今回も循環器疾患を見ていきます
今回で小児科の循環器疾患は完結になります
心臓の解剖・名称について
部位名 | 英名・略名 |
---|---|
上大静脈 | superior vena cava(SVC) |
上行大動脈 | ascending aorta(AA) |
右心房 | right atrium(RA) |
右心室 | right ventricle(RV) |
大動脈 | aotra(Ao) |
腹腔動脈 | celiac trunk(CT) |
左心耳 | left auricle(LA) |
左心室 | left ventricle(LV) |
左心房 | left atrium(LA) |
心尖 | apex of the heart |
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
リンク先
動脈管開存症について(PDA)
動脈管開存症とは、大動脈狭部と肺動脈分岐部の間にある胎児期の動脈管が残ったものであり、それによって大動脈血の一部が肺動脈に流入することでおこる疾患である
<PDAの血行動態について>
左→右シャント(Ao→PA)
┃
┣ 肺血流量↑
┃ ┣ 肺高血圧症
┃ ┗ 左室拡張期容量負荷
┃
┗ 動脈系→肺動脈への流入が急速であり、速脈となる
・胸骨第2肋間で心雑音聴取あり
→石臼をひくような収縮期から拡張期にかけての連続性雑音といわれる
・脈圧の増大、速脈がみられる
→左右シャントからにより、動脈系から急速に血液が肺動脈へ流入して速脈を呈する
速脈はPDA含め、左心室1回拍出量の増大する病態である大動脈弁閉鎖不全症(AR)、Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞)で認められる
・肺高血圧症をきたし、アイゼンメンジャー化すると、下半身のチアノーゼや足指のばち指をきたすようになる
・感染性心内膜炎のリスクがある
→循環器疾患でこのリスクがないのは、僧帽弁狭窄症(MS)と心房中隔欠損(ASD)のみである
・Quinke徴候(クインケ)※がみられる
※ Quinke徴候:脈圧が増大することで、脈拍に伴って爪床部の毛細管拍動がみえる状態をいう
爪先を軽くおさえると赤い部分、白い部分に分かれてこの境目が拍動に合わせて動く
徴候については、クインケ徴候の他、ドミュセー徴候、コリガン脈、トラウベ徴候など様々あるが、詳細については循環器疾患編でまとめていきたいと思う
聴診:第2肋間胸骨左縁に最強点あり、連続性雑音(機械的雑音)が聴きとれる
→ここから、大動脈→肺動脈シャントの考慮からのPDAを考慮
PDAが中等度以上では
心電図:左室肥大
胸部X線像:左第1、左第2、左第4弓突出、上行大動脈の拡張、両側肺血管陰影の増強を認める
→大動脈から肺動脈へのシャントにより血流が増加しているため
<確定診断>
①カラードプラ心エコー:大動脈→肺動脈シャントを確認
→肺動脈圧が低ければ動脈管の血流は加速するため、表示では赤色単一ではなく、モザイク状の黄色交じりの赤色が画面で確認できる
逆に、モザイクシグナルがない場合、動脈管の血流は遅いということであり肺動脈圧は高いと考えられる
そのため、この場合では患児の動脈管の雑音は連続性とならないだろう
②心カテーテル検査:肺動脈のO2ステップアップを確認
③大動脈造影検査:動脈管の開存と大動脈→肺動脈の造影剤流入像を確認
<治療>
・早産児で呼吸障害や心不全がある場合:水分制限、インドメタシン、イブプロフェン リシン等※1
ドパミンの併用※2のこともある
・乳児で心不全があれば、手術やカテーテル塞栓術の施行
・心不全がない(無症候性)ならば、カテーテル塞栓術(コイル塞栓術)または手術の施行
※1 インドメタシン:NSAIDsの一種であり、これらはCOX(シクロオキシゲナーゼ)阻害薬である
これによって、PG(プロスタグランディン)の産生を阻害して動脈管を収縮してPDAを閉鎖できることがある
インドメタシンは尿量に応じて、12~24時間ごとに3回静注する(尿量:0.6mL/kg/hr未満では投与しない)
主な副作用(SE)について:主にNSAIDsに共通している部分ではあるが、腎不全、壊死性腸炎、出血傾向、低血糖などの重篤な副作用もあるため留意しておくこと(成人とは異なり、副作用頻度としては高くなりやすいと容易に考えられる)
妊婦に対して、解熱鎮痛剤としてや陣痛防止のためにインドメタシンは使用禁忌である
理由:胎盤経由で胎児動脈管閉鎖し、胎児の右室系血流が下行大動脈に流れなくなる、そのため
①胎児の右心不全となり、胎児水腫を伴う
②新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)となる
リスクがあるため
※2 ドパミン:心不全治療薬に使われる生体内物質の一つだが、動脈管に対する直接的な作用はない
ただし、肺動脈の収縮が少しあり、その結果肺血流量の増加を防いで腎動脈も拡張するため、利尿薬同様に浮腫を防止するためインドメタシンと併用することもある
超低出生体重児から発症する症例について
超低出生体重児では、出生直後に呼吸窮迫症候群(RDS)が問題となるため、人工の肺サーファクタント補充療法が必要である
その後、肺の状態が改善されるが、次に動脈管を介して肺に流れ込む血流が増加するため
左房や左室が拡大し、大血管短軸断面では「左肺動脈の左側に2~3mmの異常腔から探触子に向かう血流の赤色血流が肺動脈内に吹き込む像」が認められる
短絡量が多いと、肺出血の合併、腸・腎臓のへの血流低下で壊死性腸炎や尿量低下をきたす
治療は、水分制限・ドパミン投与、インドメタシン点滴静注となる
これらが無効例では、動脈管結紮術の施行となる(超低出生体重児であったとしても行うことはある)
<動脈管の診断>
心エコーでみるべきポイントについて
①大動脈弁の左前方にある肺動脈弁を確認できる大血管短軸断面で観察をする
②主肺動脈から後方へ「人の型」のように左右の肺動脈が分岐している
③動脈管は左右肺動脈の間から出るのではなく、左肺動脈の更に左側に位置している
④動脈管の短絡血流は探触子のある肺動脈に向かうため、赤色で表示される
心室中隔欠損、動脈管開存まとめ
┏ 心室中隔欠損症(VSD)
┗ 動脈開存症(PDA)
↓
左室容量負荷 ↑
↓
左房 / 左室の拡大(重症例)
・心房中隔欠損症(ASD)
↓
右室容量負荷 ↑
↓
右房 / 右室の拡大(重症例)
呼吸窮迫症候群(RDS)は日齢1でよくみられる
日齢1~3にはこのRDSは改善し、肺への血流が増加すると、今度は動脈管開存症(PDA)の所見が目立つようになり
PDAに伴って日齢5くらいから壊死性腸炎(NEC)が出現する
このように、超・極低出生体重児では経時的に種々の病態がみられる
心雑音から心疾患を考えてみる
発見時期 | 疾患 | 時相 | 心雑音最強点 | 雑音の種類 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
出生直後 | 大動脈狭窄症 | 収縮期 | 胸骨右縁第2肋間 (大動脈弁領域) | 収縮期駆出性雑音 | 雑音は右頸部に放散しやすい 胸骨上窩から右総頸動脈にthrill※を触れることあり |
〃 | 肺動脈(弁)狭窄症 | 〃 | 胸骨左縁第2肋間 | 収縮期駆出性雑音 駆出性クリック音 | 重症例では、心不全やチアノーゼの症状を呈する |
生後数日 | 心室中隔欠損症 | 〃 | 胸骨左縁第3~4肋間 (流出路欠損では第2肋間あたり) | 全収縮期逆流性雑音 | 肺高血圧症があれば、収縮中期性雑音を呈することあり |
〃 | 動脈管開存症 | 連続性 | 胸骨左縁第2肋間 (左鎖骨下領域) | 連続性雑音 | ー |
幼児期~学童期 | 心房中隔欠損症 Ⅱ音の固定性分裂症 | 収縮期 (弱い) | 〃 | ー |
thrill(スリル):心雑音が大きい場合、振動が胸壁から触知できることがある。振戦ともいう
心雑音の大きさにはLevine(レバイン)分類がある
<胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁口部)の駆出性雑音を呈する疾患について>
①無害性心雑音
②肺動脈弁狭窄症
③ファロー四徴症
④心房中隔欠損症
⑤心内膜床欠損症(不完全型)
⑥総肺静脈還流異常症(雑音がないこと多い)
駆出性雑音は右室または左室の流出路狭窄の際に生じる
Ⅰ音が明瞭に聴かれ、雑音の開始時期との間に雑音のない時間(等容性収縮期)があることに注意して聴取する
Diamond-shaped(ひし形)の雑音で、雑音のピークが収縮期後半になるほど狭窄の程度が強いといえる
それに対し、逆流性雑音は全収縮期雑音であって、Ⅰ音と同時に雑音が始まる
心尖拍動について
心尖拍動は心雑音とは違い、心臓が収縮するときに心尖部が胸壁に当たって生じる拍動のことであり、これは肉眼で確認することができる
<触診部位>
心尖拍動 ┳ RV(右室)
┣ LV(左室)
┗ DLV(左室拡張)
リンク先
Fallot四徴症について(指定難病:215)(TOF:ファローしちょうしょう)
ファロー四徴症とは、胎生期の心臓の発生異常であり、肺動脈と大動脈の大きな2つの血管を仕切っている壁が体の前方へずれている状態(漏斗部中隔の前方偏位)であり、チアノーゼ※を伴う心疾患である(ただし、原則心不全には至らない)
これにより肺動脈閉鎖を伴っているものをファロー四徴症極型ともいう
この疾患は特に症状や経過が様々であり、典型例でないこともあるため注意が必要である
※ チアノーゼ:爪や唇が紫色になってみえる状態となる
→乳児期では啼泣が強いと呼吸が強くなりチアノーゼを起こしやすくなる(チアノーゼ発作、無酸素発作)
ピンクFallotというのがあり、これはチアノーゼを全く認められない状態をいう
<ファロー四徴症の4つの特徴>
①左右の心室を分けている心室中隔に大きな穴が開いている(心室中隔欠損:VSD)
②全身へ血液を送る大動脈が左右の心室にまたがっている状態(大動脈騎乗)
③肺に血液を送る肺動脈の右室の出口である漏斗部が肺動脈弁と同時に狭くなっている(肺動脈狭窄・漏斗部狭窄:PS)
④左右の心室の圧が等しくなり右室が肥大する(右室肥大)
このほか、奇形症候群で肺動脈弁狭窄を伴うことがある
→これはNoonan症候群(ヌーナン:指定難病195)※といい、これはカテーテル治療が無効のことがある
・チアノーゼ性心疾患だが、乳児期早期(新生児期)ではチアノーゼを認めないことが多い
・チアノーゼや無酸素発作は生後数ヶ月以降に出現する
→2歳以上のチアノーゼ性心疾患の9割ほどを占めている
・原則的には心不全とはならず、これは別のものと考える
・ファロー四徴症は症状、経過に個人差があるため、治療法の選択は柔軟に行う必要がある
・肺動脈の発育後に心内修復術を行うことが最も重要な条件である
→発育不良例では、Blalock-Taussig(BT(シャント))手術を施行して、肺血流増加させて発育を促すことをする
→B-T短絡手術後は、シャントが開存していれば連続性雑音を聴取できる
・根治術後の予後は肺動脈狭窄や肺動脈閉鎖不全の程度、右室機能に依存している
(術後、右室流出路形成に伴う肺動脈弁逆流や進行性の肺動脈狭窄が出現する例がある。また、まれに心室中隔欠損時に刺激伝導系を損傷して完全房室ブロックを生じたりする)
→早期手術によって術後成績は改善している
→そのため、最近では肺動脈閉鎖不全による心室頻拍の突然死が目立ってきている
・右室起源の心室性不整脈が増加した場合は、Rastelli型人工導管(ラステリ手術)による再手術が行われる症例が増えている
根治手術をしても術後合併症を起こす可能性があることから、根治手術という言葉よりも心内修復術が適切だという指摘がでている
※<参考>
ヌーナン症候群(指定難病195) – 難病情報センター (nanbyou.or.jp)(閲覧:2022.2.9)
ファロー四徴症の特徴には、蹲踞(そんきょ:squatting)がある
蹲踞は腹部大動脈と大腿動脈を圧迫することで、相対的に肺血流量を増加させる動作をいう(うずくまる状態)
→これにより、体血流抵抗を増大させ、VSDからの右→左シャントを減少させる
心電図:右軸偏位、右室肥大、V1での高いR波やV6での深いS波で右室肥大が示唆される(右室の求心性肥大)
胸部X線像:主肺動脈部の陥凹、肺血管陰影の減少、挙上した心尖、左第2弓の拡大などを認める(狭窄後拡張)
聴診:ファロー四徴症は尾側の漏斗部狭窄(これは弁下である)のため、第3(~4)肋間胸骨左縁が最強点となる
肺動脈弁下狭窄の収縮期駆出性雑音、単一Ⅱ音(ⅡA亢進)あり
(肺動脈弁狭窄では第2肋間胸骨左縁が最強点となる)
→肺動脈狭窄のため、肺動脈圧が低下してⅡPが減弱し、ⅡAが亢進して単一Ⅱ音を聴取することが多い
<確定診断>
①心エコー検査:(巨大な)VSD、大動脈騎乗、右室流出路狭窄、右室圧(RVP) = 左室圧(LVP)であることの確認
→圧較差がないため、VSDによる雑音は生じない
②心カテーテル検査:RVP = LVPで大動脈SaO2が低下していることを確認
(肺動脈圧(PAP)は正常)
③右室造影:肺動脈と大動脈が同時に造影され、相互関係は正常、側面側で大動脈の心室中隔への騎乗があることを確認
右室負荷には2種類あり、それぞれの心電図は異なってくる
・右室の求心性肥大:V1でST低下を伴う高いR波を認める
・右室容量負荷を呈する心房中隔欠損症(右室内腔が広がる):V1でIRBBB(不完全右脚ブロック)を認める
<治療>
姑息手術:乳児期早期に無酸素発作をきたすもの、肺動脈が細く根治手術ができないもの、肺血流が減少する疾患であるファロー四徴症などに行う手術
→肺血流量増加ないし肺血管を太くすることを目的としてブラロック・トーシク手術(Blalock-Taussig:B-Tシャント手術)を行う
→これは、鎖骨下動脈断端と肺動脈を吻合して肺血流量の増加をはかる手術法である
この他、大血管転位症(Ⅲ型)、肺血流減少を伴う総動脈幹症、肺動脈閉鎖症や三尖弁閉鎖症などでも用いられる
<根治治療>
基本的には根治療法であり、右室圧負荷による右室機能悪化を考慮し、今は1歳前後で手術するのが一般的となっている
・生後6ヵ月から3歳くらいに人工心肺装置を用いて心室中隔欠損手術(VSD閉鎖)と右室流出路再建術を行う
→心室中隔欠損手術には、肺体血流量比が1.5を超えていて、かつ、左室肥大のある場合に心室中隔欠損パッチ閉鎖術というのがある
・チアノーゼ発作、無酸素発作:鎮静、酸素、胸膝位、アシドーシスの補正(急速輸液)、血管収縮(昇圧)薬投与をする
→胸膝位とは、四肢を折り曲げて(四つん這いから、頭を下げお尻を上げた状態)体血管抵抗を上げることで肺への血流量を増加させる体勢をいう
→鎮静には、モルヒネやペチジン(麻薬)などの投与をする。これにより、漏斗部のスパズム(攣縮)を解除と、酸素消費を抑える
重症では:β遮断薬を用いる(発作予防にも使用可)
頻発例では緊急手術が必要である
<参考>
ガイドライン | 一般社団法人 日本循環器学会 (j-circ.or.jp)(閲覧:2022.2.9)
TOFとHOCM(閉塞性肥大型心筋症)の治療では、陽性変力作用のジギタリス製剤は禁忌である
→これらにはβ遮断薬を用いること(この逆のβ刺激薬は禁忌である)
Fallot四徴症かつ肺動脈閉鎖のある極型Fallotでは、動脈管依存のため治療薬はPG(プロスタグランジン)の持続点滴を行う
この疾患には、動脈管が酸素で閉鎖することから、原則として酸素投与は禁忌である
生後2~3ヵ月でも無酸素発作がおさまらず緊急シャント手術が必要となったこともある(個人差があるため典型例だけでの考えはしないこと)
Fallot四徴症の無酸素発作について
Fallot四徴症の無酸素発作は、漏斗部(肺動脈弁下)狭窄が増強して肺血流が減少することでチアノーゼが悪化する病態である
・発症は生後6ヶ月から2歳までの間に多い
・啼泣や哺乳後の酸素需要の増大や入浴や麻酔などによる体血管抵抗の低下、脱水などによる循環血液量の減少、貧血などが誘因されて発症することがある
・突然にチアノーゼが増強して不機嫌となり、意識障害、けいれんに移行する
・発作時は心雑音の消失となる(狭窄で肺血流が極少となって雑音の聴取が困難となる)
<治療>
・胸膝位、酸素投与、鎮静薬投与、α刺激薬、アシドーシスの補正、β遮断薬の使用
予防投与:β遮断薬、鉄剤(これは相対的貧血を是正する目的)
チアノーゼ性の先天性心疾患について
チアノーゼ性の先天性心疾患の病態については様々ある
例えば
①低酸素血症に対する代償性変化として多血症となることから脳血栓リスクが上がる
②奇異性塞栓による脳膿瘍
③右→左シャント部の乱流によって心内膜炎
などが挙げられる
Fallot四徴症、大血管転位症、単心室などの右→左シャントのある先天性心疾患では脳膿瘍を合併しやすい
脳膿瘍の症状について
合併症である脳膿瘍の症状は
①頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔吐など)
②炎症に伴う全身の感染症状(発熱など)
③脳実質障害の症状(痙攣、意識障害、麻痺など)
の3つがあるが、すべてそろうというわけではないことに留意すること
・嘔吐、左右どちらかの上下肢痙攣、麻痺があれば、中枢神経系の障害を考え、これが錐体路徴候なのか、頭蓋内亢進なのかを鑑別していく
→錐体路徴候には左右いずれかの上下肢の深部腱反射亢進を生じたり、片足のBabinski徴候(バビンスキー)も生じうる
ただし、この症状は通常は数日から数週間が経過した後にみられるものである
Fallot四徴症の外科手術について
原則は根治手術である
・チアノーゼ軽度の生後1~6ヶ月までは経過観察のみで良いことが多い
・1歳までで、頻回な失神発作、無酸素発作、重症型をきたすものでは、肺血流増加を目的とした姑息手術となる
・BT手術(鎖骨下動脈-肺動脈短絡手術)は体外循環不要
・1歳前後では根治術に適した時期であり
→VSD閉鎖+PSの拡大 または 右室流出路形成(心内修復術)
・2歳以降では年齢が高くなるほど心筋の変性、腎機能低下、側副血行路の発達などがすすみ根治手術は難しくなる
<カテーテル治療として重要なもの>
①肺動脈弁狭窄症に対する経皮的バルーン弁形成術(PTPV)
②完全大血管転位症に対するバルーン心房中隔裂開術(BAS)
→Jatene手術(ジャテーン手術)という肺動脈と大動脈を入れ替えて、左心室から大動脈、右心室から肺動脈がでるようにすることと、冠動脈を移植して酸素化された血液を心臓に流れるようにする術式を行う
③動脈管開存症に対するコイル塞栓術
→直径2.5mmまでのものが治療対象
④動脈管開存症に対するAmplatzer閉鎖栓(アンプラッツァー)での閉鎖
→直径の大きな動脈管が治療対象
⑤心房中隔欠損症に対するAmplatzer心房中隔閉鎖栓などで閉鎖
リンク先
三尖弁閉鎖症について(指定難病:212)
三尖弁閉鎖症は様々な分類、型があり、様々な程度の心不全とチアノーゼを呈する
これにはKeith-Edwards分類(キース・エドワーズ)がある
分類 | 内容 |
---|---|
Ⅰ型 | 正常大血管関連 |
Ⅱ型 | d型大血管転換のもの |
a型 | 肺動脈閉鎖を伴うもの |
b型 | 肺動脈狭窄を伴うもの |
c型 | 肺高血圧となるもの |
あとは組み合わせで表現される(Ⅰa型、Ⅱb型など)
Ⅰb型ではファロー四徴症と非常に類似した心雑音、血行動態、症状を呈して成長とともにチアノーゼの増悪が認められることがある(しかし、一般的には出生時からSpO2がもっと低値となっている)
<治療>
いずれの型であっても、チアノーゼを改善するにはFontan手術※(フォンタン:TCPC)のみとなっている
※ フォンタン手術:これは、使える心室が一つしかないという状態に行う手術であり、上大静脈と下大静脈の両方を肺動脈につなげる手術である
先に、上半身からの血液の流れ(上大静脈)を肺動脈に繋げるグレン手術をしているならば、下半身の血流を肺動脈につなげる手術をするだけでよい
適応疾患には、三尖弁閉鎖症の他、単心室症(指定難病:210)、左心低形成症候群(指定難病:211)、純型(心室中隔欠損のない)肺動脈閉鎖症の一部(指定難病:213)などが挙げられる
<参考>
弁膜症治療ガイドライン2020
JCS2020_Izumi_Eishi.pdf (j-circ.or.jp)(2022.2.9)
NYHA分類について(ニーハ分類)
NYHA分類で重症度分類はⅡ度以上
NYHA:New York Heart Association
分類 | 内容 |
---|---|
Ⅰ度 | 心疾患はあるが、日常生活の支障なし 日常的な身体活動では、疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生じない |
Ⅱ度 | 軽度から中等度の身体活動の制限がある 安静時または軽労作時には無症状である 日常労作のうち、比較的強い労作(階段の上り下りなど)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生じる |
Ⅲ度 | 高度の身体活動制限がある 安静時には無症状である 日常労作のうち、軽労作(平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生じる |
Ⅳ度 | 心疾患のためいかなる身体活動も制限される 心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する わずかな身体活動でこれらが増悪する |
NYHA分類での指標については以下のとおりである
分類 | 身体活動能力 (SAS:Specific Activity Scale) | 最大酸素摂取量 (peakVO2) |
---|---|---|
Ⅰ度 | 6METs以上 | 基準値の80%以上 |
Ⅱ度 | 3.5~5.9METs | 基準値の60~80% |
Ⅲ度 | 2~3.4METs | 基準値の40~60% |
Ⅳ度 | 1~1.9METs以下 | 施行不能あるいは 基準値の40%未満 |
おおよその目安として
・安静時の座位を1METsと定義
・室内歩行は2METs
・通常歩行は3.5METs
・ストレッチなどの軽い運動は4METs
・速歩は5~6METs
・階段昇降は6~7METs
・サイクリングは8METs
ほどになる
METs(メッツ):安静時の座位を1METsとして、様々な活動がそのエネルギー消費が何倍になるのかを示した指標である
1MET=3.5mL/kg/分 の酸素摂取量と定義されている
METsからカロリー消費も計算できる
消費カロリー(kcal)=METs×時間×体重(kg)
ex)体重60kgの人が歩行(3METs)を2時間行った場合は
消費カロリー=3METs×60kg×2hr=360kcal となります
ちなみにメタボリックシンドローム予防のために「健康づくりのための身体活動基準2013」(厚労省)では
3METs以上の身体活動を1週間に23METs・時行う としている(METs・時はMETs×時間(hr))
近縁疾患について
リンク先
肺動脈閉鎖症
肺動脈閉鎖症では、肺血流が動脈管依存性であるため、動脈管閉鎖に伴って低酸素血症が急速に進行し、その程度も非常に強い
・肺動脈閉鎖症には、心室中隔欠損症を伴わない肺動脈閉鎖と、心室中隔欠損症を伴う極型Fallotがある
・心室中隔欠損症を伴わない方は純型肺動脈閉鎖ともよばれ、右室は低形成となる
完全大血管転位症
完全大血管転位症では、出生時から強いチアノーゼを呈する。また、動脈管が閉鎖すると更に低酸素血症が増悪する
右左シャントのある先天性心疾患の一つ
脳膿瘍を合併しやすい
総肺静脈還流異常症
総肺静脈還流異常症もチアノーゼを呈する疾患である
ただ、聴診ではⅡ音の亢進が認められ、心雑音がないことが多い。症状は肺うっ血による多呼吸が著明である
肥大型心筋症
肥大型心筋症で左室流出路狭窄を伴っているようであれば、Fallot四徴症と同様に治療はβ遮断薬が有用である
心音聴診の基礎
心音は分類から、聴診部位、音の大小、音の種類で分類が様々されている
この違いから疾患を類推していくこととなる
・心電図ではP波、Q波、RS波、T波、(U波)と表現されるが、RS~T波では収縮期、その後から次のQ波終わりまでは拡張期となっている
・この収縮期に鳴る雑音を収縮期雑音、拡張期に鳴る雑音が拡張期雑音という。それ以外では連続性雑音などがおこることもある
・心音では、上記の収縮期の始まりにⅠ音、収縮期の終わりから拡張期の始まりにⅡ音、拡張期の間に2回鳴るのがⅢ音、Ⅳ音となっている
心音の分類について
心音はそれぞれの部位の弁の閉じる音だったり、心臓の状態、収縮力などを把握することができます
大まかな分類としては以下の4つを覚えておきましょう
分類 | 内容 |
---|---|
Ⅰ音 | 僧帽弁と三尖弁の閉鎖時の音 |
Ⅱ音 | 大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖時の音 |
Ⅲ音 | 健康な若年者、高齢者は心不全状態 |
Ⅳ音 | 左心室の収縮が低下(心筋症) |
心雑音の分類について
<心雑音の分類について>
収縮期雑音 ┳ 駆出性雑音①
┗ 逆流性雑音②
拡張期雑音 ┳ 駆出性雑音③
┗ 逆流性雑音④
連続性雑音
┣ 動脈管開存
┗ 大動脈肺動脈中隔欠損症
上記の分類 \ 聴診部位 | A | P | T | M |
---|---|---|---|---|
① | AS | PS | - | - |
② | - | - | TR | MR |
③ | - | - | TS | MS |
④ | AR | PR | - | - |
A:大動脈弁部位
P:肺動脈弁部位
T:三尖弁部位
M:僧帽弁部位
S:駆出性
R:逆流性
心疾患患者の診療方法について
(1)視診
全身、胸郭、呼吸、頸部、頸静脈波
(2)触診
胸部、スリル、動脈拍動、心尖拍動
(3)聴診
頸動脈、大動脈弁部位、肺動脈弁部位、三尖弁部位、心尖部
心音の聴こえ方での分類には、Levine分類というのがある(レバイン分類)
分類 | 内容 |
---|---|
Ⅰ度 | 極めて微弱で注意深い聴診で聞こえる程度 |
Ⅱ度 | 弱いが聴診器を当てるとすぐに聞こえる程度 |
Ⅲ度 | thrillを伴わない高度の雑音 |
Ⅳ度 | thrillを伴う高度の雑音 |
Ⅴ度 | 聴診器の端を胸壁にあてるだけで聴こえる雑音 |
Ⅵ度 | 聴診器を胸壁に近づけるだけで聞こえる雑音 |
<小児の機能性雑音について>
①4LSB~心尖部※1で収縮期にLevineⅠ~Ⅱ度の楽音用雑音※2
4LSB:第4肋間胸骨左縁
②肺動脈弁領域(2LSB)で収縮期駆出性雑音
③静脈コマ音
→左右頸部~鎖骨下に坐位で聴取し、臥位では消失する
数字:肋間の位置
L:左
R:右
B:胸骨
S:肋間
MCL:鎖骨中線の交点
※1<心音聴診について>
(1)動脈弁領域の心音聴診
Ⅰ音 < Ⅱ音
2RSB(大動脈領域)2LSB (肺動脈弁部位)
2RSB:第2肋間胸骨右縁
2LSB:第2肋間胸骨左縁
(2)房室弁領域の心音聴診
Ⅰ音 > Ⅱ音
4LSB(三尖弁領域)心尖部(僧帽弁部位)
※2 楽音用雑音:楽器(弦楽器)のブーンとした音、still雑音ともいう
器質的疾患によるものではなく、特に問題のないものといえ、小児ではよく聴こえることがある(無害性心雑音)
聴診位置と聴取内容について
聴診する位置は全部で5か所である
それぞれの確認できる内容については把握しておく必要がある
聴診部位 | 聴取できる内容 |
---|---|
胸骨右縁第2肋間 (2RSB) | 大動脈弁および大動脈の音が最も強く聴取できる |
胸骨左縁第2肋間 (2LDB) | 肺動脈弁および肺動脈の音が最も強く聴取できる |
胸骨左縁第3肋間 (3LDB) | Erb(エルブ)領域といわれ、大動脈および肺動脈由来の音を聴取できる |
胸骨左縁第4肋間 (4LDB) | 三尖弁および右室の音が最も聴取できる |
第5肋間と鎖骨中線の交点 (5LMCL) | 心尖部領域で、僧帽弁と左室の音が最も聴取できる |
<その他>
・MRなど僧帽弁由来の心雑音は5LMCLに聴診器をあてることで聞くことができる
・胸骨付近では弱いか、聴取できないが心尖部付近で聴取されることがあり、これをGallavardin現象(ガラバルディン)という
・心室中隔欠損症と同じ部位(胸骨左縁下部)で聴取できるものには、三尖弁領域の疾患である三尖弁閉鎖不全症(Rivelo-Carvallo徴候:リヴェロ・カルヴァロ)がある
→リヴェロ・カルヴァロ効果では三尖弁機能不全により、吸気時の収縮期雑音が増大する現象をいい、僧帽弁閉鎖不全症との鑑別点となる
・心尖部やその左側側壁(僧帽弁領域)で聴取できる疾患には、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症がある
→全収縮期雑音である
今回はここまでとなります
次も引き続き、小児科編の循環器疾患についてみていきます
<参考紹介>
メディックメディア:クエスチョン・バンク vol.4 小児科
病気がみえる:vol.10 産科
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
できる限り正確な情報発信に努めておりますが、当サイトに記載した情報を元に生じたあらゆる損害に対しては当サイトは一切責任を負いませんので、あくまでも参考としてご利用ください。)