眼科も4回目になりました。
今回は、症状、検査所見からどういった診断になっていくのかを見ていきたいと思います
視野障害、視力障害は眼科編②から始まっています。もし確認しておきたい方はこちらを参照してみてください。
ちなみに前回(眼科編③)は、検査類についてまとめたものとなっております。
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
調節力について
まずは用語解説になります
用語 | 解説 |
---|---|
遠点 | 調節のない状態で遠方視した時にその像の網膜との距離を示す ・+2Dの遠視とは、網膜の後方0.5mにある ・-1Dの近視とは、網膜の前方1mにある |
近点 | 明視(視界がぼやけない)しうる最も近い距離を示す ・-2Dの近視とは、近点が0.5mのこと ・正視では遠点が無限遠方であり、0D(調節力がない)では近点は存在しなくなる ・遠視では、遠視の度数を加えたものが近用眼鏡の度数となる |
調節力 | 毛様体を収縮させて水晶体の厚さを増し、屈折力を強めることをいう ・近点屈折力と遠点屈折力の差、または近点距離の逆数と遠点距離の逆数の差で求められる。 (→公式です) ・若年者では大きく、高齢者では小さくなる 調節力は45歳過ぎたあたりから、3Dに低下し、正視の場合は同じく45歳頃から老眼を自覚する |
調節力とは、物体の距離変化による網膜像のぼやけを最小限に保つ機能のことである。
デジカメでいうと、オートフォーカス機能にあたります。
調節時を近見時ともいいますが、この時は水晶体が球形に変形し水晶体屈折力が上昇する
調節弛緩時は遠見時ともいうが、この時は水晶体は平坦化し、水晶体屈折力が低下する
調節力の単位は眼科編①でも解説したD(ジオプター)というものがある
例えば、1Dとは光が100cmの距離で結像するレンズの屈折力を表す
2Dでは光が50cmの距離で結像するレンズの屈折力となる(100を割ると良い)
つまり、反比例している
そうなると自然と公式というものも出来上がってくる
・メガネの近点距離はおよそ25〜35cmほど
リンク先
調節力の計算式について
次に調節力の求め方についてです
調節力(D)= 1 / 近点距離(m)ー 1 / 遠点距離(m)
で求めることができる
近視はマイナスのレンズで矯正される。
最高視力が出る最も弱いレンズの度数を矯正度数とし、近視の程度を表す。
近視を過矯正してしまうと眼痛や眼精疲労、弱視(小児例)の原因となるため、
最小の強さのレンズで、最大限の効果を発揮するものを使用すること。
このため、近視矯正の例では、左眼の視力を1.0に合わせるレンズを作りたいとすると
矯正レンズで-0.75Dのレンズを使用した時に視力が1.0となり
-1.0D使用時も視力は1.0
-0.5D使用時は視力が1.0より小さくなるようであれば
最高視力が出る最も弱いレンズの度数という、適切なレンズは-0.75Dの矯正レンズとなる(近視矯正)
つまり、実際の左眼屈折は+0.75Dの近視であるといえる。
プラスの矯正レンズは遠視の矯正となる
マイナスの矯正レンズは近視の矯正となる
遠視矯正では、最高視力が出る最も強いレンズの度数を矯正度数とする
リンク先
視力の表示方法について
RV = 0.1( 1.0 × S ー 1.0D ( ) cyl. ー 1.0D Ax.90 )
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
まず、Dはジオプターという単位で焦点距離を表す
1.0Dは100cm、2.0Dは50cm、4.0Dは25cmとなります
①眼の左右を表す。右は RVやVD、左は LVやVSで表す
RV:right vision ラテン語ではVD
LV:left vision ラテン語ではVS
②裸眼視力:眼鏡無しの視力である
ここでは他に
C.F.(指数弁)という指の数が見えるかどうか
H.M.(手動弁)という手の動きが見えるかどうか
などの記載をすることもある
③矯正視力
④1枚目のレンズの前に付記する記号
⑤球面レンズの度数(球面度数)を表す。球面レンズはSphericalという
+:凸レンズ、遠視
ー:凹レンズ、近視
⑥2枚目以降のレンズの前に付記する記号
(ここではパソコンの入力上()と記載されてますが、実際は縦にカッコ書きで表されている)
重ね合わせるという意味で用いている
※⑦と⑧は遠視の際に記載される
⑦円柱レンズの度数(円柱度数)を表す
cyl.はCとだけ書かれていることもある
円柱レンズをCylindricalという
⑧円柱レンズの角度、乱視の方向を表す。Ax.はAとだけ書かれていることもある
乱視の軸は0-180の範囲で表される
軸のことはAxisです
自覚的屈折検査について(臨床的考え方)
①矯正レンズを使わず、視力検査表で視力が1.0となった場合、正視または軽い屈折異常を考える
(正視であれば、像は不鮮明に見えるはずである)
②そのまま、+1.0Dの(球面)レンズを使用しても視力検査表が判読できた場合、正視は否定。
遠視矯正レンズの度数が合っているまたはまだ不足していると考える。
(正視であれば、+1.0Dのレンズを使用することで像は不鮮明となるはずである。
また、プラスのレンズを使用しているということは、遠視の矯正しているということであり、実際が近視であれば、同じく像は不鮮明となるはずである)
③次に、+1.5Dのレンズを使用した時に像が不鮮明となった場合は、+1.5Dでは強過ぎて、+1.0Dが合っていることになる
④今度は+1.0Dの(球面)レンズを使用しつつ、-0.5D円柱レンズを付加した時に水平や垂直、斜めの軸で見え方が良くならないということは、視力障害には乱視は含まれていないことを判断できる。
今回は+1.0Dの遠視と診断される。
※もし不正乱視であれば、球面レンズ+円柱レンズ併用時は見え方は良くならない。
また、④で見え方が良くなるようであれば+1.0Dの遠視のほか、乱視も含まれていることになり、混合乱視と判断できる。
弱視について
特に既往歴なしの未就学児が視力不良で受診
眼底検査で異常がない小児の視力障害は主に弱視が考えられる。
弱視とは視力の発達不良をいう。
原因は、遠視、乱視、斜視、遮断、不同視などがある
屈折異常 | 遠視、乱視などがある 遠視は網膜で像を結べない状態で弱視の原因となるが、近視では像を結べることから弱視の原因にはならない。 両眼の高度な屈折異常では視力発達期の視力が育たなくなる。これを屈折異常弱視という |
斜視(眼位異常) | 目標物を見る時、どちらか片眼だけ別の方向を見ている状態を斜視という 斜視となっている眼は、日常視で使用頻度が低くなり、弱視になる事がある。これを斜視弱視という。 また、弱視とならなくても遠近感や立体感などの両眼を使って物を見る力(両眼視機能)が発達しなくなる 常に斜視になっている眼を顕性斜視という |
遮断 | 幼児期に高度な眼瞼下垂、白内障などが原因で網膜に十分な光刺激が届かないことで視力の発達が遅れて視力が落ちることを、形態覚遮断弱視という 小児では眼帯などでしばらく目を使わない状態が続くことでも弱視になる事もある。 そのため、現在は小児で眼帯は使用を控える流れである → ただし、健眼遮閉という方法では、健常な方の眼をアイパッチなどで覆い、弱視を主に使わせることで、視力の発達を促す治療法がある |
不同視 | 片眼だけ屈折異常がある、または視力の左右差が大きい状態(差が2D以上)では視力成長が止まってしまう これを不同視弱視という |
その他 | 間欠性外斜視:間欠的に顔射死を生じるもの 偽内斜視:内斜視を呈しているように見えるが、実際は斜視でないものをいう |
弱視の原因についてまとめると以下の通りとなります
斜視弱視 |
不同視弱視 |
遠視(屈折異常性弱視) |
乱視(経線弱視) |
微小角斜視弱視(傍中心窩固視) |
形態覚遮断弱視(白内障、眼瞼下垂、乳児期における1週間程度の眼帯装用) |
<参考>
日本斜視弱視学会:https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/amblyopia(閲覧:2021.10.11)
弱視の治療について
屈折性の弱視は10歳くらいまでであれば治療が可能である。
治療には適切に矯正された眼鏡を使用し、必要があれば片眼遮閉を併用するとよい
<参考>
日本斜視弱視学会:https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/amblyopia(閲覧:2021.10.11)
夜盲症について
夜盲とは網膜の桿体の機能障害でおこるものである。
夜盲をきたす疾患は以下が挙げられる
先天性
┣ 進行性
┃ ┣ 網膜色素変性症
┃ ┣ 脳回転状脈絡膜
┃ ┗ 白点状網膜炎
┃
┗ 停止性
┗ 小口病、眼底白点症
後天性:VA欠乏症、眼球鉄錆症
関連として ※症候性網膜色素変性症についてはこちらを参照してください
その他の視野障害について
それぞれは独立しているというよりは一連の進行疾患である
光視症 → 飛蚊症 → 網膜剥離、視野欠損 と進行していく
疾患名 | 内容 |
---|---|
飛蚊症 | 黒い浮遊物が見える症状である (網膜剥離した小片の硝子体混濁による) 飛蚊症の原因は硝子体の液化が進行した後部硝子体膜剥離が最も多い(生理的飛蚊症) 加齢による硝子体変化でみられ、網膜剥離のリスクがある 病的な飛蚊症として、光視症を伴う網膜剥離や充血を伴うぶどう膜炎、硝子体出血がある |
光視症 | 周辺部に一瞬だけ光が見える症状がある 網膜が牽引されている症状であり、網膜剥離のリスクが飛蚊症よりも高い |
変視症 | 物が歪んで見える症状がある 黄斑部の網膜疾患が疑われる |
飛蚊症について
飛蚊症には、生理的飛蚊症と病的飛蚊症に分類されている
生理的飛蚊症:加齢性、若年者の近視による後部硝子体剥離
→経過観察となる
病的飛蚊症:後部硝子体剥離とともに網膜裂孔を形成するもの
→網膜裂孔のみではレーザー治療、裂孔原性網膜剥離まで生じれば硝子体手術またはバックリング手術を施行する
眼振について
眼振とは、不随意の眼球往復運動のことである
羞明を生じる原因について
羞明(しゅうめい)とは、主に角膜、中間透光体の混濁による散乱光によって生じることが多い。
睫毛内反症(しょうもうないはんしょう)では、表層角膜炎によって二次的に羞明を生じることがある。
疾患・原因 | 内容 |
---|---|
虹彩毛様体炎 | 前房に炎症があることで羞明感を生じる |
白内障 | 光の散乱が生じることで羞明感を生じる |
先天緑内障(牛眼) | 隅角の発達異常により、房水の流れる線維柱帯の機能が生まれつき低下して眼圧が高いことで緑内障を生じる 角膜(黒目部分)が大きくなることから牛眼(ぎゅうがん)といわれる 角膜が大きいことから、羞明、涙が多い、瞼の痙攣などを生じる |
眼内に大量の光が入る | 散瞳薬使用時 病的散瞳(動眼神経麻痺:第3脳神経) |
眼内に入った光が散乱 | 角膜の疾患:睫毛内反症、角膜炎、角膜潰瘍など 白内障、虹彩毛様体炎 |
先天的原因 | 先ほどの牛眼、白子※、全色盲(一色型色覚) |
※先天性白子症:アルビノといい、体の色素が生まれつき不足している状態をいう。
眼だけ色素(メラニン)が不足しているものを眼白子症、体全体の色素が不足しているものは眼皮膚白子症という。
<参考>
日本小児眼科学会:http://www.japo-web.jp/info_ippan_page.php?id=page08
上斜筋麻痺について
上斜筋麻痺とは、滑車神経麻痺によっておこるものである。
(滑車神経:第Ⅳ脳神経で、上眼窩裂の孔にある。頭蓋底では中頭蓋窩となる。前項参照(眼科編①))
生後早期から異常頭位を伴うことが多く、先天性上斜筋麻痺では小児の上下斜視の原因として最も多いものである。
顔面神経麻痺について
顔面神経麻痺の症状は閉瞼障害(兎眼)、味覚異常、唾液の減少、涙液減少、口角下垂などが挙げられる
顔面神経麻痺では、特発性のものが多くBell麻痺(ベル)※という。これは、ヘルペスウイルス(1型)が原因のこともある。または自己免疫性疾患など。
(顔面神経:第Ⅶ脳神経で、内耳孔にある。頭蓋底では後頭蓋窩となる。前項参照(眼科編①))
末梢性と中枢性がある。末梢性では後述する、Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群がある。
末梢性顔面神経麻痺の三大要因はBell麻痺、Ramsay Hunt症候群、側頭骨外傷がある
耳下腺癌 |
側頭骨骨折 |
顔面神経鞘腫 |
真珠腫性中耳炎 |
<検査>
電気味覚検査:顔面神経麻痺では、鼓索神経の障害により舌の前3分の2の味覚が低下することがあるため、この検査を行う
涙液分泌検査:大錐体神経の障害で涙液分泌が低下することがあるため、検査をするとよい
→眼輪筋の機能低下で涙小点から鼻腔へ至る涙液の流れが障害される(導涙障害)ことで、溜まった涙があふれてくることから、麻痺側の流涙を訴えることが多い。
しかし、これは一時的なため、顔面神経麻痺が重症例では涙液分泌機能は低下する。
顔面運動スコアの評価(40点法) |
聴力検査 |
アブミ骨筋反射 |
涙液分泌検査 |
電気味覚検査 |
CT、MRI(必要に応じて) |
血清ウイルス抗体価測定(必要に応じて) |
治療は
腫れ、疼痛に対してはステロイド(プレドニゾロンなど)を用いる。
ヘルペスウイルスやその他のウイルスが原因であれば、抗ウイルス薬(バラシクロビル)の投与を1週間行う
<参考>
日本神経治療学会
Bell麻痺治療ガイドライン:https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/bell.pdf
MSDマニュアル家庭版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/09-脳、脊髄、末梢神経の病気/脳神経疾患/ベル麻痺
顔面神経の分布について
顔面神経核(橋)
↓
↓ 上唾液核 → ━ → ┓
↓ 孤束核 ← ━━ ← ┫
↓ ┃
内耳孔 → 内耳神経 ┃
↓ ↑ 内耳道① ┃
膝神経節② ← 内耳 ┃
(全ての神経が束ねて通る) ┃
┃ ┃
┃ 涙腺 ← 大錐体神経③←┫
┣ アブミ骨筋神経 ┃
┃ ┗ → アブミ骨筋 ┃
┣ 鼓索神経 ┳ 舌 ↔┫
┃ ┣ 舌下腺 ↔┫
┃ ┗ 顎下腺 ↔┛
茎乳突孔
↓ ④
各顔面神経へ
↓
┣ 後頭筋側へ2本
┣ 首側に2つの分枝
┣ 側頭枝 ┳ 側頭頭頂筋
┃ ┣ 前頭側
┃ ┗ 側頭枝前
┃
┣ 頸枝→顎側で更に2分枝
┃
┣下顎縁枝→オトガイ筋下側
┃
┣ 頬筋枝 → オトガイ筋
┃ 大きく3つに分枝
┗ 頬骨枝 ┳ 眼輪筋2つ
大きく3つ分枝┗ 鼻筋1つ
<参考>
顔面神経の走行解剖について:顔面神経麻痺|一般社団法人 日本頭蓋顎顔面外科学会 (jscmfs.org)
顔面神経の障害部位による症状の違いについて
障害部位\症状 | 顔面神経麻痺 | 聴覚障害 | 味覚障害 | 唾液分泌障害 | 涙分泌障害 |
---|---|---|---|---|---|
①内耳道 | + | 難聴 | + | + | + |
②顔面神経管 -膝神経節 | + | 過敏 | + | + | + |
③顔面神経管 -大錐体神経とアブミ骨筋神経の間 | + | 過敏 | + | + | ー |
④茎乳突孔以降 | + | ー | ー | ー | ー |
①内耳道の難聴では、アブミ骨筋神経の障害でアブミ骨筋反射が起こらず、聴覚過敏を呈する
この時、内耳神経も同時に障害されていた場合は難聴を呈することとなる
③、④の膝神経節から末梢においては、障害される部位によって顔面筋の麻痺、聴覚過敏、味覚障害、涙液・唾液の分泌障害を合併することあり
内耳道内を走行する神経について
内耳道内を走行する神経は、前庭神経、顔面神経、蝸牛神経となっている。
・顔面神経:第Ⅶ脳神経
→運動神経、感覚神経、自律神経成分を含む混合神経である。
・内耳神経 / 聴神経:第Ⅷ脳神経
→前庭神経と蝸牛神経から成る
神経線維 | 分布 |
---|---|
運動線維 | ・膝神経節 →茎乳突孔 →顔面表情筋 ・膝神経節 →アブミ骨筋神経 →アブミ骨筋 |
味覚線維 | 膝神経節 →鼓索神経 →舌神経 →舌前3分の2 |
分泌線維 | ・膝神経節 →大錐体神経 →涙腺 ・膝神経節 →鼓索神経 ┳ 顎下腺 ┗ 舌下腺 |
末梢性の顔面神経麻痺には、顔面神経核から末梢側の障害で生じる。
一方で、顔面神経核より中枢側の障害(核上性麻痺)(脳血管障害性のもの)では前頭筋が両側皮質の支配のため、額の動きは保たれる
その他、耳下腺癌、顔面外傷などの要因で麻痺を呈することがある。
次からは末梢性の顔面神経麻痺についてみていく(Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群)
Bell麻痺(ベルまひ)について
Bell麻痺(ベルまひ)とは、末梢性顔面神経麻痺で最も多い疾患である。(6割ほど)
顔面神経麻痺の原因を特定できないことがポイントである。
好発は50歳代
・原因は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)と考えられている
・顔面神経の膝神経節に潜伏し、ストレス、加齢、免疫低下、寒冷刺激などで再活性化して神経炎をおこし、片側の顔面神経麻痺をきたす
・第7脳神経である顔面神経の機能不全が原因となって生じる
→このため、眼瞼を完全に閉じることが困難な兎眼を生じる
・腫れや痛みを伴うことがある
・顔面神経というのは、顔面の筋肉を動かす機能だけでなく、動かすことで唾液腺と涙腺を刺激して舌の前方3分2の部分で味覚を感じることができる。
また、聴覚に関わる筋肉も制御しているため、顔面神経麻痺では様々な症状を呈することとなる
・口角が下がる、食べ物を食べにくい(こぼしたりする)、鼻唇溝が消失。
・額のしわ寄せができなくなる(前頭筋が両側皮質の支配を受けているため麻痺することで生じる)
・予後は比較的良好といえる
→自然治癒率:7割ほど、治癒率:9割ほどとなっている
<検査>
・確定診断にはRamsay Hunt症候群(RHS:ラムゼイハント)や腫瘍、耳炎、外傷などが無いかの鑑別が必要である。
・一般的にRHSとの鑑別には柳原法(40点法)で、部位別に顔面運動を評価する
<治療>
急性期
・ステロイド+抗ウイルス薬の併用
→抗ウイルス薬の使用をせず、ステロイドのみ投与することもある。
抗ウイルス薬:抗ヘルペスウイルスのアシクロビル、ファムシクロビルなどがある。
・VB12、ATP製剤、循環改善薬などを併用
亜急性~慢性期
・顔面神経減荷術(1~3カ月以内):薬物療法に抵抗性で高度麻痺例
・ボツリヌス毒素療法や形成外科的治療:顔面神経麻痺後遺症が残存例
Ramsay Hunt症候群(RHS:ラムゼイハント)
Ramsay Hunt症候群(RHS:ラムゼイハント)とは、末梢性顔面神経麻痺でBell麻痺に次いで多い疾患である。(15~20%ほど)
好発は20歳代と50歳代となっている
症状はBell麻痺の症状に加えて、内耳障害がみられることがある。(原因の特定がしやすい)
・原因は主に水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によるものである
・Bell麻痺と同じく膝神経節に潜伏して、ストレスなどによる免疫低下で再活性化し、神経炎を起こすことで発症する
→発症の背景には、糖尿病や悪性腫瘍が隠れていることがあるため、他の症状や徴候についても注意していく
<症状について>
・めまいなどの前庭症状、難聴・耳鳴などの蝸牛症状、顔面神経麻痺、耳介や外耳道の帯状疱疹(水疱)などがある(三主徴)
→疱疹は数日遅れて見られることもある。
(内耳の障害(感音難聴、平衡障害、耳痛なども含め)はBell麻痺にはみられないため、鑑別点となるがはっきりみられないこともある)
(疱疹が全く出現しないで、ウイルス抗体価の変動で水痘帯状疱疹ウイルスの関与が示される不全型も多くあるとされる)
・難聴は分泌物が溜まることで伝音難聴を呈することがあるが、基本的には感音難聴と考えられる
・このほか、嗄声を伴う迷走神経障害のこともあるが、この場合は咽喉頭にも発疹がみられることが多い
・口にできれば水疱が咀嚼や嚥下で潰れることで、アフタ様の所見となることが多い
・症状が耳に限局している、感冒様症状などの発熱は無し
・予後はBell麻痺に比べて不良である。
→自然治癒率はおよそ3割、治癒率は5割~8割ほど
<検査>
確定診断:VZV抗体検査
補助診断:純音聴力検査、平衡機能検査など
重症度検査:Bell麻痺と同じく、柳原法(40点法)で部位別に顔面運動を評価する
<治療>Bell麻痺に準ずる
急性期
・ステロイド+抗ウイルス薬の併用
抗ウイルス薬:抗ヘルペスウイルスのアシクロビル、ファムシクロビルなどがある。
・VB12、ATP製剤、循環改善薬などを併用
亜急性~慢性期
・顔面神経減荷術(1~3カ月以内):薬物療法に抵抗性で高度麻痺例
・ボツリヌス毒素療法や形成外科的治療:顔面神経麻痺後遺症が残存例
頭蓋底骨折の所見について
骨折部位 | 構成する骨 | 所見 | 神経症状 |
---|---|---|---|
前頭蓋底 | 前頭骨 篩骨 蝶形骨(小翼) | 気脳症※1 眼鏡状の皮下出血(パンダの目徴候※2) 髄液鼻漏 鼻出血 | 嗅覚障害 視神経障害 |
中頭蓋底 | 蝶形骨(大翼) 側頭骨 | 気脳症 耳介後部の皮下出血(Battle徴候※3) 髄液耳漏 耳出血 | 顔面神経麻痺 感音難聴 |
後頭蓋底 | 側頭骨 後頭骨 | 項部・頸部の出血斑 咽頭後壁粘膜下出血斑 | 下位(第Ⅸ~Ⅻ)脳神経麻痺 脳幹損傷 →これは呼吸抑制のリスクあり |
※1 気脳症とは、気の滞留(気溜)であり、頭蓋内にガスがある状態をいう。
<参考文献>
「気圧外傷により気脳症を呈した1例」
福田 健志 太田原 康成 西川 泰正 遠藤 英彦
佐藤 直也 山野目 辰味 小川 彰
_pdf (jst.go.jp)(閲覧:2021.12.15)
※2 パンダの目徴候(racoon eyes)とは、眼窩周囲の皮下出血でおこるもの
これは頭蓋底骨折を示唆しているといえる
※3 Battle徴候(バトルちょうこう)とは、耳たぶの後ろに皮下出血(あざ)を生じたものをいう
髄液漏の経路について
前頭洞経由 |
篩骨洞経由 |
蝶形骨洞経由 |
トルコ鞍底(あんてい)から蝶形骨洞経由 |
乳突蜂巣経由 |
乳突蜂巣から外耳道へ または 中耳・耳管を介して鼻腔・副鼻腔へ |
顔面骨折の影響について
骨折部位 | 症状 |
---|---|
眼窩構成骨 | 眼球運動障害 眼球陥凹(かんおう) 頬部知覚障害(眼窩下壁) |
上顎骨前壁 | 頬部知覚障害(眼窩下孔) 咬合障害(こうごうしょうがい)(上顎骨横断骨折) |
頬骨弓(きょうこつきゅう) | 開口障害 咬合時痛 |
頬骨 | 頬骨体部は骨折をしないため、三脚骨折を生じる。それぞれの部位に応じた症状を呈する (それぞれ、上顎骨前、後壁骨折、眼窩下、側壁骨折、頬骨弓骨折がある) |
顔面外傷の種類について
項目 | 鼻骨骨折 | 眼窩底骨折 (吹き抜け骨折) | 上顎骨折 |
---|---|---|---|
原因 | 鼻に外力が加わって起こる 鼻中隔骨折を伴うことあり | 眼窩前方からの鈍的外力によるもので、眼窩底骨折から眼窩内容物が上顎洞内へ脱出 | 顔面打撲 両側性ではLe Fort分類(ルフォー)のⅠ~Ⅲ型に分類される※ |
症状 | 変形(斜鼻、鞍鼻) 鼻閉塞 鼻出血 など | 眼球上転障害 複視 眼球陥凹 眼周囲の腫脹 など | 顔面腫脹・変形 鼻出血 咬合不全 開口障害 顔面知覚障害(三叉神経障害) など |
治療 | 非観血的整復 外傷後3週間以降は観血的整復となる | 上顎洞内の脱出物を元に戻すこと バルーンカテーテルなどで固定 | 骨折の整復固定 (プレートを用いる) |
Le Fort分類(ルフォー)について
Le Fort分類(ルフォー)顔面骨折の部位別に重篤性を考えるための分類
要点について
骨折線の抽出 | |
骨の変位 | |
上顎洞、篩骨洞、頭蓋内出血有無(液体貯留) | この場合、周囲の骨折が疑われる |
頭蓋内の気腫像(Air Density) | この場合、周囲の骨折が疑われる |
分類型 | 部位 | 重篤度 |
---|---|---|
Ⅲ型 | 眼窩内 | 高 |
Ⅱ型 | 上顎骨+眼窩壁 | 中 |
Ⅰ型 | 上顎骨歯槽 | 低 |
視神経乳頭浮腫について
・視神経乳頭の腫脹や辺縁の境界が不明瞭があれば、それは乳頭浮腫の所見である。
・頭蓋内圧亢進症に伴う乳頭浮腫をうっ血乳頭という。これは視力低下は軽度である。
・眼底検査ではうっ血乳頭でMariotte盲点の拡大を認める。視神経炎では中心暗点を呈することが多い
・視力には影響はない。
・眼底には乳頭浮腫以外異常はないとされる
原因 | 症状 |
---|---|
頭蓋内圧亢進(脳腫瘍、膿瘍、脳出血など) | 通常は両眼性のうっ血乳頭 (Mariotte盲点の拡大) この場合、頭部MRI検査が必要 他には、頭痛、霧視も生じることが考えられる |
視神経疾患 ・視神経炎:乳頭炎、球後視神経炎 ・前部虚血性視神経症 など | ・視神経疾患では片眼のことが多いが、視神経炎では両眼でみられる ・視力障害の程度は比較的高度であり、色覚障害を認め、眼窩痛が高度。 ・視神経炎では中心暗点(ラケット状暗点:石津暗点)や視力低下を認める。 ・虚血性視神経症では水平半盲や視力低下を認める。 |
高血圧網膜症 (本態性、腎性、妊娠高血圧症候群) | 両眼性でみられる 網膜出血、軟性白斑も認められる |
サルコイドーシス※ | 全身に肉芽種(炎症細胞の集積)がおこる疾患のこと 主に肺で見られる |
血管閉塞症 (網膜中心静脈閉塞症、眼窩腫瘍、頭蓋内血栓性静脈炎) | |
血液疾患 (真性赤血球増加症、貧血、白血病) | |
Vogt-小柳-原田病 | 全身の色素細胞に対する自己免疫疾患が原因と考えられているぶどう膜疾患である。 症状は頭痛、咽頭痛などのかぜ症状が見られることが多く、その後急激な視力低下で発症する。(きっかけはウイルス感染とも考えられている) 通常、症状は両眼性である。 治療はステロイド投与 |
その他として高炭酸ガス血症など | 体の組織で生じる二酸化炭素を十分に体外に放出できない状態のことであり、肺胞低換気で生じるもの 呼吸器系だけでなく、中枢神経系や代謝性疾患などでも起こりうる。 |
などが挙げられる
※サルコイドーシス:指定難病84。以下に詳細なリンクあります。
<参考>
難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/110
今回はここまでとなります
次回は、眼疾患編⑤に続きます。 → 次に進む
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.5 眼科
ビジュアルブック 眼科疾患
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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