2022年現在の慢性疼痛診療ガイドラインについてまとめてあります
痛みの定義について
痛みには主に以下の2つの定義がされている
・けがや病気で組織の損傷が起こって生じる痛み
・疼痛感作によって生じる痛みがある
痛みと侵害受容は異なる現象であるため、感覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできないとしています
疼痛メカニズムについて
疼痛伝達経路には、主に以下の2つがあります
上行性経路:一次侵害受容線維から信号が出て、脊髄後角に入力し、視床を経て大脳皮質に投影される痛み
下行性経路:痛みの抑制に関与する経路
慢性疼痛について
慢性疼痛は侵害需要性疼痛、神経障害性疼痛、心理社会的疼痛※の3つに分類されています
※心理社会的疼痛(Nociplastic pain):痛覚変調性疼痛といわれることがあるが、身体的な要因ではない第3の痛みをどのように表現するべきかまだはっきりしていないため、次回の慢性疼痛診療ガイドラインの改訂に持ち越すこととなった
侵害受容性疼痛:組織の損傷や炎症などがきっかけで、組織の発痛物質が一次侵害受容ニューロンの末端にある侵害受容器を刺激して生じる疼痛をいう
神経障害性疼痛:体性感覚神経系の病変や疾患によって生じる疼痛をいう
心理社会的疼痛:痛みに大きく影響するが、不安や抑うつといった心理状態そのものが痛みを作り出すことはないため、原因不明の疼痛といえる
慢性疼痛の7つの分類について(ICD-11より)
①一次性慢性疼痛
②がん性慢性疼痛
③術後痛および外傷後慢性疼痛
④慢性神経障害性疼痛
⑤慢性頭痛および口腔顔面痛
⑥慢性内蔵痛
⑦慢性筋骨格系疼痛
一次性慢性疼痛は、感情や機能障害と強く関連しており、その痛みを説明できるような身体的病因がない痛みのことをいいます
二次性疼痛は、痛みを説明し得る身体的な原因がある疼痛をいいます
薬物療法について
最後に薬物療法についてみていきます
(1)NSAIDs
・慢性疼痛全般に対するNSAIDsの推奨度は2(使用することを弱く推奨する)、エビデンス総体の総括はBとなっている
・変形性関節症に対してはRCT(無作為化比較試験)でプラセボに対する各種NSAIDsの有用性が確認されている
・頭痛では米国における片頭痛予防ガイドラインでは急性期治療として第一選択薬となっている
・線維筋痛症に対しては有意差はない
副作用:上部消化管障害、心血管系(高血圧、浮腫、心不全など)のリスクが有意に上昇する
→このため、長期の漫然投与は避けること
(2)Ca2+チャネルα2δリガンド
・慢性疼痛に対するCa2+チャネルα2δリガンドの推奨度は1(使用することを強く推奨する)、エビデンス総体の総括はBとなっている
電位依存性Ca2+チャネルα2δリガンドには、プレガバリン、ガバペンチン、ミロガバリンがある
・帯状疱疹後神経痛や有痛性糖尿病性神経障害に対して有意な鎮痛効果がある
・ただし、外傷性神経障害性疼痛や化学療法後末梢神経障害性疼痛に対するプレガバリンの有用性は有意な鎮痛効果はない
・また、慢性腰痛、神経根性腰痛に対しても疼痛改善の有意差はなかった
(投与量:450mg/日)
副作用:眠気、めまい、体重増加、末梢性浮腫など
→このため、自動車などの機械操作は避けるよう指導する必要があり、高齢者では店頭による骨折リスクがある
・プレガバリン等は未変化体が腎排泄のため、腎機能に応じて投与量を調節する必要がある
(3)デュロキセチン(SSRI)
・デュロキセチンの推奨度は1(使用することを強く推奨する)、エビデンス総体の総括はAとなっている
鎮痛効果は、下行性疼痛抑制系の賦活化である
(投与量:60mg/日)
変形性関節症、腰痛症では有意な鎮痛効果がある
副作用:悪心、口渇、めまい、傾眠、疲労、不眠症、頭痛、便秘、食欲減退、多汗などだが、重篤な副作用としてはまれである
セロトニン症候群のリスクについては、過量投与時、トラマドールなどのセロトニン作動薬との併用では注意が必要である
また、自殺念慮、自殺企図、敵意、攻撃性などの精神症状発現リスクを考慮すること
(4)トラマドール(非麻薬性鎮痛薬)
・慢性疼痛全般に対するトラマドールの推奨度は2(使用することを弱く推奨する)、エビデンス総体の総括はBとなっている
・μオピオイド受容体作動薬であり、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用(SNRI)の効果も合わせもったデュアルドラッグとなっている
・神経障害性疼痛、腰痛症、変形性関節症に対しては有意な鎮痛効果がある
副作用:嘔気、便秘、傾眠などが挙げられる
これは、麻薬でも向精神薬でも指定はされていないが、依存や乱用のリスクがゼロではないため、長期の漫然投与には気を付けたいものである
(5)オピオイド系鎮痛薬(強度)
・慢性疼痛全般に対する強オピオイドの推奨度は「推奨なし」となっている。また、エビデンス総体の総括はBである
・慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の有用性を示したRCTは多いが、ほとんどが短期間の使用による評価である
→1年以上の長期間の使用による有用性を評価するRCTはまだなく、使用に際しては慎重に行う必要がある
やはり、依存や乱用の注意や、過量服薬による死亡リスク(用量依存的)があるため、リスク&ベネフィットを考慮していく必要がある
(疼痛治療専門医による治療がよい)
疼痛コントロールは患者のQOLに直接関わるため、疼痛コントロールをしっかりできるようにし、痛みとうまく付き合っていけるような社会にしていければ良いかなと思いますね