今回も肝障害、肝硬変、肝炎についてをみていきます。量が多いため3回に分けてまとめてあります。
そのため、リンクを貼っておきますので随時確認してください
→ 肝疾患編③ 肝障害、肝硬変、肝炎について(2)
→ 肝疾患編④ 肝障害、肝硬変、肝炎について(3)
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
胸水・腹水(胸腹水)について
腹水が認められた時は、悪性腫瘍による腹水が最も頻度が高く、次いで肝硬変による腹水となっている。
診断には、最初に視診を行い、腹部の膨満と腹腔内圧の上昇のため、筋層が薄い臍の部分が突出する。
触診では、波動、体位変換現象、浮遊感がみられる。
乳び様胸腹水をきたす病態について
原因の内容 | 病態・原因 |
---|---|
リンパ流の閉塞や停滞 | ・リンパ管への癌浸潤 ・フィラリア症※ ・腸リンパ管拡張症 |
リンパ管の損傷 | ・術後 ・外傷後 |
リンク先
※ フィラリア症:フィラリアという寄生の蠕虫(ぜんちゅう)が病原体であり、蚊の媒介でヒトに感染する疾患である。
リンパ系に感染して、足が象のように大きく腫れる、象皮病を発症することがある。
<参考>
リンパ系フィラリア症について(写真あり):リンパ系フィラリア症 | 顧みられない熱帯病について | Eisai ATM Navigator(閲覧:2021.11.11)
腹水の性状と原因疾患について
腹水 ┳ 漏出性 ━ 漿液性
┗ 滲出性 ┳ 血性
┣ 膿性
┣ 胆汁性
┣ 乳び性
┗ その他
胸腹水が漏出性か滲出性かを調べる検査法に、Rivalta反応(リバルタ)※がある。
Rivalta反応(リバルタ) :陽性を示せば白血球や各種菌体などのタンパク質成分が多く含まれることを示す。
陽性:タンパク質濃度が4%以上
陰性:タンパク質濃度が3%以下
偽陽性:タンパク質濃度が3%~4%未満
(1)漏出性
・性状は漿液性である。外観は透明から痰黄色を呈する。
・原因疾患には、肝硬変、門脈圧亢進症、右心不全、吸収不良症候群、ネフローゼ症候群がある。
(2)滲出性
滲出性には様々な性状があり、それぞれについて解説します。
①血性
・外観は血色
<原因疾患>
・癌性腹膜炎:腹水検査所見で腫瘍細胞あり
・腹腔内出血(外傷、異所性妊娠、腫瘍破裂)
→腹水検査所見でヘマトクリットが高値
・急性膵炎:腹水検査所見ではアミラーゼ高値
②膿性
・外観は混濁している。
・原因疾患:化膿性腹膜炎
・腹水検査所見:細菌、好中球増加
③胆汁性
・外観は暗褐色
・原因疾患:胆汁性腹膜炎、胆嚢胆管穿孔
・腹水検査所見:直接ビリルビン高値
④乳び性
・外観はクリーム色
・原因疾患:リンパ管閉塞、フィラリア症
・腹水検査所見:脂肪成分が高値
⑤その他
・原因疾患:結核性腹膜炎
・腹水検査所見:結核菌、ADA高値※
※ ADA:アデノシンデアミナーゼのことであり、肝、腎、脾、肺、リンパ節と広く分布している。
肝疾患や感染症、悪性腫瘍で高値を示し、組織の炎症や壊死、リンパ球の活性を反映している。
肝外門脈閉塞症について
・肝外門脈閉塞症について、所見は門脈圧亢進症を呈する。
食道においては、内視鏡で食道静脈瘤を認め、経動脈的門脈造影では門脈本幹で門脈途絶がみられて、海綿状変化(cavernous transformation)がみられる。
(通常は、上腸間膜動脈からの造影で脾静脈は造影されない)
(⇔肝硬変では、肝内の門脈枝狭窄はあるが、門脈本幹の閉塞は無い、という違いがある)
所見
・食道の異常、軽度の脾腫
・造影CT、MRIなど:側副血行路の増生や門脈途絶を認める
リンク先
Budd-Chiari症候群について
これは、別の項目でも解説はしていたが(消化器編③)改めてまとめます。
・ Budd-Chiari症候群とは、肝外肝静脈または肝部下大静脈が閉塞することで生じる症候群である。
これには、原発性と続発性がある
続発性においては、腫瘍性のものが多い。
・確定診断には肝静脈・下大静脈造影(下部胸椎あたり)で閉塞部があることを確認し、肝生検では小葉中心静脈のうっ血と周辺領域の肝細胞壊死(変性)所見となる
下大静脈造影が最も重要である
・Budd-Chiari症候群の腹部側副路血管では
下腹部(下腹壁)から上腹部(腋窩)にかけての血流がみられる。
これは、血液が大伏在静脈から浅腹壁静脈、外側胸静脈、腋窩静脈と流れることから、上行性の腹壁静脈怒張を認める。
・これに対し、肝硬変での腹部側副路血管では
臍部から遠心性(caput medusae)に血流がみられる。
これは、血液が門脈から臍傍静脈、腹壁静脈と流れているため、門脈や肝静脈の閉塞でみられる。
下大静脈閉塞症について
・下大静脈閉塞症では、両側に下腿浮腫がみられる
これだけでは、右心不全の症状ともとれるため、他の所見も併せて確認する必要がある。
・腹壁静脈の怒張を認める
これは、臍部を介さず縦方向(大腿部、腹部、胸部と長軸方向)にみられる。
(ここから、門脈や肝静脈閉塞の可能性は低いと考えることができる。)
脂肪肝について
<定義>
・脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪(トリグリセリド:TG)が沈着している状態をいう。(※コレステロールとは厳密に違うため注意)
・TGは肝小葉中心の肝細胞に沈着しやすいため、脂肪肝の肝生検では肝小葉の肝細胞に大小の脂肪滴がみられやすい。
・肥満性の脂肪肝(非アルコール性)のおよそ9割は単純性脂肪肝であり、肝硬変や肝癌にはなりにくいとされる。
一方で、残りの1割ほどでは脂肪性肝炎であり、炎症や壊死を伴うことから、肝硬変や肝癌に進展する可能性がある。
・単純性脂肪肝の原因はアルコール、肥満、糖尿病などが挙げられる。
・脂肪肝ではやはり肥満の方がなる疾患であるため、BMIは確認しておきたいところ。
(BMI25以上から見られてくることが多い)
また、糖尿病患者の3分の1以上で脂肪肝がみられる。
・AST、ALTは高く肝臓に負担がかかっている数値が出ているはずで、脂肪肝ではALT優位のトランスアミナーゼ上昇を呈する。
肝小葉内のトランスアミナーゼの分布は、門脈域近辺の肝細胞ではALTが多く、中心静脈周辺ではASTが多い。
(門脈域周辺では酸素濃度が多く(門脈は栄養を運ぶ通路のため)、遊離脂肪酸はβ酸化を受ける。
この時、ラジカルなどの酸化ストレスで肝細胞傷害がおこり、ALT優位トランスアミナーゼ増加となる。)
・脂肪細胞からアディポサイトカインを分泌するが、このサイトカインの中にはインスリン抵抗性をきたす成分(レジスチン)を含んでおり、インスリン抵抗性の糖尿病リスクが上がる。
・一部では炎症や壊死を繰り返すことから肝硬変に進展することもある。更には、肝癌に至ることもある。
・腹部超音波検査では、肝臓のエコー輝度が増加する(bright liver)
そのため、肝臓と腎臓では明るさが明らかに異なっている。
(浅部が高エコー、深部が低エコーで描出される)
(★超音波検査は安価で簡便かつ得られる情報量が多いため、肝胆膵領域の画像検査では最初に検討される検査である。
そのうえで、腫瘤等の疑いがあれば、腹部造影MRIなどを行うこととなる。
尚、造影検査は造影剤の使用ということなので、腎機能障害が無いことを確認すること。)
・CTにおいては、肝臓と脾臓を比べても明らかにCT値に差が出る。中性脂肪が沈着しており、透過性が悪くなるためである。(肝臓がCTレベル低、正常では肝、脾とも同程度のCTレベルである)
治療薬では、ステロイド、高カロリー輸液でも肝臓の脂肪化がみられたりする。
脂肪肝の食事療法では、体重1kgあたり30kcalのカロリー制限が必要となる。
かつ、糖質、脂質の摂取も控えること。
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要因 | 特記事項 |
---|---|
肥満 | BMI25以上で3割、BMI30以上では8割に合併する |
アルコール性 | 大酒家の8割以上でみられる |
脂質異常症 | |
糖質過剰摂取、糖尿病、過剰な高カロリー輸液等 | 一度に大量に糖分摂取することで、中性脂肪に置き換わり貯蔵される |
副腎皮質ステロイド | ステロイドは血糖値を上げる作用があり、上記同様、過剰な糖質は中性脂肪に置き換わる |
テトラサイクリン系抗菌薬 | 肝毒性のある薬剤である <参考> テトラサイクリンによる脂肪肝のメカニズム解析及び血漿中バイオマーカー探索 (jst.go.jp) |
甲状腺機能亢進症 | T3、T4が増加することで遊離脂肪酸が増え、過剰な分が貯蔵されていくためおこる |
Cushing症候群(クッシング) | この疾患はコルチゾールが過剰になる症候群であり、副腎皮質ステロイド同様、血糖値を上げ、過剰分が中性脂肪に置き換わるためである |
ペラグラ(ニコチン酸欠乏症) | ニコチン酸は炭水化物や脂肪の代謝に必要なビタミンであるため、不足すると脂肪の増加の他、様々な症状を呈する |
妊娠(急性妊娠性脂肪肝) | |
栄養不良状態 | 非アルコール性脂肪肝疾患の一つ(NAFLD※) 栄養不良により、タンパク結合が不良となり筋肉や臓器に栄養(脂肪)が運ばれず肝臓に留まってしまうことでおこる。 |
Reye症候群(ライ) | ウイルス感染に続発する症候群であり、脳症や肝臓への脂肪浸潤を呈する。(ミトコンドリア機能障害で、脂肪酸やカルニチンの代謝障害をおこす) 症状は様々であり載せきれないため、以下を参考にしてみてください <参考> ライ症候群 - 19. 小児科 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 (msdmanuals.com) |
※NAFLD: 非アルコール性脂肪性肝疾患と脂肪肝の総称である。この原因には、肥満、メタボリックシンドロームの他、低栄養状態、痩せすぎ、薬剤によるものなどがある。
・NAFLDには非アルコール性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)がある。
・NAFLでは病態の進行はまれだが、NASHでは肝硬変、肝癌リスクが高い。
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非アルコール性脂肪性肝疾患について(NAFLD)
NAFLDは先ほどまとめたとおりだが、次は診断基準についてです。
これは除外診断のため、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、アルコール性肝炎などが無いことが診断の決め手となる。
<診断基準>
・脂肪肝を呈していて、HBs抗原、HCV抗体、各種自己抗体が認められないこと
・アルコール多飲がないこと
<エタノール換算>
男性:210g/週(30g/日)未満
女性:140g/週(20g/日)未満
<病理組織像>
・門脈域線維化、小葉中心性線維化、bridging fibrosisを認める
(bridging fibrosis:架橋線維化という意味であり、病理所見を表す。)
・肝細胞が風船様膨化、Mallory-Denk body(マロリー・デンク体:アルコール硝子体)を認める
Mallory-Denk body:主にアルコール性肝炎でみられるが慢性胆汁うっ滞、NASH、肝細胞癌、薬物性肝障害などでも認められる。これは、肝細胞の変性で肝細胞内にできる、好酸性の細胞内封入体である。
参考画像:Mallory body - Wikipedia (閲覧:2021.10.18)
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NAFLDであれば、次はNAFLかNASHの区別が必要となる
その際に肝生検を行い、Matteoni分類(マッテオーニ)でみていく。(他にも分類法はある)
<参考>
日本内科学会雑誌第105巻第1号 (jst.go.jp)(閲覧:2021.10.15)
タイプ | 状態 | 分類 |
---|---|---|
type1 | 単純性脂肪肝 | NAFL |
type2 | 炎症を伴う脂肪肝(肝細胞風船様腫大や線維化はなし) | NAFL |
type3 | type2の肝細胞風船様腫大が伴ったもの | NASH |
type4 | 肝細胞風船様腫大や線維化、炎症性細胞浸潤を伴ったもの | NASH |
NAFLに該当するようであれば、減量や食事療法といった治療法となる。
しっかり、改善をしないとNASHに移行することもある。
NASHはNAFLDの重症型であり、減量や食事療法に加えて適切に薬物療法も取り入れることを考慮する。
リンク先
肝疾患の組織学的違いについて
疾患 | 病態 | 特徴・組織学的所見(活動性評価) |
---|---|---|
非アルコール性脂肪肝炎(NASH) | 肝細胞の脂肪変性 肝臓の炎症、線維化 | ・肝細胞の脂肪沈着 ・肝細胞の風船様変性 ・Mallory-Denk body※1 ・炎症細胞浸潤(小葉内・門脈域内) |
自己免疫性肝炎(AIH) | 自己免疫による肝細胞傷害 (慢性活動性肝炎へ) | 慢性肝炎像 ・門脈域の不整形な拡大 ・炎症細胞浸潤 ・piecemeal necrosis(PN)※2 ・ロゼット様配列※5、水腫状変化 |
原発性硬化性胆管炎(PSC) | 肝内外※3の胆管障害 (胆汁うっ滞へ) | 線維性閉塞性胆管炎(胆管肥厚・狭窄) ・小葉間胆管周囲の線維化(onion skin lesion※6) ・未だに難治性である |
原発性胆汁性胆管炎(PBC) | 自己免疫による肝内の細小胆管※4の障害 (肝内胆汁うっ滞へ) | 慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC):胆管上皮の変性や壊死 ・胆管上皮や周囲へのリンパ球浸潤 |
リンク先
※1 Mallory-Denk body:肝細胞変性に伴って肝細胞質内に認められる好酸性の細胞内封入体である。以下、参考画像となる。
参考画像:Mallory body - Wikipedia (閲覧:2021.10.18)
※2 piecemeal necrosis:ピースミール壊死。リンパ球浸潤と肝細胞壊死により限界板が破壊されて境界が不明瞭となったもの
参考画像:Piecemeal necrosis : 네이버 블로그 (naver.com) (閲覧:2021.10.18)
※3 肝内外:肝外胆管と比較的太めの肝内胆管を指す
※4 細小胆管:特に小葉間胆管を指す
※5 ロゼット様配列:ロゼット様配列とは細胞が放射状に配列したものをいう。以下に参考画像
参考画像:自己免疫性肝炎(AIH)|難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究|厚生労働省難治性疾患政策研究事業 (hepatobiliary.jp) (閲覧:2021.10.18)
※6 onion skin lesion:線維性胆管炎でみられるが、頻度は低いため、肝生検がよい。 以下に参考画像
<参考>
肝炎全般
原発性硬化性胆管炎(PSC)|難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究|厚生労働省難治性疾患政策研究事業 (hepatobiliary.jp)
リンク先
非アルコール性脂肪性肝炎について(NASH)
症状、検査所見は倦怠感、肝腫大(検診)、AST優位トランスアミナーゼの上昇、フェリチン上昇、HOMA-IR上昇(インスリン抵抗性マーカー)
進展することで血小板低下、線維化マーカー(Ⅳ型コラーゲン、ヒアルロン酸)の上昇
腹部超音波検査ではbright liver、肝腎コントラストの増大、深部エコーの減衰、肝内脈管の不明瞭化などが認められる。
腹部CT検査では、脂肪があることで肝実質CT血が低下(脾臓に比べ低吸収)
★肝炎ウイルスマーカー、自己抗体などは陰性であること
肝生検:肝細胞の脂肪沈着、炎症を伴う肝細胞の風船様変性
治療
・食事や運動療法
・各種基礎疾患の治療(糖尿病、脂質異常症、高血圧症)
適しているものとしては
インスリン抵抗性の2型糖尿病:ピオグリタゾン
脂質異常症:ストロングスタチン系(ロスバスタチンなど)
高血圧症:ARBなど
その他:VE(基礎疾患が無い場合)→ コレステロールを少し低下させる
AST、ALTの優位による疾患分類について
ここで改めて、ASTが優位な場合とALTが優位な場合とでみていきたいと思います。
以下はAST、ALTいずれも上昇はしているが、どちらが優位かでみている
AST > ALT | 中心静脈領域を含んだ肝小葉内の障害 (アルコール性肝障害、うっ血肝等) |
AST < ALT | 門脈域領域の障害されやすいウイルス性慢性肝炎等 急性肝炎回復期、慢性肝炎、脂肪肝など |
AST、ALTともに上昇 | 肝全体の障害 肝硬変、ショック、急性肝炎の極期、慢性肝炎の急性増悪など |
リンク先
アルコール性肝障害について
アルコール性肝障害とは、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変をいう。
別分野だが、アルコール性のものでは、アルコール性心筋症、Wernicke脳症(ウェルニッケ)や慢性硬膜下血腫についても注意が必要である。(詳細は別項目で記載予定)
(Wernicke脳症:MRI所見では、急性期でT2強調画像が第三脳室・中脳水道周辺の高信号域、慢性期では第三脳室の拡大、乳頭隊の萎縮などがみられる
・アルコール性肝障害では、白血球数は初期では変化はなく、病態(進行度)によって異なる。
・アルコール性脂肪肝においては、断酒によって比較的早く症状改善が望める。
・アルコール性肝障害では、ASTの豊富な肝小葉中心部の肝細胞の変性・壊死が強い。
これは、栄養素が周りの門脈域から供給されるが
中心静脈近辺では栄養素が十分に供給されず肝細胞壊死を起こしやすいためである。
アルコール性肝炎の特徴的な組織所見は
・肝細胞が風船様膨化
・脂肪変性
・Mallory-Denk body(マロリー・デンク体:アルコール硝子体)
・分葉核の好中球浸潤を伴う肝細胞壊死
・肝細胞周囲線維化(pericellular fibrosis※)
小結節性の偽小葉や、この線維化は偽小葉内にもみられたりする。
この小結節性とは、肝小葉の大きさがおよそ2mmの幅であり、これよりも結節の径が小さい場合を小結節いう。(肝生検標本から判断する基準である)
などが認められる
※参考画像:Mallory body - Wikipedia (閲覧:2021.10.18)
pericellular fibrosisの画像:Microsoft PowerPoint - ②堀江先生.ppt [互換モード] (mhlw.go.jp)(閲覧:2021.10.18)
肉眼所見例
・肝辺縁の鈍化。表面は結節、点状~出血状の赤色紋理を認める
・γ-GTPは飲酒で上昇するが、禁酒により速やかに改善することは多い。
このγ-GTPの上昇は、トランスアミナーゼの上昇度よりも大きい。
アルコール性肝炎からのアルコール性肝硬変の死因では
食道静脈瘤などによる消化管出血が多いとされる
食道静脈瘤破裂があれば、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を行うこととなる。
飲酒量の定義について
常習飲酒家 | 5年以上、一日平均3合以上の飲酒 |
大酒家 | 10年以上、一日平均5合以上の飲酒 |
大酒家などではアルコール代謝で消費するVB1の欠乏がおこりやすい。
このため、治療ではビタミンB群の投与などを行っていく必要と考えられる。
(ウェルニッケ脳症のリスクのため。)
ウェルニッケ脳症の後遺症でコルサコフ症があるが
併せてウェルニッケ・コルサコフ症ということもある
アルコール依存症による振戦せん妄を併発しているようであれば、アルコール離脱症状を抑えるため第一選択のBZP系(ベンゾジアゼピン)の投与をする
ただし、通常のせん妄がみられるようであれば抗精神病薬のハロペリドールなどを用いることとなる。
この場合、BZP系のジアゼパムなどは逆に症状を悪化させる。
アルコール関連の身体障害について
消化器系 | ・肝障害 ・急性・慢性膵炎 ・胃炎 など |
循環器系 | ・高血圧症 ・アルコール性心筋症 |
神経系 | ・多発性単神経炎 ・Wernicke脳症 ・Korsakoff症候群 ・大脳びまん性萎縮 |
その他 | 脂質異常症など |
<参考>
アルコール - 26. その他の話題 - MSDマニュアル家庭版 (msdmanuals.com)(閲覧:2021.10.18)
アルコール性肝障害の生化学的所見について
AST > ALT(AST優位のトランスアミナーゼ上昇) |
胆道系酵素の上昇(その中でもγ-GTPがLAP、ALPよりも上昇しやすい) |
γ-GTPの上昇度がトランスアミナーゼの上昇度より大きい |
WBC上昇 |
IgA上昇 (およそ50%の症例でみられる)※ |
IgG、IgAの上昇 (肝の線維化、門脈領域の細胞浸潤進展によるもの) |
※IgAは様々な要因による肝機能低下を示唆するが、これは血中のIgAを処理する細網内皮系の障害がされやすいと考えられている。
アルコール性肝炎の治療について
まず第一に禁酒となる
・アルコール依存症であれば、精神科と連携をし禁酒の継続をしていく。
・栄養療法では、VB1、脱水補正、バランス食
・肝庇護薬のグリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸(UDCA)
重症例では
・副腎皮質ステロイド療法
・血漿交換(PE)、血液透析ろ過(HGF)
薬剤性肝障害について
薬剤性肝障害は薬剤によって肝細胞障害や胆汁うっ滞をおこす病態である。
・無症状で採血では肝機能障害が発見されたりするが
急性肝炎や劇症肝炎の病態を呈することもある。
原因薬剤は抗結核薬などの抗生剤、解熱鎮痛剤、健康食品の多用
などがあり、服用していて4週間以内に起こることが多い。
確定診断について
・薬剤使用歴聴取
・原因薬剤使用中止で改善
・リンパ球幼若化試験(DLST)陽性
・肝生検
など
治療について
基本的には原因薬剤の中止により、大部分が軽快する
・肝細胞障害型ではグリチルリチン製剤
・胆汁うっ滞型ではウルソデオキシコール酸(UDCA)や副腎皮質ステロイド
・アセトアミノフェンによる急性肝障害では、N-アセチルシステイン(解毒剤)
リンク先
自己免疫性肝炎について(AIH)
・自己免疫性肝炎は、自己免疫機序が関与した慢性活動性肝炎で肝細胞の障害を生じる。
・初発症状が発熱や関節痛であることもある。
・のちに、肝障害症状(黄疸、皮疹、全身倦怠感、易疲労感等)を呈する
・血液検査では後述するPBCとの鑑別に重要である。
・自己免疫性肝炎は肝細胞壊死、炎症反応などの肝細胞障害が主体であるため
胆管障害で上がるような胆道系酵素(γ-GTP、ALP、LAPなど)はほとんど変動しないことに注意。
・日本では中年女性に好発(欧米は20~30歳女性)
・AIHではHLA-DR4に相関しており、PBCではHLA-DR8に相関している。
以下は自己免疫に関連してみられるものである(赤字)
抗核抗体陽性(90%以上) |
抗平滑筋抗体陽性 |
AST、ALT上昇(持続性) |
γ-グロブリン、特にIgG上昇 (基準上限値の1.1倍ほど) これは、長年の炎症持続による |
肝炎ウイルスマーカーでは陰性を確認すること |
CRP上昇 |
赤沈(+) |
・γ-グロブリンまたはIgGの上昇は炎症反応の反映であり
AIHの他、肝硬変も考慮すること
組織学的には
門脈辺縁の切り崩し現象(piecemeal necrosis)が目立つ
これは症状が激しいことを表す。
また、小葉内でも壊死炎症反応が強い。
(・ごく稀にHCV抗体陽性の自己免疫性肝炎もある)
3分の1の症例では合併症がみられる。
合併症として
・関節リウマチ(RA)
・Sjogren症候群
・慢性甲状腺炎(橋本病)
などあるが
腎炎の合併頻度は低い。
治療について
①副腎皮質ステロイドが第一選択である
十分量(0.6mg/kg/日以上)で開始し、漸減の長期投与となる
これは、ASTやALTが正常化しても完全に炎症が改善したとは言えないためである
②重症例、ステロイド依存例、ステロイド抵抗例、維持療法
ではアザチオプリンを用いる
③ステロイド減量のためウルソデオキシコール酸の併用や無効例では免疫抑制剤を用いる。
④ウルソデオキシコール酸単体では軽症例、維持療法で用いる
⑤肝不全に至った例では肝移植となる
※無治療では肝硬変へ移行するため、早期に治療すること
抗体についてのまとめ
ここで、先ほど抗体について出てきましたので、種類と違いについてまとめていきます。
抗体 | 内容 |
---|---|
抗DNA抗体 | 全身性エリテマトーデス(SLE)でみられる |
抗平滑筋抗体 | AIHでみられる この他、抗核抗体も高率で陽性となる |
抗カルジオリピン抗体 | SLE、原発性高リン脂質抗体症候群※1などで強陽性 |
抗ミトコンドリア抗体※2 | 原発性胆汁性胆管炎で高率に陽性 |
抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体 | 慢性甲状腺炎やBasedow病(バセドウ)などで強陽性 |
※1 原発性高リン脂質抗体症候群(APS):指定難病48。
血中に高リン脂質抗体(自己抗体)があり、これにより動・静脈血栓症、習慣流産の原因となる疾患をいう。
その中でも、SLEを合併していないAPSを原発性APSといい、SLE合併している場合は二次性APSという。
※2 抗ミトコンドリア抗体:M1~M9の9種類のアイソザイムがあり、PBCではM2抗体の特異性が高いとされる。
リンク先
原発性胆汁性胆管炎(PBC)
PBCはAIHやPSCなど似たようなものがあるため、特徴を知る必要があります。
このページでまとめた表がありますので参照してみてください。→こちらから
・原発性胆汁性胆管炎とは、自己免疫による肝内の小さな胆管(特に小葉間胆管)の障害によって肝内の胆汁がうっ滞して生じる疾患である。
・8割は無症候性であり、PBCの初発症状は
皮膚掻痒感や皮膚黄染(皮膚黄色腫)などの肝障害症状である。
自己免疫性肝炎とPBCはよく合併が見られる。
その場合、抗核抗体陽性、抗ミトコンドリア陽性かつトランスアミナーゼの上昇と胆道系酵素の上昇と同時にみられることとなる。
・PBCに特徴的な所見の慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)というのがある。
これは、胆管上皮重層化、胆管基底膜破壊、胆管周囲リンパ球浸潤などがみられる。
・PBCが進行すると肝硬変に移行する。
こうなると、門脈圧の亢進がおこり、胃びらんや潰瘍がみられやすくなることがある。
ただし、完全に肝硬変に至っていない慢性肝炎の病態に見える状態であっても食道静脈瘤を呈しやすい。
このことから、以前はPBCは原発性胆汁性肝硬変という病名だった。(2016年に改名)
・好発年齢は40~60歳代であり、女性が9割を占める。
・7割ほどでIgMが高値を示すが、PSCでも5割で陽性となる。
・PBCでは抗ミトコンドリア抗体(AMA)が陽性となる(90%以上)
・門脈圧亢進による脾腫があれば血球減少も見られるようになる
・HLA-DR8に相関がある
・PBCに関係するかは明らかではないが、10%で胆管細胞癌(肝内胆管癌)を合併する。
・胆汁排泄障害により、胆道系酵素が顕著に増加する
・また、門脈圧の亢進をきたしやすいことから食道・胃静脈瘤が起こりやすい。
・更に、胆汁排泄障害からVDの吸収は低下し骨粗鬆症も合併しやすい
組織学的所見について
・PBCではグリソン鞘に小円形細胞(リンパ球浸潤)がみられる。同時に小葉間胆管の破壊や減少がみられる。
また、グリソン鞘は線維化で拡大している。
・小葉間胆管程の太さの胆管は減少がみられる。
身体所見について
・側副血行路により腹壁静脈怒張がみられる
・血球減少がみられることで門脈圧亢進からの脾腫がみられる。
肝機能が増悪していなくても、早期に門脈圧亢進が起こりやすい。
そのため、これがみられたら診断がついたらすぐに上部内視鏡による食道静脈瘤を確認すること。
食道静脈瘤破裂があれば、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を行うこととなる。
治療薬について
・胆汁排泄促進薬である、ウルソデオキシコール酸が第一選択
(※ステロイドは効果ない、更に骨粗鬆症リスクもさらに上がる)
ただし、胆道系酵素の低下不十分例ではベザフィブラートの併用も考慮すること。
・根本治療ではないが、続発性の門脈圧亢進症の治療では左胃静脈下大静脈吻合術がある
・根治には肝移植があり、実施されてきている例が増えている
・掻痒感には抗ヒスタミン薬
・コレスチラミン(コレステロール低下作用あるが、TGは下げない。完全胆道閉塞には禁忌)
これも掻痒感に用いられる。
PBCと関連のある合併症・続発症について
分類 | 合併症・続発症 | 内容 |
---|---|---|
胆汁うっ滞に基づいた合併症 | 骨粗鬆症 | 脂溶性ビタミンのVD吸収障害による |
〃 | 脂質異常症(皮膚黄色腫を伴う) | 胆汁の材料であるコレステロールが余剰となる |
肝障害・肝硬変に基づいた合併症 | 門脈圧亢進症(食道静脈瘤や脾腫) | 門脈域の炎症による肝内門脈の閉塞のため |
〃 | 腹水や肝性脳症 | 病変進行で肝硬変に至る例でみられる |
〃 | 肝細胞癌 | 胆汁性肝硬変が進行した場合 |
免疫異常や他の自己免疫疾患の合併 | シェーグレン症候群、関節リウマチ、慢性甲状腺炎(橋本病) | 免疫応答異常の示唆 |
胆汁うっ滞について
・胆汁うっ滞では、胆汁が血液への逆流と消化管への排泄障害の2パターンが考えられる
①胆汁の血液への逆流では
血中で胆汁成分の胆汁酸や直接ビリルビンが上昇(黄疸の要因)する。
この胆汁酸には痒みを誘発する物質を含んでいると考えられていることから、強い全身掻痒感を生じることとなる。
・また胆汁酸の原料のコレステロールも上昇することで、脂質異常症となり、眼瞼黄色腫を認めるようになる。
②消化管への排泄障害では
脂溶性ビタミンであるVA、VD、VE、VKの吸収障害を引き起こす。
特に、VDの低下により骨軟化症や骨粗鬆症を生じることとなる。
・胆汁うっ滞では肝内に結石を認めることがある。
・胆道の上流でうっ滞があれば、比較的小さな胆管の破壊が起こるため肝内胆管の拡張は認めない。
しかし、胆道の下流でうっ滞が生じるような総胆管結石では胆管の拡張を認める。
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原発性硬化性胆管炎(PSC)
・潰瘍性大腸炎を合併しやすい
・胆管周囲の輪状線維化がみられる。
・肝内、肝外胆管に多発性の狭窄や壁肥厚といった特異な胆管像を示す。
・トランスアミナーゼよりも、肝胆道系酵素であるγ-GTPやALPの上昇が優位となる。
一般的には6カ月以上で基準値の2,3倍以上の数値が認められる。
これは、PSCだけでなく原発性胆汁性胆管炎(PBC)でもみられる。
治療について
・ウルソデオキシコール酸
・胆道ドレナージ
・肝移植
(・食道離断術や脾摘出術はビリルビンが5以下でないと行えない術式である。避けること)
肝疾患編⑤はここまでです。
次回の肝疾患編⑥で最後となります →次に進む
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.1 肝・胆・膵
ビジュアルブック 消化器疾患
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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