今回は、解熱鎮痛剤についてやその薬理作用についてみていきます
そのためには、プロスタグランジン系というものを知っておくことが必要ですので、是非理解をして覚えておきましょう
解熱鎮痛剤について
ここでは、なぜ解熱鎮痛剤を飲むと発熱や痛みを軽減することができるのか?
そこが良くわかるようになります
まず、なぜ発熱や痛みが起きるのか?についてみていきましょう
発熱、疼痛の仕組み
発熱の原因は、ウイルスや細菌などの感染によって体内に侵入した時、体は免疫反応を示すために体温を上げる必要があります
そこで、体温調節中枢から体温を上昇するように働きます
この時、体温は何度に上がっているのか?ということも知っておくことは大事ですが、普段の体温から何度上がったか?ということが重要です
普段の体温が36.8度の人が2度上がれば38.8度ですが、35.8度の人では37.8度となります
実際の体温よりも、どのくらい体温が上がったかで疲労感や熱感というのは違いますので
普段36.8度の人が37.8度に上がるのとは違い、普段35.8度の人が37.8度に上がる方がよりだるく感じることでしょう
感染当初は寒気がしますが、これは悪寒戦慄(おかんせんりつ)といって筋肉が震えることで熱産生を促しています
ここで、鑑別疾患のところで改めて解説したいところですが
悪寒戦慄がかなり強く、発熱以外の症状がみられない(鼻水、喉の痛みなどがない)場合は緊急性がある可能性がありますので、この場合は市販薬よりも病院への受診を勧奨するようにしてください
少し話がそれてましたが、発熱はなぜ起こるのかについてなんですが
これにはプロスタグランジン(PG)という物質が関わっていることがわかっています
この流れを知っておくことで他の症状についても考えられるようになりますので、是非こちらも理解してもらえたらなと思います
まずはこちらをみてください
※ アラキドン酸カスケード:カスケードとは連なった小さな滝、数珠繋ぎといった意味があります
滝のように下に代謝が流れて見えることからこういった名前が使われています
これは、他の分野でも使われたりします
ざっくりとした記載ですが、まずはこの大枠を知っておきましょう(括弧書きのところは飛ばしても良いです、特に下線の部分を覚えると良いでしょう)
細胞膜に刺激が起こり、(ホスホリパーゼA2によって)アラキドン酸が生成されます
このアラキドン酸がリポキシゲナーゼという酵素で代謝されることでロイコトリエン類が産生されます(LTB4、LTC4、LTD4など)
一方で、アラキドン酸がシクロオキシゲナーゼ(COX:コックス)で代謝されることで(PGG2となり、さらに代謝されてPGH2となり、最終的には)トロンボキサンやプロスタグランジン類(PGE2、PGI2、PGF2αなど)が産生されます
この産生されたものがそれぞれ生理活性を示します
(例えば、血管平滑筋を収縮または弛緩したり、気管支平滑筋の収縮または弛緩、血小板の凝集促進または抑制、白血球の遊走を亢進、ブラジキニンの発痛作用増強、胃粘膜からの胃酸分泌、粘液分泌の促進、抑制などに関わっています)
ここで、ブラジキニンによる痛みの誘発や白血球の遊走というのが今回の発熱と痛み(頭痛など)に関わっている部分で
ウイルスや細菌が体内に侵入することで細胞膜が刺激されます
その後は先ほどのアラキドン酸カスケードの流れに沿って様々なPG類、LT類などが放出されます
これによって、咳だったり頭痛、発熱など様々なかぜ症状がみられてきます
これは、自己免疫による反応ですが苦しいと思いますので、やはりかぜ薬を飲んで症状を抑えたいとなりますので、ここでかぜ薬を飲むわけです
次に、怪我をした時などの炎症についても同じようなことが言えます
炎症とは、外傷等で傷害し、破壊された細胞や肥満細胞、好酸球などからプロスタグランジン類(PG)、ロイコトリエン類(LT)、ヒスタミン、ブラジキニン、セロトニンなどが遊離されることで発赤、腫脹、疼痛(炎症)を引き起こすことをいいます
つまり、治療薬にはPG類、LT類、ヒスタミンなどをブロックする方向に働けば良いことがわかりますね
そのため、抗ヒスタミン薬ではかゆみ、くしゃみ、鼻水を抑え、解熱鎮痛剤では、COXの代謝を邪魔(阻害)することでPG類の生成を減らして抗炎症作用をしめすことができます
ここまでのことをまとめると
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作用部位 | PGの働き | PGの産生抑制による作用 |
---|---|---|
脳 (温熱中枢) | ウイルスや細菌感染によって体温を高める (発熱物質として働く) | 発熱軽減、体温低下 |
外傷など | 痛みの感覚が増強する 炎症を起こす | 痛みの軽減 炎症の軽減(主に末梢で) |
胃 | 胃液分泌の調節、胃粘液の分泌で胃粘膜の保護 | 胃酸分泌増加し、胃粘液の分泌が減少する →胃への負担がかかる (胃・十二指腸潰瘍の増悪となるため、現在既往者は投与禁忌) |
血管 | 主に血管拡張作用 | 血管が収縮し、腎臓の負担や血圧の上昇に関わる |
腎臓 | 腎での水分再吸収が抑制される 腎血流量が増加する | 水分の再吸収が促進され、体内の循環血液量が増える →発汗の促進で解熱作用 →ただし、心仕事量が増えることで、心疾患の悪化につながる 腎血流量が減り、腎機能の低下につながる |
子宮 (女性において) | 子宮筋の収縮 | 子宮筋の収縮抑制で、月経痛の軽減となる |
これらを踏まえて、解熱鎮痛剤の服用に注意をする必要がある疾患があります、それは
・心臓病
・腎臓病
・肝臓病
・胃・十二指腸潰瘍
・かぜ薬や解熱鎮痛剤で喘息を起こしたことがある人※1
・妊娠中の人※2
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※1 アスピリン喘息:解熱鎮痛剤は、COXを阻害することで、プロスタグランジン類の生成を減らしますが、その分、リポキシゲナーゼの代謝が進み、ロイコトリエン類を多少なりとも増やしてしまいます
これによって、ロイコトリエン類による気管支収縮作用が起こり喘息のような症状に近づいてしまいます
この症状に過敏な方(または気管支喘息既往者)では喘息症状を誘発してしまいます
この解熱鎮痛剤に関連した症状を、解熱鎮痛剤で昔に使用されていたアスピリンにちなんでアスピリン喘息と呼ばれています
→そのため、過敏な方や気管支喘息既往者には投与禁忌となります
※2 妊娠中の解熱鎮痛剤の投与:基本的には妊娠初期(妊娠14週未満)と妊娠後期(出産予定日から12週未満)の方には薬の投与はできません(特にアスピリンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤)
この時期での薬剤の投与は胎児の催奇形成、妊娠期間の延長、子宮収縮抑制、分娩時の出血増加などに繋がるからです
とはいえ、妊娠初期では妊娠に気づかないことも多いので、この時期に妊娠できない状態であれば気づかないうちに流産などをしている可能性もあります
逆に、飲んでいたが後に妊娠に気づいたという方であれば、その時点から服用は一旦中止してもらいますが、催奇形成のリスクとしては低いのでほとんどの場合は安心しても良いでしょう
→後日、妊婦健診でしっかりみてもらうようにしましょう
解熱鎮痛剤の効能効果・副作用について
それでは、一般的な解熱鎮痛剤の効能効果、副作用についてみてみましょう
解熱鎮痛剤の効能効果について
成分の違いはありますが、大方このような効能効果と副作用は共通していますので系統立てて覚えていきましょう
<解熱鎮痛剤の効能効果について>
解熱、頭痛、月経痛、歯痛、抜歯後疼痛、腰痛、肩こり痛、筋肉痛、関節痛、打撲痛、捻挫痛、骨折痛、外傷痛、神経痛、咽喉痛、耳痛に対する鎮痛作用
この鎮痛作用は、炎症が原因で痛みを生じている場合に有効であり、腹痛や胃痛では別の原因であることが多いため投与は安易にしないようにしてください
この場合では、痙攣性の疼痛であったりするため、鎮痙作用のある抗コリン薬(腸管運動抑制作用、胃液分泌抑制作用など)を用いることが多いでしょう
解熱鎮痛剤の副作用について
解熱鎮痛剤の副作用は、プロスタグランジン系やロイコトリエン系に関連した副作用が考えられます
先ほどの「プロスタグランジンの働きについて」でまとめたように、胃粘液の分泌が減り、胃酸分泌が亢進することから胃の粘膜を保護する防御因子が弱まって、胃酸という胃に対する攻撃因子が強まることから胃炎や胃潰瘍の原因になりえます
そのため、既に胃潰瘍、十二指腸潰瘍の方へは当然投与禁忌となりますが、健常者であっても胃痛を引き起こすことがありますので、こういったお薬は基本的には空腹時での服用は避けるよう説明することが必要です
そういった意味からこの種類のお薬は食後で飲むように言われています(他の薬の場合は別の理由などで食後となっていたりします)
また、このお薬に限ったことではないですが
どんな薬であってもアレルギー的に副作用を生じることがあります
これは、食べ物のアレルギーと同じで、飲んでみないとわからないというのが実のところです
そのため、どの系統にアレルギーを持っているのかを把握した上で販売をするというのが必要となります(ピリン系など)
アレルギーとは別ではありますが、全ての薬で起こりうる副作用には以下のようなものもあります
ほとんどの薬にはこれが記載されているのではないでしょうか?これらは極々まれのことですが医療従事者、薬を販売するものとしてはしっかり知っておくことが必要です(尚、アスピリン喘息については前項目の※部分を参照)
重篤な副作用 | 内容 |
---|---|
ショック(アナフィラキシー) | アレルギーの項目でまとめたのと同様、Ⅰ型アレルギーによる副作用 |
皮膚粘膜眼症候群(ひふねんまくがんしょうこうぐん) (スティーブンスジョンソン症候群:SJS、指定難病:38) | 全身倦怠感や発熱のほか、口唇・口腔・眼・鼻・外陰部などの粘膜にびらんというただれが生じて、全身の皮膚に紅斑(赤いポツポツ)や水疱(すいほう:みずぶくれのこと)などが多発する疾患である びらんや水疱などの皮膚の剥がれた全体の表面積の10%未満をSJSという |
中毒性表皮壊死症(ちゅうどくせいひょうひえししょう) (ライエル症候群:TEN、指定難病:39) | SJSと同様の症状を呈するが、びらんや水疱などの皮膚の剥がれた全体の表面積の10%以上を占めた状態がTENである |
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ライ症候群について
ライ症候群とは、水疱(水ぼうそう)やインフルエンザなどのウイルス性感染症にかかった時に、急性脳症の症状(激しい嘔吐、意識障害、痙攣など)を呈するものをいう
・好発:小児に多い
・発症率は低いが死亡率が高い
・アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛剤(注)これは非ピリン系です※)の投与が原因である可能性が言われている
※ ピリン系:ピリン系と言われているものにはイソプロピルアンチピリンがあります
名称にピリンと入っているアスピリンやサザピリンはピリン系ではないことには注意
→アスピリンの化学構造式から見る名称ではピリン骨格が入っていません(アセチルサリチル酸といいます)
以上のことから、次のように投与禁忌と投与注意が喚起されている
15歳未満には、アスピリンやサザピリンといったサリチル酸系解熱鎮痛剤は投与しないこと(禁忌)
15歳未満には、エテンザミド、サリチルアミド、水疱瘡罹患者、インフルエンザ罹患者は服用を避けること(服用前には相談)
解熱鎮痛成分の特徴について
最後は市販薬(OTC)で解熱鎮痛剤に用いられる成分(ここではサリチル酸系以外)の特徴についてみて終わりにしましょう
成分名 | 薬効 | 特徴・注意事項 |
---|---|---|
アセトアミノフェン | 解熱作用 鎮痛作用 抗炎症作用はほぼなし | ・中枢作用で解熱鎮痛作用をしめす ・胃腸傷害は比較的少ない ・肝機能障害に注意が必要※ ・まれな副作用には、SJS、TEN、急性汎発性発疹性膿疱症、間質性肺炎、腎障害などもある |
イブプロフェン | 解熱作用 鎮痛作用 抗炎症作用 | ・アスピリンよりは胃腸障害は少ない ・OTCにおいては15歳未満での投与は禁忌となっている ・胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病などの胃腸疾患既往歴は再発の危険性から投与は控えること ・出産予定日12週以内(妊娠後期)での服用はしないこと ・副作用(一部):無菌性髄膜炎(全身性エリテマトーデス:SLE や混合性結合組織病の方でみられやすい) |
イソプロピルアンチピリン | 解熱作用 鎮痛作用 抗炎症作用は弱い | ・単剤というよりは、ほかと配合されることが多い成分 ・OTCにおいては唯一のピリン系 →ピリン系にアレルギーのある方には投与禁忌(医療用医薬品ではSG®︎配合顆粒などが該当) |
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※ アセトアミノフェンによる肝障害について:アセトアミノフェンの大量の服用や大量飲酒の習慣のある方では肝障害を起こすことがある
これは、アセトアミノフェンの代謝(解毒)の過程でグルクロン酸抱合や硫酸抱合をされて排泄されるが、大量では代謝する酵素がCYP(シップ:シトクロムP450のこと)を介して代謝することとなり、さらに代謝物質であるN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(えぬあせちるぱらべんぞきのんいみん:NAPQI)が完全に代謝されて解毒されきれずに肝臓内に蓄積され、肝細胞構成タンパク質と共有結合することで肝障害を起こします
アセトアミノフェンとの合剤で、かぜ薬の定番の組み合わせにACE処方(エース)というのがあります
これは頭文字をとって名前がつけられています
A:アセトアミノフェン、C:カフェイン、E:エテンザミド、とこの3剤を組み合わせるのが解熱鎮痛には相乗効果で発揮することができます
といったところで、今回の解熱鎮痛剤は終わりとなります
次からは人体の構造なども絡めて、各論として見ていきたいと思います