今回は抗ヒスタミン作用についてみていきたいと思います
抗ヒスタミン作用について
まず、ヒスタミンというのはどういうものでしょうか?
ヒスタミンとは、アミノ酸※の一種であるヒスチジンが体内で代謝されることでヒスタミンとなります
生体内では、末梢の肥満細胞にケミカルメディエーターの一つとして蓄えられており、刺激によって放出されることでアレルギー症状を呈します(詳細は後述のこちらから)
また、摂食によりエンテロクロマフィン様細胞(ECL細胞)からヒスタミンが遊離されて、それが胃のH2受容体(ヒスタミン受容体のサブタイプの一つであるH2)にくっつくことで、胃酸の分泌を促します
このヒスタミンは中枢では視床下部乳頭体から各部位に投射しているが、睡眠や覚醒、摂食調節(つまり食欲)に関与している
食品中には、マグロやカツオ、サンマ、サバ、イワシ、アジ、カジキなどの赤みや加工食品に含まれ、食中毒の原因物質になることがあります
このヒスタミンを発生させないためにも食品は温度管理が重要になります
※ アミノ酸:タンパク質を構成するアミノ酸は全部で20種類あるが、これらが集合したものがタンパク質です
タンパク質(肉、魚など)を摂取することで生体内では分解されてアミノ酸となり、筋肉の合成、血液、酵素、抗体、ホルモンなど様々な生体内反応に必要なものが作られます
リンク先
アミノ酸について
タンパク質を構成するアミノ酸は全部で20種類とのことでしたが、これには9種類の必須アミノ酸と11種類の非必須アミノ酸があります
必須アミノ酸とは、生体内で合成することが困難なアミノ酸であり、食事からの摂取が必須であるアミノ酸のことを言います
それぞれは以下のものがあります
必須アミノ酸 | バリン、ロイシン、イソロイシン(この3つ合わせてBCAA※と言われます) ヒスチジン、リシン(リジン)、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、スレオニン(トレオニン) |
非必須アミノ酸 | アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、システイン、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、チロシン |
上の表のアミノ酸で、青字は酸性、赤字はアルカリ性、黒字は中性を表します
※ BCAA:その構造から、分岐鎖アミノ酸(BCAA)といわれ、バリン、ロイシン、イソロイシンは特に筋肉のエネルギー代謝に関わるアミノ酸で、スポーツを行う人にとっては重要なアミノ酸となる(プロテインに多く含まれる)
リンク先
胃酸分泌の機序について
胃酸を分泌する流れは大まかにこのようになっています
ここに記載されているECLとは、胃腸粘膜にあるクロム親和性細胞(エンテロクロマフィン様細胞)を指します
<胃酸分泌の流れ>
①副交感神経の刺激によってAch(アセチルコリン)が遊離されます
このAchがECL細胞のM1受容体(ムスカリン性受容体のサブタイプ1)にくっつくことで、ヒスタミンを遊離させます
このヒスタミンは全身に巡りますが、胃の壁細胞にあるH2受容体(ヒスタミン受容体のサブタイプ2)にくっつくことで、いくつかの経路を経てHCl(胃酸)を分泌します
②①と同様にAchは直接胃壁細胞にあるM3にくっつくことで、いくつかの過程を経て胃酸分泌します
③胃の出口付近にある幽門部にはG細胞があり、ここからガストリンが遊離されますが、ガストリンがECL細胞にあるG(ガストリン)受容体にくっつくことでヒスタミンを遊離させます
その後は、①と同様に胃壁細胞にあるH2-Rにくっつき、胃酸を分泌させます
受容体のサブタイプとは:特定の物質と特定の受容体がくっつくことができる構造となっているが、同じ成分でも臓器の場所によっては作用が異なったりするため、サブタイプが決められている
このサブタイプは多数確認されているが、それぞれの部位や受容体のサブタイプの組み合わせで作用の方向性が決まっている(興奮性のもの、抑制性のものなど)
リンク先
アレルギー症状の機序について
アレルギー症状にはⅠ型〜Ⅳ型の4つの型がありますが、一般的にイメージされるのは即時型アレルギーであるⅠ型アレルギーでしょう
これは、文字通り反応が早いアレルギー症状で、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を摂取するなどによりすぐに発疹などのアレルギー症状を示します
まずはこのⅠ型アレルギーについてしっかり理解していきましょう
<Ⅰ型アレルギーの流れ>
①アレルギーの原因物質であるアレルゲンがマクロファージなどの抗原提示細胞に貪食(どんしょく)されて、ヘルパーTリンパ球に提示され、それがBリンパ球に伝わることで、このB細胞は抗体(IgE)を生成(Y字型の免疫抗体)します
この抗体があるおかげで、次から同じ様な異物が侵入したときにすぐに反応することができるようになります。それが、発熱や頭痛などを誘発します(これはあくまでも防御反応による)
②先ほど作られたIgE抗体は様々なケミカルメディエーター(化学伝達物質)の入っているマスト細胞(肥満細胞)の表面にくっつきます
これが、アンテナの役割となって異物が抗体にくっつくことでマスト細胞は壊れて脱顆粒して異物に対抗しようとします
しかし、この反応が過剰に起こることでアレルギー症状となってくしゃみ、鼻水、はたまた強い症状では呼吸困難にまで至ることがあります
抗ヒスタミン作用のある成分について
先程の、Ⅰ型アレルギーの機序を頭に入れたうえで、こちらの抗ヒスタミン作用をみてみましょう
アレルギー症状とは、遊離したヒスタミンが全身に作用して、気管支では収縮、胃では胃酸分泌、鼻では鼻水など様々な症状を引き起こします
この症状を抑えるために抗ヒスタミン薬というものが開発されました
その中でも第一世代、第二世代が挙げられますが
先に開発された抗ヒスタミン薬である第一世代は、割と強く効くが、副作用である眠気、口渇などの抗コリン作用が強い(中枢作用)というものになります
この副作用症状を軽減させるために開発されたのが第二世代です
これは、抗ヒスタミン作用がより選択的に作用させる様にすることで副作用の軽減をはかって開発されたものになります
それでも、風邪薬では症状を軽減するキレの良さから今でも第一世代は使われています(医療用においては特に強いものが多いです)
市販薬に使われる抗ヒスタミン薬の前に、参考までに医療用の抗ヒスタミンについて以下にまとめてありますので、何か調べる際はこちらも活用してみてください
世代 | 成分 |
---|---|
第一世代 | ジフェンヒドラミン、クレマスチンフマル酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩 プロメタジン塩酸塩、アリメマジン酒石酸塩、シプロヘプタジン塩酸塩 ヒドロキシジン、ホモクロルシクリジン塩酸塩 |
第二世代 | エピナスチン、オロパタジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩、ロラタジン レボセチリジン塩酸塩、ビラスチン、デスロラタジン、ルパタジン ベポタスチンべシル酸塩、セチリジン塩酸塩、エバスチン ケトチフェンフマル酸塩、アゼラスチン塩酸塩、エメダスチンフマル酸塩 |
第一世代は眠気の副作用が強いため、基本的には第二世代の抗ヒスタミン薬を用いるのが良いですが、強いアレルギー症状が見られる方にはリスクアンドベネフィット※の観点から投与をすることは往々にしてあります
ただし、第一世代では特に抗コリン作用も強く、緑内障患者、前立腺肥大症などによる下部尿路が閉塞にある患者では投与は禁忌である(第二世代では禁忌でないものもある)
リンク先
リスクアンドベネフィット:治療をすること(この場合は薬を飲むこと)が、副作用のリスクよりも治療するベネフィット(利益、メリット)が大きい場合は副作用を理解した上で治療(服薬)するという考え方
医療に限らないが、この考え方は医療従事者は常に持っておくべき思考法であるといえる
これらが挙げられます、ただ、市販薬(OTC)に限ってみると以下の成分が挙げられるので、登録販売者の試験的にはこちらをしっかり覚えておきましょう
用途 | 成分 |
---|---|
鼻水、くしゃみ、痒み 風邪薬、鼻炎薬、外皮用薬、点眼、点鼻など | クロルフェニラミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩 ジフェニルピラリン塩酸塩、トリプロリジン塩酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩 メキタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、エメダスチン など |
アレルギーが関与する咳症状に 鎮咳去痰薬 | クロルフェニラミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩 など |
吐き気、眩暈の緩和 乗り物酔い防止(鎮暈薬:ちんうん) | メクリジン塩酸塩、ジメンヒドリナート、プロメタジンテオクル酸塩 など |
傾眠作用 睡眠改善薬 | ジフェンヒドラミン塩酸塩 |
ジフェンヒドラミン:抗ヒスタミンの成分の中でも特に副作用の眠気(中枢作用)が強く、運転などの際は使えないため、敢えてこの副作用を主作用に変えて睡眠改善薬として改めて開発されたのがこのジフェンヒドラミンである(開発というか、販売の方向性を変えただけですが、、)
ここで改めて、何度も出てきますが
抗ヒスタミンには抗コリン作用も併せ持つため、当然副交感神経の働きを抑制します
そのことから、思いつく副作用は
・口渇
・便秘
・眼圧の上昇
・排尿困難
・眠気(傾眠)
ですね
そのため
抗ヒスタミン薬は緑内障(閉塞隅角緑内障)、前立腺肥大症などの尿路閉塞のあるものには禁忌である(一部、例外あり)
また、「乗り物または機械類の運転操作を避けること」とされている(一部、例外あり)
抗ヒスタミン成分における授乳の可否について
最後に、授乳中の女性の方で飲めるのかどうなのかについて見ていきたいと思います
一般的に薬を飲んで授乳中に良くないとされるのは、脂溶性が高い薬です
これは、母乳というのは脂溶性であり、同じように脂溶性のものは溶け合う性質があるため
母親が脂溶性の高い薬を飲むことで母乳中に移行し、それを飲んでしまうと赤ちゃんにも薬が移行してしまい、実質薬を飲んでしまっている状態になります
これを避けなければいけませんので、授乳の可否については全ての薬について考える必要があります
そこで授乳中に投与可能かどうかを知るための基準があります
それが、Medications & Mother's Milkの基準です
これには5段階で評価されています
段階 | 分類 | 評価 |
---|---|---|
L1 | 適合 (compatible) | 最も安全 (Safest) |
L2 | 概ね適合 (probably compatible) | 比較的安全 (Safer) |
L3 | 概ね適合 (probably compatible) | やや安全 (Moderately safe) |
L4 | 悪影響を与える可能性がある (Potentially Hazardous) | やや危険 (Possibly Hazardous) |
L5 | 危険 (Hazardous) | 禁忌 (Contraindicated) |
抗ヒスタミン薬においては
段階 | 対象成分名 |
---|---|
L1 | ロラタジン |
L2 | アゼラスチン セチリジン フェキソフェナジン レボセチリジン |
L3 | d-クロルフェニラミン |
L4 | クレマスチン |
L5 | ー |
これをみる限り、市販薬でいえばロラタジンとフェキソフェナジンまでは比較的安全といえそうですね
d-クロルフェニラミンでは、場合によっては注意をする必要があるということは覚えておいても良いでしょう
場合によっては乳児昏睡のリスクがあるため、服用中は人工乳にして母乳による授乳は避けることが必要です
ただ、どうしても服用をする場合であれば、アドバイスの仕方の一例として、、
初めは1日のうちで授乳回数が8回など多いと思いますが、なるべく赤ちゃんにお薬が移行しないようにしたいため、母親に説明する方法として
「授乳を先に済ませてしまってから、自分で薬を飲む」といったように説明をすると良いでしょう
ここまでが、抗ヒスタミン、アレルギーについての内容になります
次回は解熱鎮痛剤、プロスタグランジン系についてみていきましょう
お疲れ様でした!