今回も肝障害、肝硬変、肝炎についてをみていきますが、量が多いため3回に分けてまとめてあります。
そのため、リンクを貼っておきますので随時確認してください
→ 肝疾患編② 肝障害、肝硬変、肝炎について(1)
→ 肝疾患編④ 肝障害、肝硬変、肝炎について(3)
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
肝炎について
・肝炎はウイルスの型によって特徴があります。
項目 | A型 | B型 | C型 | D型 | E型 |
---|---|---|---|---|---|
核酸 | RNA | DNA | RNA | RNA | RNA |
主な感染経路 | 経口感染 (生ガキ、貝類) | ・血液感染 ・性行為感染 ・母子感染 | ・血液感染 (・ 性行為感染 ・母子感染 ) | B型と同じ | 経口感染 (イノシシ、シカ、ブタの生肉) |
潜伏期間 | 2~6週間 | 1~6カ月 | 2週間~6カ月 | B型と同じ | 2~9週間 |
感染様式 | 急性肝炎 (一過性) | 成人:急性肝炎 (一過性) 小児:慢性肝炎 (持続感染) | 慢性肝炎 (持続感染) | 通常、B型と重複感染 | 急性肝炎 (一過性) |
感染リスク | 海外渡航歴あり | ・輸血(フィブリノゲン製剤などの使用※1) ・医療従事者 ・刺青 ・薬物中毒者 | B型と同じ | HBVキャリア | 海外渡航歴あり |
診断用ウイルスマーカー | ・IgM型HA抗体 ・HAV-RNA | ・HBs抗原 ・IgM型HBc抗体※2 ・HBV-DNA | ・HCV-RNA ・HCV抗体(感染後期) | ・HDV抗体 ・HDV-RNA | ・HEV抗体 ・HEV-RNA |
特記事項 | B、C型に比べて急性腎不全を合併しやすい | ー | ー | ー | ー |
症状 | 発熱 全身倦怠感 など | ー | ー | ー | A型と同じ、急性肝炎症状を呈する |
肝癌と関係するのはB型、C型肝炎である
B型の慢性肝疾患ではウイルス量が多いことで肝癌を発癌しやすいことがわかってきた。
そのため、治療ではウイルス量を減らすために核酸アナログ製剤を投与することが多くなっている。
<参考>
厚生労働省 肝炎各種の診断基準
E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
※1 フィブリノゲン製剤について(感染経緯)
フィブリノゲン製剤とは、ヒト血液由来の凝固因子製剤であるが、当初(1987年)は非加熱のフィブリノゲン製剤を使用していたことが原因で非A非B型肝炎が集団で発生した。
これは自主回収され、加熱製剤が販売されるようになった。
1994年にはHCVを十分に不活性化できるようになった。
このため、1994年以前にフィブリノゲン製剤を投与した疑いがある患者にはHCV検査を勧めていくのがよい。
※2 IgM型HBc抗体の陽性はB型急性肝炎であることが多いが、たまにB型慢性肝炎の急性増悪期でも陽性を示すことがある。
この場合は、IgG型HBc抗体(通常のHBc抗体)力価で鑑別することとなる。
つまり、慢性化していればHBc抗体力価は高く、初発の急性肝炎ではHBc抗体力価は低いため鑑別しやすいことが多い。
(抗体ができるのには時間がかかるため急性期では抗体ができていない)
※A型とE型は主は経口感染だが、感染初期には血中HAV-RNAなどの増加がみられ、この時極まれに血液感染も起こりうる。
※日本において、慢性肝炎はC型肝炎が7割、B型肝炎が2割を占めている
抗原や抗体の基本的な考え方(復習)
①風邪も肝炎も同じで、ウイルスという抗原(異物)が体内に入ることで、炎症反応など体の免疫反応が働きます。
②一定期間ウイルスが体内にいることで、免疫機構が働いてやっつけます。
次に同じウイルス抗原(異物)が入ってた時にすぐに対処できるように、細胞が記憶しておきます。
これが抗体です。(「Y」の形してます)
③まとめると、体の仕組みとしては抗原が体に入って、発症し、治療したら抗体で守っていくという流れがあります。
抗体が抗原にくっついて記憶を呼び覚まして、やっつけてくれる免疫細胞を呼んでくれます。
④つまり、肝炎ウイルス抗原が陰性で肝炎ウイルスの抗体が陽性ということは、感染したことがあるという意味になります。
そして、肝炎は寛解している状態といってよいでしょう。
(ざっくりとした説明で、風邪と違ってここまで単純ではないところありますが、、)
→ 次の項目でもありますが、これをセロコンバージョンといいます
⑤寛解ということは、完治とは違い、ウイルスは体の中に残っている状態と言えます。そのため、再発する可能性がないとは言えません。
HBVのセロコンバージョンとは
ただ単に、セロコンバージョンと記載されている場合はHBe抗原が陰性化してHBe抗体が陽性化することをいいます。
セロコンバージョンが起こって肝炎が沈静化したとしても肝硬変や肝細胞癌へと進展する例が多い
またHBVの遺伝子は肝臓から完全に排除されていないため、肝炎再燃の可能性があることから、HBe抗体が陽性であったとしても引き続き、しっかり経過観察していく必要がある。
その他に肝炎をきたすウイスルについて
原疾患 | 診断用ウイルスマーカー |
---|---|
伝染性単核症 | VCA-IgM抗体 病期によっては、VCA-IgG抗体、抗EBNA抗体も用いる |
サイトメガロウイルス感染症 | CMV-IgM抗体 |
リンク先
慢性肝炎について
慢性肝炎の診断基準は、犬山分類(1994)というものがある
・慢性肝炎とは6ヶ月以上の肝機能異常とウイルス感染が持続している状態をいう。
・組織学的には、門脈域にリンパ球を中心とした細胞浸潤があり、実質内に肝細胞壊死を認める。
・炎症や壊死の程度により、活動性(active: Ac)と非活動性(inactive:InAc)に区分されている。
活動性の評価についてはpiecemeal necrosis、小葉内細胞浸潤と肝細胞の変性ならびに壊死(spotty necrosis、bridging necrosisなど)で行う。
また、線維化(F)の程度でF0~F3までの4段階に分類している(次の表参照)
線維化の程度 | 状態 |
---|---|
F0 | 線維化なし |
F1 | 門脈域の線維性拡大 |
F2 | bridging fibrosis(架橋線維化) |
F3 | 小葉のゆがみを伴うbridging fibrosis |
<表記方法例>
Chronic hepatitis、active、線維化なし → CH(Ac / F3)
Chronic hepatitis、inactive、門脈域の線維性拡大 → CH(InAc / F1)
劇症肝炎について
劇症肝炎とは急性肝不全のうち、初発症状出現してから8週以内に昏睡度Ⅱ度以上の肝性脳症をきたすものをいう。
便秘は肝性脳症の原因の一つである。
また、初発症状から10日以内の昏睡であれば急性型劇症肝炎である昏睡型急性肝不全となる。
これは予後不良であり、急性肝炎の2%ほどが劇症化する。
原因は、ウイルス性が半分を占め、薬剤性は10%ほど、自己免疫性は15%ほどである。
ウイルス性のうち、およそ8割はHBVによるもの。
<参考>
厚生労働省 急性肝不全の診断基準(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班:2015 年改訂版)より
急性肝不全の基準は
初発症状から8週間以内に
PT ≦ 40% または INR ≧ 1.5 を示すものをいう
肝障害から急性肝不全へと至る。症状は頭蓋内圧亢進症状、肝性脳症が現れる。
血液検査では、肝臓の3つの機能(合成能、分解能、排泄能)がすべて低下していることからみられるものである。
・PT活性の低下(鋭敏にみられる)
・PT時間延長(凝固因子低下)
・PT-INR
(上記3つは必ずチェック。直近の肝合成能が反映されている)
<参考>
劇症肝炎 厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-02.html
劇症肝炎で上昇・減少する検査値について
上昇するもの | 減少するもの |
---|---|
AST、ALT (AST優位のトランスアミナーゼ上昇) (進行例では急速に低下する) | ChE(合成能の低下による) |
総ビリルビン(排泄能の低下による) (基準値:0.2~1.1mg/dL 肝硬変で上がると4や5mg/dLを示したりする) | T.Chol (合成能の低下による) (エステル型コレステロール) 大体100~150mg/dLを示すことが多い |
尿中ビリルビン 陽性 | フィブリノゲンなどの凝固因子 → 凝固能の低下 |
胆汁酸(排泄能の低下による) | BUN (合成能の低下による) ※ |
血中アンモニア濃度 | Alb (合成能の低下による) |
メチオニン | BCAA / AAA のFischer比(分解能の低下) (BCAAの方が分解されやすい) |
メルカプタン | L-CAT(レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ)※ |
低級脂肪酸 | 補体(CH50) |
短鎖脂肪酸 | ー |
GABA(γ-アミノ酪酸) | ー |
インスリン | ー |
アルドステロン (浮腫などによるもので、低K血症を呈する) | ー |
[検査項目]AFP (長期で炎症や壊死を繰り返すことで認められる) | ー |
[検査項目] ICG15分値 (基準値:≦10%、慢性肝炎:10~20%、肝硬変:25%以上) | [ICGの特記事項] ウイルスが減り、AFPが低下することで肝硬変であってもICG15分値は回復する |
※L-CAT:血中でL-CATはHDLと結合して存在し、末梢組織細胞膜などから受けとった遊離コレステロールにレシチンの脂肪酸を転移してコレステロールエステルを生成する酵素である。
※BUNが上昇している場合
通常肝硬変ではBUNは減少するが
クレアチニンは正常で、BUNだけ上がっている場合は肝臓や腎臓の関係ではなく
すぐに上部消化管出血を疑うこと(特徴的なもの)
このため、必要な検査は上部消化管内視鏡検査となる
(出血状態では、肝硬変のための生検や穿刺は禁忌である)
この際、食道静脈瘤などで出血があれば緊急で静脈瘤結紮法などを行うこと
★肝硬変に至る患者ではアルコールの過剰摂取が多いため
上部消化管出血の併発例もありうるので
BUNの数値や黒色便の有無などの所見にも注意していきたい。
「急性肝不全」は広義で使用されており
従来の劇症肝炎に加え、薬物中毒、循環不全、妊娠性脂肪肝など肝炎を伴わない肝不全も含んでいる。
劇症肝炎を除けば、アルコール性が最も多く50%ほどとなる。
循環障害では2割ほど、悪性腫瘍浸潤では1割ほど、中毒性でも1割ほどとなっている。
<参考>
劇症肝炎 厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-02.html
急性肝不全の症状について
発熱 |
全身倦怠感 |
浮腫 |
黄疸 |
食欲不振・悪心・嘔吐の持続 |
腹痛 |
腹水(超音波検査や腹部CT検査) 腹水の性状は淡黄色透明である |
肝萎縮(超音波検査や腹部CT検査) (広範囲の肝細胞壊死のためおこる。肝臓の触知ができなくなる) |
肝濁音界の縮小・消失(打診による) |
意識障害(肝性脳症の症状) |
羽ばたき振戦 (アステレキシス) |
低血糖症状(劇症肝炎ではグリコーゲン合成能が急激に低下するため) |
アルカローシス(劇症肝炎初期から中期、これにより呼吸数が増えることが多い) |
出血傾向(凝固能低下) |
肝性脳症について、昏睡度ステージ分類、治療法についてはこちら(肝疾患編②)を参照してください
劇症肝炎には急性型と亜急性型の2種類がある
急性型は生存率50%であり、亜急性型では10%ほどである。このため、亜急性型はかなり予後不良である
リンク先
腹水の性状について
腹水の性状 | 考えられる疾患 |
---|---|
痰黄色透明 | 肝硬変による漏出性腹水 |
腹水混濁 | 癌性腹水 炎症時 |
血性腹水 | 癌性腹水 肝癌破裂による腹腔内出血時 → 緊急で腹水穿刺する必要あり |
乳び様腹水 | 胃癌の腹膜浸潤時などでリンパ管閉塞 |
ゼリー状腹水 | 腹膜偽粘液腫などの粘液産生性の腹腔内腫瘍 |
急性肝不全の合併症について
様々な合併症が生じうるが、死因の高い頻度順では以下となります
DIC※ |
腎不全 |
脳浮腫 |
感染症(肺炎、敗血症) |
消化管出血 |
リンク先
※DIC:播種性血管皮症候群のことである。
通常は癌、白血病、細菌感染症でおこるものだが、
肝障害で肝細胞が破壊されることで全身の血管内に無数の血液凝固因子がいきわたり
微小血栓ができてそれを阻止しようと、血栓溶解しすぎて出血傾向となることで様々な臓器障害を生じるものをいう。
血栓溶解の反応などが進むが、長く続くためアンチトロンビンなどは不足することとなる。
これによって凝固反応は低下、プラスミンによって出血傾向が高まる。
急性肝不全(劇症肝炎)の治療について
肝疾患の治療だけでなく、呼吸や循環など全身的な管理が必要
肝移植も考慮する
<肝移植を考慮する条件について>
・年齢が45歳以上
・亜急性型
・PT時間が10%以下
・ビリルビン値が18mg/dL以上
具体的な治療法について
全身管理として
・アミノ酸を含まないブドウ糖主体の輸液を使用
(タンパク質を抑えるのはNH3産生を抑えるためでもある)
・肝性脳症にはラクツロースなどの合成二糖類、非吸収性抗菌薬の経口投与(カナマイシンやポリミキシンBなど)
・脳浮腫に対しては、マンニトールや濃グリセリン
他は、感染症対策、呼吸管理、消化管出血の管理をすること
・人口肝補助:血漿交換(PE)+血液透析ろ過(HDF)
・肝再生促進:グルカゴン-インスリン療法(G-I療法)
・肝細胞壊死抑制:抗凝固療法(新鮮凍結血漿、アンチトロンビンⅢ製剤、蛋白分解酵素阻害薬)
・肝移植:移植ができれば予後は良い
種類 | 特徴・劇症化頻度 |
---|---|
A型肝炎ウイルス | ・劇症化は1%以下 ・劇症肝炎の4%ほど |
B型肝炎ウイルス | 成人では一過性がほとんど、キャリア化はまれ ・劇症化率は最も多く、1~2%ほど。 ・劇症肝炎の40%を占める |
C型肝炎ウイルス | 主に血液感染で、6,7割が慢性化となる ・劇症化はまれ ・劇症肝炎中でも頻度は数%以下 |
アルコール | ・アルコール性肝障害は多くが慢性化 ・重症型では急激な経過が多い |
自己免疫 | ・数年かけて増悪・寛解を繰り返して肝硬変に至る ・場合によっては、急性発症から劇症化することもある |
<参考>
厚生労働省 難治性疾患政策研究事業
http://www.hepatobiliary.jp/modules/medical/index.php?content_id=13
肝硬変について
肝硬変は他の項目でも扱っているが、ここで改めてまとめていきます。
肝硬変によって門脈圧亢進の合併症を知りたい方は →こちら(消化器編③)
肝硬変の症状、総論的なことを知りたい方は →こちら(肝疾患編②)
肝硬変の要因 | 割合 |
---|---|
自己免疫性肝炎 | 肝硬変移行はおよそ2%と少ない |
B型肝炎 | ・HBV由来は15%ほど ・ウイルス性肝硬変の2割ほどを占める |
C型肝炎 | ・HCV由来は6割を占め、最も多い ・ ウイルス性肝硬変の8割ほどを占める |
アルコール | アルコール性肝硬変は15%を占める |
非アルコール性肝炎 | 肝硬変移行率は数%ほど |
肝硬変によっておこる脾腫について
脾腫をきたす疾患にも様々ある。ここでは主に門脈圧亢進症や肝硬変によっておこるが、他には以下のものが挙げられる。
要因 | 内容 |
---|---|
感染症 | 伝染性単核症 マラリア |
うっ血性 | 肝硬変 Banti症候群(バンチ:特発性門脈圧亢進症)※1 |
血管外溶血性貧血 | 遺伝性球状赤血球症 自己免疫性溶血性貧血 P-K欠損症※2 など |
骨髄増殖性 | 白血病各種 真性多血症 骨髄線維症 |
蓄積性 | Gaucher病(ゴーシェ)※3 |
リンク先
※1 Banti症候群 :バンチ病は中年女性に多い。
進行度はⅠ期からⅢ期とあるが、はっきりした原因や病態自体が不明である。
このような症状を呈するものはバンチ症候群と呼ばれる。
※2 P-K欠損症:ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血のことである。
赤血球機能を維持するのに必要な代謝酵素の異常によるもの。
・解糖系の異常:PK(ピルビン酸キナーゼ)異常症、グルコースリン酸イソメラーゼ(GPI)異常症
・ペントースリン酸経路の異常:グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)異常症、
・ヌクレオチド代謝系の異常:ピリミジン-5´-ヌクレオチダーゼ(P5N)異常症
であることが多い
詳しい治療法などは以下を参照ください
<参考>
ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血(PK欠損症) - 基礎知識(症状・原因・治療など) | MEDLEY(メドレー)(閲覧:2021.10.6)
リンク先
※3 Gaucher病(糖原病Ⅰ型): 細胞内リソソームの加水分解酵素β-グルコセレブロシダーゼ活性(グルコース-6-ホスファターゼ)が不足あるいは欠損しており、糖脂質のグルコセレブロシドが肝臓、脾臓、骨髄(マクロファージ)などに蓄積する先天性代謝異常症である
症状は、貧血、血小板減少症、肝臓・脾臓の腫大、骨痛・骨症状などに加えて
神経症状を呈する場合があり、Ⅰ型からⅢ型の分類があります
更なる詳細は以下のサイトがおすすめです
<参考>
ゴーシェ病について|名古屋セントラル病院 (nagoya-central-hospital.com)(閲覧:2021.10.6)
肝硬変の治療について
肝硬変(非代償期)においては、腹水、浮腫をきたしており、血球の減少、PT-INRの延長、アルブミンの低値がみられる。
このことから、治療では
・塩分制限
・利尿剤(スピロノラクトンが第一選択)
これは、肝硬変によってRAA系の亢進でアルドステロンが増えるため、抗アルドステロン薬が適しているため
肝硬変でRAA系の亢進
→ レニン、アルドステロンなどが増える
→ アルドステロンの作用により、血中のNa上昇、血中のK低下(イメージは血圧を上げる方向だということ)
→ つまり、逆に尿中のNaは低下、尿中のK上昇を示すこととなる
また、腎血流量の低下によりBUNは上昇する。
・アルブミンの投与
・安静
肝性脳症も認められるようであれば、肝性脳症の治療も行っていく
(低タンパク食、腸内細菌調整 → 非吸収性抗菌薬)
合併症として、消化管出血があれば黒色便、吐血の有無確認。
→胃食道静脈瘤からの出血が考えられることから、上部内視鏡検査を行う。
肝硬変患者に対する定期検査について
肝硬変患者であれば定期的に検査を受ける必要がある
具体的には
・腹部超音波検査
・腹部ダイナミックCT検査
・上部消化管内視鏡検査
などが挙げられる
この腹部超音波・CT検査では肝癌に限りませんが、肝癌の早期発見につながる
これと同時に、起こりうることとして食道静脈瘤がありますので、この早期発見には定期的に上部消化管内視鏡検査を行う必要がある
肝硬変からの肝癌発がん率について
肝硬変で、1年あたりの肝癌発がん率はHBs抗原陽性ではおよそ3%、HCVでは5~7%といわれている
肝癌の腫瘍マーカーについて
腫瘍マーカーとは採血や採尿を行って、それぞれのがんに特異的なタンパク質などを検出するためのものをいう
今回の、肝癌に関してはAFP(α-フェトプロテイン)やPIVKA-Ⅱ(VK依存性凝固因子前駆体Ⅱ)があり、これは組み合わせて行うのが良いとされている
<参考>
がん情報サービス:腫瘍マーカー検査とは:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)(閲覧:2021.10.11)
採血による肝硬変の経過、肝癌発症所見について
・AST / ALT 比が上昇する(3以上)
・胆管の部分狭窄によるALP上昇、またはγ-GTPの上昇
→ ALPを調べるのは、一つは細胞障害型と胆汁うっ滞型を鑑別するためである。
また、肝癌へ移行する兆候でもある。
細胞障害型:正常から軽度上昇を呈する
胆汁うっ滞型:高度の上昇を呈する
・AFP、PIVKA-Ⅱの上昇
リンク先
Wilson病について(ウィルソン)
Wilson病とは、先天性疾患(遺伝性)であり、小児肝硬変の原因で最も多いものである。(3歳~15歳の小児期)
銅(Cu2+)の蓄積により起こるもので、肝臓以外の症状では錐体外路症状、Kayser-Fleischer角膜輪(カイザーフライシャー)※なども生じる。
・過剰な銅は赤血球破壊を起こし、溶血することで、溶血性貧血を起こす。
・AST、ALTの上昇や黄疸症状、倦怠感など肝障害症状を呈する。急性肝障害で死に至ることもある。
・無治療では生存は50歳代も難しい疾患である。(肝不全、肝硬変に至る)
治療薬:ノベルジン®(銅吸収阻害剤)
※ Kayser-Fleischer角膜輪(カイザーフライシャー):黒目の周りに銅が沈着することで、眼の色が青緑色・黒緑褐色に見える。
肉眼的で確認しやすいのは思春期過ぎである。
また白内障になることもある。
Gilbert症候群について(ジルベール)
Gilbert症候群とは、体質性黄疸であり、間接ビリルビンが上昇する遺伝的疾患である
詳細は肝疾患編③を参照
自己免疫性肝炎について(AIH)
自己免疫性肝炎(AIH)とは、抗核抗体などの自己抗体ができることで生じる疾患である
原発性胆汁性胆管炎について(PBC)
原発性胆汁性胆管炎(PBC)とは、自己抗体が細い胆管細胞を破壊し、炎症を生じることで胆汁がうっ滞する自己免疫性疾患である
そのため、自己抗体である抗ミトコンドリア抗体(AMA)が90%以上で陽性を示す。
・中年女性に多く見られ、他の自己免疫疾患である甲状腺疾患などを併発していることもある。
・症状は、掻痒感、黄疸、食道胃静脈瘤などが挙げられる。(併発していれば公費対象)
・小葉管(門脈域辺縁)胆管の障害がみられ、胆道系酵素(主にALP)がトランスアミナーゼに比べて増加する。
今回はここまでとなります。
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.1 肝・胆・膵
ビジュアルブック 消化器疾
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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