今回は小児における精神疾患についてみていきます
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
広汎性発達障害について
広汎性発達障害は、自閉症などの疾患群に属する疾患であり、周りの雰囲気を読んで発言や行動をすることが苦手であり、1人で行動をすることが多い
自閉症スペクトラム症の中の障害と考えられている
<発達障害>
┏ 自閉症スペクトラム障害(ASD)
┃
┣ 注意欠如/多動症(AD/HD)
┃
┗ 学習障害(LD)
これらはお互いに合併することが多い
・知的発達は正常であり、言語発達も遅れは認められない
選択緘黙について
選択緘黙とは、会話能力があるにもかかわらず、特定の場面では言葉を発せられなくなってしまう障害をいう
・幼児期(3歳頃)から発症する
・例えば、外出すると会話をしないが、家庭では話をすることができるなど
・成長につれて症状は無くなることが多いが、長引いていれば専門的な介入が必要である
・社交不安や発達障害が背景にあることが多く、聴力や発声のほか、言語能力などには異常はない
<治療>
話すことを強制せず、コミュニケーションへの不安を和らげることが必要である
反抗挑戦性障害について(反抗挑発症)
反抗挑戦性障害とは、否定的、反抗的、不服従の行動を繰り返し起こす疾患であり、多くは権威のある人物が対象となる
・頑固で気難しく、人の言うことは聞かず怒りっぽい
・身体的攻撃性や他者の権利侵害はすることはない
・軽度の素行症(行為障害)ともとれるが、この場合は他者の権利を侵害する行為をとる
・反抗的行動が6ヶ月以上続き、対人関係や学業成績に深刻な影響を及ぼしている場合をいう
対象の全ての小児に対して睡眠障害、食欲障害、不安、うつ、ADHDなどがないかを慎重に評価する必要がある
<治療>
行動管理法、集団療法など
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(小児)自閉症について
自閉症とは、乳幼児期の発達障害の一つであり先天性障害である
これは、対人関係発達障害、言語・意志伝達発達障害(コミュニケーション障害)、活動・興味の極端な限定(こだわり、常同行動、同一性の固執)が主症状である
・好発は乳幼児期の男児(アスペルガー症候群も男児に多い)
・対人関係障害には、人見知り、母親の後追いがみられない、視線を合わせない、呼びかけに反応しない、同年代の子たちに関心を示さないなどがある
→これは、アスペルガー症候群にもみられる
・独り言やオウム返しをする(反響言語)
・知能低下を認めることが多い
・全般的に予後不良(特に早期発症)
・興味、活動の極端な限定がみられる
→これは、アスペルガー症候群にもみられる
・コミュニケーション障害や言語の遅れがみられる(会話が成立しないなど)
・感覚過敏(聴覚や触覚など様々ある)を伴うことが多く、パニックの原因となっている
・こだわりがあり、常同行動を好み、環境の変化に弱い
・知的障害の合併をしていることがある
→IQ測定による知能検査
<治療>
行動療法、遊戯療法、心理療法などがある(教育的アプローチ)
(ICD-10において、自閉症やアスペルガー症候群、Rett症候群などに分類されるが、DSM-5では廃止されて自閉症スペクトラム症として統合)
自閉症とAsperger症候群の特徴について
項目 | 自閉症 | アスペルガー症候群 |
---|---|---|
好発年齢 | 3歳以前 | 3歳以降で気づく |
言語・意志伝達発達の遅延 | 多く見られる | なし |
知能障害 | 多く見られる | なし |
自閉症、アスペルガー症候群は、いずれも「心の理論」の発達に問題があると考えられている
<心の理論(theory of mind)>
「他者には他者の心があり、自分とは違う考えや信念を持っている」
ことを理解する機能をいう
アスペルガー症候群の心理検査
→知能検査が有用
・16歳以下ではWISC-Ⅲ
・16歳を超えているならWAIS-Ⅲ
特徴として、全IQは標準またはそれ以上となることが多いが、主に知識を必要とする言語性IQが動作性IQに比べてはるかに高いなどばらつきがあることが特徴的である
高機能自閉症スペクトラム障害について
高機能自閉症スペクトラム障害は、聴覚や知的な障害はないが、限定的な興味などではない一方的なやりとりがみられる
・発達特性には、対人相互反応と限局した興味がある
・併存症には、AD/HD(注意欠陥多動性障害)、学習障害、チック障害、強迫性障害、夜尿症がある
・二次障害があり、反社会的、非社会的な精神疾患がある
・身辺の自立は問題なし
チック症について(Tourette症候群:トゥレット)
チック症は運動性チックと音声チックがあり、本人の意思とは関係なく、速い動きや発声を繰り返す症状が一定期間続くものである(遺伝的要因)
音声チックは、Gilles de la Tourette症候群(ジル・ドゥ・ラ・トゥレット)などでみられる症状の一つである
チック症
┣ 一過性チック症
┃
┗ 慢性チック症
┣ 慢性運動または音声チック障害
┗ Tourette症候群
18歳未満の発症で1年以上症状が続いているものをチック症、1年未満のものを一過性チック症として扱うことが多い
トゥレット症候群は症状が激しめだが、10代後半で落ち着いてくることが多い
<運動性チック>
4、5歳頃から見られる
まばたき、口を尖らせる、顔をしかめる、舌を突き出す、首を振る、肩がびくっとなる、すくめる、腕を振る、飛び跳ねるなど
<音声チック>
10歳過ぎにみられる
鼻や舌を鳴らす、咳ばらい、唾を飲み込むなど
・汚言症:卑猥な単語や罵倒することを言う
・反響言語:人の言った言葉を繰り返す
・反復言語:音声や単語を繰り返す
・就学前後から学童期の男児に多い
・心因があることが多い
→遺伝的要因が強いと考えられているが、一過性チック症では養育環境が問題のこともある
・神経学的な異常はない
・顔面、四肢、躯幹などの限局した筋群に起こる
・小児の1、2割でみられ、一時的なものであれば2、3ヶ月(1年以内)で症状は軽快するが、数年続く場合もある
→1年以内に消失するものを一過性チック症という
・1年以上続くものは慢性チック症といい、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)や強迫性障害、学習障害、自傷・他害行為、不登校、衝動性・攻撃性の亢進などを併発する
・不安や緊張が高まったとき、強い緊張が解けた時、興奮した時に症状が増悪する
・症状は一時的には随意的に抑制することができ、睡眠中は見られないことが多い
・ADHDや強迫性障害との関連の可能性
症状を指摘するのは禁忌となっている(増悪する要因)
→親や学校の先生へのカウンセリング
<治療>
心理的・社会的介入(患児へのカウンセリング)のほか、抗精神病薬を用いる
薬物療法
リスペリドン:SDA(セロトニン・ドパミンアンタゴニスト)
→遅発性ジスキネジアが起きにくい
ハロペリドール:ドパミン受容体遮断
アリピプラゾール
Gilles de la Tourette症候群について(GTS)
Gilles de la Tourette症候群は、小児期に発症する神経発達障害であり複数の運動性チックと音声チックが特徴であり、これが1年以上持続するものをいう
→チック症(チック障害)の重症例である
・10歳前までに発症する
・症状は増悪と寛解を繰り返しながら、年齢を経るごとに症状は軽快していくことが多い
・多因子性であり多遺伝子性の疾患と考えられている
・構造的、機能的脳の異常、神経回路障害に寄与している可能性がある
2022年現在、診断基準には、アスペルガー症候群、ADHD、チックは重複診断はしないこととなっている
<治療方針>
心理教育、勇気づけ、行動療法、薬物療法(ハロペリドール)、機能的脳神経外科手術(まれ)
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注意欠如/多動障(AD/HD)について
注意欠如/多動障(AD/HD)とは、脳の先天的機能異常が原因と考えられ、集中が困難で不注意があり、多動性、衝動性の主症状がみられる
DSM-5では注意欠陥/多動性障害から「注意欠如・多動症/注意欠如多動性障害」と名称変更となっている
・男児に多い
→学童期に症状が顕著である(小児の2〜7%ほどみられると言われている)
・12歳以前の早期発症であり、6ヶ月以上の続く持続性があり、複数の場所で観察される広汎性であることが条件にある
・知能は正常である
・手先が不器用なことが多い
・不注意とは、「一つのことを続けて行うことができない」ということ
・多動は思春期までに改善するが、不注意は成人後も見られることが多い
・慣れない場所や騒々しい場所などでは、不安が高まったり多動が増悪する
・大人からの叱責や友達づきあいからのいじめで対人関係に問題を抱えやすく、集団不適応に悩むことで自己評価が低い人格となることが多い
→早期発見し、周囲の理解や適切な支援で行為障害やうつ病などの二次障害を防ぐことが重要である
<種類>
・混合性ADHD:不注意、多動性、衝動性の全てが明らかである
・不注意優勢型ADHD
・多動性-衝動優勢型ADHD
<治療>
先に認知行動療法を行い、それで改善が見られない様であれば薬物療法となる
薬物療法:メチルフェニデート(第一種向精神薬)(中枢性刺激薬)
→これは徐放錠(コンサータ®︎)となっている(依存や乱用防止)
(リタリン®︎は普通錠であり、ナルコレプシーのみの適応となっている)
・アトモキセチン(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
・グアンファシン(選択的α2A受容体作動薬)
・学校や家庭の環境を調整し、親へのガイダンスや心理サポートをしていくことが必要である
<非薬物的介入について>
・気が散る様な情報が少なくなる様な環境を作る
→授業では席を前の方にして、視野を狭める。使用しないものは片付けておくなど
・集中できる時間(不注意)を考えて課題の内容を決める
・目標を定めたり、自信を持たせるようにする。また、頭ごなしに叱ることはしないこと
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学習障害(LD)について(限局性学習症)
学習障害とは、読み書きの能力や算数などの計算能力に関して特異的な発達障害の一つである
<3つのタイプ>
・読字の障害タイプ:読字障害
・書字表出障害タイプ:字を書くことだけがうまくできない書字障害
・算数の障害タイプ:算数能力障害
・書字障害は、生来的に視覚情報を認知して手指の運動と協調させる脳の働きに障害があると考えられている
→文字を反転して書いたり(鏡文字)、漢字などの書き間違いが多い
→基本的に成人になっても障害は持続するが、適切な教育でサポートすることができれば、自分のできる範囲で補うことはできる
・ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)を伴うことがある
→家庭や学校、医療関係者を含め、学習支援や配慮が重要となる
・教育的LDと医学的LDがある
→教育的LDでは学習面での広い能力の障害を指すが、医学的LDでは「読み書きの特異的障害」や、「計算能力など算数技能の獲得における特異的な発達障害」を指すことが多い
・知的な遅れや視聴覚障害がなく、本人も努力をしているが知的能力から期待される読字能力を獲得することに困難がある状態を発達性ディスレクシアという
→日本において、小中学の児童の4、5%ほどは存在すると報告がある
→最初の検査は知的機能評価(Wechsler式知能検査など)で知能指数が知的障害にないことを確認し、次にひらがな音読検査をし流暢性や正確性を確認する
・漢字やひらがなの読字書字到達度を測ることができるSTRAW-R、KABC-Ⅱ習得度検査、CARDなどがある
・読みに関しては、音韻認識機能検査、視覚認知機能検査、言葉の記銘力検査などを行うことがある
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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