2022年の時点では最新の診療ガイドラインとなります
主に更新された内容から抜粋したものとなっています
概要・疫学
日本における関節リウマチ患者は82.5万人で、女性の罹患は76.3%となっている
関節リウマチ(RA)の定義
疾患活動性が高いと、関節以外にも様々な全身の諸臓器に障害を及ぼす慢性炎症性疾患である(QOLや生命予後に関わる疾患)
薬物治療
今回からT2T(treat to target)の概念が取り入れられた
メトトレキサート(MTX)に加えて、生物学的製剤やヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤などの分子標的薬の使用をすること
→これにより、予後は飛躍的に向上している
2014年のガイドラインでは
JAK阻害薬、バイオ後続品、抗RANKL抗体(Receptor activator of nuclear factor-kappa B(NFk-B))
手術治療が減少でき、リハビリ治療の推進、他職種によるチームワーク医療の必要性についてまとめられた
↓
2020年では
「関節リウマチの疾患活動性の低下および関節破壊の進行抑制を介して、長期予後の改善、特にQOLの最大化と生命予後の改善を目指す」
ことが治療目標となっている
関節リウマチ診療ガイドライン2020の具体的な内容について
治療開始後3ヵ月で改善がみられなければ治療を見直して
RF因子/ACPA(抗CCP抗体)の陽性
特に高力価陽性や早期の骨びらんを有する症例は関節破壊が進みやすいため、より積極的な治療を考慮すること
フェーズⅠ
RAと診断した患者はまずMTX投与を検討、これはいずれのフェーズでも強い推奨となる
MTXの副作用予防のため葉酸使用を推奨(48時間後など)
MTX使用が困難な場合、MTX以外の経口抗リウマチ薬のcsDMARD(従来型合成抗リウマチ薬:conventional synthetic disease-modifying antirheumatic drugs)を使用する
MTX単剤で効果不十分では、MTX以外のcsDMARDを追加し併用療法を検討する
欧米で使用されていない、ブシラミン、イグラチモド、タクロリムスなどの応用で効果を期待
フェーズⅡ
MTX併用・非併用のいずれも生物学的抗リウマチ薬(bDMARD:biological DMARD)または、JAK阻害薬の使用を検討する
ここで、欧州リウマチ学会(EULAR)のリコメンデーション2019とは異なり
長期安全性・医療経済の観点からbDMARDの使用を優先している
生物学的製剤は多くの安全性エビデンスがあり、副作用も少ないというエビデンスがある
一方、JAK阻害薬の安全性はまだエビデンスが少ないため、これからの市販後調査次第となる
bDMARDの中でTNF阻害薬(tumor necrosis factor)は安価なバイオ後続品もあるため、使用が優先されている
・MTX非併用の場合:TNF阻害薬よりもbDMARDsはnon-TNF阻害薬を優先する
(non-TNF阻害薬:IL-6阻害薬のことを指す)
・csDMARDs非併用の場合:MTXを含むcsDMARDが使用できない場合は、bDMARDまたはJAK阻害薬の単剤療法も考慮できる
フェーズⅢ
フェーズⅡでbDMARDまたはJAK阻害薬を使用しても効果不十分である場合
フェーズⅢでは、他のbDMARDまたはJAK阻害薬の変更を検討すること
TNF阻害薬の効果が不十分で、他のbDMARDに変更する場合:非TNF阻害薬への切り替えを優先する
補助的治療
NSAIDsに加えて副腎皮質ステロイド(経口、筋注などによる全身投与)となる
ステロイド:少量短期使用にとどめ、減量後可能な限り、短期間漸減、中止とする
ステロイドは長期使用のSEが多いため、bDMARDやJAK阻害薬による寛解を目指す有用な治療が可能となるため、補助的薬剤の位置づけとなった
抗RANKL抗体は骨粗しょう症治療にも使用されており、日本独自の関節リウマチの補助的治療薬である
抗RANKL抗体:疾患活動性改善効果、軟骨破壊抑制効果はないが、「骨破壊抑制効果を有する」
抗リウマチ薬と併用しないと関節炎が残存し、関節外合併症発現の可能性があり
抗リウマチ薬で疾患活動性が低下しても骨びらん進行のある患者や骨破壊リスク因子のRF/ACPA陽性患者での使用を考慮する
高齢者RAに対して
高齢者のRA患者は増加傾向にある
活動性については、非高齢者と同等だが、寛解や低疾患活動性に誘導することが難しい場合がある
また、薬物療法による副作用増加の懸念もある
RAの予後不良因子である「骨びらんの存在」や「RF/ACPA陽性」の高齢RAでは
呼吸器、腎機能などを考慮し、安全に十分配慮してMTXや分子標的薬の使用を慎重に考慮すること
また、分子標的薬の投与は、長期安全性の確立がまだ不十分であることも念頭に置く必要がある
高齢早期RAではステロイドとcsDMARDの短期間の併用が推奨されている
薬物治療アルゴリズムについて
フェーズごとに:原則、6ヵ月以内に治療目標の「臨床的寛解もしくは低疾患活動性」が達成できない場合は、次のフェーズとなる
治療開始3ヵ月で改善無ければ治療を見直し、RF/ACPA陽性(特に高力価陽性)や早期からの骨びらんを有する症例は関節破壊が進みやすいことから、より積極的な治療を考慮
<フェーズⅠ>
[RAの診断]
↓
[MTXの考慮]
↓ ┗→ [MTX以外のcsDMARD]
禁忌事項の他に ↓
年齢、腎機能、肺合併症等 ↓
を考慮して決定する ↓
↓
↓ ↓
↓
[MTX] → [MTX + csDMARD] ↓
↓ ↓ ↓
⇘ ⇓ ⇙
[治療目標非達成]
↓ ↓ ↓
フェーズⅠにおいて、補助的治療は副腎皮質ステロイド、NSAIDs、MTX投与中では抗RANKL抗体も考慮
(抗RANKL抗体:疾患活動性が低下しても骨びらんの進行がある患者や特にRF/ACPA陽性患者で使用を考慮する)
(NSAIDsは疼痛緩和目的であり、必要最小量であることが望ましいとされる)
(副腎皮質ステロイドは、可能な限り短期間使用(数ヶ月以内)で、漸減中止、再燃時に使用することもあるが、この場合も同様である)
<フェーズⅡ>
↓ ↓ ↓
[MTXの併用] [MTXの非併用]
↓ ↓ ⇘
[bMARD or JAK-I+MTX] ↓
± csDMARD ↓
↓ [bMARD※1or JAK-I]±csDMARD]
↓ ↓
<フェーズⅢ>
⇘ ⇙
[治療目標非達成]
↓ ↓
[MTX併用] [MTX非併用]
↓ ↓
[bDMARD or JAK-Iの切り替え]
※TNF阻害薬が効果不十分例では、非TNF阻害薬への切り替えを優先
※1 bMARS:ここでは
「non-TNF-I>TNF-I」
のことを表します
非薬物治療・外科的治療アルゴリズムについて
[薬物治療アルゴリズム] ←━━┓
↓ ┃
↓ ┃
↓ ┃
<フェーズⅠ>↓ ┃
↓ ┃
[残存する四肢関節症状 ┃
・機能障害]※1 ┃
↓ ┃
[慎重な身体機能評価] ┃
↓ ┃
┏保存的治療 ┓ ┃
┏→╋リハビリ治療╋→→有効 ┃
┃ ┗関節内注射 ┛ ⇙ ↑
┃ ↓ 継続→[薬治併用]
┃ 無効または不十分例 ↑
┃ 機能障害・変形が重度 ┃
┃ and/or ┃
┃薬物治療抵抗性の少数の関節炎┃
↑ ↓ ↑
<フェーズⅡ>
↑ ↓ ↑
↑ ↓ ↑
[手術不適応] ↓ ↑
↑ ↓ ↑
┗←[関節機能再建手術の検討] ↑
┗→[身体機能維持のための
リハビリ治療の継続]
※1 これは、骨折、感染、脊髄障害、腱断裂等の急性疾患、緊急手術が必要な場合を除く