まずは薬の作用の根本的な部分をみてみましょう
この作用のことは薬理作用といいます(機序ということある)
アドレナリン様作用について
第1回の時でも触れてましたが、アドレナリン様作用とは交感神経の働きを強めて、アドレナリンと同じ様に作用することをいいます
その実際に使われている薬の成分と使用目的について見ていきましょう
成分名 | 主な薬理作用 (いずれもアドレナリン様作用) | 主な使用目的 |
---|---|---|
メチルエフェドリン塩酸塩 トリメトキノール塩酸塩 メトキシフェナミン塩酸塩 | 気管支を拡張させ呼吸を楽にする 咳を鎮める 血圧を上げる など | 鎮咳薬 去痰薬 (合わせて鎮咳去痰剤ともいう) |
メチルエフェドリン塩酸塩 プソイドエフェドリン塩酸塩 フェニレフリン塩酸塩 | 鼻粘膜の血管収縮作用により、充血を軽減して鼻づまりを改善する | 鼻炎薬(内服) |
ナファゾリン塩酸塩 テトラヒドロゾリン塩酸塩 フェニレフリン塩酸塩 | 鼻粘膜の血管収縮作用により、充血を軽減して鼻づまりを改善する | 鼻炎薬(点鼻) |
ナファゾリン塩酸塩 テトラヒドロゾリン塩酸塩 エフェドリン塩酸塩 | 目の粘膜の血管収縮で充血を改善する | 点眼薬 |
メチルエフェドリン塩酸塩 エフェドリン塩酸塩 テトラヒドロゾリン塩酸塩 ナファゾリン塩酸塩 | 肛門部の血管収縮で出血を抑える | 痔疾用薬(外用) |
メチルエフェドリン塩酸塩:エフェドリンにメチル基がくっついた構造であり、エフェドリンは人の体内で作られるものだが、それを人工的に安定した成分を作り、薬として配合されているのがメチルエフェドリンである
人の体内では割と大雑把なところがあり似た構造式は似た働きをするため、構造式が近いということはエフェドリンとメチルエフェドリンは同じような薬理作用を示す
(元々の成分の構造を変化させることによって、作用が強くなったり弱くなったりする)
今回の例では、メチル基をつけることで本来のエフェドリンよりは血圧を上げる作用や中枢の興奮性、目における散瞳作用(副作用)は少なくなっている(代わりに気管支に作用しやすい(β:ベータ 受容体)にくっつきやすい)
ただし、踏み込んだことを言えば、全く同じというわけではないためその人工的に作られたものに対してごく稀にアレルギーを示す方がいたり、体質的に合わないなどが起こることもあるのは常に念頭に置いておきたい
プソイドエフェドリン塩酸塩:これはエフェドリンにプソイド基をくっつけた構造であり、先ほどのメチルエフェドリンと同様の理由で作られたものである
これは、エフェドリンより中枢作用が比較的強めとなっており、血管収縮による鼻炎に利用されている(α:アルファ)受容体にくっつきやすい)
そのため、他のエフェドリン製剤とは違い、プソイドエフェドリンでは「心臓病、高血圧、糖尿病、甲状腺機能障害の診断を受けた人、前立腺肥大による排尿困難の症状がある人は、使用を避けること」と明記されています
→他のエフェドリン製剤では、「心臓病〜〜の症状がある人は、医師、薬剤師または登録販売者に相談すること」となっている
副作用には、不眠、神経過敏などが挙げられる
プソイドエフェドリンの構造式はエフェドリンと同じ組成でできているんですが、立体も加わって考える必要があります
成分組成が同じでも立体構造が違うことで違う成分、作用を示すものがあり、そのお互いの関係性をジアステレオマーといいます
立体構造を示すため、点線のようになっているもの(OH)が奥側にあり、実線で太くなっているところ(CH3)は手前側に向かっていることを示します(これは国際標準の書き方で決まっています)
ここで、「塩酸塩とはそもそも何なのか?」疑問に思いませんか?
色々と詰め込みたいところですが、詳細までとなると高校の化学までさかのぼらないといけなくなりますので、ここではサラッと流しますね、、、
メチルエフェドリン塩酸塩の例で見ると、メチルエフェドリンという成分を消化管内で溶けやすくして血流に入りやすくするために、塩酸(HCl)をくっつけて塩(えん)という状態にして薬の成分としています
それだけではあるんですが、製薬メーカーからすると安価で保存性に優れたものが流通に良いはずですのでそのようにしているかと考えられます
ナファゾリン塩酸塩、テトラヒドロゾリン塩酸塩、フェニレフリン塩酸塩:点鼻薬として用いて、鼻粘膜の血管を収縮することで鼻づまりを改善するための成分だが、過度の使用では鼻粘膜の血管が反応しなくなってしまう
これは、元々体内にあるアドレナリン作用が、外部からアドレナリン様作用のある強い成分を何度も繰り返し刺激すると、それが当たり前となってしまい点鼻を使用しても反応しなくなってしまうからです
こうなってしまうと逆に血管が拡張してしまい、鼻づまり(鼻閉)症状が悪化してしまいます(二次充血、点鼻薬性鼻炎)
→このため、使いすぎないよう指導することが必要となります
点眼に使用されるナファゾリン塩酸塩、ナファゾリン硝酸塩、テトラヒドロゾリン塩酸塩、エフェドリン塩酸塩:アドレナリン様作用により、眼圧の上昇をきたすため緑内障※の悪化やその治療の妨げとなることから、使用前にはその適否につき、治療を行なっている医師または治療薬の調剤を行なった薬剤師に相談することが望ましいとされている
副作用には、異常なまぶしさ(羞明感:しゅうめい)や点鼻薬の時と同様に、反応性が鈍くなり充血を招いてしまうことがあります
→このため、点鼻薬同様、使いすぎないよう指導することが必要となります
※ 緑内障:眼圧が上がるなどで目から入った情報を脳に伝達する器官である視神経に障害が起きる疾患であり、徐々に視野が狭まり失明に至ることがある
緑内障にも主に3つの型があり、眼圧が正常であっても緑内障は起こり得ます(正常眼圧緑内障、開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障)
特に房水を排出する通り道にある隅角が閉塞することで眼圧が上がる閉塞隅角(狭隅角)緑内障には抗コリン薬は禁忌となります
<参考>
参天製薬
緑内障について:https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/glaucoma/(閲覧:2022.7.15)
リンク先
抗コリン作用について
先ほどはアドレナリン様作用を見てきましたが、今度は抗コリン作用についてみてみましょう
これは、副交感神経の伝達物質であるアセチルコリン(以下、Achと記載することあり)の働きを抑える作用のことを言います
成分名 | 主な薬理作用 (いずれも抗コリン作用) | 主な使用目的 |
---|---|---|
ベラドンナ総アルカロイド ヨウ化イソプロパミド | 鼻汁分泌抑制作用 くしゃみの抑制作用 | 鼻炎薬 かぜ薬 |
スコポラミン臭化水素酸塩水和物 ロートコンの軟エキス など | 自律神経系の鎮静(混乱の軽減) 消化管緊張の軽減 | 鎮暈(ちんうん)薬 (抗めまい作用、耳鳴りに) |
ピレンゼピン ロートエキス | 過剰な胃酸分泌抑制 (胸焼け、胃酸過多の軽減) | 胃腸薬 |
ブチルスコポラミン ロートエキス(ロートコン抽出物) ジサイクロミン塩酸塩 メチルべナクチジウム臭化物 メチルオクタトロピン臭化物 など | 胃腸の痙攣(過剰な働き)抑制 胃酸分泌抑制(胸焼け、胃酸過多の軽減) 胃痛軽減作用 | 鎮痛薬 鎮痙薬(抗けいれん) |
まず最初に、抗コリンとくれば、まずは口渇、排尿困難、便秘、眼圧上昇を思い浮かべられるようにしましょう
→前立腺肥大症(下部尿路閉塞)、緑内障、重症筋無力症などの疾患を持っている方には投与禁忌となります
この他、ほてり、頭痛、眠気などもあります
<参考>
抗コリン薬の禁忌 「緑内障」等の見直しについて
医薬品・医療機器等安全性情報No.364 p.8〜11 2019年7月:https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000529725.pdf(閲覧:2022.7.15)
スコポラミン臭化水素酸塩水和物:抗めまい、酔い止めとして用いられるものだが、これは消化管からの吸収が良く、他の抗コリン薬と比べても脳内移行性※が高いとされているが、肝臓での代謝が速やかであり、結果として抗ヒスタミン薬などに比べて作用の持続時間は短い
リンク先
脳内移行性:脳に移行しやすい成分は脂溶性のものが挙げられる
脳内に入るためには血液脳関門(blood brain barrier:BBB)を通らないといけないが、これは血液と脳の組織液との間での物質交換を制限するための部分であり、異物(病原体や有害物質など)の侵入を防ぐ役割をしている
今回はここまでとなります
次回は、抗ヒスタミン薬の薬理作用についてみていきます