わないことが原則となっています
それでは、次から各部位ごとの吸収の特徴についてみていきたいと思います
消化管吸収について
主に飲み薬(内服薬)は、胃で消化されて小腸で吸収するものが多いです
このほかにも腸溶錠というものがありますが、これは腸管で溶けるように設計されています(pHの違いを利用している)
この消化から吸収の流れというのは、濃度の濃い方から薄い方に受動的に拡散していきます(これは物理的に自然な流れです)
粘膜吸収について
一旦、循環血中(全身に巡る血液中)に入ると、ぐるぐると何周も薬は全身を巡ります
そして、薬剤の成分などの性質にもよりますが、毎回肝臓を通って少しずつ代謝を受けて、腎臓で排泄されます(腎排泄の薬の場合)
これを繰り返していくことで、体内の薬の濃度が徐々に薄まっていきます
これにより薬の効果時間というのが決まってきます
通常飲み薬は胃腸を通り、肝臓で代謝(肝初回通過効果)を受けて血液中に入りますが
直腸粘膜や舌下(舌の下の部位)、鼻粘膜、眼粘膜は肝臓での代謝を受けないため、この部位から吸収された有効成分は直接全身の血液中を巡ります
具体的には、直腸の粘膜に対しては坐剤、狭心症治療薬のニトログリセリンは舌下錠(舌下スプレー)や禁煙補助剤のニコチン製剤は頬に挟んで、飲まずに薬を吸収させるというものがあります
それぞれの投与部位の特徴には以下のものが挙げられます
投与方法 | 解説 |
---|---|
坐剤の直腸内投与 | 直腸内から全身の血液中に薬が循環する経路です 解熱鎮痛剤や吐き気止め、抗痙攣薬、痔疾用薬などがあります |
点鼻薬の鼻腔粘膜投与 | 市販薬では、鼻粘膜の充血やアレルギー症状を抑える薬があり、全身作用を目的とするものは今のところありません 医療用では、偏頭痛治療薬などがあります |
点眼薬の眼粘膜投与 | 通常の目薬は目の治療を目的に投与します 目への投与は、鼻涙管を通ることで鼻腔粘膜から吸収されるため、点鼻と同じような経路をたどります 市販薬では大きな問題となる成分はほとんどありませんが 医療用医薬品の緑内障治療薬では、全身作用してしまうことで心疾患や喘息が悪化することがあるため、使用禁忌となっているものがあります |
舌下錠(スプレー)の口腔粘膜投与 | 口に入れるが飲み込んではいけない錠剤(スプレー剤)となっています すぐに全身血中を巡るため、狭心症発作を起こした時はニトログリセリン舌下錠を用いてすぐに改善することができます |
皮膚吸収について
皮膚に使用する薬には、皮膚かぶれなどに対する塗り薬や痛みに対する貼り薬(湿布など)などがあります
皮膚吸収では、症状のある部位(適用部位)に局所的に使用して効果を発揮することを目的としています
粘膜吸収とは違い、皮膚は全身血中に移行する割合は少ないです
これは、直接血液中に入るのではなく、筋組織などから全身に薬剤が分散して肝臓の代謝を受けてから全身を巡るからです
それでも、塗り薬の過剰な使用や強いステロイドを使用することで、多く有効成分を吸収してしまったり
微量でも強い効き目のものを吸収してしまうことで、結果として全身に作用して副作用の原因となることがあります
用法用量が大事だと言われるのはこのためです
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代謝について
代謝とは、物質が体内で化学的に変化することをいいます
ある有効成分が代謝されることで、作用が発現することを活性化、作用を失うことを不活性化といいます
そして代謝によって排泄されやすい形となって体外に排出されます
<通常の代謝>
消化管吸収されたものは、門脈を経由し肝臓を通るときに代謝酵素で代謝を受けます(肝初回通過効果)
その後に全身循環に入り各器官へ栄養や薬などが分布していきます
(代謝は肝臓だけではなく、小腸などの消化管粘膜や腎臓でも行われています)
この場合は、肝臓を通って代謝を受けることから、その分だけ循環血液中に入る量が減ります
そのため、何らかの原因により肝機能が落ちている場合では
代謝による分解を受けにくくなり、全身血液中への吸収量が高まることで、通常よりも薬の効き目が強くなり副作用が発現しやすくなることがあります
最初に投与した薬は、循環血液中を何度も肝臓での代謝を繰り返されることで徐々に効果が弱まっていきます
この時、多くの有効成分は血液中にある血漿タンパク質と結合することで複合体として存在しています
これによって、薬物代謝酵素での代謝やトランスポーター※の影響というのはほとんど受けることがなくなります
トランスポーター:細胞膜上にある膜タンパク質で、栄養物質や薬などの通り道(トンネル状)のこと
本来、細胞膜は脂溶性の物質でないと通過できないが、このトランスポーターがあるおかげで糖やアミノ酸、代謝された薬などの親水性(水溶性)物質であっても細胞膜を通ることができるようになる(選択性はある)
これには取り込みトランスポーター(外から内)と排出トランスポーター(内から外)がある
排泄について
排泄とは、有効成分が未変化体のまま(代謝を受けていない状態)や代謝でできた代謝物質が体外に排出されることをいいます
この排泄というのは腎臓から尿中への排出という流れが一番に思い浮かぶかもしれませんが
このほかにも肺から呼気中への排出や肝臓から胆汁中への排出なども含まれています(母乳中への移行などもある)
そのため、薬というのは肝機能だけではなく腎機能の低下でも薬の効果が強く出過ぎてしまったり、副作用が起こりやすくなるといえます
(腎機能低下によって排泄量が減り、循環血液中の有効成分の濃度が濃いままだったり、長く残り続けてしまうこととなる)
薬の作用発現について
飲んだ薬が作用を発揮するためには、循環血液によって送られた有効成分がそれぞれの器官・組織に一定の濃度で届く必要があります
ある濃度を超えた時に作用を発現する血中濃度は「最小有効濃度」といいます(閾値:いきち ともいう)
これが最大の濃度に達した時を「最高血中濃度」といい、その後、血中濃度は低下していき最終的には最小有効濃度を下回ることで薬効の消失となります
医薬品というのは、作用発現のある有効域濃度を維持できるような服用方法や服用量を設定しています
この有効域濃度未満のところを「無効域」、それ以上の濃度では毒性が現れる「危険域または中毒域」といいます(画像参照)
医薬品の剤形について
医薬品の剤形には様々なものがあります
これは、各目的に応じて適切な濃度で適切な部位へ薬が届くように設計するために多くの種類が作られています
ここでは多くの種類を挙げていますが、試験的な内容でいけば色(下線)をつけたところを中心にしっかり覚えていきましょう
まずは剤型の種類です
<剤型の種類>
内用剤 ┳ 固形剤
┣ 半固形剤
┗ 液剤
外用剤 ┳ 固形剤
┣ 半固形剤
┗ 液剤
内用固形剤(医療用)
┗ 口腔内崩壊錠
分類 | 剤型 | 種類 |
---|---|---|
内容剤 | 固形剤 | 錠剤、チュアブル錠、発泡錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル、軟カプセル、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤・煎剤 |
〃 | 半固形剤 | 舐剤(しざい)、チューインガム剤 |
〃 | 液剤 | シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤 |
外用剤 | 固形剤 | 坐剤、パップ剤、プラスター剤 |
〃 | 半固形剤 | 軟膏剤、クリーム剤、ムース剤 |
〃 | 液剤 | 液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤 |
剤型ごとに詳細を見ていきましょう
剤形 | 特徴 |
---|---|
錠 | 薬の有効成分を飲みやすく、持ち運びやすいよう添加剤を加えて固形にかためた製剤をいう 苦味、渋味などはコーティングすることで味を感じることなく飲むことができる(マスキング) <錠剤の種類> ・舌下錠:舌の下に入れて溶かして口腔粘膜から急速に吸収させるためのもの ・徐放錠:有効成分がゆっくり溶けて、長時間効果が続くようにしたもの ・チュアブル錠(咀嚼錠:そしゃく):錠剤の一種であり、噛み砕いて服用するもの。水なしでも飲める。OD錠より崩壊速度は遅い →小児や水分接種制限のある腎障害者によい ・口腔内崩壊錠(OD:オーラルドーズ):水無しでも服用できるよう唾液で溶けるように作られたもの。消化吸収については通常の錠剤と同様となる(舌下錠ではない) ・トローチ剤:口中で徐々に溶かして服用する。噛んだりはしないこと |
カプセル | 粉末・顆粒状の薬を封入したゼラチンで作られた容器のこと 薬の放出は錠剤よりも早い カプセルの特性上水をしっかり飲まないと喉元にくっついてしまうことがあるため注意が必要 ゼラチン:ブタなどのタンパク質を利用しており、アレルギーを持っている方への投与は避ける必要があります <カプセル剤の種類> 硬カプセル剤:カプセル剤の一種であり、円筒状の容器に薬を詰めた剤形となっている。中には粉末状、顆粒状の薬を入れ、カプセルはゼラチンで作られることが多い 軟カプセル剤:液体、ペースト状の薬をカプセルに入れるもの |
散 顆粒 | 粉状の薬が散剤、粒状の薬が顆粒剤となっており、顆粒剤は散剤よりも大きな粒子径となっている 錠剤を飲み込むことが困難な方に用いられる剤形だが、苦味など味を感じやすい 顆粒剤は粒(有効成分)の表面をコーティングしている製剤である |
丸剤 | ハチミツやコメデンプンなどを結合剤として球状に成形した薬である 生薬・漢方薬に用いられる製法で、保存性も良い 現在、漢方薬は名前に〜〜丸など付いていたりするが既製品のエキス顆粒が主流となっている |
内容液 シロップ | 内服薬のうち液状とした薬を内容液という 吸収性は錠剤、散剤、顆粒剤よりも高い剤形となっている シロップ剤は液状の薬だが、白糖などの甘味料を加え粘稠性(ねんちゅうせい:ドロッとした状態をいう)の高い溶液または懸濁状にした製剤 |
剤形 | 特徴 |
---|---|
軟膏 | 油性の塗り薬であり、水分は含まれていない →適用部位を水から遮断したい場合に使用されることが多い 肌に塗るとベタつくが乾燥肌には水分の蒸散がされにくくなる 夏場には軟膏よりもクリームを選択することがある 製品名で軟膏の記載があっても、実際はクリーム剤である商品もあるため、製剤についてはあらかじめ確認しておくと良い |
クリーム | 軟膏よりも水分が含まれており、乳化(油性と水性を混ぜて起こる反応)した状態の製剤 皮膚表面の吸収性が高まるが、洗い流されやすくなる →患部が乾燥している時、患部を水で洗い流しやすくしたい場合に用いることが多い 皮膚の状態に応じて、軟膏、クリームを選択する |
スプレー剤 | ガス噴霧で薬を塗布するためのもの 手や指などでは塗ることが困難な部位(背中など)や、広い部位に使用したい場合に用いられる 制汗剤など |
外用液 | 液状の薬で、飲まずに塗布するもの 市販薬には痛み止め、爪白癬治療薬などがある (飲む液体には内容液やシロップがある) |
点眼 | 目に使用する薬 市販薬にはビタミン剤や抗菌薬、洗眼剤などがある |
点鼻 | 鼻粘膜に噴霧する薬 アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)治療薬などがある 全身に作用させることを目的とした点鼻薬はOTCにはまだない |
坐剤 | 肛門または膣に投与するための油性の基剤で固めた薬 体内に投与することで、体温や分泌液で早く溶けて代謝を受けず循環血中に入る |
貼付剤 | 表皮に貼ることで、貼った部位の炎症を抑える痛み止めである湿布などがある 医療用では、全身作用を目的に表皮から吸収させる「経費吸収製剤」というのがある |
<参考>
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/11/dl/s1108-4p.pdf(閲覧:2022.7.30)
今回はここまでとなります
お疲れ様でした!