(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
整形分野では、特に画像所見がみれることが大事ですが、まだあまり画像を載せれないため知識面を補うのに役立てていただければと思います
上肢疾患について(肩)
名称から大まかにどの様な疾患かを簡潔に把握するためにまとめてあります
疾患名 | 内容 |
---|---|
Bankart損傷 (バンカート) | 肩関節の脱臼により起こる関節唇の損傷 |
骨嚢腫 | 骨髄内の嚢胞性病変のこと(骨腫瘍類似疾患の一つ) 内部が液体である 上腕骨、大腿骨、踵などでみられる 基本的には一つの骨に限局し、転移はしない |
ガングリオン | 関節の近傍に生じる良性の腫瘍のこと 内容物(主成分)は粘稠な液体(ヒアルロン酸) 好発:手関節周囲が主だが、肩や肘関節深部でも認められることあり 時間の経過で縮小するが、穿刺吸引することもある |
腱板断裂 | 腱板:4つの筋腱の総称(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋) 断裂は棘上筋腱が多い(肩腱板) 疼痛、筋力低下がみられ、痛みは安静時・動作時どちらもみられる(夜間痛の訴えが多い) |
肩関節周囲炎 (五十肩) | 軟部組織に徐々に進む炎症で運動制限がみられる状態 炎症期、拘縮期、解凍期の3つの病期がある 動作時痛が主にみられる(肩関節周囲の圧痛あり) |
胸郭出口症候群 | 上肢の痺れ、だるさなどの神経症状を呈する 前・中斜角筋間や肋鎖間隙で腕神経叢や鎖骨化動静脈が挟まれて生じるもの |
頸肩腕症候群 (VDT) | 長時間のパソコン作業など(反復作業、同一姿勢の保持)をする労働者に多く見られる 筋緊張を伴う後頚部痛、肩こりが主症状で、緊張型頭痛を伴うこともある 作業環境、心理的要因なども関係しており、まずは普段の姿勢を見直すようにすること |
頚椎椎間板ヘルニア | 神経根が圧迫されて、上肢などに疼痛(放散痛)やしびれなどの神経症状が見られる Jacksonテスト(ジャクソン)、Spurlingテスト(スパーリング):頚椎を後屈させて神経根症状を呈することでこの疾患の疑いがある |
肩関節の可動域について
各部位の関節の可動域を把握することで、どういった動作ができるのか、できなくなるのかを客観的に把握することができる
イメージはつきにくいため、実際に動かして確認したり、画像などでチェックはしてほしい
ここでは肩関節についてみていく
運動方向 | 可動域角度 | 基本軸 | 移動軸 | 測定の注意点など |
---|---|---|---|---|
屈曲 (前方挙上) | 180° | 肩峰を通る床への垂直線 | 上腕骨 | 体幹を固定する 前腕を中間位とする 脊柱はまっすぐに(前後しない) |
伸展 (後方挙上) | 50° | 〃 | 〃 | 〃 |
外転 (側方挙上) | 180° | 〃 | 〃 | 体幹の側屈がおこらないようにする (90°以上では上腕を回外する) |
内転 | 0° | 〃 | 〃 | 〃 |
外旋 | 60° | 肘を通る前額面への垂直線 | 尺骨 | 前腕を中間位とする 上腕を体幹に接して肘関節を前方90°に屈曲して行う |
内旋 | 80° | 〃 | 〃 | 〃 |
水平屈曲 | 135° | 肩峰を通る矢状面への垂直線 | 上腕骨 | 肩関節を90°外転位とする |
水平伸展 | 30° | 〃 | 〃 | 〃 |
痛みや麻痺などによって着衣などの動作に制限がおこる
このため、疼痛や麻痺のある側から着ていくようにすると比較的に疼痛、麻痺のある部位をあまり動かさなくてもよい動作ができる
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腱板断裂について
内容についてはページ上の内容にまとめてあるが、ここではそのほかについてまとめていく
・好発は中年以降の男性でみられ、右肩に起こりやすい
・疼痛、夜間痛、こわばり、脱力がみられる
・インピンジメント症候群がみられる
→肩を挙げていくと、ある一定の角度で痛み、引っ掛かりが見られ挙上できなくなる状態をいう
・挙上した位置から下ろしてくる時、60°〜120°の間で特に強い痛みがみられることがある
→これを、有痛弧徴候(ペインフルアーク)という
・外旋や内旋の筋力低下所見
・断裂部分の触知
・有痛弧徴候(ペインフルアーク)やインピンジメント症候群を呈する
X線:肩峰骨頭間距離(AHI)の短縮の確認
MRI、超音波検査:腱板断裂所見の確認
<治療>
保存療法:安静、鎮痛剤投与、注射療法、運動療法など
手術療法:腱板修復術、肩峰下除圧術(スポーツ選手や力仕事など活動性の高い例などで行う)
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胸郭出口症候群について
胸郭出口症候群では、前斜角筋や中斜角筋、肋鎖間隙で腕神経叢や鎖骨下動脈・鎖骨下静脈が挟まれて神経症状を生じる疾患をいう
<分類>
牽引型:肩甲帯が下垂しやすいなで肩で首の長めな女性にみられる
これは、上肢が下方に引かれて腕神経叢に牽引刺激が加わることで発症することがある
圧迫型:筋肉などによる神経や血管の圧迫で起こるもので、筋肉質な男性でみられる
これは、主に発達した小胸筋や前斜角筋によって腕神経叢や血管が圧迫されることで発症する
また、頸肋による斜角筋隙の狭小化、なで肩による肋鎖間隙の狭小化でも圧迫される
<検査>
・Morleyテスト(モーリー):鎖骨上窩を圧迫することで圧痛や前胸部・上肢への放散痛がみられる
・Adsonテスト(アドソン):頭部を患側に回旋させた状態で深呼吸をすると、鎖骨下動脈が圧迫されて橈骨動脈の脈が減弱・消失を呈する
→首を健側に傾ける方法もある(変形Adsonテスト)
・Wrightテスト(ライト):両上肢を挙上させ、90°の屈曲や肩関節を90°に外旋・外転させることで、橈骨動脈の脈が減弱・消失を呈する
→同じ姿勢で、両手指の屈伸を3分行わせることで、痛みやだるさがみられて挙げ続けることができないのを確認することで陽性を示すRoosテスト(ルース)というものもある
・Edenテスト(エデン):両肩を後下方に牽引して胸を張らせることで、橈骨動脈の脈が減弱・消失を呈する
<治療>
保存療法:しびれがでやすい作業はしないようにする
手術療法:重症例で行うもの。検査で狭窄がみられれば第一肋骨の切除などを行なったりする
前斜角筋切除術は腕神経叢の症状が強いものに行うもの
上腕骨顆上骨折について
上腕骨顆上骨折は、小児(3歳〜8歳)で頻度が高い骨折である
最も多い合併症は、内反変形(内反肘)となっている(不完全な整復でおこる)。また、フォルクマン拘縮もある。
その他の合併症:上腕動脈・正中神経・橈骨神経・尺骨神経の損傷、Volkmann拘縮(フォルクマン)など
<その他の小児の肘関節骨折>
・上腕骨外顆骨折:小児において、上腕骨顆上骨折についで多い疾患である
→手指伸筋腱群が付着しており、骨辺が転移しやすい。転倒・転落で起こりやすく5、6歳に多く見られる(2〜10歳)
成長軟骨骨化が進んでいなければ、通顆骨折や脱臼骨折との鑑別が困難なことがあるため、両側でX線検査することが必要である
骨折部分が偽関節となると外反変形をきたすことが多い
・離断性骨軟骨炎:小中学生に多く見られるもので、関節中に軟骨が剥がれ落ちてしまう障害で、男児に多い(女児の2倍ほど)
→大腿骨内側が85%、外側が15%頻度でみられる(外側の場合、円板状半月を合併することもある)
スポーツなどで繰り返しの負荷によって起こると考えられている
血流障害で軟骨下の骨が壊死し、骨軟骨片が分離、進行することで関節内に遊離するようになる
初期は違和感ないが、進むことで亀裂や変性が生じて痛みが出てくる
更に、膝の曲げ伸ばしの時に遊離しているものが引っかかったりすると、ズレやロッキングといった膝を動かせない状態になったりする
・主な原因は転落、転倒の際に肘を伸ばした状態で手をついて受傷していること(9割を占める)
X線検査で容易に判断できる
ほとんどずれていない場合は、より注意深く観察することが必要
→上腕骨外顆骨折や肘内障などと誤診してしまうことがある
<治療>
骨折のずれが小さい場合:ギプス、半ギプスを3、4週間ほど装着すること
→骨がくっつかないことはないが、上肢が肘で横方向に15°以上曲がってしまうと内反肘変形となり、見た目だけでなく、上肢の機能障害につながることがある
<参考>
一般社団法人 日本骨折治療学会
https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip30.html(閲覧:2022.6.28)
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Volkmann拘縮について(阻血性拘縮)
区画症候群によって神経麻痺や循環不全が生じ、それが放置されることでVolkmann拘縮に至る
これは、前腕筋群が阻血壊死に伴って瘢痕収縮を起こして、手や指の屈曲拘縮を起こすためである
最も多いのは小児の上腕骨顆上骨折
フォルクマン拘縮の典型的な肢位は、IP関節の屈曲、母指内転、手関節掌屈(屈曲)、示指〜小指のMP関節伸展を呈する
<病態>
主に上腕骨顆上骨折などがあり
①筋区画内圧の上昇がみられ(区画症候群:コンパートメント症候群)
→上腕動脈の血行障害がおこる
→前腕屈筋群の阻血性壊死によって拘縮がみられる
コンパートメント症候群からフォルクマン拘縮を生じる可能性が高い外傷は、小児の上腕骨顆上骨折となっている
②上腕動脈が直接損傷し
→上腕動脈の血行障害が起こる
→正中・尺骨の神経麻痺によって拘縮がみられる
骨折箇所による分類
上腕骨骨折部位 | 骨折名 | 内容 |
---|---|---|
上腕骨頭 | 解剖頸骨折 | 関節内骨折であり、阻血性骨壊死を生じやすい まれなもの |
大結節付近 | 外科頸骨折 | 最も骨折しやすい部位 内転移または外転位で肘をついた場合、側方から直達外力によって生じやすく、高齢者に多く見られる |
上腕骨体 | 骨幹部骨折 | 開放骨折が少ない 血行が良く、遅延治癒を起こしにくい |
外側上顆付近 内側上顆付近 | 顆上骨折 | 正中神経や尺骨神経などの神経麻痺が生じやすい Volkmann拘縮が生じやすい |
上腕骨小頭付近 | 外顆骨折 | 幼児や小児で生じやすい 肘伸展位で外反方向に力が加わって発生する 放置してしまうと外反肘変形や遅発性尺骨神経麻痺をきたす |
前腕骨骨折部位 | 骨折名 | 内容 |
---|---|---|
肘頭 | 肘頭骨折 | 骨折部のずれが軽度であれば、ギプス固定などで安静にすること(保存療法) |
尺骨骨幹部 橈骨頭の前方脱臼の合併 | Monteggia骨折 (モンテジア) | 手をついて転倒し前腕の回内力※が強く働いた時にみらやすい骨折 |
※ 回内力:手を体の内側に回し手のひらを下にする動き
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区画症候群(コンパートメント症候群)について
区画症候群とは、四肢の筋区画の内圧が上昇し、循環不全によって神経や筋に不可逆性壊死をきたすもの
これは前腕と下腿に好発する
急性区画症候群:外傷などが原因
慢性区画症候群:激しい運動が原因
<治療>
上腕骨顆上骨折によるコンパートメント症候群では、早期に骨折部の整復をすることが必要である
(放置により、筋肉が阻血壊死し、瘢痕収縮を伴い、手や指の屈曲拘縮を起こす、進行により不可逆となる)
この時に、末梢で脈拍が触知できることが重要
急性区画症候群について
急性区画症候群は、外傷や外固定による圧迫がきっかけとなり、急激に発症する
進行により、阻血性拘縮をきたして重大な運動機能障害を残すこととなる(阻血から6〜8時間ほど続くことで生じうる)
・治療である外固定(ギプス、包帯)などの長時間圧迫で急激に筋肉内出血や浮腫を発症する
・症状は急激であり、脈拍消失、疼痛、運動麻痺、蒼白、感覚障害と末梢の阻血徴候の5P※がみられる
また、腫脹や他動的伸展によって疼痛の増強が見られる(前腕では手指、下腿では足趾)
・筋区画内圧測定では、≧ 30〜40mmHgとなる
※ 阻血徴候の5P:急性動脈閉塞時にみられる主な5つの徴候をいう
Pain(患肢の疼痛)、Paresthesia(知覚麻痺)、Pallor/Paleness(蒼白)、Pulselessness(脈拍消失)、Paralysis/Paresis(運動麻痺)
これに、Prostration(虚脱)も含めて6Pとすることもある(または、Passive stretching painの他動的伸展による激痛が含まれることもある)
注意:ショック時の5Pとは内容が異なる
Pallor(顔面蒼白)、Prostration(虚脱)、Perstiration(冷や汗)、Pulmonary insufficiency(呼吸不全)、Pulseless(脈拍触知不能)
<治療>
原因となっている外固定などによる圧迫の解除
外固定による圧迫解除で軽快しない場合、直ちに筋膜切開術による除圧を行うこと
→そのため、区画内圧の測定は緊急で行うことが必要
手指などの自動運動をしても筋肉の阻血は助長してしまうことから、するべきではない
Colles骨折について
Colles骨折(コールス)は、小児・高齢者が手をついて転倒した際に生じる橈骨遠位端骨折のこと
・好発:高齢女性
・症状は手関節部の腫脹、疼痛
・循環不全があり、手や指の腫脹、指尖の暗紫色などがみられる
→痛み止めは無効であることが多い、この状態ではコンパートメント症候群の進行でフォルクマン拘縮へ至る(不可逆的)ため、すぐに除圧などの対処が必要である
・偽関節が生じることは稀である
・フォーク状変形がみられ、様々な合併症の要因となる
→手根管症候群、Sudeck骨萎縮(ズディック)、長母指伸筋腱の皮下断裂など
<治療>
保存療法:整復し、その後ギプス固定
保存的治療では、ギプスを固定した後の循環状態の把握が重要である
→帰宅後48時間、常に指尖の色調や手指の運動に注意することが必要であることを指導すること
手術療法:観血的整復(関節面に転移が見られる場合)
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長母指伸筋腱の皮下断裂について
長母指伸筋腱の皮下断裂は、指を曲げるための筋肉の断裂であり力が指に伝わらなくなるため指を曲げられなくなった状態をいう
・手のひらや手首、指の手のひら側の怪我などで生じることがある
・母指のIP関節、示指〜小指のDIP間接やPIP関節が曲げられなくなった時、指の屈筋腱損傷が考えられる
・指を曲げる時、指先のDIP関節だけが曲げられない時は深指屈筋腱だけが切れていると考えられる
・DIP関節だけでなく、PIP関節も曲げられない時は浅指屈筋腱も切れていると考えられる
<治療>
刃物などで切った部分は、切った直後の腱であれば縫い合わせることが可能である
ただ、創の治癒過程で縫い合わせた箇所が周囲とくっつかないようにするため、手術直後から動かすことが必要となる
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手根管症候群について
手根管症候群とは、正中神経が手根管内で絞扼や圧迫されることで絞扼性神経障害をきたす正中神経低位麻痺のこと
・好発:中高年女性、スポーツ選手、手を酷使する職種の人(変形性手関節症)
その他、妊婦後期などの全身浮腫、骨折、人工透析既往のある人(慢性腎不全によるアミロイドーシス)など
→腱鞘炎からくるもの、陳旧性骨折、リウマチ性のもの、非特異性滑膜炎、橈骨または手根骨骨折によるもの、ガングリオン、腫瘤などの占拠性病変なども原因となることがある
・症状は、母指、示指、中指の掌側にしびれや疼痛がみられる
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<手の末梢神経障害について>
・猿手と言われる母指球筋の萎縮や母指対立運動障害(perfect Oの不整など:親指と人差し指でOの形(正円)をきれいに作ることができない)がみられる
→正中神経麻痺(前骨間神経麻痺)
→これは、手根管症候群とは異なり、母指球筋萎縮や手指の感覚鈍麻はみられない
・鷲手(わしで)は、手指を伸ばそうとすると小指や環指(薬指)は中手指節関節で過伸展位となり、近位や遠位指節間関節では屈曲位をとる
→尺骨神経麻痺
・下垂手は、手首の背屈と手指の付け根の関節であるMP関節や中手指骨関節が伸ばせなくなる状態である。これは第1関節のDIP関節、IP関節と第2関節のPIP関節は動かせる
→橈骨神経麻痺
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・Tinel徴候(チネル)という、手根部を軽く叩くことで末梢にチクチクする感覚や蟻走感がみられる
→正中神経圧迫(手根管症候群)では、その部位を軽く叩く(または圧迫する)と、母指、示指、中指と環視のうちでも中指側にチクチク感や蟻走感がある
→尺骨神経圧迫(肘部管症候群)では、その部位を軽く叩く(または圧迫する)と、小指、環視のうちでも小指側がチクチク感や蟻走感がある
神経支配、筋肉について詳細にみてみると
母指球筋には、短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋があるが神経支配が異なる点に注意が必要である
筋肉部位 | 支配部位 |
---|---|
短母指外転筋 短母指屈筋浅頭 母指対立筋 方形回内筋※ | 正中神経 |
母指内転筋 短母指屈筋深頭 第一背側骨間筋 | 尺骨神経 |
短母指伸筋 | 橈骨神経 |
※ 方形回内筋:正中神経支配だが、手根管より近位にある
正中神経は正中を通り、親指の付け根側に曲がっている神経
尺骨神経は小指側を這っている
骨間筋は、各指の付け根にある甲側からみると出っぱっている骨の部分にある
鑑別に必要な疾患:頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群、末梢神経障害(糖尿病などによる)
・Phalenテスト(ファレン):手関節の掌屈位保持(両手の手首を下に折り曲げてその折り曲げた部分をくっつける)を1分間持続することで、正中神経領域の疼痛や痺れが増強する
→これは、最大掌屈位を保つことで手根管内圧が上昇し、正中神経領域の疼痛、痺れがみられることを利用している
(逆に、最大背屈位として保持(合掌した状態)する逆Phalenテストを行うこともある)
・perfect Oテスト(パーフェクトオー):猿手では正円を作れず、涙滴型(tear drop sign)を作る
・確定診断:神経伝導速度の計測をすること
・超音波検査、MRI検査も有用
<治療>
・保存療法:安静、装具固定、薬物療法(NSAIDs、VB12、ステロイド局注など)
→正中神経支配領域の知覚異常のみであったり、Tinel徴候がみられるようであれば:手関節固定装具の装着、手根管内ステロイド薬注入療法など
・明らかに短母指外転筋の筋力低下や萎縮が見られたり、手根管部を通過しての知覚や運動線維伝導速度の明瞭な低下、重症例では屈筋支帯の切開による手根管開放などの除圧術を行う
→関節鏡視下に行う場合もある
→占拠性病変(ガングリオン、腫瘤など)では切除をする
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Sudeck骨萎縮について
ズディック(ズーデック)骨萎縮とは、打撲や骨折などの外傷によって骨が急性に萎縮する症状のこと(急性反射性骨萎縮)
・骨折に合併した自律神経系の血管運動神経失調によって末梢血管の血流不全から起こると考えられている
・症状は疼痛、灼熱感、発汗異常、浮腫、関節拘縮、皮膚の色調変化など
<治療>
・ステロイドによる疼痛緩和、交感神経ブロック注射
・発汗異常には交感神経節切除術を行うことあり
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肘部管症候群について
肘部管症候群とは、尺骨神経が肘部管内で絞扼性神経障害をきたす尺骨神経高位麻痺のこと
絞扼性神経障害の中では、手根管症候群の次に多いとされる疾患である
肘部管とは、尺側手根屈筋の上腕頭と肘頭にまたがるオズボーン靭帯直下のトンネル構造となっている(狭義)
また、滑車上肘靭帯や尺骨神経溝によって形成されるトンネルが含まれる(広義)
<原因>
・Osborne靭帯(オズボーン:弓状靭帯)や骨棘による神経の圧迫
・骨折後の肘部外反変形(外反肘)
・肘関節の持続的・反復的な屈曲
・ガングリオンなどの占拠性病変
などがある
・好発:肘関節を酷使するようなスポーツや職業に従事するもの、小児期に上腕骨外側顆骨折などの既往があるもの
・尺骨神経麻痺によるものとして、環指や小指の尺側にしびれや感覚障害がみられる
→運動麻痺があるため、箸を使うなどの巧緻運動(こうちうんどう)が難しくなる
・鷲手(鉤爪変形:かぎつめ)がみられる
→環指・小指のMP関節過伸展、PIP関節やDIP関節の屈曲、手骨間筋や小指球筋の萎縮などがみられる
・Tinel徴候がみられる
診断のためには、所見だけではなく
電気生理学的検査である末梢神経伝導検査などやMRIなどの画像検査が有用となる
→上腕骨外側顆骨折の陳旧症例では、X線検査による肘部外反変形がみられる
末梢神経伝導検査で、健側であれば、前腕近位部で刺激した時の電位の立ち上がり時間(潜時)と、上腕(肘部、内側上顆近位部、上腕遠位部と少しずつずらして電気刺激を与える)で刺激した場合の潜時ではほとんど差が見られない
患側であれば、前腕近位部の刺激した時と比べて肘部から近位部で刺激した場合で潜時の延長や振幅の低下を認めるはずである
→つまり、肘関節を挟んで尺骨神経の麻痺が起きていると考えれる
また、感覚神経活動電位では、患側では活動電位が認められない
<治療>
進行性がほとんどであり、手術療法が多い
・保存療法:安静、装具の関節固定、薬物療法(NSAIDs、VB12、ステロイド局注など)
・手術療法:Osborne靭帯切開による除圧術、前方移動術など(重症例)
複合性局所疼痛症候群について(CRPS)
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、先行する外傷後に交感神経の異常によって生じる慢性の神経因性疼痛である
CRPS:Complex Regional Pain Syndrome
・原因は外傷だけとはいえず、内臓疾患に伴うこともある
・比較的、骨折後や静脈採血の後に生じることが多い
・骨折が治癒しても以下のような症状が見られればCRPSを考える必要がある
<CRPS判定指標について>(臨床用と研究用があるが、ここでは臨床用の内容となる)
自覚的症状に、病期のいずれかの時期に、以下の自覚的症状のうち2項目以上該当すること
1:皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2:関節可動域制限
3:持続性ないし不釣り合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み、または知覚過敏
4:発汗の亢進ないしは低下
5:浮腫
他覚的所見では、診察時において、以下の他覚的所見の項目を2項目以上該当すること
1:皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2:関節可動域制限
3:アロディニア※ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
4:発汗の更新ないしは低下
5:浮腫
※ アロディニア:通常は痛みとして認識しない軽度の接触や圧迫寒冷などの非侵害性刺激が痛みとして認識してしまう感覚異常のこと
骨折の合併症がある
<早期にみられやすい合併症>
循環障害(コンパートメント症候群)、血管損傷、神経損傷、臓器損傷、感染、DIC、外傷性ショック、静脈血栓、脂肪塞栓
<晩期でみられやすい合併症>
関節拘縮、複合性局所疼痛症候群、外傷性骨化性筋炎、阻血性骨壊死
橈骨神経麻痺について(橈骨神経高位麻痺)
橈骨神経麻痺は、上腕部の圧迫や上腕骨骨折などの外傷によって橈骨神経が末梢神経損傷(感覚障害)をきたしたもの
・睡眠時に不良肢位の時、長時間手術後などで圧迫が続いている時にみられたりする
また、上腕骨骨折、肘周辺の外傷後などでも起こりうる
・橈骨神経麻痺による症状として、母指・示指・中指の背側、手背の橈側に軽度の痺れや疼痛が見られる
・手関節の背屈(伸展)ができなくなる(下垂手)
→この症状は伸筋腱の損傷でも見られるため鑑別の必要がある
・1日以上も症状が治らないことがあるが、この際に筋肉麻痺ではなく神経麻痺と考えられるだろう
他の神経麻痺ではどういった症状の違いが出るのかをみていくこととする
神経麻痺の種類 | 症状 |
---|---|
腋窩神経麻痺 | 肩関節痛や肩関節の挙上困難など |
筋皮神経麻痺 | 前腕の回外ができない 上腕二頭筋反射の低下がみられる |
正中神経麻痺 | 猿手がみられる |
尺骨神経麻痺 | 鷲手がみられる |
橈骨神経は圧迫性神経麻痺を起こしやすいが、主に以下のものが挙げられる
(1)腋窩の圧迫
松葉杖などによる圧迫によるもので、この場合は上腕三頭筋の麻痺も見られる
(2)上腕部橈骨神経経溝の圧迫
①手関節と手指の伸展ができない(いわゆる下垂手)
②橈骨神経領域の知覚低下
③Saturday night palsy(土曜夜の麻痺):名前の由来、恋人を腕枕して眠ることで橈骨神経麻痺を起こした場合をいうが、主に神経(感覚)麻痺というよりは筋肉麻痺が多い
(3)後骨間神経麻痺
前腕で橈骨神経浅枝(知覚枝)を出した後の圧迫
→これは、運動障害だけで下垂指となる
・診断のためには、所見だけでなく電気生理学的検査(末梢神経伝導検査)や画像検査(MRI等)を用いると良い
<治療>
・保存療法:安静、装具の関節固定、薬物療法(NSAIDs、VB12、ステロイド局注など)
・手術療法:骨折部の転位が大きい場合、神経断裂がある場合に行う
Dupuytren拘縮(デュピュイトラン)
デュピュイトラン拘縮は、手掌腱膜の主として縦走線維やその指への延長である指掌深筋膜の原因不明な瘢痕性肥厚に基づいた指の屈曲拘縮である
(つまり、手掌腱膜の線維(コラーゲン)が過剰に増殖して、ヒモ状の拘縮索ができることでおこる屈曲拘縮で、手のひらから指にかけて硬結がみられ、皮膚がひきつって徐々に伸ばしにくくなる病態)
・好発:中年男性に多い、白人(特に北欧系人種で多い)(日本人はまれである)、糖尿病患者に多く見られる傾向
→手掌腱膜に小外傷を繰り返すことで生じるのではないかとも考えられている
・ほとんどが両側性で、手掌腱膜の瘢痕性肥厚が見られる
→手掌腱膜の線維(コラーゲン)が過剰に増殖して、ヒモ状の拘縮索ができることでおこる
・特有の変形がみられる
→MP関節やPIP関節に屈曲拘縮がみられる(環指、小指に多いが、他の指や足の裏にできることがある)
→DIP関節には屈曲拘縮は認められない、むしろ、過伸展でボタン孔変形の外観のことがある
・ある程度自動運動ができるが障害されている、また、他動運動でも可動域制限が見られる
→その逆の、他動運動は障害されず、自動運動が障害されるものには腱断裂や神経麻痺などがある
・感覚障害はなく、握力低下もみられない
→このことから、神経麻痺は否定できるだろう
鑑別点には以下が挙げられる
症状 | 鑑別点 |
---|---|
屈筋腱断裂 | 指の自動屈曲が不能となるが、伸展障害はない |
伸筋腱断裂 | 指の自動伸展が不能となるが、屈曲障害はない |
尺骨神経麻痺 | 環指・小指の深指屈筋筋力低下による屈曲障害をきたす 他動伸展はできる 感覚障害はない |
後骨間神経麻痺 | 橈骨神経の深枝である後骨管神経がFrohse's arcade(フロセのアーケード:回外筋の貫通する部位)で圧迫されて生じる 感覚障害はない 手指の自動伸展が不能となる(drop finger) |
<治療>
拘縮が強い場合:外科処置として肥厚部位の切開・切除する
コラーゲン分解酵素注入療法:椎間板ヘルニアなどに利用されるものだが、手掌腱膜の線維もコラーゲンであり、これを注入することで分解を進める治療法である
ガングリオンについて
ガングリオンとは、関節包や腱鞘から発生する良性の嚢腫様病変である
この内腔にはゼリー状の粘液(主にヒアルロン酸)が含んでいる
・好発:20〜40歳代女性
・手関節部などに無痛性の腫瘤が触れる(たまに圧痛など痛みを伴うこともある)
・性状は軟らかいものから硬いものまである
・手関節の背側に多く見られるものだが、関節近傍の様々な部位でみられる
・腫瘤が小さく、視診や触診で確認できない場合:超音波検査、MRIなどの画像検査で腫瘤を確認
・穿刺により無色透明なゼリー状の粘液を確認
その他類似疾患との鑑別について
疾患 | 症状(鑑別点) |
---|---|
脂肪腫 | 弾性軟のことが多い |
グロームス腫瘍 | 女性に多い 手指爪下に発生する良性腫瘍 圧痛が必ずみられる |
腱鞘炎 | 炎症所見の確認 |
Kienbock病 (キーンベック) | 月状骨が潰れて扁平化する月状骨軟化症のこと 圧痛がみられる 腫瘤は触知しない |
<治療>
症状が特にない場合:経過観察(安静にしていれば自然に縮小していく)
症状が見られる場合:保存療法をし、再発を繰り返す場合は手術療法となる
→保存療法:内容物の穿刺吸引、排出を行う
→手術療法:腫瘤摘出
外傷性脱臼について
外傷性脱臼は、相対する関節面が接触を失った状態を指す
・捻挫や亜脱臼に比べて高度な関節包や靭帯損傷を伴う
・外傷性脱臼は常に一方の関節端が破れた関節包の外に逸脱する関節包外脱臼となる
・外傷性股関節脱臼に多くみられる、ボタン穴脱臼がある
→これは、脱出した骨端が損傷された関節包の裂孔で強く絞扼され徒手整復ができなくなった状態をいう
・橈骨骨幹部骨折はX線でみても橈骨の単独骨折のように見えるが、短縮転位のあるものは、尺骨遠位端の脱臼を合併していることが多い(Galeazzi骨折:ガレアッチ)
→そのため、肘や手関節を含めてX線を撮る必要がある
肘内障について
肘内障とは、橈骨が末梢に強く引かれて橈骨骨頭が輪状靭帯から逸脱しかけている状態である
・好発:小児
・腕を引っ張られて生じることが多い
・腫脹は見られず、肘の疼痛の訴えがある
→また、上肢を動かさなくなる
発熱や腫脹、熱感などが肘関節で見られるようであれば、関節炎の可能性もある
<治療>
徒手整復で容易に整復できる(外固定は不要)
離断性骨軟骨炎について(OCD)
離断性骨軟骨炎は、関節軟骨の下にある軟骨下骨が骨壊死を起こして、正常骨の母床から離断するものをいう(スポーツ障害)
・好発:骨の成長期にある思春期〜青年期
・離断した骨軟骨片が関節内に遊離して関節内遊離体(関節ねずみ)となることがある
・肘や膝、足に好発するが、まれに大腿骨頭のこともある
・治療が適切になされないと、変形性関節症に進んでしまう
肘離断性骨軟骨炎(上腕骨小頭離断性骨軟骨炎)
肘離断性骨軟骨炎は、肘の外側の上腕骨小頭に生じる上腕骨小頭離断性骨軟骨炎が多い
(いわゆる外側型野球肘)
・好発:10〜14歳男子
→野球少年、野球選手に多い
→野球における投球動作が主な発症要因である
・肘への過度な圧迫、牽引ストレスが加わることが原因
・内側型は、牽引力による内側側副靭帯損傷であり、外側型は、上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎や関節内遊離体がある
・運動時や運動後の肘の違和感、腫脹、可動域制限がみられる
→ときにはロッキングという全く動かせなくなる状態のこともある
X線検査
・上腕骨小頭の骨透亮像を示す透亮期
・周囲の骨硬化像、骨軟骨片の分離や離断のある分離期
・関節内遊離体の所見がある遊離期
がみられる
<治療>
透亮期においては保存療法となる
→原因となるスポーツの禁止(一般的に半年〜1年程度)、患肢の安静
分離期、遊離期では手術療法となる(骨釘移植などによる骨軟骨片の固定、遊離体摘出など)
膝離断性骨軟骨炎
膝離断性骨軟骨炎は、大腿骨遠位部の内側顆に好発し、他には大腿骨外側顆や膝蓋骨にも起こることがある
・好発:10歳代の男子、スポーツ選手に多い
・膝の疲労感や脱力感、疼痛が徐々に見られる
→場合によってはロッキングが起こることがある
X線検査
・大腿骨遠位部の骨透亮像のある透亮期
・周囲の骨硬化像、骨軟骨片のk分離や離断のある分離期
・関節内遊離体の所見のある遊離期
がみられる
<治療>
10歳前後の軽症例:保存療法
難治例では手術療法となる(保存療法に抵抗性、分離期〜遊離期の場合)
<参考>
メディックメディア:クエスチョン・バンク
病気がみえる
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