第5回目はぶどう膜疾患に焦点を当てまとめていきます。
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
そのため、これを全て把握しても人体については全て理解し、学べたということにはなりませんのでご注意ください。
医学は未知の部分も含め、既知の部分であってもかなりの量です。ここは忘れないようにしてご利用ください。)
網膜ぶどう膜炎について
通常は近視や遠視はレンズで視力を1.0程度に矯正可能だが
網膜ぶどう膜炎の視力低下ではレンズによる視力矯正は不可能となる。
このため、視力の改善が見られない状態であれば
(視力の書き方で、「矯正した視力」であるカッコ内の最初の数字が矯正されていないようであれば)
この可能性を考えられる。
眼の充血について
眼の充血は結膜充血と毛様充血がある。
結膜充血とは眼球の周辺部が赤くなることが多く、異物やアレルギー性結膜炎によるものである。
一方、毛様充血では角膜周囲の充血であり、ぶどう膜炎や強膜炎によるものである。
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サルコイドーシスのぶどう膜炎合併例
まず初めに、サルコイドーシスとは、様々な疾患を引き起こす難病である。
端的に言えば、肉芽種性のぶどう膜炎である。
(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を呈する原因不明の多臓器疾患といわれる)
類上皮細胞やリンパ球などの集合でできた肉芽種という結節が
リンパ節、目、肺など全身に症状を呈するものである。
(他には、心臓、筋肉、神経、骨、関節と様々ある)
・これは自然寛解することも多いが、1、2割は難治性となっている。
(指定難病84)
・今回は眼に起こったものに絞るが、眼ではぶどう膜に炎症をおこし
霧視や羞明、飛蚊症、視力低下などがみられるようになる。
これは、徐々に症状の悪化が見られてくる。
そのため、ぶどう膜炎の診断では
サルコイドーシス(サ症)の可能性も考え、内科的な検査も必要となる
サルコイドーシスではリンパ節生検で確定診断。
合併症では、白内障、緑内障、ドライアイと様々あり、失明の可能性(およそ3%)もあるため初期対応が重要となる
ぶどう膜炎 |
虹彩炎 |
豚脂様角膜後面沈着物 |
虹彩結節 |
隅角結節 |
虹彩前癒着 |
脈絡膜結節 |
網膜血管周囲炎(静脈周囲炎) |
網膜出血 |
視神経乳頭の発赤、腫脹 |
硝子体混濁(雪玉状混濁) |
など |
検査について
・血液検査で血清ACE※の上昇を認める。
また、ツベルクリン反応は陰性を示す。
・肺症状ではツベルクリン反応は確認すること。
これは、肺結核かどうかを調べるためでもある。
サルコイドーシスでは病変局所で細胞性免疫が活性化しているが、
全身の細胞性免疫は逆に低下しており、ツベルクリン反応は陰転化してしまう。
(結核や悪性リンパ腫などの感染症疑いの時は、硝子体生検を行うこととなる。)
・胸部X線検査でも異常はみられ、両側肺門リンパ節の腫脹などみられる。
・眼底検査では網脈絡膜の萎縮(斑点状)、血管周囲炎所見などがみられる。
雪玉状の硝子体混濁という表現がある。
(豚脂様角膜後面に多くの丸い沈着物を認める)
・また、隅角検査も有用である。
それは、サルコイドーシスにおいては
虹彩結節、虹彩前癒着が認められる為である。
そして眼圧上昇もあれば、更にその根詰まりがないかの確認(開放隅角か閉塞隅角)も
できるのでより望ましい検査と言える。
・皮膚生検
※血清ACE:ACEとはもちろん、アンジオテンシンⅠ転換酵素のことであり
サルコイドーシスでは血清ACE上昇は特徴的だが
Hodgkin lymphoma(ホジキンリンパ腫)との鑑別も必要であるため
組織学的検査も必要とされている。
この場合は、免疫染色で異形細胞がCD30陽性大型リンパ球を認める。
<参考>
日本内科学会雑誌 第101巻 第 5 号・平成24年 5 月10日
「血清ACE上昇からサルコイドーシスとの鑑別を要した Hodgkin lymphomaの 1 例」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/5/101_1401/_pdf
治療では、副腎皮質ステロイドやメトトレキサート
(これは適応外だが使用例が増えてきている)
などの抗炎症や免疫抑制剤を用いていく。
メトトレキサート服用していれば、中止後6ヶ月は妊娠は避けること。(催奇形成の観点から)
<参考>
難病情報センター サルコイドーシスについて:https://www.nanbyou.or.jp/entry/110
一般財団法人 太田綜合病院:https://www.ohta-hp.or.jp/n_etc/80med/dep/dep05/d05_10.htm
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Behcet病(ベーチェット)
Behcet病には前眼部型と後眼部型がある
前眼部型では、ぶどう膜炎、再発性前房蓄膿がある
後眼部型では、網膜血管炎、滲出性網脈絡膜炎がある
・ベーチェット病では皮膚の過敏性が亢進しており、針反応試験を補助的診断として利用する。
これは、採血部位など針を刺した部位に丘疹や膿疱を認めることを利用しているが、陽性率としては4、5割ほどである。
原因は不明であるが、遺伝要因と環境要因が発症に関わっていると考えられている。
・ベーチェット病はHLA-B51そのものやHLA-B51に連鎖する遺伝子的素因の関与があると考えられている。
・ベーチェット病でHAL-B51の保有率は6、7割で陽性と高く、罹患する相対危険度は7.9倍となる。
・主症状は4つあり、ぶどう膜炎のほか、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(これはほとんどでみられる)、皮膚過敏症状(針反応)、外陰部潰瘍がある。
これら全ての症状を呈するものを、完全型Behcet病といい
一つでも欠けていれば不完全型Behcet病となる。
他に皮膚病変として、結節性紅斑様皮疹、血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹などもある。
アフタ性潰瘍とは、境界明瞭な円形の潰瘍であり痛みを伴うものである。
・前眼部に淡黄色の沈着物がありニボーを形成する、前房蓄膿の所見を認める。
・眼球結膜の充血が角膜周囲で見られるようであれば、毛様充血と判断できる。
・蛍光眼底造影において、後部ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)に特徴的な所見は、シダ状蛍光漏出(全体にわたる広汎な蛍光漏出)や視神経乳頭の過蛍光、血管壁の染色など網膜の炎症がある。
治療はステロイド点眼薬、免疫抑制剤の全身投与となる
ぶどう膜炎や、特に網膜ぶどう膜炎では予後の視力に重要なものとなっており、早期治療が必要である。
難治性ぶどう膜炎ではTNF(腫瘍壊死因子)阻害薬を用いることもある
Behcet病の難治性病態の特殊型では、血管型、腸管型、神経型の病型がある
血管型では、動脈瘤や血栓性静脈炎がある
腸管型では、回腸末端部や盲腸部の潰瘍がある
神経型では、脳幹の病変を中心に様々な神経症状がある
従来は、副腎皮質ステロイドやコルヒチン、免疫抑制剤の投与をするが
特に、特殊型や治療抵抗性の例では、TNF阻害薬を用いるようになってきている(保険適応)
前房蓄膿をきたす疾患について
疾患名 | 要因 |
---|---|
細菌性角膜潰瘍 (匐行性角膜潰瘍:ふくこうせいかくまくかいよう) 別名:突き目 | 角膜に傷がついて、そこにブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、緑膿菌などが感染して起こる 別名は、草の葉や木の枝などで目を怪我した際に起こることから言われている。 |
角膜真菌症 | 目に植物が触れてしまったことで感染することがある。 リスク要因は、コンタクトレンズの連続装用やステロイド剤の長期点眼がある |
神経麻痺性角膜炎 | 角膜知覚神経(三叉神経第1枝)の麻痺で生じる角膜障害のことであり、その炎症は感染性や化学物質などによって引き起こされる。 広い意味での神経麻痺性角膜症については以下が詳しく解説されています。 <参考> ドクターK様のサイトが詳しく解説されています https://doctork1991.com/2020/01/18/neurotrophic-keratopathy/#i-7 |
結核性や化膿性虹彩炎 | ー |
Behcet病 | ー |
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Vogt-小柳-原田病について
Vogt-小柳-原田病とは、網膜色素上皮細胞(メラノサイト)に対する自己免疫に基づいたぶどう膜炎を生じる。
症状は、視力障害を伴い両眼でほぼ同時に進行する。
耳鳴り、めまいなどの内耳症状をきたす疾患である。他には、平衡機能障害、感音性難聴、髄膜炎、皮膚白斑などがある。
他には、頭痛や咽頭痛、発熱などの感冒様症状を伴うこともある。
・寛解後に脱色素によって夕焼け状眼底(眼底が赤みを増す)がみられる
・色素脱失、視力低下が特徴であり、睫毛(しょうもう)や眉毛などが白変する。(白髪)
また、眼球周辺の皮膚が白斑(脱色素)を認める。(色素細胞の消失による)
・ほとんどの症例で、リンパ球主体の脳脊髄液細胞増多をきたす。(無菌性髄膜炎→頭痛の要因)
→ここから、髄液検査が必要と判断
・漿液性網膜剥離、肉芽種性虹彩毛様体炎、内耳機能障害で感音性難聴をきたす。
・前眼部で初期では結膜炎と誤診してしまうが、必ず前房の炎症有無について確認することが必要である。
・Vogt-小柳-原田病には特徴的病期があります。以下の表にまとめましたので確認してみてください。
・実際の症例では、急性期で先行して感冒様症状を呈し
その後に急激な視力低下、内耳機能障害を起こす。
ここで、治療はステロイド全身パルス療法(ステロイドを短期間集中の大量投与する治療法)
を行うことが多くなってきており
夕焼け状眼底は見ることが減ってきている。
この他治療薬として散瞳薬のアトロピンがある
病期 | 症状 |
---|---|
前駆期 | ・感冒様症状 ・髄膜炎様症状(小リンパ球主体の髄液内細胞増多を認める) ・内耳障害(目眩、耳鳴り) |
眼病期 | ・急性びまん性ぶどう膜炎 ・多発性滲出性網膜剥離 ・内耳障害(感音性難聴) |
回復期(発病しておよそ2ヶ月後) | ・炎症消退 ・角膜輪部と眼底の色素脱失 ・皮膚白斑、毛髪白変、脱毛 |
・眼底写真では、後極部に多胞性の漿液性網膜剥離の所見
・蛍光眼底造影写真では、脈絡膜から顆粒状蛍光漏出や網膜剥離部の蛍光色素の貯留の所見
・脈絡膜炎による浸出液が網膜下に貯留している像の所見
眼の検査については眼疾患編③で一通りまとめてあります。
ここで、眼の検査の一つであるOTC検査(光干渉断層像)についてですが、これは網膜の断層像をとらえるため、眼のCT検査ともいわれており、必要な検査という位置付けであるということを申し上げておきます。
漿液性網膜剥離について
漿液性網膜剥離とは、眼底に出血や白斑もなく一見は正常眼底に見える。
主に、先ほど挙げたVogt-小柳-原田病があるが、もう一つは中心性漿液性脈絡網膜症がある。
鑑別のためには蛍光眼底造影検査を行うとよい。
疾患 | 所見 |
---|---|
Vogt-小柳-原田病 | 視神経周囲と黄斑部にびまん性の過蛍光 (クローバー型の蛍光色素漏出) |
中心性漿液性脈絡網膜症 | 噴水状の蛍光漏出 |
トキソプラズマ症について
トキソプラズマ症はトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)という単細胞のトキソプラズマ原虫による感染症である。
これは、アピコンプレクサに属する一属一種の寄生性原生生物(原虫)であり
一度感染すると基本的には終生免疫がつくとされる。
ただし、エイズなどの免疫能低下により感染、再活性化は起こりうる。
・症状は脱力、錯乱、けいれん発作、昏睡などがある。
ぶどう膜炎を呈するが、黄斑部に存在する瘢痕性病巣が特徴的である。
・病巣の多くは後極部が多い。
出生前の胎児が感染すると(先天性感染症)先天異常、視力障害、けいれん発作、知的障害の原因になる。
ほとんどはこの経胎盤先天性感染症である。
・検査では、トキソプラズマ症が疑わしい時、血清トキソプラズマ検査を行う
インフルエンザ様肺炎 |
皮疹 |
肝炎 |
リンパ節腫脹 |
脳炎 |
飛蚊症、視力低下(眼症状) |
限局性の滲出性網脈絡膜炎 |
治療は抗生剤などである
ピリメタミン +(スルファジアジン、クリンダマイシン、またはアトバコン)+ ロイコボリンとなる
眼症状があればこれにコルチコステロイドを用いる
免疫能に問題がなく、症状がない場合は経過観察で良い。
※サルコイドーシス:指定難病84。以下に詳細なリンクあります。
<参考>
難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/110
<参考文献>
メディックメディア Question Bank vol.5 眼科
ビジュアルブック 眼科疾患
(注意事項:このシリーズは、あくまでも国家試験の内容からのものであって、試験としては必要な知識は得られますが、より細かい疾患や人体の機能などの基礎部分は載っていないことがあります。
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